ジャンボバズベイトとダブルスウィッシャー…ひとつのトップウォータープラグができるまで【マツモトカズヨシ】



ルアーには名作中の名作と呼ばれるものが数多くあります。そのひとつが通称ゲーリーバズことジャンボバズベイト(ゲーリーインターナショナル)。デッドスローで引けるうえに、サウンドと飛沫で誘うという現代バズベイトの必須要素を持って生まれた傑作です。トップウォーターオンリーのブランドを立ち上げた男が、ゲーリーバズに惚れ込み、ひとつのプラグを作るまでの過程を寄稿してもらいました。ちなみにそのプラグ、製作は2008年でした。



【Profile】
マツモトカズヨシ(松本一良)
トップウォータープラッガー御用達ブランド『ブライトリバー』を藤原雄一氏と立ち上げた御仁。飽くなき好奇心で、ヴィンテージタックルや文献を掘り下げる。文化財レベルの職人を口説いては厄介なオーダーを通し、唯一無二のアイテムを生みだし続けている。

バズの威力を持つプラグ

バズベイトの威力ってすごいですよね。まっすぐ引くだけでバスを惹きつけてしまう、その威力が欲しかったのです。トップウォータープラグしか使わない私は、沈んでしまうバズベイトを使えない。浮くバズベイトを作ればいいんだ、というアイデアがラリーチョッパーを生み出したのです。いつものことですがアイデアはシンプル、作るのは大変だったのです。

ジャンボバズベイトと少年・松本

ゲーリー・ヤマモトさんのゲーリーバズ(ジャンボバズベイト)との出会いは衝撃でした。
私がブラックバス釣りを始めた1980年ごろは、情報も道具も少ない時代でした。総合釣り雑誌の一部に紹介されたルアーの記事と、釣具屋さんに並ぶルアーがすべてでした。

ジャンボバズベイト(ゲーリーインターナショナル)。水面でペラを攪拌させバスを誘う。当然ながら止めると沈んでしまう。

私が住んでいた兵庫県の加西市にはルアーを置く釣具屋さんが2軒しかなく、子供の足で通える店は、ヘラブラ釣りの道具を主に扱っていました。ルアーは、とりあえず並べている程度の扱いです。それでも私にとっては宝物。おこずかいの範囲でほしいものを選ばなければなりません。
とはいえ現実は一番安いものしか買えないのです。
でも、ルアーやリールがある空間にいたくて朝から晩まで粘りました。

まだ、バズベイトやスピナーベイトは登場していませんでした。
スプーンやスピナー、まっすぐ泳がないナイロンパッケージに入ったミノーなどが多かったのです。雑誌で見るアメリカのルアーは1000円以上して子供のお金では買えなかった。

釣りに行けるのは近くの川か、野池です。藻が多くて釣りにくいし、水深が浅いのです。
釣り雑誌は関東の情報が多かった気がします。みなさんダムでブラックバスを釣っているのですね。だからディープダイバーが多く紹介されました。子供の私に判断能力はありません。底にひっかけて何度も泣きました。みんなどうやって使っているのだろう、と真剣に悩みました。

記録魚を釣り上げたバズベイト

その後、スピナーベイトを見つけます。電車で遠くの釣具屋まで行ったのです。これぞ、私が望んだルアーの完成形だと思いました。よく飛ぶし、藻の間を通しても引っ掛かりません。深いところも浅いところも引くことができました。
一生、これだけでいいのではないか、とも考えました。

しかし、沈むルアーは無くなるのですね。無くなると電車賃を使って遠くの釣具屋さんへ行かなければならない。これは子供にとって大きな問題でした。
この時代は50センチを超えるブラックバスがとても珍しかったのです。
突然、加古川の平壮湖で63センチのバスが釣れたという情報が駆け巡りました。ルアーはバズベイトだという。バズベイトを知らなかった私は大きく動揺しバズベイトを何としても手に入れなければならないと考えました。

ゲーリーが生みだした究極のカタチ…この構造はパテントを取っている。最近ブラックカラーがリリースされ、バズベイトフリークを狂喜させた。

そこで出会ったのがゲーリー・ヤマモトさんのバズベイトでした。
見た目はショボかった(失礼!)のですが、バズべイトの威力に驚きました。藻の上を引いても問題なく、ルアーが無くなりません。まっすぐ引くだけでバスは狂ったように飛び出しました。
なにより、その姿がはっきりと見えるのです。
興奮しました。
一生、これだけでいいのではないか、と思いました。



リリース第1弾は何にすべきか?

30年たって、私は新しいルアーブランドを立ち上げました。
まず何を作ろうかと考えた時、浮かんだのがゲーリーバズでした。沈まないバズベイトを作れば、止めてバイトを待つことができるようになる。誘いの幅がいっきに広がるぞ、と興奮したのです。
これまで何度も浮くバズベイトは作ったことがあります。アメリカのフレッドアーボガスト社の作品でスパターバズがありました。

スパターバズ-Google検索

スパターバズはボディーの前にバズベイトのプロペラ(ブレード)が装着されています。プロペラ部分はワイヤーで構成されており、ボディーの先端にあるヒートンに接続するようになっています。おそらくですが、ヒートンだけで構成した場合、使う最中に曲がってしまったのでしょう。

釣り人が怒るのはゲームの最中にルアートラブルで使えなくなることです。また、ボディーの破損を恐れたのでしょうね。開発者の工夫が感じられるデザインです。これはいい、と真似てみました。サウンドは最高だし、フッキングした魚がバレにくい。究極のルアーができた!と喜びました。

しかし、問題が発生しました。
ポーズで先端パーツが沈むのです。ルアーの動きを止めると先端パーツが沈み、次にプロペラが回転するまでにタイムラグが出る。狭いエリアで多くのアピールを加えたいトップウォータープラッガーの使い方にはフィットしませんでした。さらに、先端パーツが沈むことによって藻を拾ってしまうことがありました。藻を拾った状態で引けば絡まりペラが回転しなくなります。

次に考えたのが、ヒートンを太くすることです。ボディーを長くすれば、先端が沈むことがないだろうと考えました。想像よりもコンパクトに作ることはできたのです。見た目もいい感じ。ついに究極のフローティングバズができたと喜びました。

しかし、問題が発生しました。
早く引けばボディーが回転します。ゆっくり引けばいいのですが、ボディーに制限スピードを書くわけにもいかないし、そもそもリールにスピード表記がないので無理ですよね。
さらに私の気質がありました。
バズベイトでも岸ギリギリに投げるのです。当然、岩などに当たる機会も増えてしまいます。するとヒートンを差し込んだ部分が割れてくるのです。ボディーに岸際注意と書くわけにもいきません。



ひねりを加えたスウィッシャーペラ

次に考えたのがバズペラを使わない方法です。
オザークマウンテン社のウッドチョッパーやポー社のエースインザホールがありました。これらはダブルスウィッシャーなのですが、プロペラが立体構造をしています。そのプロペラの構造がバズベイトの構造と同じように見えたのですね。

ミズーリ州生まれのウッドチョッパー(オザークマウンテン)。ほぼ水平浮き。

早速テストすると、バズベイトと同じ系統のサウンドがする。これだ!と。プロペラの構造を調べると真鍮素材でできている。コストの関係で選ばれたのでしょうが、素材の重さからサウンドが小さくなっている。さらに、ポーズの後の動き出しが遅い。
素材をアルミにすれば改善するだろうとアルミ板をはさみで切って試作を繰り返しました。立体構造を大きくとり、プロペラの長さや幅、ひねり具合を変えました。ぶつけた時の衝撃もある程度、吸収させる必要がありました。アルミの素材をジュラルミン系の素材に変え、アルマイトメッキをかけることで表面硬度をアップさせました。

エースインザホール(ポー)。ポーの製品らしくボディーにはセダーウッドが使われている。

ヒートンもステンレスで作り、太さを変え、強度のバランスを見つけていきました。強すぎると重くなるし、ボディーに衝撃を伝えすぎてウッドボディーが割れてしまいます。また、早く引いてもボディーが回転しないように前後でプロペラのひねり方向を逆にしました。これは金型費用が倍になるため、相当に悩んだ決断です。
一方、テストする中でボディーの浮き角度がサウンドに影響を与えることがわかりました。再度、ヒートンの太さと長さのセッティングに逆戻りです。ボディーシェイプの見直しも必要でした。内部のウェイト調整で解決できるだろうとの仮説は時間をつぶしただけでした。

ラリーチョッパー誕生!

でき上がった試作モデルは、非常にシンプルなものでした。
このモデルでルアーマガジン社のDVD「Brightest River」の撮影に臨んだのです。撮影スケジュールは過酷なものでした。10月から11月にかけての2回の撮影で結果を出す必要がありました。晩秋のブラックバスはどこにいるかわからない。
しかし早速、このバズ効果を持ったダブルスウィッシャーが活躍したのです。

これがラリーチョッパーのペラ。細かな刻印が見事! 前後で逆向きになるように2型を作製。

岡山県の一級河川で撮影を行ったのですが、そこは水深が浅くどこからバスが出てきてもおかしくないフィールドです。映像でもルアーの特徴がわかりやすいように、まっすぐ引くだけで誘うようにしました。
バズ効果を持たせたダブルスウィッシャーは引くスピードを変えるだけで多彩なサウンドを生み出しました。1度目の撮影で魚は釣っていましたがラストシーンに50アップを求められました。2度目の撮影は11月に入っていましたが、初日にこのルアーで50アップを仕留めることができたのです。

ラリーチョッパー(ブライトリバー)。のちにステージ2、ステージ3…と別バージョンも作られることに。

私たちはこのルアーをラリーチョッパーと名付けました。
開発の期間は長く充実したものでした。
その作業はアメリカの開発者がそぎ落としていったものを復活させる作業であったのかもしれません。
ルアーという遊び道具にお客さんが払ってくれる価格を想定した開発であったでしょうから、安い素材を使う必要があったのでしょうし、大量に作るという条件から簡単な構造を考える必要もあったのでしょう。
一方で、ラリーチョッパーの開発はブランドの未来を作る作業でもありました。同時に全く知らないアメリカの開発者との会話を楽しんでいるような時間でもあったのです。
引くだけで釣れるラリーチョッパーはブライトリバーというブランドの定番ルアーとなり、10年を越えた今でも当時と同じ姿で発売を続けています。【了】


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