ドッグXからメガドッグへと至る『漁獲工学』とは? 最も釣れるトップウォーター・ペンシルベイトをメガバス伊東由樹が徹底解説!



創業以来、30年以上にわたりルアーフィッシング業界の最先端を走り続けるメガバス。自社製造を行うルアーメーカーとしては国内外有数の歴史を誇り、その蓄積されたノウハウも世界随一。そんなメガバス&アイティオーグループを一代にして築き上げた社長であり、デザイナーであり、アングラーでもある伊東由樹さんに、メガバス製品が釣れる仕組みや理論、名作ルアーの誕生秘話や歴史など、様々なことを語っていただく大型連載です。


【Profile】

伊東由樹(いとう・ゆき)

メガバスを創業し、名作中の名作ルアーをいくつも生み出した天才デザイナー。(財)ジャパングッドデザインアワードでは、200作品を超えるアワード受賞作品をプロデュースするフィッシング/スポーツ用品カテゴリー最多受賞デザイナー。国際的に最も権威と歴史あるIFデザインアワード(ドイツ・ハノーバー)では、日本人初の快挙となる2018-2021年の4年連続受賞デザイナーとして名を馳せる。
漁師町に育つことで体得した「魚を捕る」ことへの深い造詣が融合するアイテムはどれも時代の最先端であり伝統的。もちろん、アングラーとしての腕前も超一流。

前回(第3回)はこちらから

ファンフィッシング? 否! 純然たる『釣るための』ルアーである!

スピナーベイト『Vフラット』から始まったメガバス製ルアーの歴史は、ウッド製の『Zクランク』でプラグ開発へと歩みを進め、『BAIT-X』からはインジェクション生産による大量生産を実現。多くのユーザーにメガバスのプロダクトは広まっていった。

そんな中、1991年にメガバスが世に送り出したのはトップウォータープラグだった。

今でこそ、ポッパーやビッグクローラーベイト、虫系など、トーナメントでも多用される場面の多いこのジャンルだが、当時はまだまだトップウォーターが『愛好家の釣り』といった趣が強かった時代に伊東さんが作ったのはペンシルベイト『ドッグX』だ。

初代ドッグX

伊東「ファンフィッシング。たしかにトップウォーターの釣りにはそういう側面があるかもしれません。ですが、自分の中のトップウォーターに対するイメージは違っていましたからね」

家業である船宿を手伝い、遠州灘で育った伊東さんは知っていたのだ。

表層というステージが、フィッシュイーターにとって格好の捕食場であるということを。

伊東「海釣りでは一般的でしたからね。子供の頃から表層でカツオや青物を釣ったりしているのが日常です(笑)。だからバス釣りにおけるトップも当然、『釣れたら良いな』だけでは収まらないわけです」

VフラットやZクランクとなんら変わらない。

そこに求めたのは純然たる『たくさん釣る』ための道具であるということなのだ。

流木から生まれた『仕掛け』のボディライン

VフラットやZクランクと同じように、魚をより効率よく釣るための道具として生み出されたというドッグX。

ルアーデザインの源流はどこにあるのだろうか?

伊東「80年代ぐらいですかね。池原ダムで釣りをしているときに、ペンシルベイトが有効な場面に出会ったんです。それでその場にあった流木を削って作ったんですよ」

その場でルアーを作る。

普通のアングラーからすれば驚きの行為だが、伊東さんにとっては決して特別なことではなかったそうだ。

伊東「エサ釣りではその日その場所に応じて、糸や針、重りを組み合わせて『仕掛け』をその場で作りますからね。それと同じです。今は出来合いの仕掛けが市販されていますが、自分は子供の頃から自分で仕掛けを作るのが普通でしたので。ちょうど当時の車には道具も載っていましたしね(笑)」

そうして生まれたのが、『ぺん太』と呼ばれるドッグXの祖先とも言えるモデルだ。

ぺん太

その上側に反ったボディラインに、たしかにドッグXシリーズとの血の繋がりを感じる。

伊東「流木の形状をそのまま利用したんですよ。上反り形状はテーブルターンが得意な形で、移動距離を抑えたアクションはより下のレンジにいる魚をひっぱりやすいんですね」

フィールドという、言わば釣りの最前線のまさにその場で生み出されたルアー。

伊東さんが培ってきた釣りの蓄積が具現化したものにほかならないのだ。

素材の壁を乗り越えた2つの『バランサーシステム』

伊東「手削りのペンシルベイトたちを使って自分自身は釣っていましたが、この性能を多くの人に体感してもらうのは難しい。何せ自然の形を利用していましたからね。そこでインジェクション化することで、安定した品質のルアーを提供できるなと考えました」

しかし、そこには素材の壁があった。

伊東「ドッグXのプロトモデルを作ってみたところ、流木から作った『ぺん太』や桐ダンスから作った『ラストリゾート』のようないい動きが出なかったんです。その最大の要因が素材の違い。もっというと、天然素材とABS樹脂の比重の違いにありました」

ウッド素材であれば、ボディ全体に浮力を持ちつつも絶妙な比重のおかげで水に絡むように動きが出る。一方、ABS樹脂の場合、ボディ内部を空洞にしなければ浮力を確保できず、ウェイトセッティングもシビアになってくる。

伊東「セッティング出しに苦労しましたね…。当時は全国各地を営業でまわりつつ、長いこと各地のフィールドでテストを繰り返していました」

そんな中、とあるフィールドでドッグXのインジェクション化に一筋の光が差したのだ。

伊東「広島と岡山の河川フィールドでテストをしていたときに、流れの中ではウッド製ペンシルでは水と絡みすぎて使いにくいことに気がついたんです。逆に言えば、浮力を確保しやすいインジェクションの特性を活かすことができるなと」

素材の特性はあくまでも個性。

活かすも殺すもデザイナー次第なのだ。

伊東「そして全国をまわり、車中泊を繰り返す中でふと思いついたのが、現在メガバスの特許となってる『シーソーバランサー』と『慣性バランサー』だったんです」

前後にウェイトを配置する『シーソーバランサーシステム』と前方ウエイトが左右へ移動する『慣性バランサー』

それまでのペンシルベイトといえば、ノーウェイト、もしくはボディのリア部分1箇所にウェイトを配置することが一般的だった。

しかし伊東さんは、アクション時に水がぶつかるボディ部分を支点として、その両端にウェイトを配置した。

これが『シーソーバランサーシステム』だ。

伊東「梃子の原理おかげで小さい入力でも大きく動かすことが可能なんです。そして『慣性バランサーシステム』です。これはボディ内部を左右方向に動くウェイトを配置することで、ルアーが左右に頭を振る際に連動して慣性を発生し、誰でも簡単に180度オーバーの首振りをさせることができるんです。また、ボディ内部にウエイトが激しくヒットすることでサウンドが発生し、例えば薄暗い状況でも音を頼りにしっかりとアクションさせることが可能なんです」

2つのバランサーシステムを搭載したABS製ペンシルベイトが、天然素材を超えたのだ。

伊東「それからドッグXの形状ですね。上側に反ったようなノーズアップ形状が水面から浮き上がる方向に水を流して軽快に泳ぎだし、下がったテールはその水流を受けて横方向へとスライドしつつ、ロールのアクションに転換します。ウェイトだけでなく、ボディ形状においても誰もが簡単に動かせるように設計しているんです」

そしてこれらの優れた機構の融合により、ドッグXはペンシルベイトに必要とされる全ての動きに対応する、誰もが扱える究極系となったのだ。

当時のドッグXの広告。2つの画期的なシステムがイラストで解説されている。

アメリカで認められたドッグXたち

1991年にドッグXはいよいよリリースされた。

わずか80mmのABS製ペンシルベイトから繰り出されるその動きが、日本中の多くのアングラーに、そして業界にとてつもない衝撃を与えたであろうことは、想像に難くない。

一方、バス釣りの本場・アメリカではどうだったのだろうか?

伊東「1993年のことです。当時メガバスUSAがサポートしていたランディ(ランディ・ブロウキャット)が、B.A.S.S. メガバックストーナメントで、8lbオーバーをドッグXでキャッチしてビッグフィッシュ賞を獲得したんです。これは日本製ルアーでは初めてのことで、TVでもドッグXが『日出る国からの刺客』と紹介されたりしましたね。それを期に、アメリカでもメガバスが広く知られるようになりました」

アメリカにおけるメガバス製ルアーの活躍を紹介した広告。

そして数年後、新たなドッグXはアメリカで先行投入された。

それが『ジャイアントドッグX』だ。

ジャイアンドドッグX

伊東「構想自体はドッグXの時期からあったんです。縦方向に扁平させ、倒れ込むようなアクションでフラッシング効果を高めるのが狙いです。またこのサイズ感はハスやオイカワを捕食しているバスに有効なサイズ感です」

2つのバランサーシステムやボディ形状のコンセプトなど、基本的な部分はオリジナルのドッグXを踏襲している。

つまり誰でも容易に180度を超えるような大きなスライドが可能なのだ。

なお、ジャイアントドッグXの『ジャイアント』とは、ルアーのサイズ感のことではないのだとか。

伊東「元々はドッグX90とかそういう名前でした(笑)。でも桁外れの魚、つまりジャイアントフィッシュを釣りたいという願いを込めてこの名前になりました。それといたずらにルアーを大きくしたところで、スレた大きな魚がよく釣れるとは限りませんからね」

実際、ロクマルオーバーを筆頭に全国各地からジャイアントドッグXによるでかバス捕獲報告があったのは言うまでもない。

ジャイアントドッグXが日本でも発売となったときの広告。キャッチコピーがなんとも刺激的だ。

そしてアメリカ、日本ともに大人気となったジャイアントドッグXが登場してからさらに19年たった2016年。

アメリカのフィールドを強く意識した言わばアメリカ生まれのドッグX、『STW ドッグX ディアマンテ』が誕生した。

伊東「これはずばり、B.A.S.S.エリートシリーズを勝ち抜くためのペンシルベイトです」

ドッグX ディアマンテ

広大なフィールドから効率よくバスを探せる。

それもアメリカ最高峰の戦いの場で、だ。

伊東「アメリカでロングロッドによるフリッピングが根強いのは、それだけ着水音に対する考えがシビアだからなんです。これは狙うエリアがシャローになるほど顕著で、トップウォータープラグを使う場合でも同様です。ディアマンテはボディサイズの割にウェイトが軽くなっているので、ナチュラルな音で着水させることが可能なんです」

また、その設計は他にもいくつもの利点を持つという。

伊東「全長120mmという大きさなのに、動かすための力は同じくらいで、軽快に操作することができるんです。しかもハイスピードテーブルターンを誰でも出しやすい。円筒形でロールアクションも出しやすいのでフラッシング効果も高いですし、スクリュー効果で水をよく掴んで抵抗感を感じやすいので、どんなテーパーのロッドを使ってもロッドワークのタイミングも取りやすいです」

広大なシャローエリアを、静かににアプローチし、着水直後のテーブルターンから足元まで軽快に誘い続けることができる。

それがアメリカ生まれのドッグXなのだ。

小さなドッグX

アメリカで活躍したジャイアントドッグX、そしてディアマンテはオリジナルのドッグXよりもサイズアップしたという特徴を持っていたが、小さくなったドッグXも存在する。

71mmボディの『ドッグX jr. コアユ』である。

ドッグX jr. コアユ

伊東「琵琶湖でコアユがいるときにアジャストするペンシルベイトを、ということで誕生したルアーですね。少年アングラーが増えた時代ということもあって、全国各地の野池なんかでも釣果報告が多かったです」

ペンシルベイトのドッグXシリーズではあるが、その背景には意外なワームの存在があった。

伊東「バスが水面を意識しているけど出きらないときに、スラッゴーやXレイヤーのノーシンカーリグが良かったんですよね。でもシングルフックのワームだと乗り切らないことも多かった。そこで、琵琶湖のコアユの様なサイズ感で水絡みのいいドッグウォークが得意なルアーとして作ったんです。ちなみにその性能をより特化させたのが、シンキング設定の『コアユ・スライドシンカー』になります」

コアユ・スライドシンカー

そのコンパクトなサイズ感はマッチザベイトにとどまらず、高速アクションのために必要な要素であり、ペンシルベイトを速く動かせるということは非常に重要なのだという。



モデルチェンジ

ドッグXに限った話では無いが、メガバスのルアー製造には共通する特徴がある。

伊東「一般的には量産されるルアーを製造する金型は、ひとつの型から複数個分作れるようになっているんです。でもメガバスの場合は1つの金型で1回につき、ひとつ分のルアーしか成型できないショットとなっています」

それには製品の差をなるべくなくし、全てを『アタリルアー』にしたいという、伊東さんの願いが込められているという。

伊東「アメリカ産のルアー、いわゆるアメものでは、同じルアーでもまれに遭遇するよく釣れるルアーをアタリ個体といいます。それは製品の質にバラツキがあるが故に偶然起こること。でもメガバスのルアーは設計された時点で最良のものであって、アタリルアー。だから1つの型で製品の質がバラける可能性のある複数個を作るよりも、1つの型でアタリルアーを1つ、確実に作るようにしているんです」

高品質な製品を生み出し続けているメガバス。そのちょっとした秘密なわけだが、ひとつだけ難点があった。

同じ個数を生産したとき、1ショットで複数個作れるタイプの型に比べるとかかる負荷が大きいのだ。

伊東「長らく使用してきたドッグXの型でしたが、とうとう限界がきてしまったんです」

豊富なカラーラインナップにスケーターとウォーカーの2タイプ、国内外を問わない大活躍により、想像を絶する数のドッグXが生み出されてきたのであろう。

伊東「そこで誕生したのがリニューアルした、いわゆるNEWドッグXなんです」

ドッグX

そのルックスに感じるのはたしかにドッグXの血脈だ。

伊東「それまでのドッグXシリーズで培ったデータを元に、違うけどにている、新規ですがこれまで通りキャラが立っているドッグXを作りました」

同じ料理は二度は作らないと、以前に当連載(Zクランク)の際にも語ってくれていたが、なんとも伊東さんらしいではないか。

伊東「シリーズのベースとなるドッグXのリニューアルですから、非常に難しかったですけどね。時代のニーズに合うよう、わかりやすい性能をもたせて完成させました。例えばサウンドアピールの要素としては衝撃音、つまりワンノッカーを取り入れています。また、ハイサウンドではなくなった分、ジャイアントドッグX譲りのエラ形状による水面撹拌能力や、ボディ側面によるフラッシング効果をもたせています。高弾性ロッドで動かしやすいようなセッティングになっているのも今風ですね」

種の垣根を超える『メガドッグ』

デカバス狙いなら大きいルアー。

そんなイメージを抱き、敢えて大きいルアーばかりを投げるアングラーも多いだろう。

しかし伊東さんはそこに少し疑問を感じているという。

伊東「デカい魚ほど大きいベイトばかりを捕食するようになる、という発想からそう思われているかと思うのですが、そもそもそれがバスにとって非効率だと思うんです」

少ない捕食行動で腹を満たせるよう、大きな魚は大きなベイトを狙うという説は確かによく聞く話ではあるが…。

伊東「でもよく考えてみてください。フィールドにいるベイトとのサイズって、そこまで大きくはないですよね? それよりも、その水域で最も多くみかける普通のサイズのベイトを『いついかなるとき』も食べられる方がでかくなれる、と考えたほうが自然ですよね」

そこから導き出されることはつまり、デカバスを狙うためにはむやみやたらとルアーサイズを大きくするのではなく、マッチザベイト。

伊東「大きいルアーほど釣れるのか? というのは、実はジャイアントドッグXを開発しているときにも考えていたんです。でもルアーを大きくするほどデカい魚が釣れる、というほど簡単な話ではなかったですね。むしろ大きいルアーは、小さなバスのバイトを排除してくれるだけのこと」

98mmという決して「ジャイアントサイズでない」大きさでリリースされた『ジャイアントドッグX』だが、ロクマルオーバーの実績も多数あり、その説を裏付けている。

メガドッグ

その前提を考えると、2019年に鳴り物入りで登場した『メガドッグ』が単に大きなペンシルベイトではなく、巨大コノシロがとてつもない群れとなって現れるランカーシーバスシーズンのマッチザベイト戦略に基づくものであることがわかってくる。

だが、その設計のベースはあくまでもドッグXだ。

伊東「シーソーバランサーと慣性バランサーシステムはもちろん搭載しています。特に慣性バランサーシステムはウェイトの遊動幅(ボディ幅)が広いためその効果は大きいです。もちろん、ただ大きいだけではない要素も追求しています。例えば水中から見上げたときのシルエットは細く見えるようにしていたり、より見切られにくくするためにスプラッシュ性能を上げたりしています」

そんな中、特にこだわったのがサウンドなのだという。

伊東「かつてアンスラックスでボコボコにシーバスを釣った際に、漁師や素潜りの経験が繋がり『音』の重要さに気づいたのです。おそらくフィッシュイーターは、DNAレベルで音という要素が捕食行動と密接な関係にあるんでしょうね。メガドッグの音は、はじめ小さかったのですが、より大きい音がするよう調整していきました」

結果、メガドッグは爆発的に人気となり、シーバス業界においてビッグペンシルブームを牽引している存在となっている。

もちろん、ダウンサイジング版である『メガドッグ180』も大きな話題となっている。

伊東「規格外のサイズですが、メガドッグでバスはもちろん釣れます。とくに180はフィットする状況がある。間違い無いでしょうね。もちろん、ランカーシーバス、そしてアカメの釣果などでも圧倒的な結果が出ているんですよ」

流木から生まれたドッグXは海を超え、そして魚種の垣根までを超え、今も昔も変わらず水面を爆発させ続けているのだ。

ドッグXの系譜

ドッグX スケーティング/ウォーキング(1990)

スケーティング
全長(mm)重さ(oz)
901/4
ウォーキング
全長(mm)重さ(oz)
901/4

メガバス初のトップウォータールアーとしてリリースされたのがこの『ドッグX』。

モデルチェンジが行われているため、「初代」や「旧」といった冠詞をつけて呼ばれることもある。

当時の感覚からすれば、とてもアクションが想像できないほどのコンパクトボディを誇り、そのクイックかつ大きなアクションは多くのアングラーの度肝を抜いた。

その秘密は、ワンウェイトかつ固定されたウェイトが一般だったペンシルベイトに、 『シーソーバランサー』と『慣性バランサー』 という特許技術を投入した点にあった。

また、スライド幅の広い「スケーティング」とクイックなドッグウォークを得意とする「ウォーキング」という、アクションの質の違う2タイプを同時に販売したことも大きな衝撃を与えた。

製造された年代によって場所は若干変わるものの、「スケーティング」なら『S』、ウォーキングなら『W』の文字が書かれているので見分けられる。また、スケーティングにはグラスラトルが入っているため、ルアーを振ったときに聞こえる高音でも判別が可能。

「シール目」と呼ばれる初期モデルは希少価値が高いことでもおなじみだ。

ジャイアントドッグX(1997)

全長(mm)重さ(oz)
981/2

アメリカで先行して発売され、日本には遅れてやってきた2つめのドッグX。

『シーソーバランサー』と『慣性バランサー』を搭載しつつサイズアップが図られているドッグXだが、その名前の「ジャイアント」はサイズ感のことではなく、デカバスを反応させられることから名付けられたランカーキラー。

体高のある側面がフラット気味になっているのが大きな特徴であり、このボディを倒す「ヒラウチドッグウォーク」が、オリジナルのドッグXにはない強烈な水押しとフラッシングで魚を魅了する。

また『ハイドロギル』と呼ばれる機構も投入されており、こちらはベイトフィッシュのリアルなエラを模しつつ、ドッグウォークの際に抉るよう水をつかみ、撹拌とスプラッシュを生み出す。

稚バスやオイカワを捕食しているバスに効果的なほか、河川での実績が高いことでも知られる。

ドッグXJr. コアユ(2000)/コアユ・スライドシンカー(2001)

ドッグXJr. コアユ
全長(mm)重さ(oz)
711/5
コアユ・スライドシンカー
全長(mm)重さ(oz)
711/4

ドッグXをグッと小さくしたようなサイズ感のペンシルベイトで、小型になるほどスピード感が増す点に注目して作られている。

スラッゴーやエクスレイヤーのようなソフトジャークベイトの釣りと同じ感覚で使用できる上に、プラグだからこそのトレブルフックによる針がかりの良さが強み。

その名の通り、琵琶湖のバスがコアユを捕食しているシチュエーションで強いほか、野池のような小規模フィールドでも活躍する。

フローティングで水面を普通のペンシルベイトのようにも使えるドッグXJr. コアユに対し、水絡みを活かした水中ドッグウォーク性能により特化したシンキングタイプがコアユ・スライドシンカーだ。

コアユ(上)が後方2前方1の球体ウエイトなのに対し、スライドシンカー(下)のウエイトは後方に球体ウエイトが1つと前方に大型形成ウエイトが配置されている。

ドッグX スピードスライド/クイックウォーカー(2010年)

スピードスライド
全長(mm)重さ(oz)
873/8
クイックウォーカー
全長(mm)重さ(oz)
873/8

オリジナルのドッグXの設計思想を元に、次代のニーズに合わせる形でモデルチェンジを果たした通称『NEWドッグX』。

持ち味である高速&レスポンシブなアクションを踏襲しつつ、ジャイアントドッグX的なフラッシング要素やウォータースルー・ギルによる水噛みやスプラッシュを獲得。

また、ワンノッカーサウンドによる『音』の要素もプラスされ、より深いレンジの魚をコールアップさせることも可能となった。

オリジナル同様、アクションの質が異なる「スピードスライド」と「クイックウォーカー」をラインナップし、その名の通り前者はスピード感のあるスライドアクション、後者はクイックリーなドッグウォークアクションを得意とする。

クイックウォーカー(上)とスピードスライドのウエイト(下)。後方のウエイトが異なることに注目したい。

使用感も大きく向上しており、ローライトでルアーの動きがよく認識できずとも音を頼りにアクションさせやすい。また、ミディアムヘビーロッドでも遠投させやすく、操作性も高くなっている。

ドッグX ディアマンテ(2016)

全長(mm) 重さ(oz) タイプ
90 1/4 ラトル/ノンラトル

バス釣りの本場・アメリカでのトーナメントにて使用することを想定して誕生した競技専用ペンシルベイト。

ジャイアントドッグXよりもさらに大きい120mmボディでありながら、驚くほど軽い操作感でクイックに操作できる傑作。

ロールアクションの出やすい円筒形デザインは、フラッシング効果を生み出すほか、スクリューのように水を撹拌することで適度な抵抗を生み出し、アクションを付ける際のタイミングがつかみやすくなるという利点も持つ。

広大なシャローエリアをスピーディーに探っていく展開を得意としているため、空気抵抗の小さなボディデザインに3/4ozの自重となっている。その一方で、着水音が小さくなるよう、浮力が高めに設定されているのも特徴的だ。

そんなディアマンテには、2022年にソルトウォーターモデルも登場。

コアなシーバスアングラーのシークレットメソッドだったディアマンテの釣りが、いよいよ世に解き放たれるときがやってきたのだ。

メガドッグ(2020)/メガドッグ180(2021)/メガドッグX(2022)

メガドッグ
全長(mm)重さ(g)
220130
メガドッグ180
全長(mm)重さ(g)
18072
メガドッグX
全長(mm)重さ(oz)
1802.1/2

まさしくド級のペンシルベイトであり、その重量はもはやビッグベイトクラス。

秋口に最盛期を迎えるコノシロ食いの巨大シーバスを狙う「ランカーシーバス」パターンを想定して誕生。

それまでの常識をぶち壊すようなサイズではあるものの、見た目やアクションはしっかりとドッグXを継承している。

メインターゲットである巨大シーバスはもちろん、アカメや怪魚系など、対モンスターフィッシュのリーサルウェポンとして活躍。2022年には180をベースとしたバス用モデル『メガドッグX』も登場した。

ペンシルベイトで釣りたいなら

水温が18度を超えたらスタート!

メガドッグの様なビッグサイズならともかく、ペンシルベイトはそのアクションの性質上、水面が荒れているシチュエーションが苦手なのは想像できる。

それではそもそも時期的な得手不得手はあるのだろうか?

伊東「魚が追えるコンディションである必要があるので、春なら水温が18度を超えるくらいからがシーズンインですね。ミッドスポーンくらいの時期からはじまって、11月初旬までとかでしょうか。最も、冬でも寒バエ(冬のオイカワ)が表層で捕食してライズリングができているようなシチュエーションならチャンスがあるかもしれませんけどね」

釣れるアクションとは?

基本的にはただ巻きでは動かないペンシルベイト。

このルアーで釣るためには、やはりアクションが必須となる。

伊東「とくにドッグXシリーズに共通する話ですが、規則正しいドッグウォークやスライドアクション、それも180度以上のターンが釣れるための重要な要素になってきます」

そこにはいくつかの理由があるのだという。

伊東「大きくターンすることで、ペンシルベイトのボディ側面で水を押すことが出来るんです。水面が撹拌されますので見切られにくくなりますし、水面をもがく魚のような波紋を出すことで魚に興味をもたせることもできます。ターン角度が小さいペンシルだと、頭だけで水を動かすため、いわゆる撹拌は弱くなるんです」

そしてペンシルベイトが、そしてドッグXこそが釣れる理由も。

伊東「例えばポッパーは水を押すことが重要なルアーですが、ペンシルベイトの場合はターン。スピードとシルエットでフォーカスさせるのが重要です。その中でも特に180度以上のターンを発生させる力のベクトルが重要で、バスからすれば視界から外れるような読みにくい軌道と強い水の撹拌が与えられます。このとき規則正しいドッグウォークができていれば、ルアーは度々バスの視界内には戻ってきて、それを繰り返しているうちに、フィーディングのバイトが成立します」

ターンによるバイト誘発の究極系こそが、ルアーを魚の眼の前で八の字に通す、いわゆるエイトトラップと呼ばれるテクニックなのだとすれば、その理論にもうなずけるだろう。

伊東「それから、クレバーな魚であれば、アングラーの方に容易に近づいていくルアーには警戒するでしょう。ですが180度以上のターンアクションとなると、左右に動く分アングラー側に寄ってきにくいばかりか、ルアーはアングラーから離れる方向に動こうとしますから警戒もされにくいわけです。さらに言うと、手前になかなか寄って来ないのであれば、追走する魚とルアーの距離も自然と詰まっていきやすく、バイトまでいきやすい」

テンポよく、180度以上のターンを繰り返す。

ドッグXシリーズだからこそ容易にできるこのアクションには多くの意味が込められているのだ。

伊東「それからポーズについてですが、ペンシルベイトは逃して追わせて食わせるルアーですので、しょっちゅう止める必要はありません。ですが大事なアクセントでもあります。例えば、深場から魚を浮かせて、ペンシルとの間を詰めさせる目的でポーズを入れます。それから、しっかりとターゲットとして認識させるための、フォーカシングとしての『止め』の効果です。ついてきた魚に対して、次は違う動きをするかも!? と思わせて、モチベーションを高めさせる。つまり襲撃性を高めさせるわけです」

アクションの中に慢性的にポーズを組み込むのではなく、目的を持って混ぜ込むことが重要なのだ。

ラインはフロロでもOK! ペンシルベイト用タックル

ペンシルベイトの釣れるアクションを出しやすいよう、設計されているドッグXシリーズだが、快適に使うためには適したタックルが当然、ある。

伊東「しっかりとスラッグを出せればドッグXは大きくターンさせられるため、基本的にはどんなタックルでも大丈夫です。ですが例えば初心者やペンシルベイトのアクションが苦手だという人であれば、ロッドはレギュラーテーパーからスローテーパーがおすすめですね」

トップウォータープラグの中でも特に繊細なペンシルベイト。ラインの材質も気にしたいところだが…。

伊東「ナイロン・フロロ・PEといった材質の違いですが、実はコレじゃなきゃいけないということは無くて、特性に応じた使い分けができるんです。例えば比重が比較的軽く、伸びのあるナイロンは、先調子気味の竿でペンシルベイトを使う際に相性がいいです。また、ラインが沈みにくくリニアには動かしにくいということで、ペンシルベイトをゆったりと動かすのに向いています。その分、スローテーパーのロッドと合わせると緩慢すぎちゃうかもしれませんね」

同じく比重が低く、水面に浮かびやすいPEラインはどうか。

伊東「伸びがない分、アクションがリニアに伝わりやすいです。その点を活かし、スローテーパーやレギュラーテーパーのロッドと組み合わせれば、高速でアクションをさせやすいです」

バス釣りでは最も使われているフロロももちろん使える。ただし、フロロは比重が重く、水に沈下した状態で操作することになる。

伊東「PE同様、伸びの少ないフロロは直感的な操作がしやすいです。それとラインが水中に沈みやすい分、ダイビング気味にアクションさせることもできます。ドッグXのセッティングなら、レギュラーテーパーからミディアムファストのロッドとフロロラインの組み合わせでも泳がせやすいはずですよ」

つまり汎用タックルでも扱いやすいということだ。

伊東「なお、僕の場合はPEラインを使用する際はリーダーは入れません。それからラインの種類に関わらず、ルアーとの接続には直結ではなく、スナップの使用をおすすめします。その方がよりしっかりとターンさせることができます」

ペンシルベイトは現代のバスフィッシングシーンに合わないのか?

メガドッグを筆頭に空前のビッグペンシルブームとなっているシーバスはともかくとして、昨今のブラックバスというジャンルにおけるペンシルベイトは正直影が薄い。

その理由を伊東さんはこう分析した。

伊東「ペンシルのパワーは決して弱まっているわけではありません。ただ巻きで釣れるルアーが人気だからだと思いますよ」

ペンシルベイトの対抗馬となりうるトップウォーターというジャンルで考えれば、最も人気なのは間違いなくビッグクローラーベイト。

その主な使用方法は…一定スピードでのリーリング。

つまりオートマチックな操作で釣れるルアーなのだ。

伊東「マニュアル操作が面倒くさがられる時代なんだと思います。でもオートマチックな使い方で釣れるルアーの場合、スピード感による変化こそあるももの、そのインパクトは慢性化しがち、アクションも一定で飽きられやすいと思うんです」

一方、マニュアル操作系ルアーの場合はどうなのか。

伊東「ルアーそのものの性質に加え、アングラーの技量やタックルといった要素で泳ぎが変わります。それはまさに千差万別で、魚に対して毎回フレッシュな刺激を与えられる。ナチュラルリアクションも多発する。100年近い歴史を持つザラが今も釣れるのは、それがペンシルベイトだからだと思います」

ジャークベイトやラバージグ、ストレートワームなどが普遍的に釣れるルアーとされているのも、このマニュアル操作系ルアーに属するからなのだと伊東さんは言う。

伊東「多くのアングラーが単一アクションのオートマチックなルアーを投げている今だからこそ、ペンシルの使いどきかもしれませせんね」

『漁獲工学』のススメ

一番釣れるトップウォータープラグこそがペンシルベイトである。伊東さんはそう語る。

伊東「スピーディーな展開ができますし、投げるたびに毎回フレッシュな刺激を与えられますからね。でもその一方で、デザインが難しいのもペンシルベイトだと思います」

数あるルアータイプの中でも特にシンプルな形状のペンシルベイトに、誤魔化しは通用しないのだ。

伊東「ペンシルベイトはかつて、スティックベイトやクワイエットという名前で呼ばれていたぐらい、シンプルなルアーです。ですがルアーデザインをする側からすれば、リップも付加するパーツも無い分、いかにして魚を魅せつける要素を生み出すか? 見出していかなくてはなりません」

ただの棒のようだからスティックベイト。

大きな音をたてないからクワイエット。

文面通りに受け取れば、とても1番釣れるトップウォータープラグとは思えない。

逆に言えば、その名前と相反する要素を追求することが優れたルアーへと繋がるともいえるのだ。

伊東「ドッグXは、私自身ががそれまでに身につけてきた『釣れる』要素の蓄積から生み出しました。あとに続く人は楽だったと思います(笑)」

180度を超えるようなターン。

それを演出するための構造。

釣れるペンシルベイトのなんたるかは、伊東さん自身が自力でたどり着いた自負があるのだ。

伊東「いかにそれまでに魚を釣っているか? ルアーが動くとはどういうことであるか? その仕組みを知っているのか? そしてそれらを元に生み出される原理原則を理論的に表現し、実現できるのか? これらの要素を全て満たすことができてこそのルアーデザインなんです。『漁獲工学』とでもいいましょうかね。でもそこまでできている人がどのくらい世の中にいるのか…。世界的に見ても少ないとは思います」

ルアーを作るということは、いくつもの要素の複合。

伊東「例えば、メガバスのルアーはリアルだとよく言っていただいたりしますが、それそのものは漁獲工学では必要な要素のひとつに過ぎません。絵を描くのが仕事ではないんです」

いくらルアーを作れても、魚を釣った経験の乏しい人間が作るのであれば、そのルアーの魅力は無いに等しいだろう。かといって、どんなに素晴らしい経験やアイディアがあったとしても、ルアーという形にならなければそれは絵に描いた餅に過ぎないのだ。

そんな『漁獲工学』への理解度は、ルアーの完成度の高さからうかがい知ることができる。

ドッグXファミリーを見ればわかるはずだ。

伊東「ペンシルベイトというシンプルなルアーをそれぞれキャラ立ちさせなければいけませんからね。図面を拡大縮小するだけのサイズ違いを作る気はないですし、時代やフィールドが違えば求められる要素も変わってくる。それでもペンシルベイトの原理原則を落とし込みつつ、見た目も使用感も『ドッグX』でなければいけない。ドッグXは、今日のメガバスに『釣獲原理』の基礎を与えた礎でもあります」

『漁獲工学』。

伊東さんを起源とし定義づけられた新しい学問。

しかしこれは、決して我々アングラーと縁遠いものでは無いはずだ。

なぜなら、普段使用しているルアーこそがこの『漁獲工学』の賜物であり、メガバスの製品こそが『漁獲工学』を象徴する存在なのだから。