長年に渡りバスアングラーの心を掴むイラストを描き続ける八百板浩司さん。彼の絵に登場するバスたちの表情は豊かで人懐っこさもあり、描かれるフィールドの情景はどこか懐かしく、釣りの原体験を想起させる。そんな八百板浩司さんのイラストのバックグラウンドをうかがった。
●文:ルアマガプラス編集部
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「頭の中にある理想の魚、理想のフィールドを描いてる」八百板さんのバス釣りの原風景 それが牛久沼と印旛沼
東京都で生まれ、千葉県で育った八百板さん。幼少期のころから釣りを楽しんでいた。専門学生のころ牛久沼にブラックバスがいるという噂を聞きつけて友達と狙いに行った。
「スピナーのブレットンを投げたら20cmくらいのバスがすぐ釣れて、すごく感動したんです。それですっかりバス釣りにハマっちゃいました。それから牛久沼や印旛沼に通うようになって、トップウォーターとかスピナーベイト、ワームとかいろいろ使って、たくさんバスを釣りました。沼の魅力は、ひと言でいうと田舎感ですね。平野に田んぼが広がって、そこに水辺がある。春夏秋冬、日本人がイメージする田舎の景色があるんです。都会からそこまで離れていないのに、自然が広がっていてとても静か。鳥もたくさん鳴いているし、そういったところにも癒されますね。釣りはもちろん好きなんだけど、たくさん釣りたいっていうよりも、私は自然のなかで遊びたいっていう気持ちが強いんです」
釣り以外に八百板さんに大きな影響を与えたのが、アメリカのサブカルチャー。
「昭和の人間なんで、やっぱり昔からアメリカのものがすごく好きでした。高校時代にはアメリカのロックにすごくハマってバンド活動に熱中。アメリカの南部のバンドには、バス釣りをしているところがアルバムジャケットになっていたり、バンドの人がバス釣りをしている映像なんかもフィルムに出てきたりするんですね。そこで音楽とバス釣りがリンクしたんです」
八百板さんは子どものころから絵を描くのも好きだった。絵の被写体は、図鑑に載っている生き物。児童の絵画コンクールなどでは常連で、毎回のように賞状をもらったという。高校卒業後に一度就職。その後、専門学校を経てイラストレーターになった。八百板さんのイラストには、やはりアメリカの文化というものが根底に流れている。
「アメリカでは、ワイルドライフアートというものが文化・市場として確立されているんですね。アメリカに行ったときに、いろいろな作家のいろいろなワイルドライフアートを見て、とてもショックを受けました。そこで釣り専門のワイルドライフアートのイラストレーターになろうと思ったんです。ちょうどいいタイミングで、タックルボックスという雑誌の表紙を描く仕事をもらって、10年くらい続けさせてもらい、自分のスタイルが出来上がった感じです。イラストレーターって本当はなんでも描けなきゃいけないんですが、僕は自分の好きなものしか描けない。自分の好きなものならその世界に没入して描くことができますから」
八百板さんが描く魚の姿は、ひと目で彼の作品だとわかるほどオリジナリティに溢れている。
「昔は魚の写真や資料などを参考に絵を描いていましたが、尊敬するイラストレーターさんに『写真のトレースではダメ、ワンアンドオンリーになりなさい』と言われ、スタイルを変えました。だから、何も見ないで頭の中にあるイメージの世界を絵にすることにしたんです。だから僕にしか描けない絵なんです。資料などは細かい魚の部位を確認する上で使用するくらいです」
アメリカのサブカルチャー、そして日本のバス釣りというバックグラウンドが融合し、八百板さんの特徴的な作風が完成した。
「僕が描く魚にはアイデンティティが欲しいんです。ただの魚の絵は嫌で、この魚はどうやって生きてきたとか、どういう性格なのかなど考えながら描いてます。とにかくワン・オブ・ゼムは嫌なんです。唯一無二の魚の絵を描きたいんですよね。ただただ自分がかっこいいと思う魚の絵を描いているだけなんで、それを見て評価してもらえたらイラストレーターとしてとても嬉しいです。これからもバス釣りの素晴らしさ、アウトドアの素晴らしさを伝えられるような絵を描いていきたいと思ってます」
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