去る7月10日、埼玉県入間市に流れる霞川にて、日本釣振興会と入間川漁業協同組合(以下漁協)との共同事業として「オイカワの産卵床づくり体験会」が開催された。地元埼玉県の釣具メーカー関係者(マルキユー、モーリス)や埼玉県の水産課職員なども参加しての取り組みの模様をレポートする。
「オイカワの産卵床づくり体験会」開催
はい、HFE(Hyper Fishing Editor、自称)のフカポンです。ハイパーすぎて地元の川の漁業組合員だったりもします。肩書は何だっけな? そう、「総代」です。総長とかそういう類でエラいです(嘘です。微塵もエラくない末端です)。そんな川の漁協員として最近の某「池の◯なんちゃら〜」への苦言方々、実際に漁協が行っている内水面事業の取り組みや経験からの現実的、効果的提案をぶっこんでみたいと思います。総長らしく!(違)
なぜ、オイカワの産卵床づくりが行われたのか。
川の漁業組合には、もともと遊漁などの対象になる魚の増殖や管理義務が課せられており、これらの産卵床設置の取り組みは、そもそも漁業組合としては主要な事業のひとつとも言える。
今回、増殖対象となったオイカワは入間川水系の在来種として自然繁殖している背景もあり、これらの魚が増えることで、釣りファンへの訴求はもとより、河川環境を健全化しようという目論見もあるのだ。
ちなみに、産卵床設置場所として選ばれた埼玉県入間川支流の霞川は、狭山茶として有名なの茶畑を縫って流れる小川だ。湧水が豊富で、水温・水質が安定しているのが特徴。また、この支流にはアユなどの放流もないことから、この川の在来種としてオイカワが残っているのだ(入間川水系霞川のオイカワは遺伝子学的に在来種として確定している)。その貴重な固有群を増やそうというのが大きな目的のひとつでもある。
[あまり大きくは取り上げられないが、「アユの放流」は稚魚となるアユを他水系から移入することが多く、それにより本来その水系にいなかった魚種などが混入し、定着するなどの事象が各地で見られる。東北のオイカワなどはこういった放流事業により移入定着した経緯がある。アユが放流されていない=固有種が守られるという皮肉]
オイカワの場合、水深は5〜30cm、流速毎秒30cm以下、泥に覆われていない直径1〜2cmのキレイな礫と細かい砂の川底に産卵する。産卵の適水温は18度〜。産卵のピークは20〜23度ということもあり、湧水が多く水温が安定する霞川は環境的にうってつけでもある(※梅雨時期と秋口の年2回の産卵が確認されている)。
産卵床の設置ってどうやるの?
今回のイベントでは2種類の産卵床造成方法が採用された。ひとつは「川耕し」による造成と、産卵に適した砂礫を人為的に配し、オイカワの産卵に最適な環境を作り出す方法だ。
その1:川耕し
「川耕し」はその名の通り、産卵に適した水深、流速のある川の瀬の川底を文字通り鍬などで耕し、細かな砂礫を掘り起こし整える方法だ。その際に川底からでてきた大きめの石は、耕した場所の少し下流に集めて”止め”を作り、細かな砂礫を造成した部分から産卵された卵が流れ出さないようにする。
その2:(より)人為的に産卵床を造成
人為的に産卵床を造成する方法もさほど難しくない。あらかじめ畳一畳分程度のスペースを想定した木枠を作り、それをオイカワの産卵に適した場所に沈める。そして、木枠は川底の石などを利用し仮止めする。そこから、その木枠内に用意した直径1〜2cm程度のきれいな礫を敷き詰める。最後に、川耕し同様に下流部に少し大きめの石を配置し卵が流れ出ないように”止め”を作っておく。大人10名程度が集まれば1〜2時間程度で作業が終了する。
駆除よりも河川環境を整える取り組みを増やすほうが良い
入間川漁協武蔵野支部で理事を務める吉田俊彦さんはこう語る。
「入間川には外来魚はもとより、カワウなどの鳥が在来魚を脅かしています。漁協や行政の取り組みとして、それらを駆除する事業もやらざるを得ないのですが、感触として駆除そのものにはあまり効果が見られない。むしろ、今回のオイカワの産卵床の造成などはほんの一例ですが、「川の環境を整える」ことこそ魚を増やすという側面では効果があると考えています」
この入間川漁協で行われている取り組みや考え方については、いずれ筆者が記事にしたいと考えている。特に各地で問題になっている「カワウ」の駆除のスタンスと、ブラックバスなどの外来魚に対する考え方は非常に先鋭的だ。
世間では「外来魚などは悪」というステレオタイプな風評が蔓延し、それらの生物の”駆除”がまるでエンターテイメントのように取り扱われている。それらの取り組みすべてが悪いとは思わないが、ただ一方向の考え方だけがクローズアップされ過ぎていることについては不安を禁じ得ない。
「駆除だけが川の生態系を守る方法ではないんですよ。それは川の自然に絶えず触れている我々だからこそわかることでもあるんです。いや、駆除以上に効果がある方法を我々は知っています」(吉田さん)
メディアに属する一員としても、いち漁協員としても、川の生態系を守るという漁協ならではの取り組みを今後も追いかけたいと考えている。