盛夏のトラウトフィッシング、山岳渓流釣行の心得【源流釣り師の体験談】



盛夏のトラウトフィッシングと言えば源流(山岳渓流)の釣り。ザックの中に食料やテント・ツエルト、釣り道具など必要最低限のギアを詰め込み、山上での釣りやキャンプを楽しむ爽快なスタイルだ。簡単にはたどり着けないフィールドだからこそ、下流域では見られない景観や特別な魚たちに出会うことができる。しかし、この釣りは危険とも隣り合わせ。負傷や滑落、増水による水難事故等、山岳渓流ならではの事故に遭う可能性があり、それらに配慮した入念な準備も必要不可欠。そこで、ここでは山岳渓流釣り師であり大のイワナ好きでもある朝賀敬一氏の実体験から、山上の釣りを楽しむための、いくつかの基礎知識を紹介したい。

山行計画書は必須

朝賀敬一(あさか・けいいち)

愛知県春日井市のプロショップ「ザ・ナチュラリスト・リバーサイド」のフィールドスタッフ。山岳会「名古屋ACC」に所属し、沢登りや本格的な山岳渓流の釣りを楽しむ。

普段の渓流釣りでも同様だが、入山前には必ず山行計画書を作成し、登山道入り口に備え付けてあるポストや近隣の警察に届けなければならない。

計画書にはメンバーの氏名・年齢・性別・血液型・住所・緊急連作先のほか、入山する場所の情報や装備などを記入する。山岳会に加入していれば、会の連絡先等の情報も記入。なお、万が一の場合に備えて「山岳保険」にも必ず加入しておこう。

朝賀さんが山に入る際に使用している山行計画書のテンプレート。加入するクラブやメンバーの情報、持ち物等が記入されている。


渓流遡行中や登山中の「シャリバテ」対策

「シャリバテ」とは山用語。歩いている途中、急に力が抜け、足も上がらなくなってしまう症状のことを指す。きちんとした食事や〝行動食〟を摂らなかったがために、血糖値が急激に下がってしまうのだ。

朝夏「僕も過去に経験したことがあります。根本的な原因を考えてみれば、日帰りの釣行が多かったことが挙げられます。1日くらいなら朝に摂取したカロリーと行動食だけでもってしまうところを、いきなり3日の予定で山に入った際に起こりました。水分ももちろん重要ですが、やはりきちんと食事をとることと、行動食でこまめにカロリーを摂取することは意識しなければなりません」

行動食は、手早く口に入れられてカロリーが補えるものが好ましい。代表的なものはナッツ類やチョコレート、飴玉等が挙げられる。すぐに取り出せる場所に入れておきたい。
山上での食事は格別なものだ。しかし、体調を崩してしまえば摂りたくても十分に摂れないこともある。朝・昼・晩の食事をしっかり摂ることも重要だが、食べやすい行動食を持ち込むことも必須。
山岳渓流釣行では基本的に〝パーティ〟を組む。しかし、同行者がみな同じ体力を持っている訳ではないので、必ず体力のない人に合わせた行動や休憩をとること。シャリバテを防ぐ方法のひとつ。

水難事故を防ぐ

事前に天気予報をチェックしておくことは大前提として、一番怖いのは〝水の処理を苦手とする沢〟。降水確率が低くても少ない雨で増水する場所も各地に存在する。

朝夏「僕の場合は、降水確率が30%でも釣行するかどうかためらいます。また、最近はゲリラ豪雨が多く、たとえ1時間の降雨でも鉄砲水になりかねません。例えば、本格的なゴルジュ帯(切り立った岩盤の峡谷)などは高巻き(険しい沢を回避し、山肌を登ってルートを進むこと)ができないわけですから、泳いで突破しなければなりません。〝今から入るぞ!〟という前に、今一度天気予報や雲の様子を確認することも重要です」。

鉄砲水はみるみるうちに水位が上がってくる。見抜くのは難しいが、その前兆としてわかりやすいものが流下してくる〝落ち葉〟や〝枝〟である。これらが急に流れてきたと思ったら即座に川から離れて、水の影響を受けない高い場所に避難すること。
源流域にはこのようなゴルジュ帯(岩盤帯)が多く見られるが、その形状ゆえに水を集める力が強く、増水までの時間も非常に短い。天候が不安定な場合は川に入らないことも忘れてはならない。
釣りを始めてしまうと、どうしても熱中してしまうのが釣り人の性。もちろん魚は釣りたいものだが、夢中になりすぎるのは禁物。周辺の地形や天候にも常に気を配るべし!