ソルトフィッシングに付きものの磯歩き。いかに安全かつ素早く移動できるかがその日の釣りの満足度を左右すると言っても過言ではない。海釣りの名士・村越正海氏の薫陶を受け、磯歩きの術を叩き込まれたルアマガソルト編集長ナカガワが、そのノウハウについて解説する。
磯の実釣取材は肉体的に相当こたえる仕事である
九州は宮崎のマルチアングラー・松岡豪之さんと磯で青物&ヒラスズキ取材をした時のこと。定評のあるハードな実釣スタイルは今回も健在で、ガンガン磯を歩きまくることに。普段から鍛錬を怠らない松岡さんに、撮影機材をぶら下げつつ食らいついていくのは、鈍りまくった肉体には相当こたえます。「スタッフの存在が足かせとなり、出せたはずの釣果が出せなかった」とは言わせない! そんな思いを原動力に歩き続けました(もちろん、松岡さんはかなり手加減してくれてますが…)
その際、磯歩きの達人でもある松岡さんから「磯を歩くの、上手ですね」というこの上ないお言葉を頂戴した次第であります。私に、磯歩きの術を叩き込んでくれた村越正海さんの名を汚すことがないよう、今後も精進いたします。
ただ、ひと口に磯歩きと申しましても、磯の地形や岩の形状・大きさ、コケの有無などで、歩きやすさ(というか、歩きにくさ)が全く違ってきます。また、人によって得意な磯、不得意な磯というものあったりします。そこで、磯を歩く際に私が実践しているちょっとしたコツのようなものをご紹介してみたいと思います。
安全にかつ素早く、磯を歩くためにしていること
①斜めの岩肌には足を乗せない
斜めの岩肌に乗るのは絶対にNG。滑って転倒する原因に。スリップの危険性を最大限排除することは、安全にもつながると同時に、安心感が増すことで歩みも速くなる。私が好んで踏むのは、鈍角に突き出た岩の頂点部分。力が一点にかかるので、靴底と岩肌がダイレクトに噛んで滑りにくいです。
②足元を見るのではなく、少し先を見る
磯歩きにおいてどこを見るかはとても重要。足で歩くのではなく目で歩いていると言っても過言ではないです。
基本的な視線の動きは「着地点を策定→踏み出した足の着地を確認→次の着地点を策定→もう一方の足の着地を確認→策定→……」。つまり「策定→確認」の繰り返し。平地の場合、策定も確認も必要なく遠くを見て歩ける。ここが、平地と磯場での大きな違い。
ただ、慣れてくると「踏み出した足の着地を確認」する作業を、場合によっては省けることもあります。そうなると、視線は策定作業をメインに行えるので、速く歩けるようになります。ただ、確実性は落ちるので、リスクの少ない状況(ゴロタ場や低い磯)でのみ行うようにしています。
③ビビって歩幅が小さくなりがちだが、ストライドは大きめに取る
磯歩きが速い人と遅い人とで一番違うのが、この歩幅。恐怖心があると視線は真下になり、さらに歩幅が小さくなる。歩幅が小さいとスピードは落ちます。
上記①、②ができれば、歩幅を少し大きく取れる。同じ距離を少ない歩数で踏破すれば、着地の回数(=スリップのリスク)を減らせるので、それだけ安心感も高まり速く歩ける、という持論です。
④浮石っぽい岩は絶対に避ける
動かいないと思って踏んだ岩が不意にグラリと動いたとき、全身から冷や汗がブワッと噴き出すと同時に、生きている実感を強く持てるので浮石を踏むのは嫌いではないのですが、安全面から言えば極力避けるべきですよね。
見た目だけではわかりづらいことも多々ありますが、岩が動く可能性を気持ちの片隅に常に置いています。
⑤濡れた岩は踏まない
濡れた岩肌は滑りやすいので、選べるのであれば乾いた岩肌を踏むようにしています。たとえコケが覆った岩肌でも、乾いていれば滑りにくいです。ただ、水辺を歩いた後のフェルトは水を含むので、乾いた岩肌を自らの歩みで濡らしてしまうこともあります(だから私は、磯歩きの際はフェルトスパイクを使用しません)。
あと、偏光グラスを掛けていると水の反射がわからず、乾いているように見えることがあるので要注意です。
難しい磯を踏破した日のナゾの満足感。それもまた”釣り”の醍醐味
速く歩けたら釣果に差が出るのかって言われると、それはわかりません。ただ、磯歩きの実釣取材は、一日を終えたときの満足感がとても高いのは確かです。
「みんなでこの磯を踏破したんだ! やったぞ! 今夜のビールは最高の味だね!」と、釣果に恵まれてもいないのにナゾの満足感で満たされ、本来の目的を見失いがちです。
釣れなくても満足できるって、すごいなぁって思います。だから、私は磯を歩く実釣取材が大好きです(ちなみに、今回の取材は、松岡さんの見事な展開で素晴らしい釣果に恵まれました)
※すべてに勝るのは「安全」です。それをないがしろにすることはありません。あと、これらは推奨しているわけではなく、私はそうしていますということなのであしからず。
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