DAIWAを代表する小型汎用スピニングリールといえば「イグジスト」。そして、もう一方の雄が「セルテート」だ。そのタフさを極める名機の系譜が2019年、フルモデルチェンジを果たした。2004年の初代機から数え5代目となる、いわば「19セルテート」が追い求めたのは、元来持つタフさに加えた、さらなる軽量感だ。早くも国内マーケットに衝撃を与えている豪腕スピニングの驚くべきポテンシャルを生みの親、グローブライド大玉直也氏に聞いてみた。
■解説
大玉直也(おおだま・なおや)
グローブライド株式会社でリール企画開発に携わる敏腕エンジニア。
主にスピニングリールを担当し、これまで汎用の名機「セオリー THEORY」を始め、ライトソルトの専用機「月下美人」や「HRF」など、数々の名作を輩出。
長きに渡る自身のキャリア集大成とも云うべきモデルが「19セルテート CERTATE」だ。
凛とした上質な佇まい。否応なしに我々の期待感を掻き立てる
「例えるなら、高級セダンですね」
それが大玉氏の新型セルテートをあらわすひとことだ。
セルテートブルーとシルバーが織りなすシックな外装。DAIWAハイエンドスピニングの名に相応しい、視覚に訴える優れた質感。
手にしてみると、なるほどその重厚な筐体とは裏腹に、驚くべき軽快な操作性を体感できるはずだ。
頑強なフレームに秘められているのは、大排気量エンジンとでも言うべき大口径かつ強靭なタフデジギア。優雅な乗り心地を実現しつつ、確かな走破性を誇る「19セルテート」は、まさに冒頭の大玉氏の言葉を裏付ける。本物を知る大人の道具がそこにある。
が、しかし。DAIWAが求めたのは、そこだけではない。
さらなる小型スピニングリールの頂きだった。
「タフなだけでは意味がない。小さいだけ、軽いだけでも充分ではないんですね」
強さを求めれば重量増を免れず、その一方で小型軽量を求めれば脆弱さは否めない。相反する要素を同時に追い求めることは、通常であれば不可能だ。
しかし、DAIWAが誇る最新鋭テクノロジーは従来の矛盾という壁のブレイクスルーに挑んだ。
「求めたのは極限のライト&タフ」LTコンセプトとモノコックボディの密なる関係
「LTコンセプトとモノコックボディ。我々が求め続ける思想を高い水準で満たすテクノロジーが整ったんです」
LTとは「Light & Tough」の略称で、軽さとタフさを両立するコンセプト。
昨季2018年に発表されたフラッグシップ「イグジスト」を始めとするDAIWA小型スピニング各機に採用された新機構であることはご存知だろう。
かつてドデカコンパクトと呼ばれた、糸グセを解消しつつ遠投性能を向上する大口径スプール主導時代からの転換期。現代はもはや糸径の太いナイロンではなく、より細いPEラインが主流。かつての2500が3000に、3000が4000に。
スプールのリサイズという英断がLTコンセプトの根幹を担っている。
セルテートのモノコックボディとは
一方、後者のモノコックボディとは何か。
一般的には自動車等で知られる、フレームとボディを一体的に作った構造で、高い剛性を保ちながらパーツ点数を絞り込み軽量化を図れる画期的な手法だ。
「19セルテートのモノコックボディは、ボディとエンジンプレートのみで構成されています」
従来であれば、ボディとサイド(エンジン)プレートを密着すべく、ビスを固定するスペースが必要だった。またギアサイズを大型化するにはボディ自体をより大きくする必要があったのも事実だ。
ところが、19セルテートはわずか2つのパーツによる構成を可能に。エンジンプレート自体がビスの役割を果たすと同時に、プレートとほぼ同サイズの大口径ギアを搭載することをも実現。
冷間鍛造アルミマシンカットのタフデジギヤを採用して、省スペース化を図りながらも存分な力強さを手に入れたのだ。
先代で培われた技術を全モデルに採用
「より軽く、よりタフに。モノコックボディは我々の求めるLTコンセプトをより高水準で満たす。いわば、強靭軽量テクノロジーです」
先代の16セルテートではHDモデルのみに採用された独自の技術は、さらなる進化を経て19セルテートの全モデルに採用。一聴しただけでは、耐久性のみに重きを置いた構造にも思えるが、その軽量感は無論、破格だ。
新旧の同番手比較で、それは明らかだ。「16セルテート2506」が240gに対して、「19セルテート2500S」は205gと、35gもの軽量化を実現。
LT化によりリサイズされた同スプール径で16モデルと比較しても、19モデルの3000-CXHは210gで、30gも軽くなっている。
タフさに加え、軽さも共存させた19セルテート。初代04モデルの「リアル4」、2代目10モデルの「マグシールド」、3代目13モデルの「ZAION製エアローター&マグシールドBB」、4代目16モデルの「新形状エアローター」。
常にスピニングリールの最先端を走り続けて来たセルテートの系譜。今後もまたDAIWAスピニング史の大きな礎となるエポックメイキングなモデルと言えそうだ。
フラッグシップ「イグジスト」との差はどこにあるのか?
「タフさでは、18イグジストを超えています」
ややもすればDAIWAスピニングのフラッグシップを凌駕する優れた性能を身に付けた「19セルテート」。両者の差はタフさと軽さを秤にかけ「限界値を振り切った想定」でそれぞれセットアップされている。
例えば、モノコックボディの材質。
「18イグジスト」が存分な強度を維持しながら軽さを徹底追求すべくマグネシウムを採用した一方で、「19セルテート」は構造の進化と共にアルミ素材を採用することで従来比1.3倍の剛性感を実現。
例えば、メインシャフトの材質。
「18イグジスト」では軽量かつ高剛性のアルミ素材の一方で、「19セルテート」にはより強度に優れるSUS素材を採用している。
例えばオシレーティング構造の進化。
従来ボールベアリング(BB)で2点支持した構造が、ボディ2カ所で受けるピラー構造となったばかりか、素材にはより高剛性の金属を採用したことで内なる強さを秘めている。
「各所で若干の重量増を犠牲にしてでも、すべては力強さ、巻き上げ効率を重視。タフスピニングの代名詞、セルテートに相応しい作り込みを目指しています」
極限までの負荷を想定した新構造。現実的にはロッドの調子とドラグワークが相関関係にあるため、アルミシャフトとの差はアングラーが体感できるレベルの値ではない。それでもトルクフルかつ滑らかな回転の実現を追求している。
「その差に気付けるのは、想定外の限界値に到達した時のみですね」
10年使い込んだとしても、その差に気付けるか否かは神のみぞ知るレベル。それでもタフさに徹底的にこだわって仕上げられた19セルテート。新旧比で巻き上げ効率が15%アップしたことも付け加えておこう。
16セルテートからの進化点とは
LTコンセプト、そしてモノコックボディはもちろん、新旧比較で進化点は実に多岐に渡る。
最後は各進化点を画像と共に、確認しておきたい。
●大口径ドラグノブ
スプール上面のほぼ全域を占める大口径ドラグノブは、即座のドラグ微調整を可能にしている。
また内部に搭載された定評のATDドラグワッシャーの面積が拡大されたことで、より繊細なドラグワークが可能となった。
●新スプール形状、シームレス新形状エアベール
スプールリングとエッジがラインとの接触抵抗を軽減することで飛距離アップとトラブルレスを可能にするLC-ABSを搭載。サイド4方向に見える2本のレーシングストライプが質感を高める。
また継ぎ目のない一体型ベールが些細なトラブルをも排除し、軽快な操作性にも繋げている。
●パーフェクトラインストッパー
18イグジストと同形状に進化したラインストッパー部。
従来は下側からラインを挟み込む仕様だったが、新形状は上からワンタッチでライン止めが可能。太径リーダーでも難なく押さえ込む画期的な形状だ。
●左右対称ボディ、ストッパーレス構造画
リール下部から見れば一目瞭然の左右対称ボディ。
サイド両面に鎮座するエンジンプレートが力強さを象徴している。
また、クラッチとも呼ばれるスプール可動機構は完全排除。
パーツ点数減による軽量化、防水性能の向上などを追求。スプールフリーによる微かな利便性を犠牲にしてでも、セルテートらしさを求めた構造だ。
●マグシールド
マグオイルの壁が内部への浸水を防ぐと共に、長きに渡り優れた回転性能をキープするDAIWA独自のテクノロジーは無論搭載。
モノコックボディとストッパーレスによって防水性能を高めた19セルテートは、ピニオンギアとラインローラー部のみにマグシールドを採用している。
●肉抜きなしのマシンカットハンドル
細身軽量ながらも耐久性を存分に発揮するアルミマシンカットハンドルを搭載。
濡れても滑りにくいハイグリップハンドルノブは、内部に2BBを配置して回転性能を向上。
オシレーティング構造の進化で排除されたBBがここに配置換えとなり、BB数は新旧で据え置きに。
●全9機種
19セルテートに1000〜2000番は存在しない。
いわば、タフさを兼ね備えた高級セダンに小型サイズは要らないということ。
従来シーバスアングラーを中心に支持を受けてきたセルテートだが、この軽さと優れた回転性能は、バス及びトラウトアングラーの耳目を集めそうだ。
極端な細径ラインを使用するモデルはより軽量な「イグジスト」、もしくは「ルビアス」が担うことになる。