鯛めし・湯霜づくり・味噌漬けの”鯛づくし” ~天然真鯛と格闘した4日間の記録〜【釣り師のレシピ】



釣りを愛してやまない、釣りPLUS読者のみんなにどうしても聞いてほしい話がある。少しばかり長くなるかもしれないが、つきあってくれないか?

それはいつものBarからはじまった

連休最終日、俺は行きつけのバーで一杯やりながら、翌日から始まる仕事の日々への物憂い気持ちを酒の酔いでやわらげていた。

そこへG1で万馬券を当てたという常連がやってきた。ガサゴソと買い物袋を漁るとスーパーで買ってきたという一匹の真鯛を取り出す。先日、酔っぱらって店でそそうをしてしまったワビの印に買ってきたのだ、と店主に渡す。

どうすんだよコレ。「今が食べ頃! ! 旬」のシールがまたイラっとする

万馬券もあいまって、お祝い気分はけっこうなことだが、生もの、しかも一尾丸ごとの鯛を渡された者の面倒くささたるや……この壊滅的なセンスの無さ。

店主も気の毒だが、こいつも相当気の毒な男だ。

あいにく店主は翌日から連休。店では鯛を受け取れないと断る。
「かわりに、つのさん持って行ってくださいよ」と、鯛は俺のところに回ってきた。
祝いものを無碍に断ることもできず、持ち帰って酔ったままさばく羽目に。

すでに買い出しもすませ、飲みながら明日の献立を思案して決めていたのだが、これで全て練り直しってことさ。

「今が食べ頃!! 旬」と印字されたシールがなんとも腹立たしい。

あの夜、一番気の毒な男は俺だったわけさ。

こうして俺の長い4日間は始まった……

1日目 夜  鯛をさばく

さて軽く酔ってはいるものの、その日のうちに処理しておかなければ傷みが早くなる。なんにせよ労働は尊いものだ。

さて、真夜中に鯛をさばくとするか。

阪神大逆転勝利、単独首位のデイリースポーツで気持ちを紛らせる虎党の俺だった

ウロコが飛び散り、血で流しが汚れるのを防ぐために新聞を広げる。せめてもの慰みに、阪神タイガースの勝利を伝える新聞を使う虎党の俺だった。

カマを残す形で頭を落とす。
腹骨をそぐ
カブト割りは口から包丁を入れる。開きの状態にしてから半分に割るとやりすい
ちくしょう、さすがに酔ってて写真がブレる

頭を落とし、腹を裂き、ワタとエラを取り、三枚におろして、腹身を削ぐ。
頭はカブト割りに。

各部位ごとにクッキングペーパーでくるみ、ラップしてジップロックで冷蔵。

血から雑菌が繁殖して臭みを発する。痛みはワタとエラから始まる。捌いてキレイにして冷蔵すれば、2~3日は大丈夫。血はペーパータオルなどでしっかりふき取っておこう。

終わったのは深夜0時過ぎ。やれやれ、連休最終日の物憂い夜にやるには間尺にあわない仕事だ。

2日目 夜  湯霜づくり&アラと切干し大根の煮物&味噌漬け

湯霜づくり

連休明け、なんとも気だるい気分だが初日の仕事を終え帰宅。
前日にさばいておいた鯛の半身を湯霜づくりに。

上身・下身に切り分け中骨はとっておく。この中骨の部分は鯛飯やアラ煮に利用するから捨てない

上身・下身に切り分け、中骨の部分を取る。

皮目を上にしてザルにのせる
ペーパータオルをかけ、身にはお湯がかからないようにする
皮に熱は入っているが身は生のままだ

そして皮目を上にして、沸騰したお湯が身にかかからないようにサッとかける。
そして身にまで熱がまわらないうちに水で冷やしてから刺身にする。

湯霜づくりのかわりに、バーナーで軽くあぶっても美味い

熱が加わった皮目の脂と食感。一晩寝かせいい具合にこなれた白身の甘さ。さばく時は忌々しい鯛だったが、そんなササクレだった気持ちを懐柔するかのような官能的な味わい。

一晩寝かせてこなれた白身。湯霜づくりにした皮目の食感とあいまって何とも官能的な味わい

これをアテに一杯やりながら、背骨と腹身のアラを使って次の料理を。

アラと切り干し大根の煮物

切り干し大根と切昆布を水で戻す(20分ほど)。

水で戻したらザルにあけて水切り。旨味を逃がさないように軽く絞る程度でいい

鍋に水、酒を入れて煮立たせたらアラを入れてアクをとりながら煮る。火が通ったら取り出して、身と骨に分ける。もう一回、骨だけ戻して煮たたせてさらにアクをとりながらダシをとる。

アクをしっかりとろう
身を取り分けたら骨をもどしてさらにダシをとる

骨を取り出したら、ニンジン、水切りした切り干しと昆布を入れて煮る。

あせるな。味付けはこの時は醤油だけ。

煮ているうちにある瞬間、グッとニンジンと切干から甘味が出てくる。その後でミリンを入れて甘味を調整しないと甘ったるい煮物になってしまう。

火が通ったら火を弱め、ほぐした身を加えて軽く煮たら完成。

煮詰まってくると切り干しとニンジンからグッと甘みが出る
身をくわえたら弱火で軽く煮る

鯛のダシを十分に吸っている切り干し。噛むと旨味が染み出てくる。暖かいうちもいいが、冷めて煮凝りになったやつもたまらない。

手間を惜しんでいては、この味にはありつけない。

味噌漬け 

醤油・ミリン・酒を1:1:1の幽庵焼きにしても美味しい

さて、残りの半身は今夜のうちにさらなる保存処理を。味噌・ミリン・酒を1:1:1で溶いたものに漬けて味噌漬けに。これは翌日、焼いて食べる。

終わったころには、またもや午前様。やれやれ、連休明け初日の気だるい夜にやるには、またもや間尺にあわない仕事さ。



3日目 朝  鯛の頭で鯛めし弁当

眠い目をこすりながら早起きして、弁当用に鯛の頭で鯛飯を作る。

薄口醤油は米1合に対して大サジ1が目安。酒と昆布も加えて炊く
身と骨をとりわけ、昆布も細切りに。こうしてる間にご飯もいい感じに蒸らされる

薄口醤油と酒で味付け。昆布と一緒に炊きあげる。

炊き上がったら鯛を取り出して、身と骨を取り分ける。昆布も細切りに。そうこうしているうちに米もいい感じに蒸らされる。サックリと混ぜたら完成。

切り干しの煮物も加えて、鯛づくし弁当の完成だ。昼飯時はサラリーマンのオアシス。

手をかけた分だけその潤いも増すってもんさ。

鯛めしには彩りもかねて青ネギを。三つ葉や大葉もいい。
切り干しとアラの煮物
インゲンは茹でからチクワとともにすりゴマとポン酢であえる
玉子焼きはノリ巻きに

3日目 夜  味噌漬けを焼く

長かった鯛との戦いもこれが最後かと思うと、名残り惜しい気持ちになるのも不思議なものだ。
味噌漬けにしておいた鯛を焼く。

我ながらいい焦げ目に仕上げた。

味噌が焦げやすいので、焼く時には余分な味噌は落として、弱火でじっくりと焼きあげる。

これをツマミに、鯛との別れの盃を。

4日目 朝  名残りの鯛弁当

味噌漬けと切干し煮の残りを弁当のオカズに。

味噌漬けは冷めても美味しい。
切り干しとアラの煮物のラスト。
レタスとニンジンとチクワをガラスープの素で中華風の煮びたし
インゲンとトマトとツナを玉子とともに炒めたやつ。バジル少々

駆け足で話してきたつもりだが、ずいぶんと長くなっちまった。
みんなも疲れただろうが俺もひどく疲れた。

別に俺は料理自慢をしたかったわけじゃないし、苦労話を聞かせたかったわけじゃない。

釣果を行きつけの店に持ち込んだり、近所にお裾分けするときには、相手のことをよく考えろなんて説教じみたことを言うつもりもない。

何が言いたいのかって?

そろそろ肉が食いたいって話さ。

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