釣りにおいて、事故なく、無事に帰ってくること以上に大切なことはない。安全の前では、釣果など二の次である。我々アングラーが、海難事故に遭うリスクを低減するためにできることは何なのか? 海上保安庁で取材を行った。
※当記事は、釣りドコサイトより転載しています
●文:立川 宏 ●協力:海上保安庁(下田海上保安部) ●出典:釣りドコ
海上保安庁で取材した、前回までの記事はコチラ
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人物紹介
ちなみに、釣りドコとは海底の地形をグラフィカルにみることができるサービスを提供するサイトで、その管理人のお二人が、海上保安庁へ取材に赴き、海難事故というテーマでお話しを伺った。
知っていることによって避けられる海難事故もある!
大川次長「海上保安庁で公表させていただいております『海しる』というサイトがございます。様々な海洋情報が見られるだけではなく、全国の沿岸部で起きてしまった事故の事例なども掲載しているサイトです。いつ? どこで? どんな事故が起きてしまったのか? が、一目でわかるサイトになっています」
高柳「非常に貴重な情報ですよね。最初に拝見させていただいたときに、予想以上の事故の多さに目を疑いました」
後藤「釣りの楽しさを伝える活動をしている以上、海難事故は非常に深刻な問題ですが、『海しる』のデータ見たときに、我々の深刻度はさらに深くなりました」
高柳「自分たちの認識は、甘かったことを思い知りました」
海しるで釣り中の事故情報を見るには、トップページの「入り口」をクリック。
左のレイヤーの中から「安全」→「マリンレジャーの事故マップ」→「釣りの事故マップ」を選択すると、日本全国で報告のあった釣り中の事故情報を見ることができる。
この中のマーク一つ一つが過去に事故のあったポイントを示している。丸いアイコンは陸からの釣り、四角いアイコンは船釣り中の事故で、黄色が一命を取り留めた事故で、赤が死亡事故となっていて、アイコンをクリックすると、発生した年や、救命胴衣の着用の有無など事故の詳細を確認することができる。
後藤「予想を遙かに上回る事故数ですよね」
高柳「『海しる』を見ることによって、海は本当にキケンだ、ということを『本当の意味』で理解できたような気がします」
後藤「かなり貴重なデータですよね」
高柳「自分が釣りに行くときに、この場所ではこんな事故事例がある。と把握しておくだけでも意識は変わりますよね」
後藤「『海しる』の事故データを見る限り、釣行中の海難事故は身近と言わざるを得ないですよね」
大川次長「そうですね。悲しいことですが海難事故は、どなたにとっても身近です。事故が多く起きてしまう釣り場は、何らかの要因があって、事故が発生しやすい場所になっていると思います。事故が起きた場所を公表することによって、少しでも注意喚起に繋がればと思っております」
後藤「事故情報から学べることは多いですよね」
大川次長「結果的に事故が減ると良いのですが」
高柳「事故情報・・・というひとつの情報を知ることは、安全対策にも繋がりますよね」
青木さん「交通事故の場合も、自宅近くの交差点で事故が起きると、その地域の方々はみんな気を付けるようになるようです。釣り場も事故事例を公表することによって、事故は他人事ではなく、誰にでも起きてしまう可能性がある、身近なキケンだと、認識していただくことが大切だと感じています」
後藤「『海しる』のようなデジタルデータは残りますからね。意味は凄く大きいですよね」
どういう状況で事故が起きるのかが可視化できる意義は大きい
高柳「知っていることによって、避けられるリスクのひとつですね。例えば一発波なども、一発波という存在を知っていることによって、はじめて気を付けられるようになりますよね」
青木さん「そうですよね。一発波という恐ろしい現象がある、という現実を知らないと警戒のしようがないですからね。『知る』ということで、ご自分の身を守れることは多いと思います」
高柳「一発波が出やすい条件などはありますか?」
青木さん「特に注意していただきたいのが台風シーズンです。本当にキケンです。突然の一発波にさらわれる事故が多発します。もちろんそれ以外の季節も一発波の可能性はあるので、油断はできませんが、台風の時期は特にキケンです」
高柳「不幸にも一発波の事故に遭われてしまった方の中には、『一発波』の存在をご存じなかった方もいらっしゃるかもしれませんよね」
青木さん「そうですね。我々としましても、もっと一発波の存在を皆さんに知って頂きたい、という思いはあるのですが、我々の発信力だけでは限界があります」
後藤「一発波ほどは大きくなくても、突然堤防の上まで届く大波もありますよね」
青木さん「そうですね。天候ひとつ取っても、天気予報と海の状況が必ずしも一致する訳ではないですよね。実際に海に来て、予想よりも風が強く吹いていることもあるので、無理だけはしないでいただきたい。もちろん天気予報を見ないというのは問題外ですが。天気予報は必ずチェックしていただいて、その上で現場の判断を大切にしていただきたいです」
高柳「Aというポイントでは、風が正面から吹き込んでいて、堤防の上まで波が被っていても、Bというポイントは風裏になっているため、安全に釣りが楽しめる。とういう状況もありますよね」
青木さん「そうですね。それも風裏という知識があるか? ないか? という違いですよね。遠方からお越しになった方は、やはり釣りをして帰りたいと思いますので、風裏という知識があれば、安全に楽しめる可能性が増えると思います。もちろん、全海域が荒れているときは、どこへ行ってもキケンですが。風裏であれば釣りができる状況もありますよね」
高柳「天候の他にも海にはキケンな生物もいますよね」
青木さん「そうですね。ゴンズイやオニオコゼ、ガンガゼ、ヒョウモンダコなどの刺されたり噛まれたりすることで被害に遭う生き物や、毒があるため食べてはいけない生き物も生息していますので、ご自分の身を守るために、知っておくことは非常に大切だと思います」
大川次長「正しい情報と正しい知識は、海難事故予防に間違いなく有効です。そして、もうひとつ大切なこととして、時代によって増加してしまう海難事故の傾向があるという現実です。時代に応じた事故予防の対策は大切だと感じています。次は、今、増えてしまっている海難事故の傾向を考えてみましょうか?」
高柳&後藤「宜しくお願いします!」
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