なぜ”01ステラ”は至高なのか〈考察編〉【極私的リール論・後編】



“01ステラ”を偏愛する理由は前編でたっぷり述べさせて頂いたので、ここからはその理由を考察します。

スーパースローオシュレートの生む
スプールへの均一な巻き取りが全ての性能の源

さて、ではそろそろなぜ”01ステラ”のドラグやキャスト性能(飛距離)が優れているのか? という所を考察していきましょう。

そもそもの話として、シマノのドラグが優れていると言うのは、少なくともアングラーの間では長い間定説とされてきました。滑らかで軽い初期の滑り出しと、よどみなく適度なテンションで出続けてくれるという性能が、高級機のみならず普及機でも体感できるというのはやはりスゴイ。

ドラグ機構の理想は、ラインが切れる前にスッと滑り出して、効き出してからは程よいテンション感で出過ぎず、止まり過ぎずを繰り返してくれるというものです。こういうドラグなら、アングラーはラインが切れる心配を感じることなく、安心してランディングまで持ち込めます。

ドラグの機構自体で言えば、04ステラ以降に採用されたリジッドサポートドラグも、スプール逆転時にブレのないラインリリースができるということでとても優秀です。DAIWAも15イグジストで遂にスプールの回転を安定させる機構を採用しましたよね。特に、高速でラインを引き出して行く、シーバスやスモールマウス、大型トラウト、青物系とのファイトで有利。ライトラインを使うアジングや管理釣り場などでもメリットはあると思います。

ではなぜ、数あるシマノリールの中にあって”01ステラ”のドラグが優れているのか? それは、”01ステラ”に搭載されている、”スーパースローオシュレート”という機構にあると考えています。

オシュレート(oscillateなので、オシレートが正しい気もしますが、当時の表記を優先します)というのは、スピニングリールのスプールを上下動させる機構のことです。

スーパースローオシュレートとは、この上下動がすごくゆっくりということ。

つまり、非常に細かく密な間隔でスプールにラインを巻き付けて行く機構を備えていて、ラインが重なることなく隣り合って均一にスプールに巻かれるということです。

スーパースローオシュレートの巻き具合はこんな感じです。スプール全体に均一で巻こうとしています。

恐らくこれは、ドラグが効いてスプールが逆転したときや、キャスティング時にラインが放出されるときの抵抗が、非常に少なくなるという点に主眼が置かれた機構なのだと考えられます。ひょっとすると巻き付けテンションも今のエアロラップに比べると低いのかも…。

14ステラのドラグノブに内蔵されるコイルスプリング。このスプリングのテンションも、ドラグ性能に大きく関わってるんです。

もちろん、使われているワッシャーやドラググリス、ドラグノブスプリングのテンションのバランスが極めて良いことは言うまでもありません。そういえば、14ステラからはドラグノブのスプリングも新形状になりましたよね。

超クセものだったスーパースローオシュレート

とまあ、個人的には”01ステラ”の良さを生んだ素晴らしい機構だと思うスーパースローオシュレートですが、これを欠陥機構だとする向きも少なくありません。

その最大の理由がライントラブルの多さです。

キャスト時にボフっと、固まったラインが出て行く“ゴップ”は、”01ステラ”にはつきもののトラブルです。ミドストとかノーシンカーとかダウンショットとか使ってると、どうしたって……ねぇ。

数キャスト毎にテンション掛けて巻くとか、ラインを少なめに巻くとか、ラインローラーをイジるとかすると多少はマシになるんです。IOSのローラーとかね。が、根本的にはやっぱりスーパースローオシュレートがガンなのは知ってる。01ユーザーはそこは飲み込んで使うもの。01ステラのトラブルといえば…、ローター内部のフリクションリングが溶けるのと、歴代で最高に塗装が剥げやすいのはちょっと勘弁してもらいたいです。

まあ確かに、これって相当ダメな話なんです。だって快適に釣り続けられないのだから。
でも、ここは完全に最大の長所とのトレードオフなのです。

スーパースローオシュレートでは、ライン同士ができるだけ隣り合うように巻かれて行きます。
そのため、(根がかって)キツくテンションが掛かることで上に巻かれたラインが下に喰い込んだり、逆に(ノーシンカーなどを使ってて)上に巻かれたラインにテンションがユルく、下に巻かれたラインがそのまま飛び出したりしやすくなります。

こういったライントラブルが、構造上極めて多いのが”01ステラ”の欠点であり、多くのアングラーが”欠陥機”とまで言うこととなった原因です。なにせ当時の最大のライバルであるTD-ZやトーナメントZシリーズは、すでに逆テーパースプール&ツイストバスターを採用して、これらのトラブルを抑え込むことに成功していましたからね!

こちらは12ヴァンキッシュのエアロラップ。スーパースローオシュレートと比べると、独特な段の付き方をしながら巻いているのが分かりますか?

で、2016年現在、シマノリールの多くはエアロラップと呼ばれるクロス巻きを採用しています。
ステラは、04モデルまではスーパースローオシュレートを採用しましたが、06セフィアからスローオシュレートに変更したことを受け、07ステラからはAR-Cスプールとの組み合わせでエアロラップを採用し、01で顕在化したライントラブルの多さを解消することに成功するのです。

AR-Cスプール採用、スローオシュレートを排し、エアロラップを搭載した07ステラ。未だに愛用するアングラーの多い名機です。こいつももう修理不能機種リストに入ってるんですよね……。

ともあれ、個人的にはそれらマイナス面を差し置いてもアドバンテージが”01ステラ”にはあると思うから使っているのですが。



AR-Cスプール採用のスーパースローオシュレート機は実現しないのか?

あくまでも個人的な見解ですが、現行の14ステラに至るまで、ライトライン使用時の滑らかさに於いて、シマノのリールのドラグ性能は”01ステラ”を超えられていません。それは前述のスローオシュレート機構を採用しておらず、ライン同士をクロスに巻いていることでラインの送り出し性能をスポイルしているからに他なりません。今ももちろん極めて高いドラグ性能をもっているのですが、ドラグ作動時、ズレるように放出されていくラインはちょっと美しくないんじゃないかって思ってしまうんですよね。

14ステラのAR-Cスプールです。ツインパワーなどよりも長いストロークは、最上級機だけがもつ特徴です。

ただ、06ソアレ&セフィアから採用が始まったAR-Cスプールのトラブルのないライン放出性能は素晴らしいものがあり、同時に採用されたクロス巻きのエアロラップとの組み合わせで、07ステラ以降ではそれまでがウソのようにキャスト時のライントラブルが激減していますので、トータルでの性能に関して言えば、圧倒的に現行機が優れているというのは言うまでもありません。

ですから、ライトライン使用時の最強ステラと冒頭でも言ってるわけです。

ならばスーパースローオシュレートとAR-Cスプールを組み合わせたらどうなるのか?

現時点で唯一これを体験できるのが、既に入手困難となってしまっていますが、05ツインパワーもしくは06ツインパワーMgと06セフィアもしくは07ソアレAR-Cスプール(夢屋で言うところのS-5系)の組み合わせです。

当時の最高級機種である04ステラよりも、個人的にはこの組み合わせの方が高いドラグ性能を持っていると思いますが、飛距離などの面でロングストローク採用のステラにはやはり及びません。

05ツインパワーor06ツインパワーMgはAR-Cスプール搭載可能なスローオシュレート機です。

01モデルのようなスーパースローオシュレート搭載で、ヴァンキッシュ級の軽さを兼ね備えたステラ、というのが個人的に思う最強のバスフィッシング用ステラなんですが、どうでしょうかシマノさん。

SLOW OSCILLATION IS BACK ! 密巻きは滅びない

さてそんな”01ステラ”を愛するネコ人間ですが、実は最近、とってもとーっても気になる機種があるんです。クロス巻き全盛の今、あえてスローオシュレートを採用してきたメーカーがあります。それがこちら。

アブガルシアの最新鋭スピニング、REVO。密巻機構が復権するのかどうかはこのリールに係っているかも。

アブガルシアの”レボ”シリーズです。ライントラブルはロケットマネジメントシステムなどの機構で解消しています。ルアーマガジン・ソルト本誌に掲載したリールレビュー企画では、RPMとALTの2機種を使っています。0.8号PEを巻き込んで行ったテスト中のライントラブルは皆無。

この美しい巻きがスローオシュレートの証です。

というわけで非常に気になっているモデルです。けっして使い込んだとは言えないのでドラグ性能に関してはここでは触れません。でも、多くのトップ50プロも使用していることを考えると…?

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