10月12日(金)〜14日(日)、茨城県・霞ヶ浦を舞台に開催されたJBトップ50第5戦「がまかつCUP」が無事終了。秋雨と冷たい風が季節を深め、気温とともに水温の低下も著しかった週末の3日間。国内最高峰の手練れ達をもってしても、固く閉ざされるバスの口をこじ開けるのは非常に困難な状況だった。そんな中、予選暫定2位から決勝に挑んだ江口俊介選手が、2008年以来となる5つめの栄冠を勝ち獲り、真の完全復活をアピールした。一方、気になるA.O.Y.(=年間チャンピオン)の行方は、第3戦後から首位を走り続けた早野剛史選手が順当勝ち。来季から再編成されるトップカテゴリーの新時代を予見させる結果となった。
DAY3決勝を控え「勝算はある」の言葉通り、見事に優勝へ
DAY2終了後、予選を暫定2位で決勝DAY3へと挑む江口俊介選手と密談。DAY1を5尾5500グラムと今大会2番目のビッグウェイトを持ってきたのにかかわらず、DAY2はリミットが揃わず4尾2040グラム。なぜ半減したのかを聞くためだ。すると、話は急展開した。
江口「明日は絶対イケると思うんですよ。なぜなら…」
天候や水中の状態は当日、その場に着いてみなければ判断はできない。にもかかわらず、江口選手は満面の笑みを浮かべ、コンフィデンスに溢れた表情でその根拠を語り始めた。
話の詳細は省くが、この瞬間なぜか「江口俊介、逆転優勝ブンボカン!」のルアーマガジン本誌の見出しが頭に浮かぶ。その場で決勝DAY3の同船アポイントを取り付けたのは言うまでもない。
決勝当日午前7時、予選順位通りのフライト順=2番でスタート。ものの数分で着いたのは土浦新港からほど近い流入河川・桜川。ルールに則り河口からデッドスロー走行で、上流方向を目指す。トーナメントエリア内のデッドエンド、下流から橋1本目の直前でエンジンオフ。エレキを下ろすや即座にパワーポールをボトムに刺してボートを固定した。
江口「今日1日、ここでタコ粘りです」
7時10分から、帰着13時に滑り込むべく安全マージンをとった12時45分までの5時間35分。パワーポールが桜川の湖底からほぼ抜かれることはなく、眼前にある狙うべきスポットを集中攻撃。ファットウィップ5インチのネコリグとプロセンコー5インチのジグヘッドワッキーを軸に、「大ちゃん(=青木大介選手)に1個だけもらった」という小型クランクをスパイス的に投げ続けた。
結果は、3バイト2フィッシュ。1ミスは帰着40分前のこと。活気付いたシャロー側に気づき狙いを定めるや即バイト。弓なりのレイドジャパンプロト59UL-STで船べりへと寄せる姿に少なく見積もってもキロフィッシュを想像させたが、ファイト半ばでまさかのフックオフ…。
終了間際にたびたび発生する勝ちドラマの逆パターンなのか…。この瞬間、霞ヶ浦のどこかでライバル選手に連打を浴びせられているのか…。そんな悪夢も脳裏をよぎった。
絶対に負けられない戦い。”気持ち”が引き寄せた逆転勝利
江口「完全に終わったなと。優勝は逃げていったなと…」
DAY3霞ヶ浦の高くて厚い壁は、江口選手だけでなく多くの選手の前にも立ちはだかっていた。国内最高峰選手によるプレッシャーが高まり、公式プラクティスを含めれば5日目の霞ヶ浦。日に日に気温、水温が低下の傾向にあった霞ヶ浦。決勝進出した30選手中、ゼロ申告が8選手、5尾リミットメイクがわずかに1選手という異例の事態であったことを後に知ることになる。
江口「今年3度目の優勝争い。絶対に2番手じゃ終わりたくない。絶対に勝つ!」
ランチングからスタート直前までの数分間、心に誓った言葉を何度も繰り返す。この夏の別取材で出会った江口選手が「弱音は絶対に吐かない」と語っていたことを思い出す。言霊がその身体を支配していたのだろう。江口選手の背中から負のオーラを感じることは瞬間たりとも皆無だった。
江口「勝つと思えなかった今日の試合展開。でも、気持ちでは誰にも負けちゃいなかった」
この日、釣った数こそ少ないが、1尾目は1500クラスのキッカー、そして2尾目は700グラム前後のアベレージサイズ。2フィッシュ2220グラム、まずまずのウェイトを持ち込んだ。暫定首位だった福島健選手は1尾1314グラムと落ち込み、655グラム差から251グラム上回る逆転劇を演出。強い”気持ち”が勝利を呼び込んだと言えそうだ。
前戦の不釣で暫定10位まで落ち込んだ年間レースも、今戦の優勝で年間3位まで回復。上位5選手で競う、年末総決算戦のエリート5への出場権も同時に獲得。A.O.Y.こそ獲り逃したが、こちらのタイトルに賭ける意気込みも誰よりも強いはず。その奮闘に大いに期待したいところだ。
2018トップ50 A.O.Y.は早野剛史! 2つめのビッグタイトルを獲得し、残すはJBクラシック制覇
今戦プレビューでは、A.O.Y.レースの行方は暫定首位・早野剛史と7点差で追う暫定2位・藤田京弥の2選手の攻防、そして背後から忍び寄る18点差の暫定3位・黒田健史選手の三つ巴戦と予想。
12日(金曜)に本戦が始まるや、トップ50恒例とも言える”魔の最終戦”が3選手の身に降り注いだのは言うまでもない。
DAY1、黒田選手がロースコアでまさかの戦線離脱。京弥選手が単日9位に対して、早野選手は16位。その差は7点と、予断を許さない状況。
DAY2、予選2日間トータルウェイトで、早野選手が9位へと盛り返し、京弥選手は15位に。しかし、その差はわずかに750グラム。1尾で1500クラスも珍しくない霞ヶ浦だけに、最終日、最後のウェイイン結果が発表される瞬間までギャラリーの熱い視線は注がれた。
京弥「7点差で最終戦を迎え、早野さんが総合7位(=44点)。結果的に考えると、僕が優勝(=50点)していたとしても勝ち目はなかった…」
マジック7位が点灯していた早野選手は、自力で見事にA.O.Y.の座を獲得。たとえ京弥選手が優勝していたとしても6点差。7点差の溝を埋めることはできなかった。トップカテゴリー初参戦年かつ最年少、マスターズとのダブルA.O.Y.獲得のトリプル記録の夢は途絶えたが、京弥選手は気持ちを入れ替え、その目は早くも残す試合と来季へ照準を合わせている印象を受けた。
早野選手は第4戦終了後の約1ヵ月、最終戦に向けてのプリプラクティスを通常より長期間を充てたことはもちろん、日常生活でもストイックさを増し、トーナメント人生のすべてを賭けてきた。2つめのビッグタイトル、トップ50 A.O.Y.の証となる巨大トロフィーを手にした瞬間、それまでどこか固さがあった表情も溶け喜びを爆発させた。
早野「2015年くらいから成績が振るわず、心身ともに弱りかけていた自分を追い込むために、昨年2017年に茨城県へ引っ越してきた。『3年計画で絶対に日本一になる』と決めて今年で2年目。ひとつめのトップ50 A.O.Y.はこれで達成できました」
日本一を示すもうひとつの巨大トロフィーは、クラシックウィナーの証。トップ50選手の場合、年間上位15選手が出場権を得るため、もちろん今季は出場。11月3日(土)〜4日(日)の2日間、山梨・河口湖を舞台に開催予定だ。
早野「今年はクラシック、そしてエリート5がまだ残っている。どちらも今年と来年で絶対に獲りたいと思います」
もはや王者の迫力さえ漂わせ、見事にA.O.Y.の座に輝いた早野選手。今後の動向に要注目だ。
年間上位には、第2位に京弥選手がランクイン、第3位には今戦優勝の江口選手、第4位には同じく準優勝の福島選手と、ともに古豪が反撃の狼煙を上げ久々の年間上位へ。また第5位には昨季エリート5の覇者・山岡計文選手が滑り込んできた。今季も実力者揃いで実に見所多いエリート5は完全非公開戦。日程及び開催地は不明。2019元旦、釣りビジョンで放映予定だ。
今シーズンはまだ終わっていないが、早くも来シーズンが待ち遠しい国内最高峰JB トップ50シリーズ。来季は、今季話題となった選手がまたしても上位に名を連ねるのか、それとも新たな役者が現れるのか。
今戦の詳細および来季の展望については、10月26日発売の『ルアーマガジン』本誌でご確認いただきたい。
*大会結果及び順位表はJBNBC公式サイトNBCNEWSで