“ゲーリーウィッチ”というルアージャンルの誕生【横沢テッペイが愛してやまない”ズイール”のプラグたち -1】



テラー、ゲーリーウイッチ、アンカニーチャップ…。そんなルアー名を聞いてピンと来る人は、バスフィッシングを最低10年以上は続けている人だろう。約20年前に一世を風靡した「ズイール」というブランドのルアーだ。歴史的な逸品として伝説化されているこれらのルアーを今も愛してやまないフィッシングライター・横沢テッペイが、その思い入れの限りを語り尽くす。今回は「ゲーリーウィッチ」について。

ズイールを生み出した柏木重孝という「トップの鬼」

今を遡ること約20年前当時の「ズイール」の人気はすさまじく、よほど運がよくないと買えない代物でした。あるいは、別のルアーとの抱き合わせ販売で入手するか、ポイントをためないと売ってくれないようなお店もありました。

ためたポイントで買うんじゃないんですよ。ポイントを使って買う権利をもらうのです。まあ、それほどの異常な人気だったわけです。

もちろん、そんなブームが訪れる以前もズイールには多くのファンがいました。

ズイールのルアーは、その大部分がトップウォーター。しかもどちらかというと、シンプルな形状が多く、その割には1個3000円前後と値段も決して安くはありません。それなのに、なぜそんなに売れたのでしょうか?

その理由は2つあります。まずは、ズイールの創業者であり、デザイナーでもあった”柏木重孝”さんの魅力ですね。彼は非常に面白い人で、なおかつ”トップの鬼”という異名を持つほどの達人。一度一緒に釣りをすると、ほとんどの人は、彼の人柄とその釣技に魅了されてしまうのです。

「トップの鬼」と呼ばれた柏木重孝さん

もうひとつは、シンプルにルアーの実力でしょう。「かわいいのに、釣れる」これがズイールルアーの最大の特徴でした。たとえば3/8オンステラーなどは、超リアルなペンシルを相手に勝負をしてもそん色なく釣れるのです。ルアーってやっぱり動きなんだな……と思い知らせてくれるのが、ズイールでした。

20代前半の頃、運悪く(笑)柏木さんに出会ってしまった僕も、ズイールのルアーにはかなりのめりこみました。好きなルアーはたくさんあるのですが、何かひとつ……と聞かれたら、やっぱり「ゲーリーウィッチ」でしょうね。

「ゲーリーウィッチ」というルアージャンルの誕生

頭の部分をスパッと斜めに切り落とした形状は、一見ブラバーマウスやダルトンスペシャルのボディーを思わせますが、プロペラはついていません。かといって、ペンシルにしては水を受けすぎるし、ポッパーにしては音や泡を出しにくい。

以前、「柏木さん、これってペンシルですか? それともポッパー?」と尋ねたら。柏木さんはにやりとして次のように答えました。

「これは、どれにも属さない完全にオリジナルなジャンルのルアーなんだよ」

ゲーリーウィッチは、ただ引きすると斜めに切った口が水を受けます。そして水を乗り越えようとするのです。しかし、実際には乗り越えられないので、水をかき分けるように左右に首を振るのです。

リップも、金属カップもないのに、ただ引きするだけで首を振っちゃうんですね。そう考えるとノイジーに近いのですが、ジッターバグのようなノイジーサウンドは出しません。あまり音を出さずに、水をかき分けるようにして水面を泳ぐのです。釣れそうですよね。

水を受けやすい形状なので、ワンアクションして糸をたるませると、簡単に横を向きます。だから、一点でのテーブルターンもペンシル以上に得意です。かなりの芸達者です。



トップウォータープラグとして優れたカバー回避性能を発揮

ズイールのウッドプラグは基本的にダブルフックになっています。これは、もちろんカバーをクリアするためなのですが、その点においてもゲーリーウィッチは非常に優れています。

斜めに切った口が障害物をとらえると、いい姿勢のままスムースに乗り越えるので、ダブルフックも安定して上向きを保ちます。だから、木の枝などは簡単にクリアするし、ヒシや浮きゴミなどの水面カバーも上手にかわしてくれるのです。

さすがにフロッグには負けますが、ウッドプラグとしてはトップレベルのカバー回避能力を持っているといっていいでしょう。もし、僕がトップウォータープラグ1個に限定されて勝負するなら、ゲーリーウィッチが最有力候補ですね。

こんな状況もゲーリーウィッチならお手のモノ

僕は、待ちに待った1/2オンスゲーリーウィッチの発売日に、はやる心をおさえることができず、バイクのスピード違反で捕まったことまであります。

もう20年以上前の話ですが、あの時はゲーリーウィッチ約10個分の罰金を取られてしまい、泣きました。

ゲーリーウィッチのポテンシャルを引きだす裏ワザとは?

最後に、柏木さん直伝の必殺技を教えます。それは、ただ引きして、首を左右に振りそうになる一歩手前のスピードで引くこと。気づかれないように逃げているつもりでも、どこか泳ぎがぎこちない……そんな微妙な演技を披露してくれます。

ゲーリーウィッチ、中古店で見つけたらあなたはラッキーです。3/8か1/2オンスがいいですね。

ちなみに写真のものは93年モノの3/8オンス。カラーはアルビノボーン。僕にとっては名品中の名品ですね。


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