東京湾のハゼ釣りといえば、初夏から秋の風物詩ともいえるお手軽な海釣りの代表格。運河や公園、河口や干潟など、都会からも近い場所でたくさん釣れて、お子さんでも簡単に挑戦できる人気の釣りです。そんなハゼですが、埋め立てが進む東京湾では棲息地が減少し、個体数も減ってきています。そこで立ち上がったのが誰でも参加できる「江戸前ハゼ復活プロジェクト」という官民連携の生態調査。いったいどんなプロジェクトなのか、ハゼの釣り方とともに、参加方法をご紹介します。
東京湾のマハゼはどこに棲んでいる?
昔は20cmクラスの大きなハゼがたくさんいたそうな
埋め立てが進んだ今の東京湾からは想像しにくいですが、かつての東京湾沿岸は広大な干潟が延々と広がる、浅場の海辺に生息する生き物たちの楽園のような海だったそうです。
現在よく見られるハゼは「デキハゼ」と呼ばれる最大でも全長15cmほどの1歳魚が大半ですが、1950年代では「ヒネハゼ」「ケタハゼ」などと呼ばれる20cm以上にもなる2歳魚が半数以上はいたというから驚きです。中には2歳魚をも超え(?)30cmにも届こうという「尺ハゼ」なんていう化け物みたいなハゼも……。
これはかつての東京湾がハゼの生息域として適していて、水質も良く、棲み処やエサ場、産卵場所がたくさんあったからといった理由が考えられます。
とはいえ環境が大きく変化した現在でもハゼはまだまだ多く棲んでいて、東京湾の生態系や食物連鎖を考えるうえで重要な役割を果たしている生き物といえるでしょう。
ハゼの全長を測ることが東京湾の環境改善の第1歩になる理由
現在、官民をあげて海の環境を改善する活動がいくつも進められていますが、江戸前ハゼ復活プロジェクト「マハゼの棲み処調査」もその取り組みのひとつ。
ハゼ釣りをしたことがある方ならピンとくるかと思いますが、ハゼは釣れる魚のサイズがまちまちです。これはハゼの産卵期間が数ヶ月単位で幅広く、東京湾内においても複数の棲息パターンがあると推定されるためです。
そこで、釣り人の皆さんに協力していただき、釣れたハゼの「時期と場所と全長」のデータを集めることで、埋め立てが進んだ東京湾で、ハゼがどこに棲んでいて、どこで産卵しているのかという生活史の全体像を明らかにし、そこから東京湾の環境や生態系を探るのがこのプロジェクトの概要になります。
最終的には、このデータなどを用いて現実的な環境改善のアプローチにつなげていくことになる、という寸法です。
釣ったハゼのサイズ報告方法
「マハゼの棲み処調査」の参加方法ですが、東京湾の任意の場所でマハゼを釣ってサイズを計測、事務局まで送るだけです。釣り場は観音崎から富津岬までのいわゆる「東京湾内湾」であればどこでもOK。船釣りやボート釣りで狙う沖合も対象です。
2020年シーズンの受付は「上期:7月1日~9月30日」と「下期:10月1日~12月30日」。ハゼ釣りが楽しめるメインシーズンいっぱいまで受け付けています。
データを送る方法はFAXでも可能ですが、Webサイトの専用フォームからも送信できるのでそちらが便利でしょう。
ハゼのデータを送った方には、全員にノベルティとして可愛らしいハゼがプリントされた全長計測シールがもらえるとのこと。耐水シールなのでかなり実用的な逸品です。
なお、ハゼ釣りに通じた方の中には、このプロジェクトの集計データが実はかなり釣りに役に立つのではないかとお考えになるのではないかと思います。2012年から始まっている当プロジェクトのデータは現在運用上の都合などで限定的な公開になっていますが、将来的に釣り人にも有益なかたちで公開したい考えもあるとのこと。こちらも楽しみです。
東京湾のハゼの釣り方
それでは東京湾のハゼ釣りに遊びに行くうえで必要な基本情報をご紹介していきます。
7月頃から10月頃までの季節は岸から釣りやすいです
例年7月頃から、前季の冬に生まれたハゼが釣りどきを迎えます。
初夏から夏にかけてハゼは岸近くの浅場で釣れるため仕掛けを遠くに投げる必要がなく、釣り場にもよりますがリール竿ではなくシンプルなノベ竿の方が釣りやすいです。この時期のハゼはごく簡単に釣れますので、仕掛けや釣り竿などの道具はお好みのもので構いません。
全長:3M
自重:58g
32.1×7.2×4.5cm
ウキを使った「ウキ釣り」仕掛けは、魚がエサをくわえるアタリでウキがぴょこぴょこと動いて視覚的にわかりやすい利点があります。
オモリとハリだけをつかって海底を小突いて誘う「ミャク釣り」仕掛けは、底棲のハゼに適しています。アタリは釣り竿に直接反応が出るので手応えが楽しいですが、仕掛けが引っかかりやすいです。
釣りに慣れていないうちは、ハリが1本の仕掛けを使うと絡まったり引っかかったりしにくいのでおすすめです。
この時期は小型のハゼが主体となるため、骨ごとサクサク食べられる唐揚げのネタに最適です。
11月頃~12月中頃は深場釣りが主体になります
秋が深まってくるとハゼも大きく成長し、食べごたえのあるサイズになります。それと同時に少しずつ深場へ移動するようになるため岸からは釣りにくく、投釣りやボート釣りが主体になります。仕掛けはリール竿を使った「ミャク釣り」や、低水温で活性の下がったハゼが食いつくのをじっと待つのに適した「天ビン仕掛け」を用います。釣り竿は軽量で感度の良いものを使うと、かなり釣りやすくなります。
深場に「落ちて」いくハゼは「オチハゼ」とも呼ばれ脂も乗ってくるため、大型サイズは定番の天ぷらだけでなくお刺し身も絶品です。近年ではほとんど漁の対象にもなっていないこともあって、この時期のハゼは高級食材として知られ、晩秋になると美味しいハゼを狙うハゼ釣りハンターで湾奥のボート店が賑わいます。
ハゼ釣りの持ち物
夏場に限らず日差しを遮ることが難しいので、熱中症対策が肝心です。水分ミネラル補給、手洗い用に水も多めに持参すると何かと便利。水に濡らしたタオルは体温を下げるのに効果的です。
岸釣りでは開けた場所で釣ることが多いため、折りたたみの椅子があると休憩ができてかなり楽になります。
また、季節を問わず、釣れたハゼの鮮度を落とさないためにクーラーボックスや保冷バッグは用意しましょう。海水と氷を入れておけば魚を急速に冷やせるため、ハゼを新鮮なまま保管できます。
岸釣りであれば、魚の観察用水槽があるとお子さんに喜ばれます。いや、大人でも楽しいです(笑)。ハゼ釣りはマハゼ以外にも大型になるウロハゼやチチブといった小魚、クロダイやカレイ、スズキなどの幼魚など様々な魚が釣れるため、ちょっとした野外水族館気分が楽しめます。
なお、ハゼの全長を計測をするにはメジャーシールを貼ったトレイや簡易水槽がおすすめです。魚が暴れにくく弱らせにくい利点があり、パッと見やすいので計測が簡単です。
ハゼ釣りのエサ
ハゼ釣りで一番気になるのはエサの問題ではないかと思います(笑)。
最も釣りやすく釣り具店などで手に入りやすいが「アオイソメ」です。ハゼの大好物であるだけでなく、エサがハリから外れにくいため仕掛けに付け直す回数が減り、たいへん釣りやすいエサといえます。ただし慣れない人にはさわり辛いのが難点。
なおエサは大ぶりにつけると魚へのアピールが強くなりますが、食べきれないとハリにかけにくくなります。小さめにつけるとアピールは弱いですが、ハリ掛かりはしやすくなります。夏場や活性が高いときは、イソメであればハリからエサが1cm伸びている程度でじゅうぶん釣れます。
ハゼは様々な食材にも強い興味を示すので、ホタテの貝柱や魚肉ソーセージなどもお手軽なエサとして人気があります。ただし、いずれもエサが外れやすく、扱いは少し難しいです。
最近では「クランクベイト」などのルアーを使った「ハゼクランク」など、新しいハゼ釣りも開拓されてきています。エサを触れずに済むこととゲーム性が非常に楽しい釣りですが、ルアーをアクションさせるために適した浅場や広いエリアが必要だったり、場所を選ぶ難点があります。
東京湾の主なハゼ釣り場
江戸川放水路などの河口部
江戸川放水路は江戸川の河口に作られた洪水対策用の放水路ですが、大雨などの極端な増水時以外は水門が閉じられているため、事実上の広大な干潟が広がる穏やかな海水湖のような人工の入り江と化している放水路で、マハゼの一大棲息地になっています。東京湾ではほぼ自然海岸といって差し支えない貴重なエリアで、マハゼ以外にもカニや鳥など様々な生き物が見られ、自然観察にも適しています。
大変広いので混雑することも少なく安全に岸釣りが楽しめますし、波も立ちにくいので湾奥で唯一ボート釣りが盛んな釣り場です。エリアの特性的にハゼクランクにも最適です。
ボート釣りは道具のレンタルがあったり仕掛けやエサの販売など融通がききやすいことと、ハゼの群れを探しやすいという大きな利点があります。ボート屋さんの中には有料で桟橋から釣りができるところもあり、足場がよく疲れたら日陰で休憩もできたりするので快適です。
多摩川、小櫃川の河口部にも似たような干潟環境があります。
東京湾で深場を狙う冬場のオチハゼ釣りは、江戸川放水路河口の行徳港深場を狙うボート釣りが有名です。
内陸の運河や親水公園
東京湾沿岸一帯にある運河や海に近い親水公園も、ほとんどがハゼの釣り場に適しています。
安全な柵が設置されていたり足場がよく、アクセスが良い場所が多いこと、公園であれば水場やトイレも利用しやすく、コンビニなどが近かったりするなどの利点があります。
よく知られる釣り可能なポイントでいえば、東京都なら江東区や江戸川区、品川区や大田区の運河一帯や親水公園。小名木川や横十間川、新左近川、旧中川、大井ふ頭中央海浜公園などが有名。
千葉県では市原市や袖ケ浦市など千葉県湾奥部の運河や養老川などの河口。
神奈川県なら鶴見川、横浜赤レンガ倉庫裏の万国橋周辺などの運河や、大岡川、堀割川。横須賀市の運河や平作川河口があります。
気をつけていただきたいのは、いずれの場所においても「橋の上からの釣りは禁止」であることと、船の通行に邪魔となるような場所に仕掛けを投げるのは控えましょう。
また、釣り人以外の人も多いため、仕掛けを投げる際には頭上に振りかぶる「オーバーハンドキャスト」が禁止という場所もあり、安全性の高い「アンダーハンドキャスト」で投げるなど周囲の人に注意が必要です。
お手軽で風情のあるハゼの船釣り
ハゼ釣りでもっともお手軽感があるのは船釣りかもしれません。まず船釣りは船長が「釣れる釣り場」に案内してくれるため高い打率で釣果が期待できることと、道具はほとんどレンタルなどで揃えられるなどの利便性が高いためです。
また屋形船でハゼ釣り&天ぷらをセットで楽しめる船宿もあり、岸釣りやボート釣りよりも値段は張りますが、優雅で贅沢な時間を過ごすこともできます。
ハゼ専門釣り船の主な出船地は深川や鶴見川(2020年は出船するかどうか未定)。屋形船や天ぷら船は隅田川や荒川、新中川、旧江戸川、品川、勝島運河、川崎などから出船しています。こちらは貸し切りの仕立船が前提になるため、グループで遊びやすい特徴があります。
ハゼ釣りで注意していただきたいこと
このプロジェクトの目的自体もそうなのですが、釣り場の環境を守るということも大切です。近年、釣り人の残すゴミや釣り具が問題となって自然環境に負担をかけているだけでなく、日本全国で釣りが禁止となる場所が増えてきています。
ハゼ釣りは都会でも楽しめる手軽な反面、釣り場のほとんどは釣り以外の目的で遊びに来たりする人と同じ空間を共有しています。周囲の安全にはじゅうぶんに配慮をしてください。そして水辺で遊ぶことは常に何が起きるかわかりにくいリスクがあります。自身やご家族お友達とも安全で楽しく、快適な釣りができるようご準備ください。
ハゼを美味しく食べるためのちょっとした裏技
裏技……というほど大げさなことでもないのですが、釣った魚のウロコ取りは「かなり面倒」と感じる方も多いかと思います。
釣ったハゼは、市販の「水切りネット」にまとめて入れて塩をまぶして揉むと簡単にウロコを落とすことができ、大幅な時短が可能です。
ハゼは驚くほど美味しい魚ですので、ぜひ味わってみることにもチャレンジしてみてください!
ハゼ釣りの記事はこちらもおすすめです
この企画ほかを推進している団体などの情報はこちらです
『マハゼの棲み処調査』を支えている各団体などの情報をご紹介します。
■東京水産振興会
東京の豊かな水産業を発展させるための活動に取り組み、『マハゼの棲み処調査』も推進している「東京水産振興会」のサイトです。
■国土技術政策総合研究所海洋環境・危機管理研究室
水辺の自然環境再生の施策を実現するために技術支援や研究活動に取り組んでいる「海洋環境・危機管理研究室」のサイトです。
■海辺つくり研究会
現代日本の海辺に豊かな自然環境を育み地域を振興する、さまざまな課題に挑戦しているNPO法人です。DASH海岸に出演している木村先生も当会の理事をされています。
■東京湾再生官民連携フォーラムモニタリング推進PT
「東京湾大感謝祭」の開催など、東京湾の環境再生や価値の創出に取り組むさまざまな人々が活動しているフォーラムです。