「釣りドコ」という海底地形表示サービスサイトをご存知だろうか? このサイトを運営する無類の釣り好きスタッフが、海の安全や万が一の際に頼りになる存在、海上保安庁へ突撃取材! さらに、海上保安庁のパトロールにも同行することに。話を伺うと、驚きの事実が明らかに…!
●文:立川 宏 ●協力:海上保安庁(下田海上保安部) ●出典:釣りドコ
海上保安庁を取材した人(『釣りドコ』管理人)
『釣りドコ』管理人の長年の想い!
2022年夏。なんと、会員数5万人を突破した『釣りドコ』。もしかすると5万人の方々が『釣りドコ』の海底地形地図を利用して、釣りを楽しんでいただいた可能性がある。
こんなに嬉しいことはない。
しかも、釣果投稿も年々増加している。『釣りドコ』サイト管理人の高柳茂暢(通称・タカピー)と後藤和郎(通称・ごっとり君)も、登録していただいたユーザー様への感謝の気持ちを一時も忘れず『今日も西へ東へと釣りに勤しんでいる』。
お~いっっっ…! 釣りばっかりして仕事はどうした!?って、まぁ~、それはソレ。これはコレ。
そんなこんなで、日々『仕事』と『釣り』に没頭しているサイト管理人の高柳と後藤だが、そんな2人にもサイト立ち上げ当初から、心を悩ませていることがある。それは、『釣行中の海難事故』。
釣りを愛し、釣りの楽しさを伝えたい! そう願っている2人にとって、海難事故は避けては通れない問題。釣りの楽しさを伝えたい、と願うからには『釣行中の海難事故防止』にも少しでも貢献したい。その思いは『釣りドコ』サイト立ち上げ当初から、2人の中で一度も消えることはなかった。
そんな2人が向かった先はなんと! 海難事故のスペシャリスト集団『海上保安庁』。しかも釣り人口が多い伊豆半島の下田市に位置する 第三管区海上保安本部『下田海上保安部』。伊豆半島全域から伊豆七島までの海の安全を守るプロ中のプロ集団だ。
日本の海を守っている方々との出会い!
おいおい、大丈夫なのか高柳っ! 後藤っ! いきなり、日本最高峰のプロ集団の門を叩くなんて…!
当日の朝、高柳と後藤を出迎えてくれたのは、第三管区海上保安本部 下田海上保安部 交通課 安全対策係長 地域海難防止対策官・青木裕一さん。健康的に日焼けした肌。海上保安官の制服を着用していても、隠しきれない鍛え上げられた身体。礼儀正しく無駄のない所作。そして気持ちがいい坊主頭。
連日の激務にたたられて、リミッターギリギリの不摂生な生活を送っている高柳と後藤には、青木さんの存在自体が眩しかった。
青木さん「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
滞りのない気持ちのいいあいさつで出迎えてくれた青木さんの後ろには、これ以上はない爽やかな朝日が輝いていた。こういう人達が、日本の海の安全を守っているんだ! 高柳と後藤は、青木さんと合った瞬間に『安全を守る側の人間』と『守られる側の人間』の違いを理解できた気がした。
高柳&後藤「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
精一杯さわやかな挨拶をしたつもりの2人だったが、滲み出る『守られる側の人間』特有の油断と、朝日ではなく夕日の方が似合う不摂生さを隠すことはできなかった…。
青木さん「今日の午前中は、我々が日頃行っている、海浜パトロールにご同行していただきます。事故がおこりやすい海浜エリアを巡回して、事故はないか? または不十分な装備で釣りをなさっている方や、立ち入り禁止区域で釣りをなさっている方への、事故予防のご協力のお願いをさせていただきます。いつもパートナーを組んで一緒にパトロールをしている、部下の松村も同行させていただきます」
松村さん「おはようございます。今日は宜しくお願いします」
おぉ~。思わずため息がでるほどの海と太陽が似合うイケメン海上保安官。
高柳「もしかしてサーフィンやられています?」
松村さん「はい。下田に赴任してから、休日に少々楽しませていただいております」
「やっぱり」という謎の納得をした高柳&後藤は、青木さん、松村さんの後に続いて、本日1カ所目の海浜パトロール地区『タライ岬』へと向かった。
海の楽しみ方は違っても、安全を願う気持ちは同じ
ちなみに青木さんは、高柳、後藤と同じく相当な釣りマニア。生粋の磯釣り師である。
『釣り』と『サーフィン』。楽しみ方は違っても、海を愛する青木さんと松村さんだからこそ、同じ海を愛する人たちの不幸な海難事故を防ぎたい…と願う気持ちは人一倍強い。
まさかの、いきなりのパトロールへの同行。日頃の不摂生がたたり、パトロール中の滑落事故…なんてことにならないといいのだが。
高柳と後藤の表情に、うっすらと『不安の文字』が浮かんでいるように思えるのは気のせいだけではないはずである。
『タライ岬』への海浜パトロール
駐車場からタライ岬まではおよそ30分間の山道。松村さんは肩に、救助のための三種の神器のひとつ『救助用フロート』を掛けた状態で山道を歩く。万が一、要救助者が出た場合にすぐに救助できるようにパトロール中は常に持ち歩いている。
タライ岬は『釣りドコ』でも人気の、第一級磯釣りポイント。イシダイやイシガキダイ、メジナの他に、アオリイカや青物のポイントとして人気が高い。
釣り禁止ではないが足場が悪い磯場なので、過去に釣行中の不幸な事故が起きてしまったこともあるポイントだ。青木さんと松村さんは、二度と不幸な事故が起きないで欲しいという思いで、スケジュールが許す限り片道30分間の道のりを歩き、タライ岬の海浜パトロールを続けている。
青木さん「磯釣りなので、手軽な防波堤釣りと比較すると、しっかりとした装備で釣りを楽しんで下さる方の割合は多いのですが、それでも希に不幸な事故は起きてしまいます」。
高柳「事故が起きてしまう要因は何ですか?」
青木さん「事故の要因は多岐に渡りますが、特に注意していただきたいのが準備のときです。釣りをされるときには救命胴衣を着用される方が多いですが、暑い日などは準備のときに、ついつい救命胴衣の着用を忘れがちです。ですが釣りは、準備段階で海水を汲み上げるために、海辺に近づくことも多いです。そのときに誤って落水してしまう事故は少なくありません」
松村さん:「または転倒したときに頭部を強打して、意識を失って落水してしまう事故もあります。どんなに注意していても、何が起こるか分からないのが海です。頭部を守るためのヘルメットは磯釣りでは着用していただいた方が安全かと思います」
海に近づくときは安全装備を万全に! この日タライ岬にはしっかりとした装備を着用したルアーマンが釣りを楽しんでいた。
青木さんと松村さんは、ルアーマンに体調は大丈夫ですか? なにかお困りのことはありませんか? などの声掛けをしたのちに、安全装備をしっかりとして下さっていることへの感謝を告げて、さらに、万が一にでも倒れている方はいないか磯場全体を丁寧にパトロールした。
ただただ、不幸な事故を未然に防ぎたい一心。しかし、心ない言葉を浴びることも…
次に4人がパトロールに向かったのは『福浦堤防』。立入禁止の場所だが、魚が釣れるために立ち入ってしまう釣り人も少なくない。堤防の入り口には、わかりやすく大きな文字で『立入禁止』と明記されている。
青木さん「我々は、立入禁止の場所で釣りをされている方々を咎めるためにパトロールを行っている訳ではありません。我々の目的は、あくまでも不幸な事故予防にご協力いただきたい…。その思いだけです」
松村さん「立ち入り禁止の場所には、立入禁止の理由があります。我々が定期的にパトロールさせていただいている、今回の『福浦堤防』は、港湾工事用に作られた堤防です。工事にはキケンがともないます。そのため事故防止のために関係者以外の立入が禁止されています」
青木さん「工事用の港なので堤防に人が立ち入ったときの安全対策も行われていません。それだけでもキケンですが、さらにこのエリアは『一発波』と呼ばれる大波が来ることがあります。一見静かに見えても、突如堤防全体を飲み込むほどの大波が来ることがあります。そのときに堤防で釣りをしていたら、ひとたまりもありません」
松村さん「そしてなによりも立ち入り禁止の場所は、人が立ち入らない場所なので、事故がおきてしまったときに、救助要請をして下さる人もいないため、我々の救助が遅れてしまうことがあります。それは我々としては耐えがたいです。ですから、事故防止のご協力を求めて、こうして地道に声を掛けさせていただいております」
この日『福浦堤防』で釣りをしていた釣り人は4~5人ほど。2人の声掛けによってキケンであることを理解して、すぐに釣りを止める人が大半だが、中には不満を爆発させる人もいる。
青木さん「釣りを楽しみたい。という方のお気持ちも凄く理解できます。特に遠方から来られた方は、せっかく来たのだから・・・というお気持ちも強いかと思います。ですが、命に関わる問題なので、私たちはキケンをお伝えして、ご理解していただくように、ご協力をお願いさせていただいております。私たちにできることは、ご協力のお願いくらいしかありませんから」
松村さん「私たちも人間なので、釣りをされている方に強い態度を取られると、哀しい気持ちになることもあります。それでも事故が少しでも減ることを考えると、海浜パトロールは大切な業務だと実感しています。一番大切なのは不幸な事故を未然に防ぐことです」
釣り人をキケンから守りたい! すべてはそのための行動。だが、釣り人の中には一時の感情に任せて『心ない言葉を浴びせてしまう人』もいる。それでは、まるで反抗期の子供と同じじゃないか! まさに『親の心子知らず』高柳と後藤は、自分たちは絶対に反抗期の子供のような釣り人にはならいなようにしようと固く誓った。
釣り人の安全を守りたい! そんな純粋な思いで『心ない言葉を浴びせられても』釣り人への声掛けを続ける青木さんと松村さんが、本当に『釣り人全員の親』に見えてきた。高柳と後藤よりもだいぶ若い青木さんと松村さんは、反抗期の子供など居る訳もない若者だ。
そんな若者が『心ない言葉を浴びせられても』釣り人の安全だけを心から願い『声掛け』を続けている。そして、海で起きる不幸な事故から、釣り人を全力で守ってくれる。まさに『釣り人全員の親』だよな~、と2人の若者に尊敬のまなざしを向ける高柳と後藤であった。
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