ということで。最近、講談師ってヤツが流行ってますよねぇ。名人芸のマネごととは恐れ多いところではごぜぇますが、ちくっと講談師ならぬ講話師風に、伝説のバス釣り師のことを語ってみようと思います。ワタクシ、釣田竹竿之丞と申します。何卒よろしくおねげぇいたします。
林圭一さんて大名人のお話でございます
皆々様、陸王って言う名物企画をご存知ですかい? いやいや、マラソンのドラマのことじゃあ御座いません。ルアーマガジンつう、釣り雑誌の名物企画のコトでございます。簡単に言うと、「ぶらっくばす」ちゅう魚を釣る名人が1対1で釣果を競い合う、真剣勝負! それを船釣りでなく陸から狙うから陸王って言うんでさあ。
もう10年以上の歴史のある企画で、数々の名勝負が繰り広げられて来たワケですが、その中でも印象深い勝負を繰り広げた、とある名人の話をしようと思うわけでぇ御座います。
その名人とは、姓は林。名は圭一。実は数年前(2016年)に多くの人に惜しまれつつも、お亡くなりになった伝説のバス釣り名人その人でございます。
【Profile】
林圭一・はやしけいいち(故人)
日本のバスフィッシングの黎明期にトーナメンターとして活躍したアングラー。多くの釣り人に影響を与え、尊敬されていたまさに名人であった。途中、ケイテックという自身のルアーメーカーを立ち上げ、数々の名作ルアーを生み出したデザイナーでもある。残念ながら2016年に鬼籍に入る。このとき多くのプロアングラーが早すぎる死を悼んだ。しかし、故人のDNAは、現在もケイテックから発売されるルアーたちに引き継がれている。
林サンてお方は、ぶらっくばす釣りのトーナメント黎明期にブイブイ言わせてその緻密で正確無比、論理的な釣りから「教授(プロフェッサー)」なんて異名で恐れられたお人だったそうでさあ。
その実績を残されたあと、トーナメントのシーンからは退き、大手の釣具メーカーから独立されて、ルアーメーカーの“ケイテック”と言う会社を立ち上げられたんです。今も、ルアー釣りを嗜む人に愛されるメーカーとして知られてぇおります。
さて、話を戻しやしょう。時は遡ること8年前、陸王ってのは、ご説明したように対決企画でぇございます。対戦者については、るあまが編集部で実績があったり人気のある釣り人を選ぶシステムなんですが、まず、その釣り人に川村光大郎ちゅう、当時若手の筆頭格とも言える名人がぁ、選ばれやした。
さてさて、強者には強者を。誰をこのコータロー名人に当てるべきかぁ議論されたようですが、その候補に上がって来たのわぁ、その林圭一名人! 競技の場から退いたとは言え、その名刀、錆び付いているとは言わせません。でなけりゃ、ケイテックちゅうメーカーから、あんなに実戦的な名品の数々が生まれて来るわけがぁないでしょう。満場一致で決まった案件、早速オファーと行きやしょう。名伯楽、燻銀の林圭一名人に陸王という名物企画へ参加の打診をすることになったと言うわけでさぁ。
即断即決と言うわけじゃあ、無かったと聞き及んでおりますが、後日、オファーを受けるとの報があり、あの、林圭一名人が戦いの舞台に舞い戻ったのでぇあります。「負けたくないから出ないんだぜ、アイツ」と言われたくなかったというのが勝負師らしぃ林名人のオファーを受けた理由のひとつだったようですがネ。どこぞの誰かに爪のアカでも飲ませたい…おっと口を滑らせると炎上しますなぁ。無かったことにしてくだせぇ。
さて、対戦相手の川村光大郎名人と言えば、2011年から8年経った今でも第一線で活躍する、バス釣り名人。当時も陸釣りのスペシャリストとして名を馳せる超がつく実力者で人気者。しかも対戦する釣り場として選ばれたのは、こともあろうに千葉県は高滝湖。この高滝湖での釣り、実は、川村光大郎にとっちゃあ地元に近く、一日の長があるフィールドとも言えます。
おいおい、てぇと、何かい。俺は当て馬かい? 編集部のヤツら、川村コータローのホームグラウンドとまではいかないものの、勝手知ったる高滝湖での対戦を設定しやがった。人気のある川村コータローに勝ち進んで欲しいっちゅう意図がスケて見えるぜ。
こんな言いようは、林圭一名人、されはしなかったとは思いますが、内心、そう思われても仕方ないアウェイじゃあございませんか。林圭一名人後日談で「恥ずかしくない戦いをしたかった」なんて、大人なコメントを残されちゃあいますが、元、教授。いや鬼とも評されたトーナメンター。
きっと、いや。やっぱり吐き捨てたことでしょう
「編集部のヤツら舐めんなよ、受けたからには、一泡吹かせてやらぁよ」
さぁさぁ、決戦の時は2011年は3月。場所は決定通りの千葉県高滝湖。ワカサギちゅう魚が川に登り始めて、それをバスが狙い始めるちゅうタイミングでさぁ。
高滝湖に明るい川村光太郎相手にどう立ち向かうか。トーナメントで培った歴戦の猛者たる経験を活かし、吟味に吟味を重ねたことでしょう。教授とまで評された林圭一名人のとった作戦は、釣るスポットの絞り込みと、待ちの釣りでございました。
知らない釣り場をうろちょろしたら効率が悪くて仕方ねぇ、ならば、ここぞと考えるスポットで粘りに粘ってぶらっくばすを仕留めよう。幸いワカサギの遡上に合わせて、魚が入れ替わり立ち替わり入ってくる時期。これは林圭一名人らしい、合理的な戦略でございました。
例えるなら、繁盛するレストランの入り口に張り込み、ルアーを仕掛けてぶらっくばすっちゅう“お客”をひとりひとり奪っていくそんな感じでございます。
方や、川村光大郎名人は野生の鹿の如く、釣り場を駆け回り釣果を上げていくスタイルの動の釣り。まさに、静と動の釣りの対決でぇございます。
さぁ、試合が始まりました。林圭一名人は予定通り急ぎ、例のワカサギレストランの入り口が見える川のスポットに陣取ります。そして、ご自身が開発した虎の子ワーム、セクシーインパクト3.8inをそのレストランの入り口に、ジグヘッドリグつう仕掛けでポトリ。
そして、ずりずり。ずりずり。川底にこのセクシーインパクトを這わせる釣りでございます。回収して、また、キャストをしてポトリ。そして、ずりずり。ずりずり。その動作を繰り返します。
地味でしょう? そりゃ地味です。ほぼ同じ場所に立ち。そこから、同じような所作を繰り返すわけですから。
ところが、林圭一名人。その釣りの所作を、物語を紡ぐように軽妙に周りに解説くださったと言うじゃないですか。「いま、枝を越えました。舐めるようにじわじわと」「砂地の変化に差し掛かりましたね。ここもゆーっくりとずる引きます」
一緒にその林圭一名人と回っていた担当記者は、そうやって落とされて引かれるルアーの景色を、まるで水中でワームになって見ているかの如くで、毎投、毎投を楽しめたぁ、と後日談で語っていたんです。
さぁさぁ、一見そんな地味な釣りではございましたが、また一尾、また一尾と名人は、狙いのブラックバスを釣り上げ、釣果を伸ばしていくコトにぃなった! これは勝ちが見えてきたんじゃぁないの? 現場でも担当者はガッツポーズをしたと言うじゃぁありませんか。
とは言え、相手も一筋縄で行く釣り人じゃあございませんヨ。なにせ、あの川村光大郎ですからねぇ。釣果を重ねど、勝ちに繋がるあ実感が無いそんな戦いの末、勝利したのは!?
と、言うことで。この先の結果と、実はその先のとんでもなくドラマチックな決勝戦のお話は文字数の関係でここいらでいっぺん締めさせていただきまして、またの機会にさせていただこうと思いやす。
本話、最後までご笑覧いただき、誠にありがとうごぜぇました。釣田竹竿之丞でございました。