昨今、外来種に焦点をあてた番組が人気なこともあって、「在来種」だとか「外来種」だとかそういった野生生物のセグメントがあることを知った方も多いかと思います。そこで地元で漁業組合に所属する小生が、日々の河川での活動から見える諸々を少しご紹介しようかと思います。
●文:ルアマガプラス編集部
カワウの問題から見えてくる「在来種」と「外来種」を巡るあれこれ
在来種とは文字通り、日本の固有種とも言える生物。外来種とは外国由来で日本に繁殖、及び、定着した生物と区分しましょうか。
例に上げた番組でもそうなんですが、どうもしっくりこないのが、在来種が善で外来種が悪という白か黒かという極端な思考なんですよね。確かに外来種の定着は少なからず在来種に影響を与える原因ではありますが、その嫌われ度具合たるや脊髄反射的で……。いやいや、もう少し、全体のことを考えてみませんか? というのが今回の記事のテーマでもあります。
最強のプレデター「カワウ」
現在、内水面における魚族の生態系に大きな影響を与えている種があります。それは外来種ではなく、在来種です。タイトルにもありますように、「カワウ」という鳥が内水面漁業に従事する人たちにとって悩みのタネになっています。
日本には大きく別けて、「カワウ」と「ウミウ」が生息しておりますが、「ウミウ」の生息圏は文字通り海です。「カワウ」はその名の通り、川や池、沼などの内水面、および沿岸域に生息する鳥です。
実はカワウは1970年代までに全国で3000羽程度に激減し、絶滅の危機にさらされました。しかし、東京は上野不忍池に残されていたコロニー(集団営巣地)から次第に分布を拡大し、関東一円はおろか、日本全国にその勢力を拡大していきました。
日本最大の湖、琵琶湖にいたってはカワウが数kmにも渡って列を作り、湖を移動しているなんて風景はさほどめずらしくない光景だったりします。
分布が拡大し、拡散することで日本各地の河川の在来魚はもとより、管理釣り場の魚、営巣地の糞害による森林の枯死が問題になっている……というのが大まかな「鵜害ストーリー」です。あ、それから在来魚どころか外来魚にも大きな影響を与えております。40cm程度のブラックバスならば、ペロリです(笑)。
カワウのスペック
- 名称:カワウ(河鵜、川鵜)
- 目:カツオドリ目
- 科:ウ科
- 属:ウ属
- 体長:80〜85cm
- 体重:1.5〜2.5kg
- 行動力:航続距離10〜90km、最大水深10m前後、川幅1〜2m前後の小規模河川にも侵入可能
- 燃費:体重1kgあたり1日262gの魚食が必要
- 繁殖力:1回の営巣で卵1〜7個、孵化必要日数24〜32日、巣立ちまで31〜59日
特に注目してもらいたいのが、魚食性の強いカワウが1日あたりに必要とする魚の量です。体重1kgあたりで262gが必要ということは、平均的に1羽あたり300〜500g程度の資源が必要ということになります。
私が漁協員を務めています入間川の漁協では、シーズンになると釣り人のために鮎を1000kg、ニジマスを600kg、ヤマメ・イワナで1000〜1500kg程度、その他の雑魚含めると合計で3000〜4000kgの放流をしております(少々ざっくりしております)。仮に、同水系にカワウが40羽いるとすると200日程度で放流量はペロリというぐらいになってしまいます。その半分だとしても1年もつかもたないか……。
川の持つ資源生産量なんてたかが知れておりますから、供給量、生産量にそぐわない食欲を、カワウたちがお持ちであることはご理解いただけたかと思います。それに加えて、釣り人や漁業関係者が魚を採捕するわけです(笑)。はい、そりゃ魚なんていなくなります(汗)。
他の外来種との比較
さて、外来種悪の枢軸の筆頭にくるブラックバスが活動に必要な食事量を併記しておきましょう。
この魚の場合、ほぼ体重の10〜15%程度の重量のエサを捕食する必要があります(日ではなく数日で)。平均的なブラックバスのサイズが500gだとしてその10〜15%はつまり、50〜60g。カワウにくらべれば個体数で差があるではないかという指摘もありましょう。なので、擁護派の私とて「環境に影響はありませんよね」と断ずるには少々弱いデータです。
ですが、ブラックバスだけを悪と血眼になる前に、もっと全体を見渡してくれっ。考えてくれ! と主張したい気分になるのは、カワウの破壊力を知ればご理解いただけるかと思います。
漁業組合員としては、ブラックバスにかまうぐらいなら、カワウをなんとかしなければいけない! と、考えている人が多いことからも、そのインパクトを推し量ることができるかと思います。
増えたら駆除しましょう。減ったら増やしましょう。
人間様のご都合もあり、小生の所属する漁協でもカワウを駆除することになりました。今年のカワウ駆除実績は、管轄下で現在、3羽です。ええ、3羽。1年で約550kgの食害を防ぐことにすでに成功しました!
毎年10羽程度は駆除されますので1年間で約1825kgもの被害を食い止めることが! めでたしめでたし……。と言いたいところですが、そんなに単純な問題でもありません。
カワウも賢いのです。罠がしかけられていたり、駆除をされていることに警戒したカワウは、別の水系へ移動するのでした。ということで、地域的にはめでたしなのですが、そのシワ寄せはどこかにきているわけですね。はい。つまり、駆除という方法はミクロ効果なのです(皮肉で言ってます)。
そういうこともあり、関東一円では「関東カワウ広域協議会」なるものが発足し、一円でのカワウ被害を食い止める包囲網が生まれたのですが、まだ暗中模索状態といえます。
つまり、効果的と呼べるような対策が実際にあるわけではないのですが、目に見えて数が減ったように見える「駆除」という手法は手っ取り早く、なおかつ判りやすいので、行政にも訴えかけやすく、実行しやすい施策といえるわけですね。
ブラックバスもそうですね。1925年に、食料になるからと放流され、いまでは生態系に影響を与えるからと駆除の筆頭対象になっている種です。確かに、無秩序に人に放流されるのは止めるるべきですが、既にいびつとはいえ生態系に組入れられた種を、諸々の影響なく駆除という方法で絶滅させることはほぼ不可能です。そのミクロな部分に血眼になるより、別の方法はないのでしょうか。
「駆除」するしかないのだろうか
人間の利益、生活の都合により、良きものとされたり悪きものにされたりと、そこにいる生物に罪はなくとも「都合が悪い」ので駆除されます。そして、駆除が最も効果的な方法と喧伝されているわけです。確かに個体数を減らせばわかりやすいですものね。明確な犯人を選定し、悪者は駆除と、それは正義だと小中学生などにも刷り込まれる始末。
駆除の理由は「在来種を守るため、生態系を守るため」ということになっています。では、外来種をすべて殺せば「生態系は元に戻った」といえるのでしょうか。
例えば、日本の原風景だから、風物詩だから、文化だからと「アユ」は各地の川に放流されています。在来種だから問題ない、魚をブラックバスみたいに「食べたり」しないからOK、そんなことはありません。こと生態系について言い出したら、なかなか大きなインパクトを与えております。特定産地種の遺伝子の拡散と撹拌という問題もあります。でも、悪者にはされません。
この問題はなかなか落着点が見えません。
言いたいことは、アユを敵にしたいわけでもありませんし、ブラックバスを敵にしたいわけでもない。そして、カワウもです。
ひとつの方法として「魚を増やす」という選択肢もある
そんなふうに悶々としておりましたが、漁協員として川の環境を見てきて、「あれ? 単純だけど一番これが魚族資源の増加に低コストで効果のあることなんじゃないか」という手法があります。カワウだけに留まらず効果的な手法です。
次回は、実際に地元漁協で行った、極めて効果的で単純な魚族の増殖法について解説したいと思います。まぁ、在来魚も増えますが、外来魚も増えちゃいます。でも、「駆除」という方法よりも健全じゃないのか、効果があるんじゃないかと思うのですよね。「カワウ」にしろ、「ブラックバス」にしろ、我々の都合だけで悪者にしてしまっては、あまりにも不憫だと思うのですよ。
本当に在来魚を減らしている原因は何なのか? 本当に守るべきは何か? それを理解すれば、おこがましくも人間のやるべき「調整」の方法が見えてくる気がするのであります。
さて、前回、内水面漁業従事者の悩みのタネになっている、カワウという鳥について少し解説させていただきました。カワウの魚を捕食する戦闘能力がジ◯ングなら、ブラックバスは◯ールくらいですと例えを使わせていた[…]
この記事は2019年3月に投稿された記事を再編集したものです。 ※本記事は”ルアマガプラス”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。