日本料理の主役を担うことも多い魚たちですが、昨今、魚そのものが減っていたり、魚を自宅で捌いて食べるという文化そのものが失われつつあります。さて、その魚を捌くための道具である包丁。ものすごく多様で機能的であることをご存知でしょうか。ある人は言いました。『魚の種類の数だけ包丁の種類があっても良い』。ということで、ルアマガプラスでは、世界に誇る日本の包丁文化にいまいちど焦点をあてつつ、そのお話をしていこうと思います。第1回目は、『魚を捌きたい、最初に購入したい包丁って?』について!
連載:世界に誇る日本の包丁文化を知ろう【協力:徳蔵刃物】
包丁の基本を知り、最初の包丁を決めていく
今回の連載にあたり、その知識と知見を提供してくださったのは、東京は浅草・合羽橋に店を構える包丁専門店『徳蔵刃物』の店長、後藤太郎さん。
【Profile】
後藤太郎(ごとう・たろう)
ふざけているわけでなく、顔出しは控えたいというシャイな店長。包丁愛溢れ、包丁の話をしだすと止まらない。徳蔵は土佐包丁の品揃えが特に多く、リーズナブルで、本格的な和包丁を手に入れたいならぜひ相談を! 後藤店長も、親切に色々なことを教えてくださいます。
【Shop】
徳蔵刃物・東京/合羽橋店
- 東京 合羽橋店 03-5830-3903
〒111-0035 東京都台東区西浅草1-5-16 - 大阪 なんば店 06-6536-8857
〒542-0075 大阪府大阪市中央区難波千日前14-8
土佐包丁を主力に扱う包丁店ですが、津本式のアサシンナイフJr.などの特約店でもあります。
お話を聞いていると、包丁愛溢れ、包丁を専門に扱うお店だからというだけではない包丁の知見に溢れるお方でした。そんな後藤さんから、じっくりと、包丁が持つ魅力を読者にお伝え頂こうということになりました。
代表的な食材。我々釣り人のターゲットである『魚』。この魚も包丁を知ることで『食味』を大きく左右していくというのですから、お話を聞いていく価値、ありますでしょ?
しかし、そんなに、包丁の選び方、扱い方で魚の味が大きく変わるのですか?
後藤「はい。大きく変わりますよ(笑)。もう、それはびっくりするくらい」
となると、日々、美味しい魚を食べたいと願う我々にとっては、学ぶことも多いはずです。ゆっくりと、じっくりと包丁について学んでいきましょう(連載していきます)。まずは基礎的なところから。そして、マニアックなお話も聞いていきましょう。
最初に選びたい包丁は?
いきなり機能が細分化された特化した包丁を手に取っても、手に余ることになりかねません。この連載のターゲットは『いっちょ、釣りもやってるわけだし、魚を捌くくらいはできるようになりたい。で、包丁で魚の味が変わるっていうなら、いずれ拘ってみたい』と思ってくださっている方です。
そこで、まずは、どんな包丁を求めるべきでしょうか。
後藤「扱いやすさ、メンテナンスのしやすさ(研ぎ含む)をいうと、スレンレス製の両刃の包丁、三徳包丁や牛刀が良いとは思います」
後藤「が、魚に特化するということであれば、やはり出刃包丁が良いでしょうね。三徳や牛刀だと、小さな魚だとまったく問題ないのですが、大きな魚になってくると、刃が薄いこともあって欠けることにもなりかねません。先に言いましたように、メンテナンスしやすい包丁ではあるので、食材に合わせた研ぎ方をすることで、そういったデメリットもある程度カバーはできるのですが」
とりあえず、1本だけで賄いたいという場合は?
後藤「そういう場合は、ステンレス製の三徳包丁か牛刀の両刃がいいと思います。
ですが、美味しさ含めて拘っていきたいというのであれば、出刃の和包丁と柳刃包丁をお求めください。出刃の和包丁は魚を解体したり、3枚におろしたりするのに向いている包丁です。柳刃包丁は、お魚を刺身にする場合には、ぜひ使っていただきたい包丁です」
出刃の和包丁のメリットは?
後藤「まず、厚みがあります。単純に頑丈です。なので、魚の頭落としたり、骨を断ったりしやすいです。あと、包丁で切るときはある程度、自重があったほうが切りやすいんですね。そういった意味でも、使いやすいです。そんなに力をいれずに処理できますので。力を入れずにすむってことは、怪我も減りますので、初心者にも悪い包丁ではないんです」
なるほど、魚をバラすときには出刃包丁がいいのがわかりました。では、柳刃包丁はなぜ、このように細く長い形状をしているのでしょうか。
後藤「お刺身というのは、もろに断面が舌にあたるわけですよね。つまり断面のあり方で、味が大きく変わります。となってくると、やはり綺麗な断面になるように切る必要があるんですね。別に、牛刀や出刃でも切れなくはないのですが、お刺身って柔らかいじゃないですか。
柔らかいものを、スパッと断面を乱さずに切るためには、ノコギリみたいにギコギコきるより、1度の刃入れでスッと切る必要があるんですね。つまり、身を引き切る必要があります。となると、刃が短いと、身が短かったり小さいものはいいですが、大きな切り身だと一度に引き切るのに刃の長さが足りなくなります。
柳刃の包丁は、ご覧の通り刃が長く、魚の身を一度で引き切りやすいんです。ですので、ある程度、長さがあったほうがいいんですね」
切断面の話が出ましたが、そんなに味が変わるものなのですか?
後藤「食べていただければ、絶対にわかるレベルで違います。そういったことから、和包丁は、解体作業に特化した出刃包丁、そしてお刺身などに仕立てやすい柳刃包丁というふうに別れているんです。
そうですね、例えばタコなんかは身が通常の魚の切り身に比べても、ものすごく柔らかい。そうなると、やはり刃がより長い方が引き切りやすいわけです。
ほかにも、身が締まっててイキっているような魚の身だと、通常よりも切り進めにくいので、どうしても一度に切り分けたい場合、こちらの場合も刃の長さが必要になるんです」
そういえばタコ専用の包丁は刃の長さが結構ありますよね!
このように、必要な機能を見つめ直していけば、魚の種類だけ包丁があってもいい。なんて言われるのは大袈裟な話ではなさそうです。特に和包丁は奥が深そうですね。
ルアマガでも、アジ専用の和包丁を大阪堺の職人さんにお願いして限定で作っていただいたことがあるのですが、作り方や素材などでも色々と深いこだわりがあったことを思い出しました。
次回以降は、包丁の種類や、製法、素材、片刃、両刃の違いなどについても引き続き掘り下げていこうと思います。