一番可愛いバス釣り用ルアー『アライくん』を知っているか!? あるアングラーを増やすのが狙いだった…!?

最も可愛いルアーはなにか?そんな質問をしたら、今でも上位に食い込んでくるであろうルアー「アライくん(ズイール)」はなぜ誕生したのか?バス釣り業界きっての巨漢にして名物ライターの横沢鉄平さんが解説してくれた。

●文:ルアマガプラス編集部

横沢鉄平
よこざわ・てっぺい/契約メーカーゼロという逆境を逆手にとったメーカー忖度なしのインプレ記事に定評のある釣りライター。数多くのレジェントアングラーと深い親交を持ち、自身もアマゾン釣行を筆頭に様々な釣り経験を持つすごい人。

釣れて可愛い!人も魚も釣るルアーの究極系!?

約20年前に一世を風靡したルアーブランド「ズイール」。

その創業者であり、ルアーデザイナーでもあった「柏木重孝」さんの人気は凄まじいものでした。

柏木さんが作り出すズイールルアーの特長を一言でいうと「かわいいのに、釣れる」だと思います。この「かわいい」と「釣れる」を両立させた極めつけのルアー、それが『アライくん』なのです。

僕の知る限り、これよりかわいいルアーはありません。しかもこいつは誰でも簡単に動かせるし、お世辞抜きでよく釣れるのです。日本が生み出したバスルアーの中でも最高傑作のひとつでしょう。

釣り人の裾野を広げてくれたアライくん

アライくんにはその前身にあたるルアーがあります。

それは「ラスカル」です。

これは、ズイールの誇るトップロッド「プッシュウォーター」の中でもブランクスが白い「カオリスペシャル」を買った人だけが、オマケでもらえるという、超希少なルアーでした。

そしてそのウッド製のラスカルをプラスチック化して量産したのがアライくんなのです。

ラスカルにしてもアライくんにしても、柏木さんによると、ある野望を達成するために作ったルアーだそうです。その野望とは何だと思いますか?

それは、女性アングラーを増やすことだったんです。

柏木さんはよくこんなことを言ってました。

「女の子をバス釣りに連れて行っても、すぐ飽きちゃうでしょ。でもアライくんを巻かせるとさ、これが首を振って近寄ってくる。『かわいい~、おいでおいで!』となっちゃうわけよ。全然飽きない。しかもガボッとバスが釣れちゃうでしょ? もう『また連れてって!』と言われちゃうよ」

この企ては見事に成功し、90年代後半のバスブーム時は、アライくんのお蔭で相当女性アングラーが増えたと思います。

2980円(当時)は高かったのか?

アライくんは、1個2980円だったと思うのですが、出た当時は正直言ってプラスチックににしては「高い」と思いました。それを柏木さん本人にいうと。

「テッペイ、そりゃ違うよ。これはジョイントボディだからさ、塗ったりするのが大変なんだよ」

と言われたのを、覚えています。

アライ君が登場し、空前の釣りブームが相まってアライくんはとんでもないアイドルルアーになってしまいました。ズイールでは、アライ君の形のリールやプラモデルまで出しました。プラモデルは、実際にルアーとして使用できるクオリティーで、1個2000円だったかな?

そのプラモデルが世に出た頃、広島で柏木さんを取材したときの話です。ロケの前日にキャッツというお店に柏木さんと遊びに行きました。

すると、店内はアライくんのプラモデルが山積みになっていました。ちょうど入荷したばかりだっんですね。

「テッペイ、買わないの? 明日になったらなくなっちゃうよ」
「じゃ、1個……」
「1個で足りるのか?」
「わかりました、3個買います」

買い物を終え、翌日の取材に備えてホテルに入ったら「早速一緒に作るでしょ!」ということで、柏木さんの部屋に呼ばれました。

唖然としました。

部屋の中にプラモの箱が30個くらいありましたからね。
「一個くらいくれればいいのに……」と、正直思いました(笑)。

ところが、そこからが大変でだったのです。組み立てた後に継ぎ目が滑らかになるよう、入念にペーパーをかけさせられるんです。

「こんなもんですかね?」

「テッペイ、それでも使えるけどさ、うちの会社だったらボツだよ。このレベルじゃプライドが許さないでしょ!」

「マジですか……」

ペーパーがけで、実に2時間以上もかかったのです。

「ふわぁぁ~、眠い。どうですか?」

「う~ん、まあギリギリ合格点だな。大変だろ? どうだテッペイ、わかったか?」

「何がですか?」

「売ってるアライくん、2980円は安いでしょ?」

このときは1本取られましたね。この、大変な作業で自作したアライくんは、とても2980円じゃ売る気になれません。

でも、結局は組み立てたアライくんは雑誌の読者プレゼントになっちゃいましたが(笑)。

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