伊豆諸島も甚大な台風被害……時速200キロの暴風が吹き荒れた神津島の現状を現地レポート



極めて強い勢力を保ちながら関東地方を直撃、縦断していった令和元年台風第15号。各地に大きな爪痕を刻んでいった台風の破壊力は千葉県の大きな被害が注目を集めていますが、あまり知られていないのが伊豆諸島の状況。黒潮がぶつかり、圧倒的な透明度を誇る美しい海と自然を満喫できる島々ですが、中でも最大風速58.1m/sという観測史上に残る猛烈な風速を観測した神津島の現地の様子をお届けします。



神津島ってこんなところ

黒潮本流がぶつかる伊豆諸島の火山島。海は暖かくて透明度が極めて高いことで知られ、ダイビングやシュノーケリングが盛ん。釣りも、桟橋からいきなり大物釣りができるほど魚が豊富で迫力のある場所。東京から船で簡単に来島できるのも魅力です。人口は2000人ほど。

島の東側、多幸湾から眺める天上山の大断崖。

見どころは海だけでなく、標高571mもある天上山の山頂付近は森林限界を超えるため高山のような絶景が広がり、海と山をいっぺんに楽しめるのが特徴。全体が火山の島なので、ジオパーク的な楽しみ方も。この島で産出する黒曜石は質が高く、縄文時代より遥か昔の旧石器時代から黒潮を越えて本土に流通していたことが知られ、『続日本後紀(840年)』には神津島が大噴火したことが記されるほど昔から注目度の高い島だったようです。

最近では新海誠監督作品、映画『天気の子』の舞台になったことでご存知の方も多いのではないでしょうか。

9月16日現在、神津島はおおむね観光に問題なしの状況

まず神津島の現状ですが、結論から言うと観光客の受け入れ態勢については遊びに行く分にはほぼ問題ない状況まで復旧しています。

9月14日、台風から6日後の神津島は、9月の連休を迎えて大勢の観光客が来島。

島内の主な商店や飲食店は営業を再開。温泉保養センターや赤崎遊歩道(売店も)、天上山登山道といった神津島の主要スポットや、各キャンプ場も利用可能な状態。

特に温泉保養センターは停電や外装などに被害があり、しばらくは復旧できない見込みという当初の告知が出ていたものの、なんとか来島者に島を楽しんでほしいという懸命な復旧作業で9月の第2週連休前ぎりぎりで営業を再開。施設内のレストランも通常営業中です。

9月17日、神津島村役場発表の島内の状況

神津島村役場のお知らせおよび現地情報から、9月17日現在の神津島の情報をまとめてみました。

神津島村役場Webサイトからのお知らせ

道路交通関係

都道:通行可
村道:倒木により一部通行止め復旧作業中(17日現在復旧)
農道:倒木により一部通行止め復旧作業中
林道:最終処分場までは通行可
東海汽船&神新汽船:通常運行中
神津島空港:通常運行中、空港からは都道アクセス道路をご利用ください
村営バス:通常運行中
タクシー:営業中
各レンタカー&レンタバイク:営業中

島内の主要な道路はほぼ問題なく通行可能です。

主要スポット

天上山:白島登山道は倒木により通行不可、黒島登山道をご利用ください
赤崎遊歩道:吊り橋周辺までは進入可能、遊歩道奥地は立入禁止、売店は9月連休中営業
千両池:安全確認ができていませんので、立ち入り禁止

赤崎遊歩道は一番高い展望台や奥地以外の主要部分で遊べるようになっていました。

主要施設

よっちゃーれセンター:営業中
温泉保養センター:9月13日より営業再開
神津島村郷土資料館:営業中
神津島村図書館:営業中

温泉保養センターは全面的に営業再開。屋外の水着露天風呂エリアも賑わっていました。

宿泊施設&売店など

各宿泊施設:ほぼ通常通り営業中
各食事処&商店:ほぼ通常通り営業中(一部要確認、キャンドゥ神津島店はしばらく店休)
多幸湾公園ファミリーキャンプ場:9月13日より営業再開
沢尻湾キャンプ場:令和2年3月31日まで開放中
長浜キャンプ場:令和2年3月31日まで開放中

大人気の多幸湾公園ファミリーキャンプ場も復旧。

断水・停電・通信等

断水:農業用水で一部水の出が悪いところがあり、引き続き節水にご協力願います
停電:復旧しました
通信:光固定電話、テレビ、インターネットが一部不通となっており、復旧作業中です

9月9日、台風翌日の神津島の主な被害状況

神津島では令和元年台風第15号で最も強い最大瞬間風速58.1m/s(時速換算で209.16km/h)という猛烈な風を観測。家屋や施設の屋根や壁、窓ガラスなどが損壊、停電でポンプが動かなくなり一時的に断水、同様に通信の障害も発生するなど大きな被害がでたとのこと。

ただし、村内は周囲を最も低い峠でも138mほどある高い山に囲まれている地形のためか、平地が多い他の島ほどは大きな被害にはならなかったようです。

なお、島の名産である明日葉やパッションフルーツなどの畑も多くが直接被害を受けている他、集落から離れているため道路の通行復旧などが遅れているようです。

現地の様子を写真レポート、海や釣りの状況も

それでは、実際の神津島の9月14日~15日の様子を写真レポートしていきましょう。

村内の様子

レンタルバイク屋さんでもらった地図。赤印が注意すべきポイント。主要道でも砂や葉っぱが溜まっていたり、工事車両の通行が多かったり。なお島の南西部はまだ復旧の手が入っていない道も。
釣具屋さんも営業中。島の釣況にも詳しいです。
神津島でいちばん大きいスーパーも営業中。
暴風で屋根が完全に吹き飛んでしまった100円ショップ、キャンドゥ神津島店は早くも葺き直しが進行中。
神津島にはあちこちに古い石仏や道祖神が置かれています。椿の葉が挿してあったり手入れも行き届いていて、現代でも信仰の心が篤いことが伺えます。
神津島村の中心部にある濤響寺。この辺りは島内でも一番被害が少なかったとのこと。きっと昔からこのように島の安全の役割を担ってきたのではということを感じさせる重厚な佇まいの山門。
前浜海岸脇の都道は砂がたまっていて危険なので除去中でした。

神津島の海

島の表玄関に位置する前浜海岸。普段から流入河川がほとんど枯れているため、ご覧の通りの美しさ。
今まで行った中でいちばんきれいな海でした。。。

海の中の様子もかるーく撮ってきました

被害が残っていた南側

島の南側は人家も少なく、強風で倒木や葉が散乱。片付けが終わっていない場所がちらほら。
ありま展望台から眺める前浜方面。高所恐怖症の人は震え上がる高度感。
展望台からさらに南に向かう道路。
神津島灯台も絶景。灯台の麓の展望台には登らず。
道に迷った感をただよわせつつ、神津島空港の南側では電柱が折れているケースも。

最大風速を観測、神津島空港周辺

神津島空港に続いているアクセス道路。道幅も広く安全で通行にはまったく問題なし。
空港脇の松林は猛烈な風で文字通り根こそぎ倒れてしまった木が複数。
ごっそり。
今回の台風で観測された最大風速58.1m/sは、気象庁の神津島航空気象観測所の風速計。ほとんど海から吹きさらしの空港に200km/hを超える風が吹いていたという事実をまるで感じさせない、穏やかな午後。
空港近くの道は現在進行系で倒木対応をしていて、完全に通行できない箇所も。


神津島の東側、多幸湾方面

神津島空港へ向かう道はかなり高い位置を登っていき、三浦湾展望台は標高200mからの絶景。気温も低くて少しひんやり。ちょっとした登山気分が味わえます。
多幸湾展望台から望む多幸湾と天上山の大崩落。
非常に上質という神津島の黒曜石の塊。先史時代人はこのような塊を船に載せ、本土に運んでから石器として剥離させて利用したそうです。
巨大な防波堤に囲まれていていつも穏やかな多幸湾海水浴場。
多幸海岸には自然湧水があって、飲用として利用できます。少し冷たくて美味しい水。神津島は伊豆諸島でも標高が高く水が豊富で、伊豆諸島独自の神話として真水が多く出ることをモチーフにした「水配り神話」が『三宅記』に記され、現代に伝わっています。
飲用として水を汲むなら樋を通じて注がれているところが便利です。
防砂用?の竹垣は倒壊中。
多幸湾三浦漁港。西風で前浜港が使えない場合、客船はこちらに着岸します。集落とは反対側にあるためほとんど人がいない、穴場の釣りスポット。
この日も釣りをしていたのは3人組のお客さんのみ。
小型ですが、ルアーでカンパチが釣れていました。


天上山トレッキング

天上山は山頂まで行けますが、アクセス可能だったのは9月15日現在黒島口のみ。写真提供:沖航太郎さん
黒島口から登るとすぐに出会える千代池。まるで庭園かのような自然の造形美。なお水がないこともあり、ここまで水を湛えていることもめずらしい。写真提供:沖航太郎さん
「裏砂漠」と呼ばれる山頂付近の砂地地帯からがれ場の山頂は、離島にいることを忘れてしまうような荒々しい光景が広がっています。写真提供:沖航太郎さん
山頂からは前浜方面を一望。ウェーキを残して出港していくのは東海汽船の高速船。東京まで3時間で着いてしまう水中翼船で、ジェットフォイルのエンジン音はジェット機そのもの。写真提供:沖航太郎さん

神津島の北から西側

多幸公園ファミリーキャンプ場から黒島口の峠を越えて前浜方面へ向かう道路森田線の途中はまだ撤去できていない倒木が。
お昼頃なら大勢の観光客で賑わう赤崎展望台。この日は抜群の透明度。
赤崎の売店は営業中。夏季以外は9月の連休に開店。2019年は9月23日まで。
長浜キャンプ場の最奥部にある阿波命神社への入り口。
『続日本後記』に記述される地形と完全に一致した場所に現代も坐すという阿波命神社。上陸しやすい砂浜に続く奥まった谷地で真水が得られるという当地は、航海民にとってどれだけの安息地だったことかということを感じさせる古代神社の風格があります。ちなみに神津島は照葉樹林帯なので、杉の木があるとなにか珍しい感じがします。
通常は誰もいないので参道も境内もあまり手入れはされていないんですが、そこが妙に古の趣をくすぐります。

前浜港の釣況

島内でも屈指の釣り場として有名なのが、島の表玄関前浜港の突堤。客船が停泊していない時間は島の人も観光客もこぞってここに集まってきます。

堤防は広く、夜は常夜灯も点灯。ただし突堤のため東風以外には弱いです。

前浜港は足元から10m以上の水深があり、潮通しも抜群。ムロアジがサビキ釣りで狙えるのでだいたい誰でも釣りが楽しめます。島内の釣具屋さんにはムロアジ釣りを想定したレンタルタックルもあり。このムロアジを狙ってカンパチなど大型の青物も入ってくることで知られます。

この時期の釣りの主な対象魚はムロアジ、メジナ、カンパチ、シマアジ、イサキ、アカハタ。時期によってはアカイカ(ケンサキイカ)も狙えるとか。

夕方のいい時間。この日は大量に群れていたムロアジが無限に釣れていたほか、良型のカンパチがルアーにヒット。海底を探ればアカハタも狙えます。

神津島グルメ!

神津島は人口が多く、離島としては食事の選択肢も多いです。その一端を少しだけご紹介。

島内にはパン屋さんも。朝は7時30分から夜は21時まで。
あの映画のあの場所にて。
お昼にはハンバーガーを食べられる喫茶店も。写真提供:沖智子さん
芥子と明日葉の本格的な三色蕎麦。
島の玄関口近くにはアイス屋さんも。
島内の宿では頼めば新鮮な海の幸も楽しめるところが多いです。たぶんどこでも?宿によっては頼んでもいないのにすごい舟盛りがサービスでてくるところも。。
神津島内で自家醸造している明日葉エール。さわやかな苦味の明日葉が香るやわらかい味わいで、ビールが苦手な人でもごくごくいける飲み口の良さが特徴。写真提供:沖航太郎さん
神津島名産品のひとつアカイカ(ケンサキイカ)の塩辛。濃厚で旨みたっぷり。
温泉保養センターのレストランにて。温泉の後は昼間っから生ビールをキメられます。
島内では美味しい魚づくしになりがち。そりゃもう美味しいのですが、そうなると欲しくなるのが定番メニューなおにくだったりします。
最後にこちらは東海汽船さるびあ丸名物のカレーライスと生ビール。「高っ」て言われるほど高くはないと思います。。しかし飲んでばっかりじゃあないんですかこの人は。

台風の傷跡はまだ消えていないのですが

観光には問題ないという神津島の状況ですが、生活の復旧にはまだまだ時間がかかります。主要インフラは復旧しても、家屋や畑などの個人資産は簡単に元通りとはいかないという声も多く伺ってきました。大きく損壊して営業休止となった商店もあり、訪問日は役場から節電と節水の協力呼びかけが定期的に全島放送されていました。

あちこちで復旧の槌の音が鳴り響いていた神津島。観光客にとってはほぼいつもどおりの快適で平和な島でしたが、節水!って言われてるのに宿の水圧の勢いの良さには驚くしかなかったし、エアコンの効いた部屋でくつろげるとか、普段ならまあ当たり前のように思えることなんですが、それが当たり前に思えるためには目に見えにくい多くの方の努力があってのことなんですよね。

離島にとっては観光も大きな基幹産業。9月いっぱいや10月に入っても海はまだ温かく、抜群の透明度を誇る神津島はダイビングや釣りで賑わう季節。ぜひ遊びに行ってみてください。

のんびりとした時間を過ごせる船旅も伊豆諸島旅行の大きな魅力です。

そういえば台風になりそうなくらい強烈な低気圧がすぐ目の前に来ている暴風下で東京都知事が伊豆諸島を視察されていたようです。島内では吹き荒れる暴風の中でヘリをおろした消防庁パイロットの腕の良さの噂でもちきりでした。

他島の状況

多くの家屋などが損壊した新島や式根島は、9月第2週の連休時は観光客の受け入れすら難しい状況だったようですが、少しずつ復旧してきているようです。

詳しくは新島村役場のWebサイトをご確認ください。

新島村Webサイト

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