今月8日に関東地方を襲った台風15号。その被害は甚大で各地域に及んでいるが、深刻なのは大規模な停電と断水。各メディアが報道しているが、その実情は都市部がメインだ。記者は、湖周辺に住み営業する各レンタルボート屋の状況(9/11時点)を見てきた。
電話が繋がらない。とにかく、必要であろう物資を積むだけ積んで現地へ向かう
9月8日から9日早朝にかけて関東地方を戦後最強クラスの台風が襲った。被害状況の深刻な千葉県では大規模な停電、断水が起こったというニュースを耳にした記者は、お世話になっている各ボート店に連絡を取ってみたが繋がらない。
千葉県都市部での悲惨な状況が報道されるなか、まったく情報がないレンタルボート屋の現状を知るために、必要になるであろう物資、災害ボランティア用具、もしものときのサバイバルグッズ、電気機器などを積むだけ積んで被災現地に向かった。
印旛沼
まずは、野田市方面から柏市、我孫子市を抜けて印西市にある印旛沼へと向かった。歩道に倒れた竹や枯葉が散乱していたところはあったが、11日午前の時点では若干の渋滞があったくらいで、平常時とさほど変わらない様子。冠水している場所、交通規制などにも遭遇しなかった。
そこまで苦労はせずに無事に印旛沼へと到着。沼の状況を見てみると、台風直後よりもだいぶ水位が減っていた。
■アサヒナボート
実をいうと、2週間後にルアーマガジンモバイルの取材でお世話になる予定だったアサヒナボート。台風当時の被害状況は閉口してしまうほどに悲惨なものだった。
現地に着いてさっそく伺うと、社長を含め常連さんが午前中の復旧作業を終えたところだった。
「当時は本当にどうなることかと思いました。こんな経験ないですから。でも、近くのコンビニも営業しているところがあって生活にはそこまで困らなかったのが不幸中の幸いです。また、ボートはすべて回収し終えたんで、なんとかレンタルボート屋として再開の目途も立ちました。来週のチャプターも、2週間後のルアマガさんの取材も台風さえ来なければ行えますよ。電話が繋がらないので、一般の方のボートの予約を含め状況をお伝えできないのが不安ですね。出来るだけ早い普及を待ち望んでいます」
アサヒナボートが迅速な復旧作業ができたのも普段お世話になっている常連さんたちがボランティアとして活動してくれた功績が何よりも大きい。未曽有の災害が発生したときに、最終的に助けてくれるのは『人』だということを今回の訪問を通して改めて実感した。打ち合わせをして、次の地へ向かった。
南千葉の被害
印旛沼を離れた後、佐倉市、千葉市、市原市と南下していき君津市へと向かった。目的地は、房総半島の湖だ。亀山、片倉、三島、豊英、高滝など、多くの人気フィールドを抱える房総半島。レンタルボート屋も数多く営業している。ニュースではあまり報道されない山間部の地域はいったいどうなっているのであろうか。
全面通行止めによる交通規制や倒木による侵入不可。横転した大型トラックや崖から落ちて道をふさぐ自家用車。破壊されたビニールハウス。何メートルも飛ばされた大型看板。混雑するガソリンスタンド。写真に出そうと思えばキリがないくらい非日常の光景が記者の目に映る。自身も通行止めを食らい、だったら抜け道を利用しようと細道に入ったのが失敗した。ぬかるんだ獣道を進んだ先に倒木により足止め。どうすることもできず、バックで100メートルほど戻って難を逃れた。走破性があまりない自家用車で走るのは危険そうだ。
亀山湖
スマホは圏外でナビも電話も使えない。車のナビを確認しては何度も道を変え、予定していたよりも数倍の時間をかけて何とか亀山湖のトキタボートに到着した。こちらも、印旛沼と同じで11日午後時点で平常時のフル満水の水位であり、湖面は一見落ち着きを取り戻しているように見える。
■トキタボート
ちょうどご主人がボートハウス前のベンチで休息していたので話を聞いた。
「いやあ、ホント今回の台風はヒドイね。電気と水が全くダメで、熱いのにクーラー付かないわ風呂に入れてないわ。バッテリーのチャージなんかも勿論ダメで、ネットや電話も繋がらないからブログで情報も伝えられないし、予約やらなにやらできない状況です。でも、常連のお客さんが結構物資持ってきてくれて助かってます。さっき湖見たと思うけど、何艇か浮いてますよね。バッテリー含めエレキを持ってきたお客さん限定で営業を再開しています」
桟橋も当時は大変なことになっていたらしい。
「見てもらったらわかるけど、船外機付きのボートが桟橋の上に上がってるでしょ。台風でああなりましたが、もう使えないですね。今度人が多く来てくれたタイミングで手伝ってもらおうかと」。
台風15号が残した爪痕はあまりにも大きい。
のむらボートハウス
続いてのむらボートハウスへ向かい、ご主人に話を伺う。
「ウチは立地が低いからか、水は何とか出て大丈夫だった。でも電気がないからさ、冷凍庫とかクーラーとか効かないからたまに車に入って涼んでる状況だよ。洗濯をしに木更津方面まで降りて行ってるからね。桟橋は台風翌日は縦に折れちゃって。さらに発泡体(画像下)があるところまで増水していて一時はどうなることかと思ったね。2日間でなんとか平常時の満水位まで戻ったけど」
「台風以前に予約してくれたお客さんとかに連絡できないから来てもらった分にはボート出してるんだけど、トイレは使えないし、食事とかも自分たちで用意してきてくれないと何もない。だから、兎にも角にも電気が使えないと本来の営業には戻れないね。情報が全く手に入らないから不安」
本格的な営業再開は電気が復旧しない限り厳しいようだ。
おりきさわボート
最後に向かったのはおりきさわボート。日が暮れ始め、当日の復旧作業は終わって屋内でご主人が涼んでいた。
「ウチは船外機付きの救助船も全部やられて、ボートもけっこうダメになっちゃったし、桟橋もお見せできる状態じゃないです。営業復帰はまだしばらくかかるかな。心配で物資を持って訪ねてきてくれた人たちには感謝ですね。電話やネットが通じなくて、予約について情報を発信できないことがつらいですね」
アングラーに伝えておくことは?
「もし、亀山湖に遊びに来てくれた方は、ウチでもウチ以外のボート屋から出たとしても崖付近や細い筋には立ち入らないで。崖が今水を含んでいていつ崩れてもおかしくない状況で大変危険です。釣果を求めて細い筋に一人でボートで行って被害に遭ったら私たちもどうすることもできないですから」
三島湖
ともゑボート
亀山湖での状況確認を終え、最後に三島湖に向かってみる。国道465号線が一部通行止めのためいったん南下して房総スカイラインを使ってもう一方の道から南下していくと何とか三島湖に辿り着くことができた。
辺りは薄暗くなってきたが、普段とは異なり街頭や家の明かりが一切ないためその暗さが際立ってくる。唯一の明かりは走行している車だけだ。ともゑボートに着くと家の中は真っ暗だったが、記者の車に気がついたおかみさんが出てきてくれて話ができた。
「こんな台風生まれて初めて。ウチもまわりも停電と断水が続いてます。ひとり暮らしのおばあちゃんがいるんだけど、オール電化だから何もできない。食事とか届けて様子を見に行ってるんだけど、早く復旧してほしいですね。こんな状況だから、営業再開はしばらく厳しい。それでも、連絡がつかないで状況が分からず来てくれるお客さんもいますが、降下機が作動しないから荷物の運搬を自分たちでやって船を出してもらっていますが大変ですよ。水が流れないからトイレ問題もあるし。完全復旧してからぜひ遊びに来てほしいですね」
街灯の点かない荒れた夜道を帰りながら、取材したボート屋の方々の声に思いを馳せて胸が痛む。東京電力は11日夕方に記者会見を開き、台風15号による千葉県内の停電は約40万軒に上るという見通しを発表した。全面復旧は13日以降になるとういう見込みだが、千葉全域のできるだけ早い完全な復旧を望む。
また、各レンタルボート屋でお世話になったことがある方はボランティアとして復旧の手伝いに行ってみるのも良いかもしれないが、くれぐれも迷惑だけはかけないようにあらかじめしっかり準備しておきたい。電気が動いていないうちは氷や水、非常食などが喜ばれそうだ。また、その際は車の運転は十分に気をつけよう。
最後に、釣りをしたい気持ちもわかるが、まずは各ボート屋の現状を知って欲しい。ともゑボートは電気が復旧次第ホームページにて再開予定日を伝えるとのこと。他のボート屋も、まずはブログが更新されるのを待つのが良いだろう。