創業以来、30年以上にわたりルアーフィッシング業界の最先端を走り続けるメガバス。自社製造を行うルアーメーカーとしては国内外有数の歴史を誇り、その蓄積されたノウハウも世界随一。そんなメガバス&アイティオーグループを一代にして築き上げた社長であり、デザイナーであり、アングラーでもある伊東由樹さんに、メガバス製品が釣れる仕組みや理論、名作ルアーの誕生秘話や歴史など、様々なことを語っていただく大型連載です。
【Profile】
伊東由樹(いとう・ゆき)
メガバスを創業し、名作中の名作ルアーをいくつも生み出した天才デザイナー。(財)ジャパングッドデザインアワードでは、200作品を超えるアワード受賞作品をプロデュースするフィッシング/スポーツ用品カテゴリー最多受賞デザイナー。国際的に最も権威と歴史あるIFデザインアワード(ドイツ・ハノーバー)では、日本人初の快挙となる2018-2021年の4年連続受賞デザイナーとして名を馳せる。
漁師町に育つことで体得した「魚を捕る」ことへの深い造詣が融合するアイテムはどれも時代の最先端であり伝統的。もちろん、アングラーとしての腕前も超一流。
前回(第2回)はこちらから
ミノーシェイプのZクランクが欲しかった
1987年のZクランク開発を皮切りに、ルアーの製造を本格化していったメガバス。
1990年にはいよいよ初のプラスチックインジェクションプラグ『BAIT-X』をリリースしている。
そのころから伊東さんは、ルアーの製造から会社経営、営業、そしてアングラーとして忙しい生活を送っていた。
そんな折、実釣のさなかで欲しくなったのがZクランクをミノーシェイプにしたルアーだったのだという。
伊東「Zクランクで釣りつつ色々な知見も得て、霞水系であれば当時ならワタカ、琵琶湖ならハスやモロコなど、もっとベイトフィッシュに似せたシルエットのルアーでディープからミッドレンジを攻めらたもっと釣れるだろうと考えたわけなんです」
そこで伊東さんは、ZクランクのZ3モデルのリップを流用して、バルサを使った手削りのロングビルミノーを作成。
それがまたよく釣れたため、早速インジェクション化が決定した。
伊東「おそらく日本初のインジェクションロングビルミノーですよね」
琵琶湖でラリーニクソンが使って衝撃を与えたスプーンビルミノー(レーベル)がポピュラーだった時代。
その頃に登場したのが『ライブX』だったのだ。
伊東「今にして思えば、すごい手間のかかったルアーなんです。インジェクションボディの上にアルミを貼ってますからね」
アルミ張り仕上げとは、精緻を極めたハンドメイドルアーなどで多用されるリアル感を出すための技法。
アルミ箔をボディの曲線に合わせ、皺が入らないように貼り付けていく際にも高い技術を要するが、そこからはさらに手間暇を要する。
いくら箔とはいえ、厚みのあるものを貼り付けるため、当然、貼っていない部分との境目は段差になっていまうのだ。
ライブXではその段差を消すために、インジェクションプラグでありながらコーティングとサンディングを繰り返す必要があったのだ。
伊東「そのためかなりの厚塗りになってしまい、フローティングセッティングのはずなのに浮かないモデルが出てきてしまったんです。そういった物は製品チェックで弾いていたのですが…」
瓢箪から駒が出たのだ。
伊東「ある年の5月。社員で琵琶湖に釣り合宿にいったんですが、そこでやたら釣ってくる社員がいたんです。話を聞いてみたらライブXのハネ品で釣っていたっていうんです。翌日自分も使ってみて、実際によく釣れましてね。当時の社員からも『コレ、売りましょう!』という熱い声があがりまして、急遽6月に販売することにしたんです。捨てるな! かき集めろ! ってなりましたね(笑)」
『ライブX モデル100プラス』。
まだフローティングとシンキングという言葉しかなかった時代に登場した『サスペンド』モデルだ。
伊東「当時は『ドレッジングダイバー』と名付けていましたね。そしてオリジナルモデルには無い、プラスで釣れる要素を持ったモデルということでその名前になったんです」
たった一人で初めたメガバスにも徐々に人が集まり、こうして仲間の力があったからこその製品も生まれてきたのだ。
伊東「当時からアツい人間が良く集まっていたんですよ。ロックバンドみたいなノリで(笑)。お店の棚に勝手に釣果写真を張ったりとか、ショップに営業に行ったのに思いが強すぎて店員さんと喧嘩になったりとか(笑)。中にはプロスタッフを挑発する社員もいましたね。ですが、そういった思いやそこから生まれた『誇り』がメガバスの製品をより良くし、プロスタッフも技術を高めることができたんだと思います」
今の自分が見ていたら叱りますけどね、と伊東さんは悪戯っぽく付け足した。
しかしそんな過去があったからこそ、今のメガバスがあろうことは、長きに渡って多くのファンを引きつけ続けている”今”が何よりもの証なのだ。
魂の彫刻が釣り業界を飛び出して認められるとき
ライブXのリリースから数年。
国内におけるバスフィッシングの人気も最高潮に近くなっていた時代。
そのどこか浮足立った業界の状況を、伊東さんは冷めた目で見ていたという。
伊東「出てくるルアーはどれもアメリカのルアーの焼き直しのようなものが多かったんです。そこにあるのは単に『釣りたい』という欲求だけで、釣るための原理原則や理念みたいなものがなかった。それに業界の空気感もなんだか…」
ロック系ミュージシャンとしての経歴も持つ伊東さんには耐え難いものがあったのだという。
しかし皮肉にも、そんな伊東さんを病魔が襲う。
伊東「手の神経をやられてしまいまして、まともに動かせない時期もありましたね。でもだからこそ、時代に迎合すること無く、メガバスはメガバスの道を歩みたかった。それで作ったのが新しいライブXでした」
日を追う毎に不気味に肥大化していく『業界』というモンスター。
それに決して飲み込まれること無く、むしろ自らが怪物となる道を選んだ伊東さんは、海に潜む伝説の怪獣の名を冠したルアーを作り出したのだ。
伊東「『リバイアサン』です。動かない手を無理やり動かし、自らを極限まで追い込む形で挑戦しました。リバイアサンの造詣は手彫りなんです。今にしてみるとウロコは荒いし不均一ですが、鼻の穴や頭のへこみまで彫り込んだルアーはそれまで無かった。誰にも出来ないことをやってやろうと思ったんです」
ウロコ、エラ、口、鼻の穴、胸ビレ、頭のへこみ。
すべての造型に一刀一刀、伊東さんの思いが、理念が、魂が込められて生み出されたリバイアサン。
このルアーこそが、メガバスをリアル系ルアーの最高峰へと押し上げ、現在へと至る地位を確固たるものとしたことは、当時を知るアングラーなら想像に難くないだろう。
だがもちろん、リバイアサンのエポックメイキングはそれだけではない。
伊東「当時はアメリカのルアーのような、大きな動きのルアーが多かったのですが、リバイアサンでは日本のフィールドで有効なアクションを追求しました。それが現在のメガバスルアーにも受け継がれているハイピッチなロールアクションです。アクション軸はルアーの中心よりやや後ろに位置していて、頭を振る様な動きでまるで2尾の魚が泳いでいるようにアクションするんですよ」
当時の広告にも大きく掲載されていることからも、この特徴が如何に革新的であったかが伝わるはずだ。
伊東「また、当時はロングビルミノーといえば頭下がりであるべきと言われていた時代なのですが、リバイアサンは前傾姿勢にこだわっていません。これは止まっている状態からキックバックアクションやドリルロールなど、ただ巻きで発生するのとは異なる能動的なアクション、言わば『2次アクション』を発生させるための設計なんです。ボトムにコンタクトさせられればどんなルアーでもヒラを打たせてバイトのきっかけは作れますが、リバイアサンなら中層でなにかにぶつけることも無く、初動から『2次アクション』を発生させることが出来るんです」
そして発売から3年後の1997年。
リバイアサンはポップXとともに、公益財団法人日本デザイン振興会のグッドデザイン賞を受賞する。
それは脈々と続くメガバスの受賞歴の記念すべき初代であり、グッドデザイン賞史上初となるルアーによる受賞であった。
魂心の一刀彫りで生み出されたルアーは、高度で新たな価値観を想像する優れたデザインを持った工業製品として、釣り業界の枠に収まらない、高い評価と栄光を得るにいたったのだ。
ニーズに合わせた派生形の誕生
リバイアサンの躍進を期に、ライブXシリーズには続々と登場した。
伊東「その後、ロングビルミノーという共通点を持つライブXシリーズは3サイズを追加しました。つまり、Largeサイズのリバイアサン、Regularサイズのリベンジ、middleサイズのマーゲイ、smallサイズのスモルトです。それぞれの名前の頭文字がサイズを表すL、R、M、Sになっているんですよ」
とはいえそこはメガバス。
単なる大きさ違いを出すわけは無く…。
伊東「例えばリベンジは、リバイアサンよりもより全国のフィールドで違和感なく使用できることを想定しています。具体的には、多くの釣り場でプリスポーンのバスがステージングするであろう水深2.3m以浅に対応させていてます。また、春のイメージが強すぎるダイビングミノーの印象を払拭すべく、周年使えるような設計になっています」
リベンジでも大きすぎる、あるいは深く潜りすぎるシチュエーションを想定して作られたのはマーゲイだ。
伊東「野池などの小規模フィールドにも対応するライブXが『マーゲイ』です。有効レンジは2m以浅で、ボトムを叩きつつ止めて喰わせの間を作るなど、ソフトベイトのようにも使えることを念頭に置いてデザインしています。当時のプロスタッフが、JBトーナメントで使える、サーチしつつ喰わせられるルアーが欲しいということで作りました」
そしてシリーズ最少のライブXが『スモルト』だ。
伊東「稚魚の様なリバイアサンなので稚バイアサンとも(笑)。こちらはマーゲイよりも更に浅い、水深1.5mを想定しています。日本のトーナメントでは初めてとなったスモールマウス戦、バスオブジャパンの桧原戦で使いたいというプロスタッフの要望から生まれました」
その頃といえば、まだまだスモールマウスの存在は一般的ではなく、多くの人が「口の小さなバスが桧原湖にはいるらしい」というレベルだったころだ。
スモルトは、スモールマウスバスをターゲットとした日本初のルアーとも言えるかもしれない。
伊東「Megabass USAの事務所の目の前がスモールマウスのメッカ的な川で、当時からかなり知見があったので作れたんですね」
4種類のライブXを並べてみると、見た目だけではそこまで共通項があるようには思えない。
しかし
伊東「リバイアサンに求めた、深いレンジでの多彩な二次アクションはいずれのモデルも得意とする共通項です。当てるものが無い中層であっても、イレギュラーアクションを意図的に演出できるルアーこそがライブXシリーズなのです。クランクベイトのような深いレンジをベイトフィッシュライクなシルエットで狙える、ジャークベイトのような誘いと喰わせを深いレンジで出来る。ただ深く潜るだけのルアーとは一線を画しているんです」
ライブXの系譜
1991年:ライブX/ライブX プラス
日本初のインジェクションロングビルミノー。
Zクランクから得た知見を基に、ディープ~ミッドレンジをベイトフィッシュをイミテートしたルアーで攻めたらもっと釣れるはず、という発想から誕生した。
ハスやモロコ、ワタカのような体高を持つリアルなシルエットに、ハンドメイドミノー顔負けの手間と技術で作られた塗装からは、今でもオーラを感じずにはいられない。
深く潜るだけでなく、ただ巻きだけで披露する軽快かつ激しいロールアクションや、ジャークした際の眼を見張るようなスライド幅など、多彩な使い方に対応。
固定重心ウェイトながら、圧倒的なキャスタビリティを持つのも特徴的だ。
フローティングの100と、現在で言うところのスローシンキングやサスペンドモデルにあたる100プラスの2種類がラインナップされていた。
1994年:ライブX リバイアサン
メガバスがグッドデザイン賞を初めて獲得したルアーのひとつであり、シリーズ中、最も深く潜る事が可能な4兄弟の長兄。
伊東さん自らが一刀一刀彫り込むことによって生み出された、剥製顔負けの本物そっくりのディティールは多くのアングラーを虜にした。
タンデム重心移動により、抜群の遠投性能と素早く狙ったレンジに到達することが可能。また、優れたアクションレスポンスを誇り、ポーズ中からのワンアクション目からまるでボトムコンタクトしたかのような喰わせのヒラウチアクションを意図的に発生させることが出来るのだ。
日本で釣れるハイピッチアクションに着目して生み出された、まるでベイトが複数匹いるかのような高速ロールアクションはその後もほとんどのメガバスルアーへと継承さている。
水中姿勢は水平に近く、ロングビルミノーは頭下がりであるべきという当時に風潮に一石を投じた。
1995年:ライブX スモルト
最少サイズかつ最も浅い潜行レンジ1.5mに対応するシリーズの末弟。
日本で初めてスモールマウスフィールド(桧原湖)で行われた大会に向けて開発された経緯を持つ。
フィネスプラグへの挑戦ともとれるモデルであり、わずか48mmのボディサイズでありながら、幅広いレンジを網羅するべくロングビルに設計している。
ラパラのシャッドラップが圧倒的に優勢な時代に登場したが、日本製シャッドプラグとして愛用者を増やしたベストセラーだ。
その高い完成度は、伊東さんがメガバスUSAの事務所の前を流れるディアフィールド・リバーでつちかった対スモールマウスの経験の賜物なのだ。
1996年:ライブX マーゲイ
ミドルサイズのライブXは潜行レンジ2mまでをカバー。
JBトーナメンターの『サーチしながら喰わせられるルアーが欲しい』という声に応える形で作られた。
2m以浅のボトムをしっかりととりながら探れ、なおかつ止めて喰わせることが可能。
多目的重心移動を搭載し、ロングキャスト性能、ダイビング性能、そしてライブXシリーズのお家芸とも言えるロッドワークに機敏に対応する多彩なアクションが得意なモデルとなっている。
2000年:ライブX リベンジ
ボリューム感はリバイアサンと殆ど変わらないものの、潜行レンジはより浅い2.3mに設定。
これは全国のフィールドでプリスポーンのバスがステージングする平均的な水深を2.3m前後と想定した上での設定となる。
ロングビルミノーの定石ともされた前傾姿勢をとりながらも、オールシーズンいつでも使えることも目標として開発されている。
その秘密は先端が細く、端に行くほど薄くなっている「ウィロー型リップ」にある。
余剰な水流を逃がす形状になっており、水中での姿勢に関係なく機敏にアクションさせることが可能であり、またレスポンスを上げつつも潜りすぎないのだ。
2005年:マーゲイ ステップキャット
ライブX マーゲイから派生した前衛的なモデル。
その名の通り、ネコの持つ躍動感と静のボージングによる「メリハリ」が両立されている。
特徴的なショートトリップと背びれにより、スローリトリーブでは水を躱すようなヨタヨタとしたI字形の動きを。
ジャークすればメリハリの効いたダートを披露してくれる。
マーゲイがミッドレンジを多彩な演出で狙えるのに対し、より浅いレンジを攻略するのにうってつけなのだ。
ライブX TIPS:ロッドについて
サイズの違いはあれどどれも多彩なアクションに対応し、使って楽しいライブXシリーズ。
どういったタックルが適しているのだろうか。
伊東「ロッドワークを駆使すると考えた場合、まずはストロークを取りすぎないようにあまり長くないレングス、6ft6inくらいが丁度いいでしょうね。テーパーはルアーを動かしすぎず、なおかつ遠くまで飛ばせるテーパー、つまりレギュラーぐらいが丁度いいと思います。リバイアサンやリベンジならF4ー66Xサイクロンですかね。ただし、フェイズ3以降はこちらの番手の調子がレギュラーファストになっているので、最新のデストロイヤーであれば、ワンテンスティックが良いと思いますね」
潜行レンジの違いはあれど、ジャークベイトにも対応するタックルと相性が良いようだ。
ただし、調子がレギュラーファストでフロロラインの設定だと、慣れていないと繊細なアタリを弾く危険性があるのだという。
伊東「キックバックさせたり、ダートさせたりといったラインを張っている瞬間へのアタリも捉えられるような柔軟性が欲しいんです。そういった点でも、ビギナーの方はレギュラーテーパーが好ましいですね」
サイズダウンしたマーゲイやスモルトはどうだろうか。
伊東「F4でも投げられないことは無いですが、F3が使いやすいと思います。ステップキャットに関しては、I字形の動きを特に活かすのであればF0~F1もおすすめですよ」
ロストテクノロジーが現代バスフィッシングの盲点をつく!
伊東「もちろん、どのライブXシリーズも使いますが、未だに一番のお気に入りであり、ボックスから外せないのが初代のライブXなんですよ」
日本初のインジェクション型ロングビルミノーであるライブX。
その誕生は1991年。
すでに30年以上が経過している。
伊東「プライベート釣行でも最終的に投げている。そのくらい信頼度が高く、もちろん釣果もついてくる。四半世紀以上経過しているのにも関わらず、このルアーだからこそ釣れる魚がいるんです」
その理由を伊東さんは当時の素材と製法によるものだと分析する。
伊東「現存するライブXを見ていただければわかると思うのですが、塗装のないリップ部分が黄色く変化してきていますよね。これは樹脂に含まれているゴムが変色してしまっているんです。最近のルアーの樹脂はゴムの含有量がグッと減っていますが、当時のものは変色するくらいゴムが含まれていたわけです。つまり今に比べ、樹脂そのものが重いんです」
御存知の通り、プラグは浮力をもたせるために少しでも軽い素材が選ばれることが多く、時にはルアーカラーの選択肢を狭めてまで、より軽い素材を採用することがあるくらいだ。
伊東「加えて前述の通り、ライブXはアルミ貼りの厚塗りです」
そこから導き出されること。すなわち…
伊東「ボディの外側に重心が集まっているんです。これはタングステンウェイトを使ったり、LBOを搭載しても真似することは出来ません。ゴムが多く含まれた樹脂を使用し、アルミを張り、厚いトップコートを繰り返すという、当時に生まれたルアーだからこその特性なんです」
これにより、ライブXは現代の多くルアーとは異なるアクションを持つのだという。
伊東「アクションのピッチは高くないのですが、その分ロール幅が格段にに広い。しかも外皮の重さが効いているのか、トルクのある水押しをするんです。平ウチしっぱなしかよってくらいのアクションで泳ぎ、フラッシングの強さは同じ様なフォルムを持つワンテンどころではありません。ただ巻きだけでジャーキングばりの明滅をしてくれるんです。そのジャークをしたときのダート幅もめっちゃ広いですしね。それからライブXのボディだからこそ発生する、少しこもったラトル音も子魚の群れが出す音に非常に近い」
しかしライブXの凄みは、ビッグベイトと比較することで明らかになったのだ。
伊東「ビッグベイトの水押しは決して激しく早いものではありませんよね。むしろゆったりとして大きい。この性質は、現在のバスフィッシングにおいても未だに効果的である反面、ビッグベイトの存在感の大きさがネックになる側面もあると思うのです。その点、ライブXはビッグベイトのようなゆったりとしたテンポとトルクのある水押しを持ちつつ、ベイトフィッシュライクなシルエットと違和感のない存在感でアプローチすることができる。これだったんですよ」
プライベートな釣りにこそ本音があって、本物が選ばれる。
ライブXが選ばれ続けたその理由がついに紐解かれたのだ。
伊東「日本のバスが安定期に入り、バスの密度が低いフィールドが増えています。徐々にアメリカのスタイルに近づいているわけですね。そうすると大切なのはいかにバスに気づいてもらえるかになってくるわけです。ビッグベイトはその能力に特に長けているけど取りこぼしも多い。その点、ライブXは気づいてもらえつつも、バスに嫌がられないボリューム感なんです」
誕生から30年以上経過した今、その真価が見直されるときがきたのだ。
しかし……。
伊東「今の時代に、当時の素材、製法でルアーを生産することは残念ながら難しいんです。だからライブXは今となっては『ロストテクノロジー』なんですよ」
チューナーではなくクリエーター
かつて、釣りのメディアが雑誌中心だった時代。
登場するアングラーの殆どがトーナメンターだった。
そんな中出演していた伊東さんは、言わばメディアアングラーの走りともいえる存在だろう。
しかしメガバスの社長として、開発として、営業として、製造としての日常を送りながらのメディア出演は多忙以外の何物でもなかったはずだ。
伊東「まあ宣伝を他の人にしてもらわなくても、自分がやったほうが早いと思っていたというのもありますかね(笑)。ときには『食べられなくても良い』という気概でやってきましたが、それも道を切り開くためにはとにか必要な覚悟だったんです。過酷な毎日を生き抜いていく。ライブXをのライブは、オレは生きているぞ! という意志表示の『LIVE』だったわけです」
そして見事その道を切り開き、ライブXを筆頭に数々の名作を現在まで生み出し続ける伊東さんは、変わらず『釣り』という舞台を中心に生き続けている。
そして長年、一線級で活躍しているからこその体験を日々積み重ねているのだ。
伊東「どんなに大変な経験も、その時にすぐには何ももたらさないと思います。蓄積したことで初めて『閃き』となるんです。だから長く続けることではじめて気づくこともたくさんあります」
それが現在ルアーを作っている人間を2分しているのだという。
伊東「釣れるだけのルアーを作るというのは決してクリエイティブではありません。かつての日本のルアーがアメリカのルアーを焼き直していたように、既存のルアーをベースとしてルアーを作るなら、その人はチューナーです。最近の製品には『閃き』が足りていないように思えるんです。辛く苦しい時も含めた積み重ねがいつしか『降りてくる』。それを基にルアーを作る人こそ、クリエーターなんです。そういったルアーは短期的には良さをわかってもらえないかもしれませんが、釣りの本質を突いているものであれば、長く愛用されるルアーとなるでしょうね」
他の誰でもなく、長きに渡って愛されるルアーを多くリリースしてきた伊東さんの口から語られるのであれば、それは紛れもない真実なのであろう。
設立から34年目を迎え、その”蓄積””が業界内でもトップクラスに多いメガバスが閃くたびに、新たな道が切り開かれるに違いない。