2020年初春、ロッドメーカー・テンリュウが大人気トラウトロッド「レイズ」をリニューアル。まずリリースとなるオリジナルモデル8機種は「誰にでも扱いやすい」がコンセプトとなるようだ。時折、凡庸に聞こえてしまうこともある「誰にでも」という言葉。でも、新レイズにはトラウトマン・舟木雄一さんのこだわりがギュッと凝縮されていた。来年の発売を前に、ルアマガは舟木さんに徹底密着! 全5回にわたって、新レイズ、そして現在のトラウトシーン、必要とされているテクニックを「ロッドの観点」からお送りしていく。
曲がるロッド「レイズ」が生んだ付加的なメリット
キャスタビリティとアキュラシー。2020年にフルリニューアルモデルとして登場するテンリュウ「レイズ」には、飛距離とキャストの正確性を一番に求めたという開発者の舟木さん。このロッド性能には、瞬間的によく曲がり、素早く収束するブランクスの採用が関係していた。
ウェブ記事第二回目となる今回は、レイズシリーズのカギとなるキャスティングを中心にしながら、汎用性の高いオリジナルモデルについて突き詰めてみたい。
舟木「前回は、ロッドをしっかり曲げ込んで投げることができれば、常に低弾道のキャスト軌道が生まれるという話をしました。曲がるロッドでの釣りには、さらに付加的なメリットが出てきます。それはルアーの選択肢の幅とプレッシャーの軽減です」
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〝いつものルアー〟で釣れない時に浮かび上がる課題って?
現代の渓流トラウトルアーで主流になっている存在が、ヘビーシンキングミノーだ。5㎝で約5g。小さな渓流魚たちが口を使いやすいサイズながら、しっかり重い。キャスティングにものすごい自信があるわけではなくても、比較的よく飛んでくれる。適宜、キャストが決まる。そこで、この類をパイロットルアーとしてフィールドを歩いている〝ビギナー〟も多いはず。
舟木「ウエイトのあるルアーに助けてもらうキャストを間違いだ、とは言いません。ただ、魚のコンディションがヘビーシンキングミノーに合わなかった時に、ちょっとした課題が発生するんですよね」
例をあげて考えてみよう。例えば、アップストリームのミノーイングで全く反応が見られない。試しにミノーを軽量スプーンにチェンジし、対岸から下流に向けてドリフトさせてみる。すると、突然に魚の反応が得られ始めた……実はこれ、よくある話。
実際、これは分かりやすい例であって、フィールドでのルアチェンはもう少し繊細なものだ。プラッガーなら、ヘビーシンキングミノーへの反応が薄い時には、より泳ぎにキレのあるノーマルシンキングモデルやフローティングミノーを選択し、魚の反応とチャンネルを合わせていくことが多い。
そう、課題はシンプル。ルアーが軽くなる、ということ。
タフコンディションの時こそ、飛距離を意識したい
舟木「ビギナーの人によく見られる〝送り込み〟のキャストでは、ルアーを軽くした時に途端に飛距離を稼ぐことができなくなります。そこで、当然ながらポイントに近づいて投げるしかない。でも、置かれているのは〝いつものルアー〟で釣れない状況。だからこそルアチェンを行うわけであって、タフコンディションの中でポイントに近づくのは逆効果になってしまう」
しっかりとブランクスを曲げ込めるロッドは、重さを感じやすく、軽量ルアーでも飛ばすことができる。渓流域で釣りをする場合、舟木さんは重いものでは6g、軽いものになると2.5gまでウエイトを下げて魚の反応を見る、と言う。
舟木「新レイズは従来のシリーズより曲がりを意識し、飛距離アップを実現しました。もちろん、それは10mが20m飛ぶようになったという劇的なものではないですが、1、2mは確実に延びています。ルアーをライナーで飛ばし、ポイント直上でフェザリングを使って着水させる。ぜひ、この機会にひとつ上のキャスティングの世界を感じてみて欲しいですね」
渓流の釣りは、本流にも応用できる。特に入れ替わりポイントに人が入ったり、魚のスイッチが変わりやすい本流域はルアーチェンジが必須だ。
舟木「軽いルアーをディスタンスをとって使えるのは大事なことです。今、使っている6ft10inは中本流用ですが、渓流用の5gミノーが一番扱いやすい竿に仕上げました。ただ、状況によって〝もっと食わない〟という時は、4.5gまで下げて誘うことができる。硬いロッドでは投げにくかったり弾いてしまう。そんな難しい状況を打破してくれる1本だと思っています」
トラウトロッドの潮流が「重く、遠くへ」に向かっている今、舟木さんは別のベクトルでトラウトシーンを見つめ、竿を作り出していた。その観点は「軽く、遠くへ」なのだ。
より難しいフィールドに挑む人に向けた「スペクトラ」
次回のウェブ連載では、ピーキーな新ロッドシリーズ「レイズ・スペクトラ」に迫る。オリジナルモデルよりハリを加えた「スペクトラ」を舟木さんは、なぜ必要としているのか。
これまでの2回の掲載でお伝えしてきた「飛距離」「正確性」「プレッシャー軽減」「ルアーの選択肢」に加えて、そこには〝口を使わない魚〟への対応策が含まれていた。
トラウトタックルは奥深い。ルアー、ライン、リール、ロッドのチョイス。それら全てを含めた「タックルバランス」が1尾に繋がっている。ハイプレッシャー化が進む河川で、思い通りの魚を手にするために。次回の「スペクトラ編」もお楽しみに。