2016年A.O.Y.北大祐と第2位五十嵐誠の名勝負再び…?【国内最高峰バストーナメント2017TOP50 勝利の栄冠に最も近い男たち-1】



昨季の年間順位1位2位、強さの秘密はどこに?

いよいよ、あと1ヶ月を切った国内最高峰トーナメント・JB TOP50開幕戦。

今季2017年のツアーは福岡・遠賀川(4月7日〜9日)を手始めに、山口&広島・弥栄ダム(6月2日〜4日)、奈良・七色ダム(7月7日〜9日)、福島・桧原湖(9月8日〜10日)、茨城&千葉・霞ヶ浦(10月20日〜22日)の全5戦でトレイルすることは既に発表された。

今回から全3回に渡ってお届けする2017TOP50プレビューは『勝利の栄冠に最も近い男達』にフィーチャーしてお届け。

第1回目は昨季、A.O.Y.(=アングラー・オブ・ザイヤー、年間優勝)レースを盛り上げた北大祐と五十嵐誠の両選手インタビュー。最終戦の最終日まで一進一退の攻防を繰り広げた、今最も強い2人は何を考え、何を成し遂げようとしているのか。

北大祐「考える前に身体が動く。それができれば、僕の勝ち」

きた・だいすけ 2013年に続き、昨季2度目のTOP50A.O.Y.を獲得した現役最強トーナメントプロ。2006&2008マスターズA.O.Y.・2011クラシックウィナー・2009エリート5ウィナーに加え、昨季は悲願のオールスターをも制覇して、いわば”現代グランドスラム”を達成した数少ない一人だ。その勢いは止まるところを知らない。2017TOP50ゼッケンNo.1 スポンサー:レジットデザイン、サンライン、K.T.F.、一番館&シースピリット 1982年7月23日生まれ(34歳)、石川県出身・滋賀県在住。公式サイトはDaisuke KITA Official web site.(http://kitadaisuke.com)

「正直な話、昨季は納得できるゲームがあまりなかった…」

昨季は第2戦野村ダムで優勝の座を勝ち獲るや、トップスピードのままA.O.Y.レースをゴールまで駆け抜けた北大祐選手。しかし、自身では「スコアこそ、自分でも驚く好成績」と言うが、その実は優勝した試合以外は本意の試合展開ではなかったのだという。意外な事実がそこにはあった。

「初戦早明浦ダム(4位)は初日1位から徐々に落ち、桧原湖戦(6位)は2位から…。七色ダム戦(5位)は表彰台に上がれたとはいえ、上位とまるっきり勝負になってなかった…。何より悔しかったのは、最終戦の霞ヶ浦(14位)です」

年間暫定首位で最終戦を迎えた北選手は初日7位の好スタートを切って暫定2位の五十嵐選手に水をあけ、2日目こそ単日32位とスコアを落としたものの、最終日には単日12位と再び気を吐いて総合14位へ。最終的に5ポイントまで差を縮められたものの、下馬評通りに2016A.O.Y.の栄冠を勝ち獲ったその戦いぶりは、観る者に訴える迫力があった。目に見えないプレッシャーという敵に踊らされず、勝つべくして勝ったとも言える結果だった。

「でも、自分の魚を追うことができていなかった…。もっと簡単に食わせることができる魚がいたはずなのに、難しい魚ばかりを追ってしまった。無理矢理食わせたからバラシも多く、少しカスっているだけに深追いしてしまった。それは本来の僕の釣りじゃない」

その前年、2015年の最終戦は同じく霞ヶ浦が舞台。当時、AOYレースとは遠い位置にいた北選手だったが「失うものがなかった」ためか、最終日に大逆転劇での優勝という形で締め括ったのは記憶に新しいところだ。その試合こそが「ベストゲーム」とも言える展開だったのだという。

「自分の魚を追っていった結果です。何も決め付けず、自由な発想で柔軟に対応できた。去年の野村ダムもそんな感じです。言葉では説明しづらいんですが『考える前に、身体が動く』。フィールドと、魚と一体化した時、自然の流れに乗れた時こそが僕の真骨頂です」

「頑な姿勢で勝てるほど、3日間の長丁場は甘くない」

多くの選手は彼を「練習の虫」と呼ぶ。誰よりも多くの日数を練習期間に割き、時に竿を持たずにひたすら魚探を見つめ、時に水中を凝視しながら、早朝から日が暮れるまでフィールド全域を回ることも多い。努力型と呼ぶべきだろうか。そんな外野の声に、彼は異を唱える。

「いや、そんなことないですよ(笑)。僕の場合、(ボートで)浮いていること自体が何も苦ではないだけで、プラクティス(=練習)の期間とはいえ練習だとは思っていない。毎日、魚との駆け引きを楽しんでいるだけです。『この条件ならどこにいるんだ? 見つけてやるぞ!』って。それって、練習だろうと試合だろうと何も変わらないことだと思うんです。この試合だからこう釣らなきゃとかより、自然体かつ柔軟性が大切なんじゃないかなって」

かつては頑なに自分のスタイルを崩さない時期もあった。2006年のTOP50昇格年から3年間、各年間成績は33・42・26位と低迷し続けた。ところが翌2009年にはいきなり2位へと躍進を果たしたのだ。その理由はどこにあったのか。

「最初の3年間、TOP50は勝負しないと勝てない舞台だと思っていました。僕の場合、それがビッグベイト(ジョイクロ)だったので、どの試合でもそればかり投げていましたね。でも、最高峰の舞台は そんな甘くなかった。MAXパフォーマンスを出し切っても単日1〜3位程度で、3日間は続かない…。TOP50という試合スタイルを勉強しながら、身体で覚えていく期間でもありました。もちろん昔も、今もそれは変わりません」

3年間の予備期間、いわば3年ものプラクティスが、今の強い北選手を築き上げたのだ。



五十嵐誠「釣り方、そして生き方。全てはバスが教えてくれた」

いがらし・まこと 2015年に年間2勝の偉業を果たし、ここ数年で一気に頭角を現してきたTOP50トーナメントプロ。これまでに2005クラシックウィナー・2013マスターズA.O.Y.・2015エリート5ウィナーの実績を持ち、TOP50A.O.Y.こそまだ記録していないが2015年3位、2016年2位と頂点に最も近い存在の一人。2017TOP50ゼッケンNo.2 スポンサー:がまかつ、ジャクソン、サンライン、スタジオコンポジット、キサカ、プロショップオオツカ。1985年3月12日生まれ(32歳)、千葉県出身。公式サイトはFiftyStorm(http://www.bassguide.jp/makoto/)

一方、昨季の年間2位、五十嵐誠選手の過去の成績を振り返ってみよう。北選手から遅れること2年、2008年にTOP50昇格。奇しくもそこから同じく3年の間、年間成績は25・24・29位と低迷した後の2011年に6位と躍進。以来、常に上位をキープし続けているのはご存知だろう。やはり3年間は、試合スタイルを覚える予備期間だったのだろうか。

「いえ、実は…青臭い話なんですが…その頃、頑張る自分を見せたい相手がいたんです。アルバイトを必死に続けながら何とか試合に出続けた3年間。そんな矢先、参戦4年目を迎える冬…そうですね、今くらいの時期(取材時は3月初旬)です。もう何もやる気が起きませんでした…」

この年、プロガイドとして本格的に開業したにも関わらず、どうしても釣りに身が入らない出来事がプライベートで起きてしまった。「立っているのもつらいほど…」と、メンタルのみならず、フィジカルにもソレは大きく影響を及ぼし始めていた。

「こんな状態では3日間を戦うことはできない。試合の時は、他のことは一切考えず、魚を釣ることだけ、それだけを考えようと自分に言い聞かせたんです。この年(2011年)、本当はもうTOP50を辞めようと考えていたんです。ところが、思いの外、好成績を出すことできて…。今思えば、この年が転換期でした。当たり前のことですけど『一番大切なのは、魚を釣ることだけ』なんですよね」

奇しくも釣りとは別のアプローチから、釣りの本質を見出すことへと繋げた五十嵐選手。谷あれば山あり。どん底から這い上がった者の強さは計り知れない。釣りはメンタルスポーツと呼ばれることも多いが、まさにその通りなのだと頷ける。

「年間何位を獲るだとか、あと何グラムで上位に入れるとか、自分はどう見られているのかとか、試合が終わったら何をしようとか、そんなことって、魚からしたらどうでもいいことなんですよ。『今何をすれば魚が釣れるか』。そこに自分の力を100%注ぎ込むことこそが大切なんです」

身も心も満身創痍ながら、微かに動く脳の片隅でふと考えたのがバスの生き方だった。

「動物、いやバスの生き方って幸せだなって思ったんです。もちろんツラいこともあるだろうけど、生き物として理想的な生き方がそこにあるなって思ったんです。水温が下がった、ならば温かい場所へ行こう。水が濁った、相手に悟られずに食える。流れが出た、カレントに負ける小魚を食える。全てをマイナスではなく、プラスにする方法を常に考えているんですよ。僕もそれができたらいいなと」

逆境を糧にして身に付けたポジティブ思考が今の五十嵐選手の強さの一因となっていることは間違いない。

「全てはバスが教えてくれました」

低迷の3年間以降、6・9・12・7・3、そして2位。残すは頂点のみ。いつそこへと辿り着いてもおかしくない存在だ。

「確信を持ってやり切る釣りが、また1つ僕を強くする」

昨季を振り返ると、五十嵐選手は桧原湖メジャー戦3連覇という偉業を成し遂げたことは記憶に新しい。TOP50レギュラー戦で2年連続、その間に挟まれた2015エリート5を含め、いずれも次点を寄せ付けぬハイスコアでの圧勝。北選手が4年連続で年間1勝の記録を更新中だが、五十嵐選手も2年連続でそれに続いている事実も見逃せない。しかし、印象に残った試合をと尋ねると、意外や意外、北選手と同じく最終戦霞ヶ浦戦を挙げたのだった。

「皆さんに『桧原湖の五十嵐』『スモール戦の五十嵐』と知っていただけたのは非常に光栄です。ですが、僕的に一番強く印象に残っているのは、最終戦です。結果的に北さんには負けてしまいましたけど…その前年とは違う、確かに成長した自分がそこにいました」

思い返せば悪夢の2015年最終戦。第4戦終了時点で暫定2位に約30ポイントもの差を開き、A.O.Y.確定とさえ囁かれた五十嵐選手がまさか、ま・さ・かの陥落…。背後から忍び寄る青木大介選手に、栄冠を奪われたのはTOP50史上でも稀に見る大逆転劇、いや彼にとっては悲劇だった。

「昨季は北さんと10ポイント差での最終戦、今度は追う立場で迎えました。その前年は自分が追われる立場で28ポイントをまくられたので、これは可能性がなくはない。むしろ、あるなと」

自身の前年のミステイクに引きずられることなく、まるで他人事であるかのように客観視している点にも注目。またひと皮むけた五十嵐選手がそこにいる。

「誰もが知るように北さんは強いし、なかなか逆転は厳しいだろうと。でも、できる限りのことはしよう。そう意気込んだ試合だったんです。普段、僕は意気込まないんですけど『勝ってやる!』という思いが強く出た試合でした」

プラから初日、そして2日目。活路が見えない中でも明らかにでかい魚が反応したのはスピナーベイト。微かな糸を手繰り寄せ、何とか予選を通過することに成功。しかし、まだ北選手には届かない。

「残り1日しかない。『もうゼロでもいいから、でかいのを狙う! 絶対に諦めない!!』とスピナーベイト1択で押し通しました。結局、追いつかけませんでした。けど、途中何度も折れそうになりながらも普段はやっていなかった試合の戦略を組んで、手応えを掴むことができたのは僕の中で収穫です」

また1つ「やり切る!」という強さを身に付けた五十嵐選手。2015年3位、2016年2位。1つ1つ階段を上り続けてきた2017年は、やはり最上段がふさわしいだろう。

青木大介・小森嗣彦・福島健——2人の強敵は共通。

最後に2人が「強敵」として挙げたのが、やはりというべきか、タイトルホルダーの3選手だった。昨季の各選手の成績は、北&五十嵐に続き、小森3位、青木4位。一昨季は、青木A.O.Y.、2位小森、4位福島。常に彼らを脅かす存在であることは間違いない。

北選手

「意識しないようにはしているが、やはり常に釣る選手は気になってしまう。ツアーが始まってしまえば、誰が上位に行くかではなく、誰が落ちていくかという厳しい現実が始まる。だからといって、守りに入るわけにはいかない。自分のゲームを続ける」

五十嵐選手

「北さんと小森さんは、試合に対して用意周到型。僕とは別のタイプだと思っています。福島さんも型は異なりますが、また別。青木さんは僕と同じく、その場を見て感性で捕らえていくタイプだと思っています。本人に言ったら怒られそうですが(笑)。同じタイプの人に負けるのは本当に悔しい」

次回は、打倒北&五十嵐、タイトル奪還に燃える3選手に突撃インタビュー。はたして今季、どんな意気込みでシーズンを迎えるのか。次週までしばし待て。

*なお、JB TOP50の大会及び会場の詳細はNBCNEWSを参照。



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