ズイール編の第1回はゲーリーウィッチ、第2回はアライくんと、ズイールの名作ルアーを紹介してきました。
ほかにも、ペンシルべイトの神的存在・テラーや、中空フロッグのレジェンドともいえるカスタムフロッグなど、傑作ルアーはまだまだあります。
しかし、個別のルアーだけではなく、ズイール創業者・柏木重孝さんが日本のバス界に残した革命的な功績は、ほかにもたくさんあるのです。
例えば、フローターですね。現在では完全に主流となっている、大口径バルブ&PVC素材を採用したフローターを発明したのは、何を隠そう柏木さんなんです。しかも、ズイールのフローターは、極めてシンプルでクールなデザインでした。
そんな柏木さんの起こした革命の中でも「チマチマ」は、最大のものではないでしょうか?
チマチマとは、チマチマした小さなトップウォータープラグのことです
僕がズイールの存在を知ったのも、チマチマがきっかけでした。
「なんだこれ、ちっちゃくてかわいいプラグだな~、ちゃんと動くのかよ? ゲ、こんなに小さいのに1600円もするの?」
正直そう思ったし、ほとんどの人が同様な印象を持ったことでしょう。
一生買うことはない。あのときはそう思いました。
今でこそ、ヒット作をリリースした後に、ダウンサイジングモデルを出すのは、日本のルアーメーカーの常套戦略です。
しかし、ズイールがチマチマを世に出した時代は、ルアーを小さくしてバスを釣ることが「かっこ悪い」とされていたのです。
たとえ釣っても、
「そこまでして釣りたいか?」
「そんな小さいバス、釣って楽しいか?」
と非難されたりしました。
それに、当時のトップウォーターは5/8オンスと1/2オンスが基本だったのです。3/8オンスが最小のサイズだったといっていいでしょう。ベイトタックルでは、それ以上に軽いプラグを投げるのが難しかったという事情もあったと思います。
そんな常識を打破したのがチマチマでした。チマチマシリーズは基本が1/4オンスです。柏木さんは、それをスピニングタックルで使うスタイルを提唱したのです。「チマチマ5」という専用のスピニングロッドまで作りました。
チマチマの威力を目の当たりに!
僕が柏木さんと知り合ったのは、91年か92年。
そのちょっと前だったと思いますが、地元の津久井湖でこんな出来事に出くわしました。
そのとき、津久井湖の上流には多くの見えバスが泳いでいたのですが、僕はそれをなかなか仕留めることができずにいたのです。
すると、高校生くらいの男の子がぶらりと現れて、瞬く間に10尾ほどのバスを釣ったのです。まるでカツオの一本釣りのような、ワンキャストワンヒット状態。
彼は短いスピニングロッドで小さなトップウォーターを投げていました。そう、僕が一生買うことはない……と思ったあのチマチマでした。
「これがチマチマの威力か!」
その釣れ方も凄まじかったのですが、それ以上に驚いたことがあります。
それは、非常に楽しそうだったのです。
見ている僕も「俺もあの釣り、やってみたい」と思いました。「そこまでして釣りたいか?」なんていう感情は、どこからもわいてきませんでした。
その後、柏木さんと知り合った際、この話をすると、柏木さんは嬉しそうに次のような話をしてくれました。
柏木重孝氏(以下柏木)「デブチン、それこそチマチマの神髄なんだよ。もともと俺がチマチマを作った理由は、ただ単に小さなルアーで釣りたいからじゃないんだ。トップウォーターって難しいイメージがあるでしょ? でもさ、小さいバスを相手にチマチマを使ったら、簡単に釣れちゃうのよ。これを広めれば、多くの人にトップの楽しさをわかってもらえるだろ?」
チマチマに込められた深いメッセージとは?
実際、チマチマはトップウォーターの普及啓発に大きく貢献したと思います。そして、柏木さんの構築したチマチマ哲学には、更に深い意味が隠されていました。
柏木「ウルトラライトのスピニングロッドに、細い6ポンドのラインを使えばさ、20センチ級の魚でもそこそこ引きを味わえるんだよ。これで35センチとか掛けた日にゃ、もう50アップに匹敵するスリルとサスペンスでしょ? 普通のタックルで50アップを釣るのは難しいけれど、チマチマで35クラスならしょっちゅうかかるからね。だから俺は専用のロッドまで作ったのよ」
これは、釣りの核心を突く言葉でした。釣りは相手が200キロのマグロであっても、1グラムのワカサギであっても、その楽しさは同じですよね? その引きに合うタックルがあれば、十分楽しめるのです。
一見、軽薄そうに見えるチマチマですが、実は違う。その深層にはあらゆる釣りの本質を問うような、フィロソフィーが流れているのです。
そして、最後に一言。
チマチマの威力は今も衰えていません。そして、実はとんでもないビッグフィッシュハンターでもあるのです。
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