フルサイズミラーレスデジタル一眼レフカメラ市場の覇権争いが激化する中、各社が相次いで新機種を投入してきている。その中でも最も安価なモデルとして注目されているのが、キヤノンがリリースしたEOS RPだ。このモデル、もちろんスチール撮影で使用することを前提に設計されているのだが、昨今のトレンドに合わせて動画撮影機能も充実させてきている。そこで、超過酷な釣りの動画撮影の現場で実際に使用し、良かった点、ダメだった点をレポートしていこうと思う。
まずお断りしておきたいのが、このレビューを担当している人間が、動画撮影のプロではないということ。スチール撮影歴はそれなりに長いが、動画の撮影に関してはプロのカメラマンの見様見真似でやっている程度であることをご了承いただきたい。では、早速、良い点から。
EOS RPの〇 その① 本体が軽くて、長時間撮影でも疲れにくい
バッテリーとSDカードを含んだ重量が何と500gを切る485g! これは軽い! 2019年7月の時点で、フルサイズミラーレスでは他社製品と比較しても最軽量だ。1日中カメラを構え続ける釣りの撮影にとって、機材が軽いというのは体への負担が軽減されるため、とてもありがたい。
ただ、現状、EOS RPに対応したRFレンズのラインナップが乏しいため、コントロールリングマウントアダプター(130g)を使用してEF17-40㎜ F4L(475g)を装着して撮影したのだが、そうなると総重量は1㎏オーバー(1,090g)となってしまい、せっかくの軽量ボディのメリットを活かし切れないのが残念なところ。
EOS RPの〇 その② バリアングルモニターが使いやすい!
バリアングルモニターは、撮影スタイルの幅が広がるためとても使いやすい。例えば、カメラをグリップに装着して撮影する場合、チルトのみのモニタの場合グリップが邪魔をしてモニターが見にくくなるが、バリアングルモニターならサイドに繰り出せるので問題なし。常に画を確認しながら撮影ができる。また、下の写真のようにサイドに繰り出した状態で180度回転させることで、撮影対象者に撮影中の画を見せることも可能だ。
EOS RPの〇 その③ タッチパネルでの操作が快適
モニターは、昨今主流となっている静電式タッチパネルを採用している。撮影中、各種設定を変更したい場合、ほとんどの操作がタッチパネル上で操作が可能だ。具体的には、AFフレーム位置の変更、AFのON/OFF、シャッタースピード、絞り、ISO感度設定など、撮影中に必要な操作のほとんどをモニター上でおこなえる。ただ、シャッタースピードや絞り、ISO感度の設定はそれぞれメイン電子ダイヤル、サブ電子ダイヤル、マウントアダプターのコントロールリングでも操作できる。操作のしやすさで言うと、タッチパネルでよりも物理ダイヤルの方に軍配が上がる。
EOS RPの〇 その④ バッテリーが、意外と持つ
EOS RPが採用するバッテリーパックはLP-E17。これは、エントリーモデルが採用する場合が多く、容量は1,040mAh。上位モデルが採用するLP-E6Nの容量が1,865mAhなので「持ちもそれなりかなぁ」と覚悟していたのだが、実際には1日中撮影して4本消費する程度だったので、これは望外に良い誤算だった。
今回は日中の撮影がメインだったので、ローライト時や夜間の撮影となると、結果がまた違ってくる可能性はある。
EOS RPの〇 その⑤ 作動レベルが選べる電子手振れ補正が優秀
キヤノンはカメラボディ内に物理的な手振れ補正装置を搭載しないため、電子式(画角をクロップすることで手振れを補正する方式)の手振れ補正を採用する。これは、既存モデルも採用しており、作動レベルは「しない、する、強」の3段階から選択できる。通常は「する」を選択しておいて、磯場を歩きながら撮影するような場合は「強」にするなど、状況に応じて使い分けている。「強」にすると、起伏の激しい磯場でも非常に安定した映像となるのだが、電子式なのでその分、画像がクロップされる量が多くなり、相応に画角が狭くなる。注意したいのは、撮影中に設定の変更はできないという点。変更する場合はRECを一旦止めてメニューに入る必要がある。
下のサンプル動画は、電子手ブレ補正を「する」で撮影。後半の磯歩きのシーンでは「強」に設定して撮影した。なお、手ブレ補正機構が搭載されていないレンズを使用している。
EOS RPの〇 その⑥ 炎天下での長時間撮影でもセンサーが熱くならなかった
スチール撮影用のデジタル一眼レフカメラで長時間の動画撮影をする場合に気になるのが、センサーの熱。今回の撮影は、気温30℃を優に超える炎天下で何時間も連続で撮影を行った。結果から言うと、高温警告が出ることは1度もなく、ボディが熱を持つということもなかった。
というか、そもそもこの機種に温度上昇警告機能があるのかどうかも未確認なのだが、今回のような炎天下でもなんの問題もなく長時間の撮影をこなせたことから、よほどのことがない限り、センサーが高温となって撮影ができなくなるというような事態にはならないと思われる。
ちなみに、直射日光が当たらないように日よけ(&雨除け)としてタオルを被せて撮影を行っていた。
EOS RPの〇 その⑦ 防塵防滴仕様なので急な雨でも安心
梅雨時の撮影だったため、小雨が降るような状況がたびたびあった。カメラとレンズがビショ濡れになることもあったのだが、雨濡れによるトラブルはゼロ。ボディはもちろん、アクセサリーのコントロールリングマウントアダプターも防塵防滴仕様であるし、使用していたレンズも防塵防滴仕様だったので、水濡れに対する不安はなく、快適に撮影を行えた。
磯では波しぶき、サーフでは砂、エギングではイカ墨、そしていつ降るかわからない雨。ソルトルアーフィッシングの実釣撮影は機材にとって過酷極まりない環境なのだが、EOS RPならそれらの外的要因を恐れることなく撮影に集中できるだろう。
EOS RPの〇 その⑧ イヤホンジャックが装備されている
ワイヤレスマイクなど、外部マイクを使用する際にはイヤホンなどでモニタリングすることは、後々のトラブルを防ぐためにも重要なこと。EOS RPはボディサイドにイヤホンジャックが設定されているので、最終的な音声を確認しながら撮影に挑める安心感があった。EOS RPのようなエントリーモデルはこの機能を端折っているモデルが多いので、地味ではあるがありがたい。
美点を全て帳消しにするほどの欠点とは
EOS RPの良い点を沢山挙げてきたのだが、実は、これらの美点すべてを帳消しにするほどの致命的な欠点が、使用していくうちに判明した。それを挙げていこう。
EOS RPの× その① EF-Sレンズ使用時にFHD画質が選べなくなる!
EOS RPにマウントアダプターを装着すれば、EFレンズとEF-Sレンズが使用可能となる。これはありがたい。EF-Sレンズには、EFレンズにはない魅力的なモデルがラインナップされており、それらを使用できるというのだから、EOS RPの活用の幅が大きく広がる。
ところが、である。EF-Sレンズを装着すると、選択できる動画記録サイズがHD(1280×720)か4K(3840×2160)の二択となってしまうのだ。つまり、一般的にも使用頻度の高いFHD画質が、EF-Sレンズ装着時には選択できなくなるということ。これは、致命的な欠点…。
軽量&コンパクトボディのEOS RPと軽量なEF-Sレンズの組み合わせは、取り回しも良くバランス的に最高の組み合わせなのですが、FHD画質が選べないとなると、EF-Sレンズの使用はかなり限定的にならざるを得ない。同シリーズには魅力的なレンズが多数存在するだけに、とても残念。今後のファームウェアアップデートに期待したい。
ちなみに、EF-Sレンズを装着した場合、当然ながらAPS-Cサイズ並みに画像がクロップされる(画角が狭くなる)。これら仕様は、上位モデルとなるEOS Rも同じのようだ。
EOS RPの× その② 撮影中、メモリーカードの残量が表示されない
つまり、撮影中にメモリーカードがフルになると、突然、撮影が終了するということ。例えば、1度きりしかチャンスが来ないかもしれないヒットシーン撮影中にそれが起きる可能性も十分ある。この1点において、プロがこのカメラをメインで使用するということはありえないだろう。
EOS RPは、モニターが1つしかなく、機能表示画面は省略されている。EOS 5D Mark4だと、SDカードの残量表示が、ボディ上面の液晶で確認できる。
プロがメインで使用するムービーカメラたりえないが、サブ機としての性能は十分
EOS RPの〇と×、いかがだっただろうか? ムービーカメラとしても十分使える性能を持ったフルサイズセンサーを採用したミラーレス一眼レフカメラEOS RP。現行ラインナップでは、他社製品も含めて最もリーズナブルに入手できる機種であり、それだけでも魅力的なモデルだ。
しかし一方で、動画撮影上致命的な欠点もあるため、入手には注意も必要となるだろう。もちろん、そもそもがスチール撮影用のカメラなので、欠点のない動画撮影性能を求めるのが間違っているのかもしれないが。
今回は、エギングという特性上、日中の撮影がメインだった。シーバスやアジングといった夜間撮影がメインとなる場合は、明るいレンズとEOS 6D MarkⅡ譲りの高感度フルサイズセンサーの組み合わせで、ビデオカメラにはない表現が可能となってくるだろう。また、被写界深度の設定幅が広いという、大型センサーならではの表現も楽しめるのも魅力だ。
現状、高価で重いレンズラインナップしかないRFマウントだが、EOS RPのコンパクト&軽量ボディを活かせる、軽量&安価なレンズのリリースを期待したいところだ。