先日、メガバスの伊東由樹さんが通算24回目となるグッドデザイン賞を受賞した。今回の作品はロッドの「オロチX10」とルアーの「ゴーラム」。それぞれどんなアイテムで、どこが評価されたのか?伊東社長自らの言葉で解説をお願いした。
<ゴーラムの値段とアクション動画>
●文:ルアマガプラス編集部
ゴーラム147F(メガバス)
ボディ前後に異なるサイズのLBOIIを搭載したジョイントルアー。そのサイズ感から、予想できないほど軽快なアクションレスポンスを誇る。テールにランブルテールを搭載。
ないものを生み出すという『挑戦』であり『作品』
天然由来素材を用いたオロチX 10と並び、グッドデザイン賞を受賞した「ゴーラム」。
はたしてはどのようなルアーなのか。
伊東「LBO IIがふたつ入った『ツインスパークL B O システム(PAT.)』搭載ルアーです。前方のボディには普通の大きさのLBOIIを、後方のボディにはIXIシャッドなんかに使って
いるマイクロLBOをそれぞれ搭載していて、特性の異なる2つのLBOが完全に同期したルアーです」。
『完全に同期』とは、何を意味するのか。
伊東「『シンクロ』とも言いかえられるのですが、キャスティングする際にはどちらも同時に磁界から外れて後方へ瞬時に移動しますし、泳ぎだす際にも同時に元の位置に復帰するんです。さらにはどちらのLBOもロールアクション発生時の軸とウエイトの位置がシンクロしますので、アクションにおいても前後のボディに動きのズレがない。大型ボディかつジョイントでありながら、ラインテンションを張るだけで泳ぎだす。まるでハンドメイドバルサルアーのような、ロスのない動きになるわけです。実は重心移動システムを2つ搭載するのはすごく難しいのですが、この同期させることが原因なんです」。
確かに、ジョイントボディで前後に重心移動が入っているものは、ほとんどないと言ってしまってもいいだろう。
伊東「それならばウチが作るかとなったわけです。itoエンジニアリングではこれまでにも様々な設計やデザイニングをしてきたわけですが、ここいらでエンジニアリングの高みをとことん突き詰めてみようと。ゴーラムは『挑戦』であり『作品』。ルアーエンジニアリングの叡智の結集なんです」。
完全同期がもたらした違和感のなさ
しかし予想通り、その開発にはかなりの労を要したという。
伊東「力学的あるいは工学的理論が当然必要ですし、時間も金額も相当掛かってしまいました。重心移動をただ2つ乗っけているだけではないんです」
不可能を可能にするかのような目的の元で開発が進められたゴーラムだが、得られた実釣性能は予想だにしないものだった。
伊東「なんと言いますか、嫌がられない波動を出すみたいなんですよね。ルアーに対してバスが躊躇しない印象があります」
完全同期という高いハードルが、釣果にも大きな影響を与えた。
伊東「完全にシンクロしているからこそ、ルアー前後の動きに変なディレイが起こらない。きっとそこでズレが生じると動きに違和感が生じてしまい、そういった部分で魚がルアーを見切るのではないかと思うようになりました。不自然じゃない波動に対しては、特別警戒する必要がないからチェイスする…みたいな。狙ってやったわけじゃないんですけどね。完全シンクロする2機の重心移動システムを開発した副産物とでもいいましょうか」。
しかし優れたルアーだからこその悩みもあるのだという。
伊東「ルアー名に147Fとあるのでサイズ展開を期待されるかもしれませんが、これがまた本当に難しい。完全同期させたままサイズ違いを出すには単なる図面の縮小拡大ではできません。そればかりか1から別のルアーを作るのと変わらなくなってしまう。他所から147Fのコピー品はまず出せないでしょうし、将来的にメガバスからバリエーションモデルを出すことができたら、本当に褒めてほしいですね(笑)」。
コンセプト、性能、ビジュアル。
そのすべてを兼ね備えて初めて完成された『意匠』に値し、評価される。
「グッドデザイン賞」。
受賞し続けることは、並大抵のことでは成り立たないのである
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