小森嗣彦「5強時代。彼らと競らなければ、僕に勝ちはない」
2017TOP50プレビューの最終回は、いよいよTOP50最多A.O.Y.ホルダー”V3チャンプ”の小森嗣彦選手が登場。ここまでの2回(その1・その2)も歯に衣着せぬ舌戦が繰り広げられてきたが、今回はさらに濃厚なコメントが各所で飛び出すので心して読んでいただきたい。
まずは小森選手のこれまでの華やかなる戦績を振り返ろう。
1998年にJB東北プロシリーズ(現JB桧原湖シリーズ)でA.O.Y.を獲得して、翌99年のワールドシリーズ(現TOP50)昇格権利を獲得。ルーキーイヤーこそ45位と低迷したが、以降14・11・12・9・30・11・13・13・2・1・1・32・1・18・11・2・3位の高水準をキープしているのは知られるところだろう。最高峰シリーズ通算18年間のキャリア、生涯平均スコアは12.7位と高アベレージをマークしている。数字を見る限り、年間2位を獲得した2008年以降の快進撃は特筆すべき出来事だ。
小森嗣彦(以下、小森)「正直な話、あの年までは年間(=A.O.Y.)を狙っていなかった。『あわよくば』程度に考えていた結果、2位になっただけ。ただ、あの年を境目に『絶対に負けたくない!』という思いがより強くなりましたね」
2008年と言えば、小森選手とファンタジスタ・チームメイトのアノ選手が初めてA.O.Y.を獲得した年だ。前回のプレビュー、ラストで”挑発”とも取れる発言をしたアノ選手。この年以降、ブルーとパープルは互いを強く意識し始めたのは言うまでもない。これまでの戦績は、TOP50A.O.Y.に関しては2対3でパープルの勝ち越し。ただ、他のビッグタイトルではブルーがやや優勢だ。
小森「一昨季(2015年)が年間2位、昨季(2016年)が年間3位。前回僕がA.O.Y.を獲った2012年以前であれば、どちらも、いやどちらかは(A.O.Y.を)獲れていたはず。なぜ2位だったのか、なぜ3位だったのか…。獲れていないのが不思議でならない。”敵”が確実に強くなっていることを認めざるを得ない…」
“敵”とは、もはや青木大介選手だけではない。そう、ここまでのプレビューを読んできた方なら既に頭に思い浮かべているであろう強豪たち。北大祐・五十嵐誠・福島健、そして青木を含む4選手のことだ。本来であれば、現時点でV4もしくはV5を達成して、後続選手との差をさらに拡大していた可能性もあった。
しかし、”敵”は小森選手の行く手を阻む。
小森「誤解を恐れずにいうならば、今のTOP50は『5強時代』。自分をそこに含むのはおこがましいが、この5選手がA.O.Y.レースをリードしているのは間違いない。かつてのようにブッチ切りで勝つことは至難の技。必ず彼らと競らなければもう勝つことはできない」
「5頭のサメが泳ぐ海」。サバイバルゲームを制するのは…
小森「トーナメントとは、どんなに自分で最高のパフォーマンスを出せたと思っても、試合を一人だけでやっているわけではない。常に、同じ場所、同じ時間に敵がいる。先に挙げた4選手はもちろん、各戦で必ず伏兵が現れる。釣りのテクニックだけではない、ハイレベルの駆け引きがそこにある。彼らを越えなければ勝ちはない」
TOP50とは、国内最強のおよそ50選手による3DAYSバトル(*1)。全ての選手をマークすることなど不可能に近い。やはり件の「4選手を強く意識」して自らの戦略を組んでいるようだ。
*1
TOP50の前身・JB最高峰ワールドプロシリーズは少数精鋭の頂上決戦として、32選手で1997年にスタート。2005年にTOP50と名称を変更した当初は50選手のみに限定。以降、一時は70選手余りまで膨れ上がるも、今季2017年は53選手に落ち着いた。なお最高峰シリーズは今季で20周年のアニバーサリーイヤーを迎える
小森選手は「手の内を明かすようですが…」と前置きして、各選手と今季はどう戦うのかを語り始める。実に興味深いコメントを引き出すことができたのでご覧になっていただきたい。
なお、各選手に対する”宣戦布告”コメントに添えたはこの9年間で算出した平均スコア(*五十嵐選手が今季でTOP50参戦10年目のため)。なお、小森選手の9年間の平均スコアは7.88位。5選手中2番手となる数字だ。
【VS青木大介】
小森「DSTYLEというメーカーを始めて今年で5年目ということもあり正念場にある、と思う。社長業とトーナメントプロを両立する中で、付け入る隙を見せれば僕に勝機はある。とはいえ、その実力はズバ抜けているのはご存知の通り。彼と頂点を狙う一騎打ちになった時、自分がベストのコンディションで迎え、絶対に獲り損ねないように気を付けたい」
【VS北大祐】
小森「(3日間の試合を)まとめる力はもちろん、今最も自信を持って釣りをできている一番の強敵。仮に、彼がスコアを落とした日の翌日、どうリカバリーしてくるのかに注目したい。昨季A.O.Y.を獲っているから、今季は…という甘えが出た時こそがチャンス。彼の背後から、常にプレッシャーを与える存在であり続けたい」
【VS福島健】【VS五十嵐誠】
小森「青木と北は全5戦を高値安定で仕上げてA.O.Y.を狙う試合巧者であるのに対して、怖いのがこの2選手。常にルーキーのようなモチベーションで、5戦全勝をガチで狙ってくる。勢いそのままに首位をさらわれる危険性も高い。ただ、その一方でムラっ気がある選手とも言えなくはない。5人のうち、唯一TOP50A.O.Y.のタイトルを持っていないのが五十嵐。獲ったら祝福しますよ。ただ、そう簡単には獲らせませんけどね」
4選手との心理戦。一見華やかなトーナメントの舞台裏には、目に見えない無言の戦いが存在する。試合を終えた表彰台の壇上では時に笑顔を見せて結果を語る彼らだが、決勝最終日の帰着までは他者を寄せ付けない威圧感さえ漂わせるのは、おそらくはそうしたメンタルゲームが繰り広げられているからだ。
小森「例えば自分が首位に立ったとして、背後から4選手が猛追してきたら…どうですか? 例えるなら、そうですね…人食いザメがいる海を泳いで逃げるようなものですよ」
記者の脳裏にはふと映画JAWSのテーマが鳴り始めた。優勝という岸辺まで無事に辿り着けるのか。ほんの僅かな迷いが泳ぎを止め、その鋭利な歯に身体をズタズタに斬り裂かれてしまうのか…。
小森「誰が生き残るのか。サバイバルゲームですよ。そんな部分にもぜひ注目してほしい。誰がどんなに追い続けても『食われない小森』、今季の僕は怖いですよ(笑)」
5強の一挙一動に、初戦から釘付けになりそうだ。
「日々トーナメント!!」。2017シーズンは既に始まっている!
既報の通り、今季のツアーは福岡・遠賀川(4月7日〜9日)を手始めに、山口&広島・弥栄ダム(6月2日〜4日)、奈良・七色ダム(7月7日〜9日)、福島・桧原湖(9月8日〜10日)、茨城&千葉・霞ヶ浦(10月20日〜22日)の全5戦でトレイル。
小森選手は全5戦のうち、はたしてどの試合に注目しているのか。やはり昨季圧倒的スコアで優勝を果たした七色ダム? そこでの2連覇を目論んでいるのだろうか。
小森「いや、七色ダムでは勝てないと思いますよ。去年と同じパターンはもう通用しない。全選手が知ってしまった以上、2度は通用しない。もちろん常に勝つつもりで、全力で戦いますよ。周囲からは僕が注目される一戦でしょう。けど、僕的には最も注目していない一戦です」
大型スクールのみを狙い撃つ、いわばハンティングの様相を呈した昨季の上位陣。初日から「ギアを1つ上げて」挑み、現行TOP50フィールドにおける最重量ウェイト・7355グラムを記録して、終始リードのまま単独ゴールしたのが小森選手だった。レギュレーションがかつてのポイント制ではなく、最終日ウェイト制となった現在、初日の時点で暫定2位に2キロ以上の差を開けたことが後続選手のやる気さえをも削いだ。
完全なる戦略勝ちだった。
昨季のハイライトとも言える一戦だったが、意外にも2連覇への意気込みはそう強くはない。となると、エレキ戦かつ久々の開催フィールドとなる弥栄ダムに注目しているのだろうか。
小森「いや、そこについても何も考えていません。敢えて言うなら『釣れる亀山ダム』ですから。普通に釣って20位、何かを見つければ10位、優勝は時の運。まだ準備も何もしていない、というのが正直なところです」
余裕のコメント。自身がオフシーズンに行うガイド業の舞台、千葉・亀山ダムと同じくエレキ限定のフィールドは、規模に多少の差こそあれ「恐れるものは何もない」のだという。
これまで03年と07年に開催され、10年ぶり3度目の最高峰戦フィールドとなる弥栄ダム。5強のみならず、どの選手も気にかけざるを得ない一戦だが、ここにも注目はしていない…。
残るフィールドは3つ。では、どこに…。
その回答は、記者の耳には届いた。しかし、残念ながら今ここで明らかにすることはできない。今回のプレビューは世界に発信される。他言無用…。
小森選手の名言に、こんな言葉があるのをご存知だろうか。
「日々トーナメント!」
小森選手の2017シーズンは既に始まっている…。
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*JB TOP50 2017年のスケジュールはJB/NBC公式サイトを参照してください。
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