“いつの日も頭の中は鱒だらけ”。そんなトラウトバムに贈る「鱒写記」では、ルアーマガジン・リバー編集部が取材先で出会った、美しい魚たちの写真を紹介していきたい。
締めくくりにふさわしい素敵な1尾
釣り人は早朝のまだ薄暗い溪の急斜面を、まるでトレイルランナーのように駆け下りていった。辺り一面に立ち並ぶ木々の間をすり抜けるように、時に木の幹に手をかけ遠心力で方向転換しながら、目的の流れを目指す。川岸にたどり着き「ゼェゼェ」と息を切らす記者に対して、釣り人は顔色ひとつ変えていない。ストイックに釣り場に通う釣り人の体力は底なしである。
タックルをセットして1投目。タイトにポイントを狙うこともなく、トゥイッチしながら軽くルアーを流すことで、当日の状況を把握していく。これが彼のスタイル。「少し水量は多めですが、なんとか釣りになりそうですね」。そして、2投目からはキャストのスピードを上げ、ポイントへのアプローチもよりタイトになっていった。
この日は、水温・水量共に状況は悪くなかったようだ。入渓してから100mほど進んだところで、一瞬だけ釣り人の体が上下したかと思えば、大きく竿が撓ったのである。激しい水飛沫の中で躍る大きな魚体。いきなり起こった出来事に動揺してしまったが、とにかく夢中でシャッターを切った。ランディングネットに収まったのは、36㎝の大型ヤマメであった。
川はまだ夏の雰囲気を色濃く残していたのだが、魚体は秋そのもの。「このオレンジがここに棲むヤマメの特徴です」と釣り人は言った。魚体全体に入ったサビ、厳つい表情、ヒレ、そして体側の色に至るまで、どの部分を切り取っても美しい1尾。まさに有終の美という言葉がふさわしい、見事な見事な終盤の渓流を象徴する魚。
この1尾が釣り上げられたのは2011年9月下旬のこと。アングラーズリパブリックのテスターを務める風間俊春さんによる釣果である。彼のホームグラウンドは、埼玉県秩父地方の渓流群。その地で鍛え上げられた健脚とフィッシングテクニックで、近年力を入れているという遠征釣行においても結果を出し続けている。
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