タックルの持ち方は自由だ。アプローチの際の指使いやシェイク時のグリップ、色々突き詰めれば十人十色の理論が存在するはず。習熟難易度の高いスピニングの釣りで、基本ともいえる「グリッピング」を達人10人に伺おう。
持ち方に自信がない…。迷える子羊に救いの金言。
スピニングタックルの扱いは繊細かつ丁寧を極める。だからこそ難しい。そして、ベイトタックルと違ってアプローチの難度も高く、スキルによって差が明確に生まれやすい。よって、スピニングの扱いに長けるか否かで、手にする魚の数も変わるのだ。
事実、過度のプレッシャーが掛かったトーナメントシーンでは、硬く口を閉ざしてしまったバスを釣るための術として、スピニングによる「フィネス」を武器にしているアングラーは多い。
では、どうしたら上手く扱えるのか? そのための基本ともいえる「持ち方」について、達人10人に答えを聞こう。タックルの持ち方は人それぞれ自由だが、達人の解答を参考に自分に合った持ち方を見直すことで、上達への道は開けるかもしれない。
達人に訊く、6つの質問
Q1:何投げ何巻き?
Q2:キャスト時の持ち方は?
Q3:サミングの方法は?
Q4:操作時の持ち方は?
Q5:スピニングでキャストを決めるコツとは?
Q6:たらしの長さのレパートリーは?
※持ち方の呼称について
本項では人差し指を起点にリールフットに掛ける指の本数を「〇フィンガー」とする。例えば、指三本をフットに掛けるならば、「3フィンガー」とする。
Case of 青木大介
【Profile】
青木大介(あおき・だいすけ)
国内のビッグタイトルを総なめし、本場アメリカに渡った正真正銘のバスプロ。フィネスの名手としても名高い。
A1)右投げ左巻きです。
A2)基本は2フィンガーかな。
青木「距離を出したり、持ち代える余裕があるときは2フィンガー。サイトやフィネスメインの場合は3フィンガーです」
A3)人差し指でスプールエッジにビタ止めします。
青木「右手の人差し指をスプールエッジにビタ止めして、着水点を調整す時だけ使います」
A4)ほぼ3フィンガーでブランクタッチ。
青木「操作もしやすく、力も入りやすいバランスです。ワームの釣りはほぼこの握り。シャッドなどの巻きモノでは操作より安定感を重視するので2フィンガーにしますね」
A5)技術は練習あるのみ(笑)
青木「キャストを決めるだけではなく、静かに落とすことも重要な要素。だからできるだけ低弾道で、狙ったスポットより、奥を狙うつもりで、最後にサミングすること必要ですね」
A6)基本は20~30cm。
青木「遠くに投げたいときだけ50センチくらい、以上!」
Case of 伊藤巧
【Profile】
伊藤 巧(いとう・たくみ)
米国のB.A.S.S.エリートシリーズで戦う、若きロードランナー。隙のないオールラウンダーだが、パワーフィネスなどのスピニングも得意。
A1)右投げ左巻き!
A2)8割3フィンガーです。
伊藤「サミングコントロールを駆使するのでこの握りがマスト! あとタックルの重心が握り手より後ろ側に来るのでバランスが良いですね」
A3)中指の平を使います。
伊藤「一番長い指なので、初速を抑えたりの微調整がしやすいです。あと、ピッチングの時は人差し指で糸を掴まず、中指でスプールエッジを抑えた状態から投げて、サミングもします。ベイトっぽく投げられるので圧倒的にキャストが決まりますよ」
A4)3フィンガーのブランクタッチ!
伊藤「操作性だけでいえば理想はフルフィンガー。でも、力が入りにくいので操作性を兼ね備えた3が基本。プラグの場合はアワセ方が変わるので2フィンガーで優しく持ちます」
A5)中指サミング試すべし!
伊藤「A3でも話をした中指サミングでかなり変わるはず。あと、ピッチングで距離が伸びない人は構えるときに手首を左に捻って、リールを上にした状態から投げてください。びっくりしますよ(笑)」
A6)基本は20~30cm。
伊藤「遠距離とスキッピングをさせるときは60~70センチを使うくらいです」
Case of 折金一樹
【Profile】
折金一樹(おりかね・かずき)
房総のスーパーロコにして、亀山湖の敏腕ガイド。H-1グランプリで2度のA.O.Y.を獲得するなど、実力派折紙付き。スピニングによる「オリキンフリップ」はまさに神ワザ。
A1)右投げ左巻きですね。
A2)1フィンガーです。
折金「手首のスナップが使いやすいのと、掌のクリアランスが確保できるのでグリップエンド側を振りやすいんですよ」
A3)左手でする派です。
折金「オープンウォーターや軽いリグではほとんどサミングしませんが、近距離など勢いを殺す必要がある場合は左手の親指で放出されているラインをパラパラと触れて調整します」
A4) 3フィンガーの(ブランクタッチ)なしです。
折金「重心のバランスが良いです。操作がしやすいし、フッキングも素早く行えます。フルフィンガーだと、エンド側の力が入らないのでリールが安定しなくなります。ブランクタッチはメリットを感じてないので、気分でしたり、しなかったり…」
A5)「ロッドに仕事させること」です。
折金「スピニングに限らず、ロッドをテイクバックでしっかり曲げて、その反発でキャストすること。ロッドに仕事させることで、毎回同じように決めることができます」
A6)12~13cmが基本です。
折金「軽いルアーや、ダウンショット、キャロなどは垂らしをリーダー以上長くすることで、キャストしやすくなります。逆にたらしを短くすることはありません。ロッドが使いにくくなるので」
Case of 奥田学
【Profile】
奥田 学(おくだ・まなぶ)
「ロボ」の異名を持つ、生粋のでかバスハンター。通称「陸王スピン」と呼ばれる7ft4inの長尺スピニングロッドを巧に操ることで有名。ロングシューティングの名手でもある。
A1)右投げ左巻きやね。
A2)2フィンガー。バランスがいいんもんで。
A3)琵琶湖ではせんね。ビシッと決めることがほとんど。
A4)2フィンガーのV字持ち。
奥田「シェイクの時はできる限り力を抜いて握りたいもんで、中指をリールフットに掛けるV字持ちがええね。だるだるのシェイクでいいアクションが出るよ。巻きの釣りは普通の2フィンガー。ワームの釣りと違ってアワせの余裕がないからね」
A5)剣道の「面」と同じなんだわ。
奥田「ロッドをまっすぐ振ること。テイクバックからリリースまでロッドがブレないように投げれば、確実にまっすぐ飛んでいくはず」
A6)ロングシューティングでは60cmくらいやね。
奥田「通常で20cmくらい。あとは軽いルアーなら長め、重いルアーで短くするぐらい。ロングシューティングは長めにとって回して投げるね」
Case of 金森隆志
【Profile】
金森隆志(かなもり・たかし)
現場主義をモットーに常に進化し続けるオカッパリマイスター。ストロングからフィネスまで高次元でこなし、独自の目線で岸釣りシーンを変えてきたエポックメーカー。
A1)右投げ左巻きだね。
A2)1フィンガーです。
金森「手首の可動域が広く、スナップが一番効く。昔持ち方とかいろいろ悩んでいた時期もあったけど、『やりやすいのが一番』という俊ちゃん(江口俊介さん)の言葉に救われたました!」
A3)人差し指でフェザリングします。
金森「スピードと着水点のコントロールは右手の人差し指で。ミスキャストなどの緊急時は左手でスプールを抑えますね」
A4)ドラ〇もん持ち!(笑)
金森「フィネスな釣りではフルフィンガー。僕は『ドラ〇もん持ち』って言ってますが(笑)。やっぱり精度の高い、繊細な操作がしやすい。メタル系のリフト&フォールなどは、手首のスナップを使いたいので2フィンガーで持ちます。どちらも人差し指はブランク乗せです」
A5)アキュラシーが出る距離を知ること
金森「よく使うルアー、リグでのキャスト上限を知ることかな。スピニングは近距離のコントロールが難しいから、気持ちのいいキャスト感を知れば、あとは微調整で済むはず」
A6)下記表を参考に!↓↓
距離とたらしの関係 | たらしの長さ |
遠→長 | 竿の半分 |
中→中 | 40cm |
近→短 | 20cm以下 |
Case of 川村光大郎
【Profile】
川村光大郎(かわむら・こうたろう)
バス釣りに対する飽くなき情熱と探求心で走り続ける、岸釣りのスペシャリスト。スピニングの扱いにも長け、現在は新感覚のスピニングロッドを開発中。
A1)右投げ左巻きです。
A2)あらゆるキャストで2フィンガー。
川村「フェザーリングをするのに、このグリッピングがベストです。すべての指がバランスよく配置されるので、操作もしやすく、フッキングも問題ありません」
A3)人差し指をスプールエッジに当てるフェザーリングです。
川村「指先ならではの繊細な加減と、プタッと止めることで着水点のコントロールも効きやすい。バックハンドでは、左手でサミングできませんから、キャストフォームにも左右されないのもメリットですね」
A4)2~フルフィンガーを使い分けます。
川村「基本は2フィンガーをベースに、繊細な誘いを必要とするほどに短く持ちます。僕がグリッピング時に意識することは、できるだけ『軽く握る』こと。そうすることでラインの緩急をうまく使えます。個人的にはラッパ型のリールシートがどんなグリップにも対応し、軽くにぎれるのでベストです」
A5)タイミングとサミングの感覚をしっかり掴むこと。
川村「ピンスポットに決めるなら、どの角度から振ってもまっすぐ飛ぶリリースタイミングと、サミングの感覚を掴むことですかね」
A6)基本的には一定の長さです。
川村「軽いルアーでは長めに垂らしをとって、遠心力を使う場面もありますが、基本は一定の長さ(約20cm)ですね。リリースタイミングがズレにくいほうが精度出ると思うので」
Case of 小森嗣彦
【Profile】
小森嗣彦(こもり・つぐひこ)
卓越したフィネススキルを武器に、国内最高峰カテゴリー・JBトップ50を三度制したキングオブキング。ガイドではゲストにキャスティングの指導をすることもしばしば。
A1)右投げ左巻きになります。
A2)お客さんには2フィンガーで教えます。
小森「僕の場合、結構グリップはその時々でバラバラなんですね。だけど、ガイドのお客さんには基本形の2フィンガーを勧めます」
A3)僕はサミングしません。
小森「サミングは上手く見えるかもしれないけど、必要のないテクだと思ってます。しないほうが着水の瞬間からラインの遊びができるし、きっちりフリーフォールさせることができるので、釣果に影響すると思います」
A4)強いて言うならば…
小森「ルアーの重さを感じたいときはフルフィンガー、しっかりフッキングしたいときは2フィンガーです。ブランクタッチは必ずします。細い所を触ることで、力加減通りの操作ができ、感度がよくなります。ロッドもブランクタッチ前提にデザインしてますから」
A5)投げたい場所を指さすように投げましょう!
小森「まず、キャストするときラインを指で拾いますよね。それを第一関節より前にしましょう。そして、投げたいスポットを指さすように投げればキャストは決まるはずです!
A6)通常は15cmくらいですね。
小森「あとは狙う距離に対して前後します。遠ければ長く、近ければ短く。ホントに短いときは2cmくらいの時もあります」
Case of 平川征利
【Profile】
平川征利(ひらかわ・まさとし)
デビル平川の愛称で知られる、パワーフィネスの伝道師。そのニックネームとは裏腹に、実に人当たりも良く、懇切丁寧な解説でむしろエンジェル。
A1)右投げ左巻きです。
A2)力の入る2フィンガーです。
平川「僕はキャストの6割以上がピッチングなので、その際に力が入りやすい2フィンガーで握ります。サイドキャストだけは3フィンガーですね」
A3)左手で覆います。
平川「他のみなさんがどんな風にサミングしているのか気になりますね(笑)。僕はやるとしたら左手で覆いますが、基本ほとんどしません」
A4)フルフィンガーのブランクタッチです。
平川「パワーフィネスだと、ティップは基本高い位置に来るので重心が下に来るフルフィンガーがバランスが良く、操作しやすいんです」
A5)釣れた思い出を糧にしましょう!
平川「ここに入れたい! ここに入れたら釣れる! という意識と集中力が大切です。あとはミスキャストしたらすぐ回収しましょう」
A6)ピッチングの話ですが…
平川「スピードのあるシャープなキャストをする場合は短め、高い所からフワッと落としたいときは長めがやりやすいです」
Case of 福島健
【Profile】
福島健(ふくしま・けん)
JBトップ50で常に上位に食い込む実力者で職人レベルのフィネステクの持ち主。開発するルアーの多くはメーカーの枠を越えて多くのアングラーが愛用するほど。
A1)僕は右投げ右巻きなんですよ。
A2)100%、2フィンガーです。
A3)ロッドで勢いを殺します。
福島「サミングは完全に止めたいときのみ、左手で。基本はロッドを振り上げて、キャストの勢いを殺しながら着水点を調整しますね」
A4)フッキング重視なので絶対2フィンガー。
福島「細かい操作をするときは3フィンガーも使いますが、フッキングするときは絶対に2フィンガーに持ち替えます。あとは片方の腕ばかり使うと疲れるので、移動距離の少ない釣りでは右手でシェイク、食ったら左手に持ち替えてフッキングすることもありますね」
A5)速く振り抜きます。
福島「キャストするときはコンパクトかつシャープに射抜く! 飛ばし過ぎるくらいでいいんです。その時はロッドを振り上げて距離を調整します」
A6)通常は30~40cmですね。
福島「短くすることはほぼないですけど、遠距離を狙う時は最大80センチくらいにすることもありますね」
Case of 藤田京弥
A1)右投げ左巻きです。
A2)基本2フィンガーですね。
藤田「19歳の時にどの握りが一番飛んで、精度が出せるか実験しました(笑)。ただ、サイトで急いでるときはフルフィンガーで投げちゃいます」
A3)右手人差し指と左手を使い分けます。
藤田「着水させるだけなら人差し指でスプールエッジを抑えますが、徐々にブレーキをかけていく場合は左手でラインに触れますね」
A4)フルフィンガーのブランクタッチです。
藤田「視点が中指に来るのでバランスも良く、繊細な操作ができます。力を入れずに小指だけで握るイメージです。シャッドなど、抵抗のある釣りは3フィンガーの場合もありますね」
A5)コツというか裏ワザがあります!
藤田「サイドで投げるときはリールを下に向けてキャストしてみてください。伸びが全然違いますよ!」
A6)軽い・硬いは長め、重い・柔らかいは短めです!
藤田「ルアーの重さや竿の硬さやで垂らしは変えます。竿が硬かったり、軽いルアーを投げるときは長め(最大でロッドの半分くらい)、その逆で竿が柔らかいときや重いルアーを投げるときは短め(10~15cm)です」