屋形船とはすなわち移動式の大宴会場。赤々と輝く提灯を隅田川の水面に映し、東京の夜を突き進むその姿は実に美しく、ステキに妖しい。そして東京下町で古来より盛んな「江戸前」ハゼ釣り。このふたつを掛け合わせたら…あまりにも風流すぎる! しかも釣った魚はその場で揚げてくれるのだ! どうしても乗りたい! 乏しい人脈を駆使して人数集めに奔走、一艘を貸し切りにして、なんとか出船です。
ハゼ釣り×屋形船=最高
以前から屋形船に興味がありまして、夜に浮かぶあの船の中では、自分の知らない人々が自分の知らない話題で何やらと楽しそうに盛り上がっている。
そういう様子をたとえば、浅草の吾妻橋の上などからぽつんとひとり眺め下ろし、何か何とも言えない感覚を味わったりしていると、ますますこの屋形船という概念に対する憧憬は深まってゆくのであります。
さらにハゼ釣り。手軽でカンタン、釣りをやったことがない人でも楽しめるし、ろくすっぽ釣りのできない編集者(わたしです)でも、なんとか手ほどきくらいはできる。
そして「屋形船でのハゼ釣り」がスバラシイのは、乗船時間が非常に長いこと。通常の宴会や観光地周遊コースであれば1~2時間で終わってしまうところが、なんと6時間。
その間釣りをしてもいいし、座敷で休んでいてもいいし、暴飲と暴食を繰り返してもいいし、やりたい放題。「ひろびろとしたレンタルスペースを借りる/しかも魚も釣れる」くらいの意気込みで行くとめちゃんこに楽しい。楽しかったです。カラオケもある。
今回お世話になったのは浅草橋「野田屋」さん
いろいろと当たってみると、浅草橋の「野田屋」さんでハゼ釣り船として屋形船を出すサービスを実施しているとのこと。
しかも釣ったハゼはその場で天ぷらに、お昼ごはんとして食べられるという最高のシステム。
加えて食べ物飲み物の持ち込み可、船内には冷蔵庫&氷詰めのクーラーボックスも備え付けられており、グラスなどの食器類もバッチリ。これは行くっきゃないのだぜ。
他にも「あみ幸」さんや「深川富士見」さんなど、屋形船でハゼ釣りをさせてくれる船宿さんはいくつかあります。問い合わせてみてね!
ハゼ釣り屋形船の基本的な流れ
【1】数週間前に船宿さんに日程とおおまかな人数を伝え、予約。
【2】前日に確認の電話。人数が増減する場合はしっかり伝えましょう。
【3】当日の出船時間は午前8~10時の間から選択可能。乗船時間は5~6時間ほど。
【4】ポイントへ移動。季節により場所は違うそうですが、今回はお台場のほうでした。
【5】座敷の上、甲板の手すりを展開してそこからハゼ釣り。タックルも料金コミコミ。
【6】お昼には釣ったハゼの天ぷらほか、海老天やイカ天なども。
【7】食後は引き続き釣りをするか、遊覧ツアーかを選べます。お酒が入るとね…。
【8】浅草橋に帰着。
出船時間はだいたい朝8~10時、今回は9時15分ということでお願いしました。参加者には9時と伝えてあります。100パーセント遅刻者が出ることを見越してのことです。見越してよかった。
また「食べ物、飲み物の持ち込み可能」ということですが、野田屋さんのすぐ近くに24時間営業の「肉のハナマサ」があるので非常に便利です。悔いの無いよう、山ほど買い込みましょう。
釣りに関して用意しておくものは何ひとつありません。レンタルの竿やエサ代は料金に含まれているので完全に手ぶらでOK。でも、せっかくなら以前購入した「月下美人」を持っていって「格」の違いを見せつければよかったかな…。
ただ、午後も釣りをするのであればその分はお持ち帰りorリリースということになります。家でもハゼを楽しみたい方は簡易のクーラーボックスやアルミのクーラーバッグなんかを持ってくるとよいかもしれません。
自由度は非常に高し。出船早々酒盛りを始めるボヘミアンな人々
船が動き出すとみなさまわらわらと窓辺に群がります。
「気がねは無用、乾杯も不要。諸君、自由自在に振る舞い給え!」
とだけ伝えてあるので出船直後に酒盛りが始まりました。まだ9時台です。
残念ながら当日は行楽日和とはいかない曇り模様。しかしあまり日が出すぎても暑苦しい盛りだったので、むしろ涼風の心地よさが思い出されます。負け惜しみじゃないんだぜ。
ポイント到着。場所は「有明テニスの森」付近
すでにほろ酔い気分の酔客を乗せ、10時前後に屋形船がつけたのは有明の高架下。雨が降っても安心な船長の心遣いです。奥に見えるは東京オリンピックの自転車競技BMXの会場。
ハゼは季節が深まるにつれて大型化していく魚。同時に徐々に海の深いところへと居所を移していく生き物です。この日はまだ秋口ころだったのでサイズも小さめ、船から岸に向かって釣るような形でした。
そしてサイズが小さいということはハゼの口も小さいということ。エサのアオイソメはできるかぎり小さくちぎって使うのがコツになります。ぜいたくに大盤振る舞いしても釣れないのです。
続々釣り始める初心者たち。ハゼはやさし。
以上のような講釈を垂れながら右往左往…する間もなく、デキるやつらはとっとと釣果を出し始める。おめでとうございます。
ハゼは基本的に底生魚。仕掛けは水底まで落としましょう。オモリの重みがなくなって、釣り糸(ライン)が弛んでいれば底に着いている証拠です。
あとは掛かるのを待つだけ。そこにハゼはいるはずです。竿をゆ~~~~っくり動かして底をズルズル引いてくるのも誘いになります。
根がかりも結構多いですが、その分だけよく釣れます。どうにもならなくても優しい船長さんや優しい僕が何とかするので大丈夫。
外道・セイゴあらわる
…と、自分の釣りにかまけているとなにやら甲板が騒がしい。ハゼでない魚が釣れたとか。
カメラを抱えて急行すると、この流線型のボディは「セイゴ」。スズキの幼魚です。スズキといえば当サイト的には「シーバス」、ルアーゲームの対象魚として圧倒的な人気を誇るおサカナです。
結果的にバケツ2杯ぶんの大漁でありました。
そうこうしているうちに昼過ぎに。終わってみれば危なげなくそれぞれ1尾以上はゲット。それではおまちかねの江戸前ハゼ・天ぷら祭り、開催です。
座敷の卓に着いて待っていると、揚がり次第調理場から届けてくれます。すなわち揚がりたてを数十秒以内に食べられる。はい言わずもがなの最高。
そしてハゼ以外にもエビやキス、穴子なんかも食べさせてもらえます。百万が一まっったくハゼが釣れなくても大丈夫。そんなことはほぼないけどね。
昼食会の後は周遊コースへ…
食後にも釣りは続けられるのですが、今回は周遊コースをめぐりながらお酒…もとい景色を楽しむことに。
そう、我々が乗り込んだのは屋形船。周辺はみどころでいっぱいなのです。浅草、お台場、スカイツリーetc…。
あえて花より団子と言うのであれば持ち込みの茶菓子でもむさぼり尽くせばよいですし、座布団を丸めて枕にしても怒られません。貸し切りの屋形船だからこそできる快楽。苦労してみんなを招集した甲斐がありました。
結論:乗ってよかった屋形船。やってよかったハゼ釣り。
私事ですが無念なことに20台も後半戦に差し掛かり、悪友旧友といえど次第に疎遠になりかねないお年頃。時勢もそれを後押しする2020年です。
たとえそれぞれと顔を合わせることはあっても、学生時代のようになかなか大勢では集まりにくい。予定の調整も面倒だしね。でも、その面倒を押して企画してよかったなあと。みんな楽しそうにしていたし。
人は疎遠になりたいからなるのではなくて、キッカケがないから疎遠になってしまうものらしい。これが青年の危機か。それなら俺がキッカケになってやろう! 企画構成のメンドクササという十字架を背負い、青年期の原罪は俺が贖ってやろう!
…というのが今回のテーマでもあったのです。「屋形船でハゼ釣り」という激エモ体験、ぜひみなさまも、どうぞ。