魚をしこたま美味しく食べるひとつの手段として大注目されているのが、宮崎県の魚仕立て師「津本光弘」さんにより体系化された究極の血抜き・津本式という技法。研究に研究を重ねて高められ、なお進化を続けているこの技術の最新版をご紹介します。本にするぐらい詳しく書いちゃったので、もっと簡単な解説でいい!って人は過去記事を読んでね!
津本式ってそもそもなんなんだ! ってお話も過去記事を御覧くださいませ!
最新アイテム「血合い取りリムーバー」を使用した津本式!
津本式は、実は道具無しでも実践できるお手軽な方法ですが、そもそも津本さんは魚屋さん。仕事として魚を仕立てているわけで、最大限に仕事の効率化を図るために様々な器具を使います。ちょっくら家庭でやってみるか。と仕事レベルでやってみるか。では、使うアイテムも変わってきます。
今回は、津本さんご自身が仕事の効率化を更に図るために開発された最新アイテムを使った「究極の血抜き」をご紹介。自身のレベルに併せて参考にしてみてください。過去記事には道具をなるべく使わない方法なども紹介しています。
スーパーのサンマやアジを100円均一の丸型洗浄ボトルだけで3倍は美味しくする、津本式簡易版! – ルアマガ+(プラス)|内外出版社
ルアマガプラスでも、注目中の魚の仕立て革命、「究極の血抜き・津本式」。道具がないと試せない複雑なものだと思ってない? 実は100円均一で販売されてる洗…
手順その1.脳締め 本編手順解説魚はアジだけど脳締めはマダイで解説!
なぜ、脳締めをするの?
脳締めは、魚の生体活動の根源を絶つ作業です。すでに死んでいる魚には敢えてやる必要はありませんが、頭部を穿つことで後ほど神経組織を取り除くことができます。生きている魚というのは、生体エネルギーとして知られるATPを消費しながら活動しています。
水中に生活している間は、そのATPを回復・循環する手段があるのですが、釣り上げたり、陸に揚げた時点でそのエネルギーは消費されていく一方です。このエネルギーは後にイノシン酸と呼ばれる旨味に変貌しますので、なるべく残しておきたいのです。
なので、釣り上げたり獲った後はそのエネルギーを消費させないのがキモになります。氷締めや、心臓のポンプ機能による血抜きを推奨しないのは、エネルギーの消費量に差があるからなんですね。当然、即殺するほうが旨味の元となるATPがリッチに残るんです。※活け越しは正しく運用するとATPが回復します。
どうやって、脳締めをするの?
エラ蓋の線と、エラ蓋の内側にある線を頭で交差させたあたりが脳にあたります。どの魚もほぼほぼ共通しています。そこにナイフの先を突き刺して軽くひねるか、回すかしましょう。これで脳が破壊されます。写真のような角度でナイフを刺すことで効率よく破壊できます。
手順2.エラ膜を切る
なぜエラ膜を切るの?
ということで、手順解説はアジで行います。写真のように背側を手前にしてエラにこのようにナイフを入れるわけですが、これは何をしているかというと血抜きのための水の注入口を作っております。注入口を作るだけでなく、水は魚の全身を血管を伝って巡っていただく必要があるので、魚の背骨(背骨腹側)に沿って配置されている動脈と、腎臓の突端をカットしております。このカットした部分から水を巡らせ圧迫していくわけです。
どのようにエラ膜を切るの?
上でも触れましたが、エラを写真のようにせぐりあげ、付け根の部分を露出させます。それってどの部分だよ!と突っ込まれそうですので大きなブリの写真で補完します(下記写真参照)。この部分(穴が空いてますよね!ナイフを入れた穴です!)に刃を上に向け(写真の位置だと逆刃)、魚の背骨の下側を通る血管と腎臓をなで斬りします。ゴリゴリやらなくても、スパッとやれば切れます。これで下準備ができました。
手順3.尾を切る
なぜ、尾を切るの?
後ほどの神経抜き(締め)、血抜きにつなげるためです。また、全身に水を圧迫注入して精度の高い血抜きをするための水の抜け道の確保にもなっています。原理原則を理解されている方は、場合によりこの作業を行わない人もいますが、基本的には必須手順として覚えておきましょう!
尾の切り方は?
家庭ではさほど気にする必要もありませんが、料亭などでは頭を左に向けてお魚を出すことが多く、その場合に尾が切断されている(切断面が見える)と、美しくないという伝統があったりします。そこで、津本さんは魚仕立て師として、見せる方向に見える傷を残さないように、頭を左側に向けた方向で(魚の右側面)尾を薄皮1枚残して切断します。
切断する位置は、後ほど行う神経締めのための神経の穴、動脈の穴にノズルが送り込める良い塩梅で写真のようにカットします。あまり頭側で切断すると可食部が減りますし、尾側で切断すると作業がしにくくなります。
手順3.ノズルで神経抜き(神経締め)
はい、このあたりから新しい器具を絡めたお話になります。今までの器具(ノズル)の代用でもありますので、含めて解説します。因みにですが、ベストではありませんが、この神経抜きとこの後の尾からのノズル血抜きを省くこともあります(魚のサイズなどによっては省く(特に小さい魚の場合))
なぜ、神経抜き(締め)をするの?
あれ? 脳締めと神経締めって別物なの? はい。別物です。脳締めは魚の命を奪う締め方。神経締めは生体活動を完全停止する締め方です。先程、生体エネルギーであり旨味の元であるATPを脳締めすることでリッチに魚に残すことが大事だと説明しました。例えるなら、閉めないと流れ出る旨味の蛇口を閉める作業が「脳締め」です。で、神経絞めは、その蛇口をよりしっかり閉める作業だと思ってください。
(なので、脳締め→神経締めの手順で処理。これは不可逆です)
魚の場合、脳締めだけだと、ポタポタと水(旨味)が流れてしまうので、きゅっとしっかり蛇口を閉めて、そのポタポタさえシャットダウンしようという考え方です。
もう少し理屈っぽく解説すると、脳を破壊しても、各種に伸びる神経組織はすぐには死にません。神経組織はやがて死に、ATPを消費しなくなりますが、その完全停止までにラグがあるんですね。なので、神経組織もしっかり破壊してしまって、さっさとATPの利用を止めてしまおう。そうすることで、ちょっとの旨味も逃さない!というお話です。
総合すると、活け締め(生きている魚を処理する場合)する際にやっておきたい手順です。でも、死んでいてもやっておきたい理由もあります。神経組織は、津本式処理の後、熟成を行う場合腐敗要素の要因になるのでなるべく除去しておきたいんですね。
どうやって神経抜き(締め)をするの?
ここで、津本式の代名詞とも言えるノズルが登場します。専用型が開発される前は、エアダスターなどで代用されていたノズルです。現在は専用のノズルが開発されていますが、津本さんいわく、試してみるならエアダスターでまずはやってみて!とのこと。ぶっちゃけ、専用のはプロ用だから!との話ですが、ハマると専用が欲しくなります。
津本式の道具がたけぇええ!!と言う人いますが。いや、プロじゃないならエアダスターで試してみたらとホント思っちゃいます。道具無しで試せるのが津本式の良さですよ。
最新型は今回の最新型津本式のコア器具となる「血合い取りリムーバー」のネジ穴に装着する、横着な専用ノズルが開発されています。「新しい奴はパッキン入れるとコストかかりすぎるから、入れてないせいで水が漏れるというか飛び散る(笑)。僕の仕事上のスピードと効率を考えて作った僕仕様なんで、コレでなくてもいいよ」
とのことで、従来型を持っていて、かつ100本処理を毎日余儀なくされるような方でなければ従来型でも大丈夫ですよ(でも、血合い取りリムーバーの利便性を知ると欲しくはなりますが)。
実は、神経締めはこのノズルの水の噴射で処理しなければいけないわけではありません。この後、動脈のノズル血抜きや、血合い取りリムーバーを使って、メインの作業の血抜きを行う流れなので(ホースでの行う、従来の究極の血抜きも同様ですが)、なるべく別の器具に持ち替えたくないという利便性の追求でもあります。なので、津本さんも針金を使って神経締めをされることがあります。
手順.4 動脈ノズル血抜き
なぜ、動脈ノズル血抜きをするの?
端的に言うと、血抜き精度を上げるためです。津本式・究極の血抜きの本丸は、実はこの先の作業となるホース血抜き(本記事では血合い取りリムーバーで解説しますが)です。ホース血抜きだけで、かなりの精度の血抜きが行えることもあり、場合によっては省くこともあります。
津本式の血抜き原理の根源は、血管に水をホースなどにより灌流圧迫させることで全身の血を抜くことで、可能な限り隅々にその効果を及ぼす必要があります。
エラ膜を切ることで露出させた動脈と腎臓部のいち方向からの水の灌流圧迫だけでも、長期熟成に耐えうるレベルの血抜きを行うことが可能ですが、そこはプロ。大きな魚や長い魚の場合は表現が正しいかはともかくですが魚の下半身側(尾側)の血抜きに、やや不安が残ります。そこで、尾側からのノズルによる灌流圧迫により補完するんですね。
どうやって、動脈ノズル血抜きをするの?
神経穴とは逆の背骨を挟んで下側に露出している動脈穴にノズルの先端を添えます(差し込みます)。そして、魚の身が少し貼るぐらいまで水を注入していきます。風船を膨らますような要領で、細かくボタン操作しながら、入れていくと身割れなどの失敗に繋がりにくくなります。
しっかり動脈に入っていると写真のように先に開けたエラの穴から血が漏れ始めます。そうなれば大成功ですが、それよりも大事なのは水の圧入により尾側の身が張ることです。
手順5.究極の血抜き、血合い取りリムーバーバージョン!
動脈ノズル処理が終わったら、津本式の本丸とも言える「究極の血抜き」に入ります。場合によってはエラ膜切り→尾切り→究極の血抜き。この手順で簡略化する人もいます(ベストではありませんよ。でも重要なのはココです)。
なぜ究極の血抜きをするの?
この手順で「血抜き」するからです。なにせ一番効率よく全身の血管に水を圧迫灌流させやすい部分を先の作業で作っているので….。これをやらねば血抜きが成立しません!というぐらい重要です。
先の手順でエラに穴を開けて、背骨の下に通る血管を切り、なおかつ腎臓の突端を切りました。ここに水を圧迫注入すると全身を水がぐるりと周り、血を洗い流し、圧しだします。究極の血抜きは流水で血を抜き出すのではなく、水を圧迫注入することで、最後には血を絞り出すというのが理屈的には正確です。もちろん流水により除去される血を多いですが…。
津本式は水っぽくなる? 血管に水が入ってるだけなのに、なんで水っぽくなるのさ。仮に入れる部分をミスって身側に漏れたとしても適切な処理をすれば水っぽくなんてなりません。水圧で身割れした? それ、単純に失敗してます…..。正しくやろう津本式!
どうやって究極の血抜きをするの?
理屈的には水圧がもれないように、先に開けたエラ膜の穴に水を圧入することで成立します。血合い取りリムーバーは先端が細めですので、しっかりとエラ膜の穴にノズルを差し込み、手で水がもれないように覆います。
リムーバーの場合、ホースのよりも瞬間的な水圧が高いため、ホースを当てて行う血抜きよりもやや繊細さが求められます。気にせずボタンを押しっぱなしだと、鮮度の低い魚だと内蔵破裂しちゃって大騒ぎになるかもしれません。
魚のサイズにもよりますが、写真のアジサイズの場合は、ボタンを細かく連射しながら水圧を調整して、魚の身が破裂しないように津本さんは調整されていました。切れた尾から水が出れば大成功。でもそれが重要ではありません。水の圧入により皮目や全体が膨らむことが大事です。
血管に行き渡った水が、魚の身の締りなどによって押し出されたときに血抜きが成立します。今回の記事では最後まで解説しませんが、処理した魚を頭を下に立て掛け処理するのは、その身の圧力と重力を利用して行き巡った水を抜いているのであります。
立て掛けは、究極の血抜きくらい大事な作業のひとつで、いわゆる「津本式は水っぽくなるからダメでぇい!」とおっしゃるアンチの皆様のほとんどはこの理屈を理解なさらず、大切な処理や圧入の塩梅を理解せず失敗しているにすぎません。津本式はどなたでも試せる血抜きですが、理解してないと機能しません。なんでもそうですが…..。
手順6.あとは、エラと内臓を処理して、血合い取りリムーバーの本来の用途!
あとはエラの切除、内蔵の処理をした後、前述した水抜きのための立て掛け作業。そして、保存のための処理や、血合いをしっかり取り除けばを行えば処理の終了です。保存や熟成を意識しないのであれば、立て掛けをした後に調理をしても良いでしょう。※解説書、YouTube、過去記事を参照してください。
せっかく脳締めや神経締めまでやってATPをリッチに保持したのであれば、その後にATPが変化してイノシン酸という旨味成分に変わりますので、それをうまく活かせるタイミングでまずは食べてみると良いでしょう。このイノシン酸というのは魚の死後、半日から1日程度で数値的にはピークを迎えて減少していきますが、津本式では、その減少のスピードを抑えることができることがわかっています。
魚の熟成とはなにか?
まず、ここを定義しなければなりません。先に、正しい熟成魚の定義を。少々謎の言葉が飛び交いますがご容赦くださいませ。
魚の熟成とは、…
魚を寝かせると肉質の変化などで、そのイノシン酸の旨味を最大限に活かすタイミングがあったりするので、そのドンピシャを見つけ出して、美味しくいただくことができますし、津本式の場合はその先のネクストステージ、本当の熟成による第二の旨味成分を味わう機会も比較的簡単に得ることができます。
第二の旨味成分「遊離アミノ酸類」と「イノシン酸」の共演とやらを楽しみたい、その技術を手に入れたいというグルメなお客様は、小社発刊の津本式解説書第1弾を御覧ください。おかげさまで重版5刷目(12月1日)! より詳しい技術解説がなされております。
そして、さらなる扉を開きたい方は、つい先日発売されました津本式解説書第2弾をご覧ください。新しい食文化の扉がまっておりますのでぜひ。あ、こちらもそろそろ重版。初版本はAmazonも残り少なくなってきました。全国書店でも配本されてますので、街の本屋さんで買うという選択肢、素敵だと思います(本屋愛)。