さて、小社の釣人包丁「鯵切」の発売が近日中に迫っていますが、そんなこと(プロモーション)よりまず、堺打刃物ブランドが製造を得意とする、今回の和包丁がどのように作られたのかを解説させてください。いや、すごいんですって。ちょっと熱くなって長くなりそうなので、それだけはご了承くださいませ。
前回【その1 堺打刃物】はこちらから
超・一流の職人さんが作っとります!
なるべく、凝縮して語りたいので文字数を抑えるために、端的に書いていきます。まず、今回の打刃物は堺でもトップクラスの職人さんに打ってもらっています。
鍛冶、研ぎ、柄付など、職人さんをまとめてもらっている「源正守」さん曰く、職人さんでもそれぞれに癖があって、先代は良かったけど、現職はイマイチだとか、逆に先代はダメだったけど現職は良いとかいろいろ界隈にはあるようなんですよね。
「いやぁ、今回お願いしてるとこは、全部一級やで。江渕さん(鍛冶屋)とこなんてNHKとかから取材もきてはるし、この前はマツコの番組でも出てたな。堺界隈でも、特に忙しい鍛冶屋さんや」
そうなんです。海外のバイヤーからも注目されていて、指定で鍛冶の注文が入るそうですが、基本は取りまとめている源正守さんのような包丁屋さんの注文からこなしていくので、数年待ちのバックオーダーなんてザラにあるようなんですよね。それが今回お願いしている鍛冶屋さん「江渕打刃物製作所」だったりします。
赤めて、鉄と鋼を貼り合わせ、打って、冷やして、鍛えて、整えて。
包丁の材質の話をし始めると、それだけで記事が終わってしまいますので、今回の包丁に使用している鉄と刃金(鋼)の話だけをさせてもらいます。
和包丁、いや包丁の刃の部分には刃金(鋼)が一番なんです(きっぱり)。
追記:本製品には安来鋼 白紙2号を使用しております。
源正守「包丁ってその刃先を顕微鏡とかで見ると、細かいノコギリ状になってるねん。だから和包丁は引いて切るねんな。この細かいノコギリ状のピッチというか組織がな、刃金(鋼)が一番なんや。他の材質やとな、それがマチマチなんや。細かすぎたり、荒かったり。ええか、包丁の刃ってのはな、硬かったらいいとか、単純に鋭利やったらいいちゅうもんじゃないねん。ええ塩梅の刃金(鋼)の硬さや材質ってのがあるんや。それを、調整できるんが職人や」
包丁は基本的に、柄があったり、様々な形があり、その形状を整える必要がありますから、包丁全体が刃金(鋼)だと、固くて加工がしにくいこともあり、加工をしやすい鉄と合わせてやるんですね。
当然、江渕さんところではコークスを赤めて、その鉄と刃金(鋼)を接着し、鍛えて、形を整え包丁の原型を作っていきます。
江渕「鉄と刃金(鋼)の接着のためにコークスを約1000度ほどに熱します」
それ、温度計か何かあるんですか?
江渕「目加減や。季節、湿度、温度で変わるからな、目加減で必要な温度に達しているか調節する。その加減が大事なんやで」
なぜコークスでやる必要があるんですか?
江渕「簡単に言うとな、包丁に必要な刃金(鋼)の硬さや粘りちゅうのは、含まれる炭素量などで変わってくる。電気で赤めるのは簡単やねんけど、もともともってる炭素量が10やとしたら、熱するだけで、8にも7にもなるんや。コークスでそれを調整したら、その炭素量が減らへん」
こんなコダワリはひとつだけではない。赤めて叩いて伸ばした刃を、どのタイミング、どの温度の水で冷やすか。できあがった地金を、冷間鍛造してどのように形を整えるか、鍛えるのか……。その工程は20を遥かに越える。打つ刃物の形によって、叩くハンマーは変えなければいけないし、その加減も……。
そんな手間隙かけて作られるので、包丁となる原型が1日に作られる本数は10本〜20本程度なのだという。
江渕「もう、40年こればっかやってます。今が、一番、技術的にも精神的にもピークかもしれんね」
ぉぉぉう。職人として熟成しつつあるタイミングで今回の包丁ができてるわけですね……。感謝。
鍛冶屋から上がってきた、包丁の原石を直して、研いで、磨いて……
さて、次は研ぎです。堺の包丁の研ぎの技術は特に注目されていて、今回お願いした、「中村打刃物製作所」の中村さんは、研ぎ1本で30年以上のキャリアの持ち主。
中村「まず、上がってきた包丁の原型なんですけど、基本的に鍛冶屋さんも腕がいいので、原型として素晴らしいんですけど、鉄ですからね。少し置いといたら歪んだり、曲がったりする。それを直す作業をします。この工程を入れて、直して、磨いた包丁はそうそう変形したりしません」
細かくわけると、これまた20以上の工程で切れる包丁に仕上がっていくわけですが、大きく分けると4つ。「荒研ぎ」、「本研ぎ」、「仕上研」、「バフがけ」。
包丁を研ぐときには、一度に同じ型、サイズの包丁を作業していかなければ、実は非常に効率が悪い。専用の研型(枠)のようなものを誂えて使用していくため、最初は出刃で、次は柳刃みたいな作業は仕事として効率が悪い。そんな手間隙がかかるので、やはり、1日で作業できる本数は多くはない。
ちなみに、今回の鯵切包丁は、いままでにない型なので、その研型(枠)から、わざわざ整えてもらい、仕込んでもらったものなのだ。
源正守「あ、ちなみに研ぎやけど、プロの料理人でも、わかってないやつがおるんやで。これは基本やけど、和包丁は全部、刃が付いてる方だけ研ぐんやで。凹のついている「ひ」の側を研ぐ人がいるんやけど、それはもってのほかやからな」
おっと、手入れについてもちょっと追求しなければ……。ちなみに、「ちゃんとした」和包丁は、家庭で使う程度であれば1年はちゃんとした手入れや研ぎをせずとも切れ味が持続するそうだ。
彫りと、柄付け
今回、販売する包丁には「鯵切」の銘と、「源正守」の刻印、そして購入者の「名」が掘られる予定。これも堺の専門の職人さんにお願いすることになっている。それを担当してくださるのは「堀亀商店」さん。この彫りの速度と技術もすごい。
堀亀「だいたい1本30〜60秒で仕上げるかなぁ」
それを下書き無しで、黙々と仕上げていくのだ。
柄付は「辰巳音松商店」。柄に使っているのは高級な包丁に使われる水牛と朴の木。
辰巳「水牛も使ってるこのひとつ、一頭でとれる数、いくつやと思います? 2〜4個ですよ」
へ?? こんなにでっかい水牛の角なのに、それだけしかとれないの?? 貴重すぎる。
辰巳「これも同じ、色、模様にはならない一点物。まさにワンオフ品ですね!」
さぁ、どれだけ拘った作りになっているかは分かっていただけたと思うので……
はい、販売予定の鯵切包丁は2月20日に注文開始予定。そこで最後の包丁小噺も当サイトで上げさせていただきたいと考えております。
テーマは、なぜ美味しく魚を食べるためには良い包丁でなければならないのか……。ここが大事。
今回の包丁は、高い品質を誇る技術や文化というものは、確かな需要に裏打ちされて成り立っているということを実物で証明できる逸品です。なぜこんなに素晴らしいモノが存在するのかということを手触りで実感していただけるハズ。
会社に怒られそうになるほど経費をかけてPVを作り、ほぼ赤字な勢いで企画がスタートしたわけですが、「堺打刃物」の魅力と日本の素晴らしい食文化や技術について、きっと理解を深めていただけると確信しております。
ということで、そのお話と、今回の包丁のPVというよりは「堺打刃物」のPVやんけと、会社から突っ込まれて、テヘペロした問題作を公開し、包丁の販促に繋げたいと思います(正直すぎダメ)!
乞うご期待!! PVは男子はぐっとくるで!!