約20年前に一世を風靡した「ズイール」というルアーブランドがあります。その創業者であり、ルアーデザイナーでもあった「柏木重孝」さんの人気は凄まじいものでした。
その柏木さんが作り出すズイールルアーの特長を一言でいうと「かわいいのに、釣れる」だと思います。この「かわいい」と「釣れる」を両立させた極めつけのルアー、それがアライくんなのです。
僕の知る限り、これよりかわいいルアーはありません。しかもこいつは誰でも簡単に動かせるし、お世辞抜きでよく釣れるのです。日本が生み出したバスルアーの中でも最高傑作のひとつでしょう。
「アライくん」に込められた柏木さんの野望とは?
アライくんにはその前身にあたるルアーがあります。
それは「ラスカル」です。これは、ズイールの誇るトップロッド「プッシュウォーター」の中でもブランクスが白い「カオリスペシャル」を買った人だけが、オマケでもらえるという、超希少なルアーでした。
そのウッド製のラスカルをプラスチック化して量産したのがアライくんなのです。ラスカルにしてもアライくんにしても、柏木さんによると、ある野望を達成するために作ったルアーだそうです。その野望とは何でしょうか?
それは、女性アングラーを増やすことだったんですね。柏木さんはよくこんなことを言ってました
「女の子をバス釣りに連れて行っても、すぐ飽きちゃうでしょ。でもアライくんを巻かせるとさ、これが首を振って近寄ってくる。『かわいい~、おいでおいで!』となっちゃうわけよ。全然飽きない。しかもガボッとバスが釣れちゃうでしょ? もう『また連れてって!』と言われちゃうよ」
この企ては見事に成功し、90年代後半のバスブーム時は、アライくんのお蔭で相当女性アングラーが増えたと思います。
実力は本物。でも一点だけチューニングしたい
アライくんは、ゆっくり巻くだけで水面で首を左右に振り、非常にユーモラスに泳ぎます。発生させる波動のコンビネーションが絶妙なのか、よくバスが追ってくるし、食いつくタイミングもルアーが勝手に作ってくれます。
もちろん、1点での首振りも得意だし、クランクベイトとしてもかなり釣れます。本当に、かわいいだけではなく、優秀なルアーなのです。僕は今でも取材のときに、必ず持っていきます。
中古店で発見したら、買わなきゃ損ですね。ただし、フックだけは刺さりのいいものに替えたほうがいいです。フックを替えるだけでフッキング率が何倍にもアップします。僕からのアドバイスはこれだけです。
アライくんの価格は、高いか安いか?
アライくんは、1個2980円だったと思うのですが、出た当時は正直言ってプラスチックににしては「高い」と思いました。それを柏木さん本人にいうと。
「テッペイ、そりゃ違うよ。これはジョイントボディだからさ、塗ったりするのが大変なんだよ」
と言われたのを、覚えています。
アライ君が登場し、その数年後に空前の釣りブームがやってきて、アライくんはとんでもないアイドルルアーになってしまいました。
ズイールでは、アライ君の形のリールやプラモデルまで出しました。プラモデルは、実際にルアーとして使用できるクオリティーで、1個2000円だったかな?
そのプラモデルが世に出た頃、広島で柏木さんを取材したときの話です。ロケの前日にキャッツというお店に柏木さんと遊びに行きました。
すると、店内はアライくんのプラモデルが山積みになっていました。ちょうど入荷したばかりだっんですね。
「テッペイ、買わないの? 明日になったらなくなっちゃうよ」
「じゃ、1個……」
「1個で足りるのか?」
「わかりました、3個買います」
柏木さんに一本取られた広島の夜
ホテルに入ったら「早速一緒に作るでしょ!」
ということで、柏木さんの部屋に呼ばれました。あの時は唖然としました。部屋の中にプラモの箱が30個くらいありましたからね。
「一個くらいくれればいいのに……」と、正直思いました。ところが、そこからが大変でだったのです。組み立てた後に継ぎ目が滑らかになるよう、入念にペーパーをかけさせられました。
「こんなもんですかね?」
「テッペイ、それでも使えるけどさ、うちの会社だったらボツだよ。このレベルじゃプライドが許さないでしょ!」
「マジですか……」
ペーパーがけで、実に2時間以上もかかったのです。
「ふわぁぁ~、眠い。どうですか?」
「う~ん、まあギリギリ合格点だな。大変だろ? どうだテッペイ、わかったか?」
「何がですか?」
「売ってるアライくん、2980円は安いでしょ?」
このときは1本取られましたね。この、大変な作業で自作したアライくんは、とても2980円じゃ売る気になれません。でも、結局は読者プレゼントになっちゃいましたが(笑)。
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