日本を代表するグローバル企業のひとつである本田技研工業=HONDA。おなじみのクルマやバイクのみならず、飛行機や船外機まで製造するという“陸海空”のモビリティを網羅しているという意味では、世界的にも希有な企業であると言えるだろう。そんなHONDAのマリン部門が、同社創業60周年を迎える2024年に、完全新設計となるV型8気筒350馬力のエンジンの大型船外機『BF350』をリリース。今回、このBF350を搭載した船に試乗できるという貴重な機会を得たので、試乗レポートをお届けしよう。
●写真/文:ルアマガプラス編集部 ●写真提供/ホンダマリン
V型8気筒4952ccの大型エンジンから350馬力を絞り出す
まずはBF350に搭載される新型エンジンの概要から。船外機専用設計で開発されたV型8気筒エンジンは排気量4952ccで、最大出力350馬力を発揮する。
大排気量ならではの太いトルクは余裕のある走破性能を実現し、新設計のクランクシャフトは静粛性・低振動に大きく貢献。さらに、大型船外機としては珍しいレギュラーガソリンに対応することで、クラストップレベルの燃費性能も達成している。(※2024年1月時点HONDA調べ)
クルマ用エンジンの流用ではなく『船外機専用設計』の完全オリジナル
試乗前に受けた説明だけでも、その凄さがわかるHONDA船外機のフラッグシップモデルなのだが、実はこのエンジンのもっと凄いところは先述にもある『船外機専用設計で開発された』という部分。
というのも、HONDAを含めた自動車会社がリリースする船外機は大抵の場合、すでに自動車用として存在しているエンジンを流用して、マリン用に最適化して搭載するというのが一般的なのだ。
ところが、クドいようだがBF350に搭載されるこのV8エンジンは船外機専用設計。しかもHONDAが製造する一般向けモビリティ用のレシプロエンジンとしては最大気筒数&最大排気量を誇るという力の入れ様で、創業60周年の2024年だからこそマリン事業でも大きな飛躍を目指している様子がうかがえる。
350馬力×2基の強烈パワーで、未知の速度感覚に引きずり込まれる
さて、前置きはこれくらいにして早速試乗レポートをお届けしよう。試乗した船体は、ニュージャパンマリン製の『NSB335』というマルチパーパス・クルーザーだ。BF350を2基搭載する。
走り出しから想像以上のG(グラビティ=重力)が身体にのし掛かり、その加速性能の高さを実感させられる。特に、スロットルの開度に応じたリニアな加速感は、必要なタイミングで必要なだけパワーが得られるという、大排気量エンジンならではの余裕からくるものと思われる。
ただ、これはまだ序章に過ぎず、速度が乗ってからさらにスロットルを開けると、いとも簡単にトップスピードレベルまで加速していく。ある程度の速度域からの加速感は、フラッグシップモデルであるBF350の存在感を強烈に印象付ける。
試乗当日は天候に恵まれたこともあり、ウネリが少ない海況。BF350は、ニュージャパンマリン製のNSB335とのマッチングも良いようで、海面スレスレを低空飛行しているかのように、抵抗感の少ないスムーズな走行をみせる。V8の4952ccという大排気量エンジンが高速回転しているはずなのに、駆動音は思いのほか静か。不快な振動もなく、決して長くない試乗時間だったが最後は多少楽しむ余裕も生まれるくらい快適な乗り心地を体感できた。
あのNSXと同系統のエンジンを積む『BF250』にもトライ
BF350が登場するまでフラッグシップであった船外機『BF250』も同時に出展されていたので、こちらにも言及していこう。
BF250に搭載されているのはV型6気筒3583ccのエンジンで、HONDAが誇るスポーツカー・NSXにも搭載されているエンジンと同系統のもの。最高出力は250馬力を発揮する。近年の大型船外機界隈ではパワーウォーズが勃発しており、実に500馬力オーバーのエンジンも珍しくない。そんな中にあってBF250は決してパワフルとは言えないものの、必要十分なトルクとパワーを発揮。また、VTECエンジン特有のスムーズな回転上昇も、このモデルの魅力の1つと言えるだろう。
BF250の試乗船もあったので、こちらにもトライ。正直、通常の操船では250馬力だろうと350馬力だろうと扱い切れないほどのパワーであることに変わりはないのだが、試乗後に落ち着いて振り返ってみると、スタート時の加速感はBF350と比較して若干マイルド。高回転域までスロットルを開けたときの駆動音や振動も抑えられているが、わずかに「一生懸命回ってます!」という頑張っている主張が感じ取れたのも事実だ。
静粛性の高さは特筆すべき点。有力な選択肢となる高出力船外機
ボートで一定の巡航速度を維持する場合、車よりも高いエンジン回転数をキープする必要があるのが一般的だ。そのため、マリンエンジンの静粛性や振動の少なさは、特にフラッグシップモデルでは気になる部分。
今回試乗したBF350は、新設計のクランクシャフト採用の効果か、ネガティブな面でのエンジンの存在感はしっかりと抑えられていたように感じた。クルーザーのみならず、様々な船艇のエンジンとして、有力な選択肢の1つだと言えるだろう。
主要諸元
機関名称 | BF350A | |||
色 | アクアマリンシルバーメタリック/グランプリホワイト | |||
型式 | BBYJ | |||
環境保全型機関合格証番号 | R5海洋第0009号 | |||
エンジン種類 | 水冷4ストローク60°V型8気筒 立軸形 SOHC・VTEC・4バルブ(気筒当たり) | |||
総排気量(cm3) | 4,952 | |||
ボア×ストローク(mm) | 89.0×99.5 | |||
連続最大出力[kW(PS)/rpm] | 257.4(350)/6,000 | |||
推奨回転範囲(rpm) | 5,000~6,000 | |||
潤滑方式 | ウェットサンプ | |||
冷却方式 | 水冷(サーモスタット付) | |||
点火方式 | トランジスタ式バッテリー点火 | |||
始動方式 | セルフスターター | |||
充電性能 | 12V-70A | |||
排気方式 | 水中排気(プロペラボス排気) | |||
燃料供給方式 | 電子制御燃料噴射(PGM-FI) | |||
燃料 | 自動車用無鉛ガソリン(レギュラーガソリン) | |||
全長(mm) | 1,120 | |||
全幅(mm) | 650 | |||
タイプ | XDN | XCDN | UDN | UCDN |
全高(mm) | 2,145 | 2,145 | 2,272 | 2,272 |
トランサム高(mm) | 638 | 638 | 765 | 765 |
乾燥重量(kg:プロペラ装着時) | 355 | 355 | 360 | 360 |
プロペラ回転方向 | 右 | 左 | 右 | 左 |
メーカー希望小売価格(消費税含まず) | |
BF350A XDN | 3,550,000円 |
BF350A UDN | 3,610,000円 |
BF350A XCDN | 3,570,000円 |
BF350A UCDN | 3,630,000円 |
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