アブ・ガルシアの誇るロッドブランクス製法TAF。すでに登場から3年以上の月日が経っているのですが、いまだに唯一無二の製法としてプロアマ問わず多くのアングラーに愛用されています。ところが、TAFの名前を聞いたことがあっても、その構造や特性に関してはまだまだよくわかっていないという人も多いのではないでしょうか? 今回は改めてTAF製法の構造や特徴をピュア・フィッシング・ジャパンのトモ清水さんに解説していただきました。
【Profile】
トモ清水(とも・しみず) 本名 清水智一 ピュア・フィッシング・ジャパンでロッド開発に長年携わる傍ら、雑誌や動画などのメディアにも多数出演。自らが積極的にフィールドに赴くことで得た感触や経験を製品づくりにフィードバックしている。
Triarchy Force 製法
トモ清水「大きく分けて3つの特徴を持つことからTriarchy Force 製法と名付けています。またその通称であるTAFは製法による恩恵である“頑丈さ”を表現してもいるんです」
それではTAF製法はそもそもどういった点で優れるのでしょうか?
トモ清水「強度UPと軽量化という相反する要素を高次元で実現した、現在考えうる最高クラスの製法です。100%国産カーボンで品質も安定していますよ」
もはやすべてスゴイ、と言いたくなるほど優れているわけですね。
トモ清水「一見するとにわかには信じがたいと思いますが、TAF製法の内容を知ればきっと納得できるはずです!」
TAF製法の特徴1:CPCブランクス
トモ清水「多くの場合、ロッドの製造では紙のような薄い素材を巻き、筒状にしてブランクスとしているのですが、TAF製法ではそのブランクスに使用する素材がそれまでのものと違っているんです」
一般的なブランクス素材というと、カーボンシートですよね。
トモ清水「そうですよね。ですがカーボンシートのみを使っているとは限らないんです。例えばアブ・ガルシアのTAF製法を採用していないロッドでは数%~20%程度、グラス素材が使用されていました」
それはなぜなんですか?
トモ清水「カーボンシートは一方向の繊維が集まったシートでして、ロッドではティップ~バット間の向きに繊維が走るようなっています。こうすることで竿の反発やしなりが生まれるのですが、それだけではブランクスが潰れるような力には弱いんです。そこを補うために、網目状に繊維が絡まったグラスシートを組み合わせていたんです」
なるほど。TAF製法のブランクスではまず、そこが違ってくるわけでですね。
トモ清水「その通りです。TAF製法のブランクスでは、通常のカーボンシートに加えて、真横に繊維が走る別のカーボンシートを組み合わせることで、ブランクスが潰れる様な力に対して強くなっているんです。言わばカーボン100%のブランクスですね。これがTAF製法の柱の一つCPCブランクスなんです」
どういったメリットがあるのでしょうか?
トモ清水「従来使用していたグラス素材はカーボンに比べて重く、それでいて強度的にも劣るものでした。そのため、CPCブランクスではカーボンの軽くて強いという優れた特性を存分に発揮できるんです。また、メインブランクス自体で十分な強度を持たせることができるため、テープや多軸シートによる補強を必要としないのも大きな特徴ですよ」
カーボン素材にはどんなものを使用しているんですか?
トモ清水「ロッドの強度や軽さ、アクションを決める一番大きい要素となるメインパターンには、24tや30tといった低弾性、中弾性のカーボンを使用、バット部には最新素材の東レ社のナノアロイ素材を使用していますよ」
TAF製法の特徴2:DPH構造
トモ清水「次に、CPSブランクスの構造になります。先にも紹介したカーボン100%のカーボンシートですが、強度はあがっているのにその厚みは従来の半分になっているんです。そのため、ティップ部分の様に細くて繊細な部分も縦横の繊維が組み合わさった強いカーボンシートで作ることができるんです」
厚紙だと細い筒を奇麗に巻くのは難しいけど、コピー用紙なら簡単ですもんね。
トモ清水「また、例えば同じ肉厚のブランクスを作りたいとなったとき、半分の薄さのシートであれば、従来の厚みの物よりも多く巻いてブランクスを作ることができますよね」
単純計算で2倍は巻けるということですよね。
トモ清水「そうなんです。そのため、ブランクの強度もグッとあがっています。さらにこのことを活かして、これまでは1枚1種類のカーボンシートからしか作れなかったブランクスも、2枚2種類、3枚3種類と組み合わせの幅が広がるんです!」
例えば、高弾性のカーボンシートと低弾性のカーボンシートを組み合わせた新たな特性を持つブランクスが作れる。というわけですね。これはすごいです!
トモ清水「しかも、それぞれのカーボンシートの巻きはじめと巻き終わりをずらしていくことで、スパインと呼ばれるブランクスの癖ができる部分を分散させることもできるんです。これがTAF製法の2つめの特徴である、DPH構造なんです」
TAF製法の特徴3:OCPD
トモ清水「TAF製法の3つ目はOCPD。これはカーボンシートのカット方法を変えることで、カーボンそのものの強さをより高め、ロッドの特性をより高める手法になります」
どういったカット方法になるんですか?
トモ清水「カーボンシートを筒状にした際に、ティップ~バットの方向に走る繊維ができるだけ平行に揃うようにカットしているんです。これにより、歪みのないまっすぐなブランクスを作ることができ、カーボンの強みを存分に発揮させることができるんです」
一般的には違うんですか?
トモ清水「多くの場合、長方形のカーボンシートからできるだけ多くのブランクスが作れるように端からカットしていく方法がとられています。ですがこれだと、筒状にしたときにカーボン繊維の方向がティップ~バットの方向から著しくずれることがあるんですよ」
トモ清水「また、もう一つ、NSテーパーという特徴がありまして、TAF製法のブランクスにはアクション調整のための多段テーパーを設けていません。これもまた強度アップに貢献しているんです。
TAF製法が引き出した中弾性ブランクスの本気
トモ清水「TAF製法の特性をまとめるとこんな感じです」
CPCブランクス:縦横の繊維を組み合わせた100%カーボンを使用
→グラスと併用するよりも圧倒的に強く軽いブランクスが作れる
DPH構造:同じ肉厚のブランクスでも従来の倍量のカーボンシートを巻きつけ
→複数種類のカーボンシートを組み合わせることでブランクス特性の幅が広い
OCPD:カーボン繊維がブランクスの縦方向と平行になるようにシートをカット
→カーボン素材の持つ強さを無駄なく発揮できる
冒頭にあった、「用途に応じた適切なブランクスが作れる」、「軽い」、「頑丈」というのはよくわかりました。ですが「投げやすい」、「高感度」、「パワフル」というのはどのあたりに理由があるのでしょうか?
トモ清水「それはメインで使用しているブランクス素材が24~30t程度の中弾性カーボンを使用しているからですね」
感度と聞くとやはり高弾性のイメージが強いのですが…
トモ清水「もちろん、ごく単純に言えばそうです。実際、TAF製法のブランクスでも、バット部にはアユ竿に使われるような超々高弾性(55t)の東レ社の最新ナノアロイ素材を使用することで感度も格段にあがっていますからね。ですが、高弾性カーボンをメインで使うにはデメリットも多いんです。反発が強すぎるのでキャスティング時のリリースポイントは狭くなりがちですし、掛けてからのバラシも多い。しかも30tを超えるとカーボンは途端にその強度が落ちるんです」
TAF製法のように低弾性、中弾性ブランクスをメインで使うことでそれらの問題も解決できる?
トモ清水「そうなんです。例えば感度に関して言えば、CPCブランクスは弾性率の極端に低いグラス素材を省くことで感度を高めることができています。投げやすさに関しては曲がりやすい中弾性のほうが優れているのは言うまでもありませんよね。そしてOCPDのおかげでフッキングパワーもロスなく伝わりますし、掛けてからも溜めているだけで魚を寄せてこられるんです」
溜めているだけで魚が寄ってくる⁉
トモ清水「TAF製法のロッドは持った感じではかなりシャキッとした印象を受けると思うのですが、曲げようとすればよく曲がるんです。そして戻ろうとする力も強い。そのため、リールを巻かなくても竿が曲がっていれば、元に戻ろうとする力だけでもかなりのパワーを発揮してくれるんです。それでいて、ジワーっと元に戻ろうとするので、バラしにくくもあります。流れの中でシーバスをかけたときやカバーの中で魚を掛けた際にはその感覚をより味わえると思いますよ」
なるほど。それが中弾性カーボンの強みなんですね。
トモ清水「もちろん、TAF製法だからこそ実現しているんですけどね(笑)」
図面や構造の開設は動画もわかりやすいです!
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