紀伊半島のリザーバーを知り尽くす「那須大士朗」の右腕こそホーネットスティンガーPLUS
紀伊半島のリザーバーの凄腕としてその名を轟かす、那須大士朗さんが愛用するロッドシリーズが『ホーネットスティンガープラス』だ。昨季、前モデルからフルリニューアルを果たし、エントリーユーザーからベテランまで幅広いアングラーに支持されている、アブガルシアの定番ロッドシリーズの1つ。
2016モデルが主にバーサタイル性に優れた機種だったのに対して、今季2017モデルは先に登場した『グラスコンポジットモデル』(1機種)を始め、『ソリッドティップモデル』(4機種)や『ロングディスタンスモデル』(5機種)という釣法に特化した10機種のスペシャリティモデルが追加されることになった。本格派が求める1ピースのみならず、モバイル性に優れた2ピース、さらに4ピースをも擁した全アイテム数は、40機種。盤石のラインナップが出揃ったと言えそうだ。
今回の実釣では、那須さんが開発に深く関わった3機種に絞って釣りを展開。それぞれのポテンシャルは続く項でご覧になっていただくことにしよう。
「投げて・巻いて・ファイト」でわかる”プラス”の本質
那須さん(以下 那須)「先週来た時は大雨の直後だったんですよ。大量の流木に行く手を遮られ、上流の行きたい場所まで辿り着けず、水温も急降下…。さて、今日はどこまで落ち着いているか…」。
ここは和歌山県の山間部、紀伊半島の先端に程近く風光明媚なリザーバーとして知られる七川ダム。7月のとある休日、冒頭の言葉を呟きながら、那須大士朗さんは愛艇をランチングし始めた。その言葉から流木の存在、そして低水温が気にかかる。
那須「前モデルに『プラス』の名が加わりフルリニューアルしたのが昨季。見た目にグリップ形状の差は明らかでしたが、正直な話、最初に持っただけではブランクの大きな違いがわからなかった。でも、投げて・巻いて・ファイトしてみると、そこには明らかな差がありましたね。
使ってみると、アブガルシアのファンタジスタなど上位機種に採用されている”ナノカーボン”素材の存在感が手に伝わってきます。軽さや感度の高さはもちろん、特筆すべきはロッドの強さに繋がる圧倒的な粘りですね。これだからこそ獲れる魚も多くなった」。
全機種搭載のMGS(マイクロガイドシステム)が繊細なアタリを感知して鋭いフッキングを可能に。ひとたび掛けたらブランクはスムーズなカーブを描いてショックアブソーバーの役割を果たし、フックを存分に食い込ませる。魚への違和感を最小限に抑えたまま素早いランディングへと持ち込めるのは大きなアドバンテージ。なおかつタフな使用にも耐え得る素材と構造は、我々アングラーにとって何より強い味方と言えそうだ。
<実釣インプレ・その1>グラスコンポジット・ベイトモデル
グラスロッドにクランクベイトをセットし、キャストしていく那須さん。リザーバー、それも水中が丸見えのクリアウォーターにおいて派手な動きのクランクベイトを使うとは、取材班にはあまり馴染みのない釣り方だった。紀伊半島のローカルスタイルなのか否か。いずれにせよ那須さんのフェイバリットであることは確かだ。
那須「今回のように雨で濁りが入った時やアオコが発生した夏場限定の釣りですね。濁りがバスの警戒心を解き、そんな中でも発見しやすい派手な動きのクランクベイトが有効になります。比較的水深の浅い岸寄りで水中の何か、例えば立木に当てて抜けた瞬間のリアクションバイトを狙うのが基本ですね」。
バスの不意を打つこの釣りでは、往々にしてリアフックへのバイトも多い。時にハリ先との接点は皮一枚。
那須「そんな時でも、グラスならではの食い込みの良さ、それに粘り強さが活躍して、確実に仕留めることができます」。
グラスロッドはいわば保険。価値ある1本を獲るか逃すかを決定付けるのがこの1本の存在とも言える。
特筆すべき食い込みの良さが、確実にバスをその手へと。
実釣中、このグラスロッドでいったい何本を仕留めただろうか。それほどに数は釣れた。さすがは紀伊半島のスーパーロコを感じた瞬間だった。ルアーに対する信頼感はもちろんのこと、ひとたびヒットすれば確実に獲れるというロッドに対する確信も大きな要素。万全のタックルが揃ってこそ、勝利が訪れることを那須さんは知っている。
那須「カーボンに比べ反発が遅く、キャスト時のリリースポイントのスイートスポットが広い。なおかつ確実に獲れる。もしかしたらエントリーユーザーに最適な1本なのかもしれませんね」。
グラスロッドはベテランを満足させる一方で、入門者にも優しい一面を持つ。投げて巻くなら、この1本がおすすめだ。
<実釣インプレ・その2>ソリッドティップ・ベイトフィネスモデル
今季5モデル登場したソリッドティップモデルの中の1本。HSPC-671LS-BF MGSは「BF」のイニシャル表記からも想像できる通り、Bait Finesse(=ベイトフィネス)モデルだ。
那須「ライトリグをよりナチュラルに操作できるLアクションのベイトフィネスロッド。一見オーソドックスなモデルにも感じますが、実は超ファーストテーパーに仕上げダイレクトな操作性を実感できますね。自らの腕の延長として使っていることを実感できるモデルに仕上がっていますね」。
ライトカバーの撃ち物、小型プラッギングも守備範囲
那須さんからソリッドティップについて、実に興味深いコメントを引き出すことができた。
那須「ソリッドティップって食い込みの良さが注目されていますが、そこだけが本質じゃないと思うんですよ。細く削り込んだティップを持つモデルが多いせいか、繊細で弱いというふうに捉えがちですよね。でも、実はカーボンソリッド自体の強度が高いからこそ、細く削り込んでも耐えてくれる。裏を返せばそう考えることもできる」。
驚くべき意外な事実がそこにはあった。この特性を利用して、新たなモデルも開発中だというが、それは後の項で解説していただくことにしよう。
那須「このモデルは繊細なベイトフィネスながらも芯に強さを備えているからこそ、ライトカバーでの操作性に優れています。ライトリグを手返しよく撃っていくだけでなく、小型プラッギングにも最適」。
那須さんはこの1本で各種ライトリグから小型の巻き物、I字系など幅広いジャンルのルアーで使いこなしている。冬〜春先ならシャッドなどのフィネスプラッギングもマッチ。負荷がかかれば存分なトルクを発生して、不意の大物に対応が可能だ。
<実釣インプレ・その3>ソリッドティップ・スピニングモデル
前項のベイトフィネスモデルと同様にソリッドティップで構成されるスピニングモデル新作の1本がHSPS-671ULS MGS。レングスも前モデル同様に6フィート7インチで、そのストロークを活かした釣りに優れたマッチングを見せる。
那須「やや柔らかめの素直なテーパーは、僕の場合、主にライトキャロライナリグに使いますね。リザーバーならディープのフラットで、繊細なバイトを瞬時に感じ獲り、しっかりと食い込んでくれるティップの追従性はもはや低水温期には欠かせない1本です」。
那須さんの場合、キャロのシンカーは3.5グラムを軸に、リーダーは80センチとやや長め。よりナチュラルな誘いがキーになる。ボートフィッシングにおけるディープのみならず、陸っぱりでの使用も守備範囲。シャロー全般の釣りにも対応可能だ。ダウンショットにネコリグ、ジグヘッドワッキーなど多彩なライトリグに対応する中でも、那須さんはノーシンカーをイチ推しする。
那須「そうですね、特にノーシンカーリグの釣りで威力を発揮しますね。軽量なワームでも存分なキャスタビリティ、繊細なアタリを感じてしっかり食い込ませて乗せる操作には抜群の相性です」。
ライトキャロ&ノーシンカー、水陸両用で威力を発揮
いわばディープのライトキャロを主軸としたモデルがHSPS-671ULS。ホーネットスティンガープラスはミドルクラスモデルながら、前述の2機種を始め今季登場モデルの多くが特化型モデルだ。
那須「昨季フルリニューアルした際に初回モデルとして登場した1本が、HSPS-621ULS MGS。超極細ソリッドティップを搭載したスーパーフィネスロッドで、汎用性の高いモデルが多いミドルクラスの中において非常にスペシャリティーなこの1本が注目されました」。
シリーズの元々の基本コンセプトを逸脱するマニアックな極フィネススピニング。異色の性質を持ちながらも、発売からおよそ1年余りで早くも市場に馴染んだ感があるモデルだ。その621ULSの血統を継ぐのが今季発表の671ULS MGS。
那須「一部のアングラーからしか評価を受けないであろうスーパーフィネスモデルが意外や意外、想像以上の人気を博したんですよ。ならば、よりソリッドティップの特性を実感できるレングスアップモデルも作ってみようというのが今回の開発経緯です」。
このモデルに限らず、今季発表のホーネットスティンガープラス11機種は、那須さんいわく「特化型=完全ローカル主義」が開発の根本にあるのだという。
ローカル発全国行き、全方向に死角なしの盤石ロッド
那須さんが構想を温め続け、いよいよ発売を間近に控えているのがシリーズで唯一の『八咫烏(読み:やたがらす)』のサブネームを持つHSPS-60ULS(プロト)だ。その名は日本神話に登場する3本足のカラスの名。紀伊半島の先端、世界遺産として知られる熊野神社のシンボルとしても知られる。那須さんは自らの愛するホームグラウンドを象徴すべく、そのネーミングに至ったのだという。
那須「クリアウォーターで魚に仕掛けていく釣り、軽量リグで誘って食わせる釣りに特化したスピニングモデルですね」。
瞬時の撃ち込みとスナップを利かせたテクニカルな操作性を高めるべくセッティングされたのは必要最小限に設定されたショートグリップ。バットエンドが削ぎ落とされながらも、リールシート以前のブランクとのマッチングが絶妙で持ち重りすることはない。
那須「かつて小森嗣彦プロが開発に参画したファンタジスタ60ULの影響を色濃く残したモデルですね。ナノカーボンを始めとする現代のアブガルシア・ロッドテクノロジーで再現。ややライト化したことでより使い勝手を向上させています」。
そのほかには、今期発売のオールラウンドなMアクションのロッドにソリッドティップを採用したスーパーバーサタイルモデルHSPC-661MSや、ソリッドティップの粘り腰を活かしたカバー攻略ソリッドティップモデルJHSPC-6101MMHの原型となるプロトモデルが鎮座する。
スーパーローカルのパワーが珠玉のモデルたちを築く
那須「ようやく何とか絵になりそうなサイズが獲れてホッとしています(笑)。雨の影響で思った以上にサイズアップが難しかったですね」。
ここまでの各写真をご覧になっても分かる通り、この日はある時は強雨、またある時は前後不覚の濃霧と、時間を追うごとに気象条件も様変わり。那須さんが得意とするサイトフィッシングは今回、お見せすることはできなかったが、それはまたいつかまた別の機会にご披露いただきたい。
那須「ローカルのパワー、今後もぜひ期待してください!」。
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