未開の釣りを開拓し、近場の水辺で戯れる。どこまでもジブンの魚に寄り添うツララのロッドは、大衆的ではないが人に優しく、設計・意匠は鮮やかに屹立する。最新素材は使っていないのに、目からウロコの新しさ。懐古主義? いやいや、枯れた技術の水平思想。その革命は、エリアトラウトにも。福田雅宏さんの釣りからその深淵を伺う。
●文:ルアーマガジン編集部
福田雅宏さんのプロフィール
福田雅宏(ふくだ・まさひろ)
エリアトラウトでは、トーナメントのみならず自分の釣りを掘り下げる探求者。ビッグシーバスゲームや、ビッグレイクのネイティブトラウトでも知られるマルチエキスパートだ。
異能者集団が紡ぎ出す孤高の1本……既視感ある「新しさ」
最軽量、高感度、新素材…。最先端を競うロッドプロデュースは、エリアトラウトだけでなくあらゆる釣りのジャンルで起こり、界隈の活性化を導く。だが普遍的な素材を人知れず磨き上げ、聞いたこともない調律を施し、気の合う仲間と共有する一派もいる。そのゆるやかな集まりが、ツララだ。
たとえば。
ボッサ・ノヴァ。新しい波と呼ばれたその音楽は、部屋でひっそり極私的につまびかれ始めた。その張本人たちとって、あくまで自分の楽しみのための奏で。だが、新しいアイデンティティとして、世界に革命をもたらしたのだ。
とはいえ、普遍的とは言えない、尖り過ぎた個性を持つツララの面々たち。彼らアングラーの「自分の釣り」を具現化したアイテム群は、百花繚乱。だが不思議な統一感を見せている。
福田雅宏さんも、そのひとり。エリアトラウトのメインストリームに対する最新動向は把握しつつ、そこに抗うアマノジャク気質あり。でも、一時代を築いたレガシーへのリスペクトは決して隠さない。
福田「ぐにゃりと曲がる、ひと昔前のエリアロッド。今の釣りしか知らない若いアングラーにとっては、なんじゃコレ! という(笑)。でも、その良さは色あせない。有名なメーカーやアングラーがシノギを削っているジャンルに突っ込んでいって、同じような感じのモノを作っても意味がない」
じゃあ懐古主義的なモデルなのかと問うと、ニヤリと笑う。エリアトラウトロッドから軽やかに離脱する独自なルックスと共に、吹き込まれる革新さがある。それがストローセッティングで知られる、ツララのガイド調律だ。ソルシエ60U2Lも、一般的なロッドに比べ総じてガイド数が多い。
この日はツララ・グリッサンド56も用意。ソリッドティップと強靱なバットを持つマルチロッド。PEなら操作系、エステルならシビアな時期にも活躍する。
福田「バットが強すぎるので(笑)、バラシに注意! 」
福田「今日も、このロッドを触ったことのない知り合いに使ってもらってみた。そうすると、最初に言われるのが、強烈な違和感。たしかに、今ドキのモデルじゃないからね(笑)。でもすぐ、面白い! ってみんな言うね。古いけど、新しい。オールドなコンセプトを、ツララ的な新しさで仕上げています」
上から、ソルシエ52UL、62UL、60U2L。52ULはツララ代表、小川健太郎さんが小規模渓流を想定しプロデュースしたロッド。エリアではML相当で、ボトムゲームや中量級スプーンなどに好適だ。
しっかり曲がる、正統派かつ極限進化な「トリュテ」
そもそもエリアトラウト用のロッドは、あんなに柔らかいのか。
福田「圧倒的に柔らかいですよね。1番の理由は、超軽量なルアーでもロッドを曲げて投げられるようにするため」
だけど、ロッドの振り速度で投げる前提のモデルも少し増えてきた。操作や感度のために硬さを持たせていて、キャストではあまり曲がらない。そういったシャキっとしたファーストテーパー気味のロッドが人気なのだ。
でも福田さんのロッドはしっかり曲がって、軽量ルアーに不慣れな人にも投げやすい。また上級者にとっても、シビアな浅い掛かりにドラグだけでなく曲がりも追従し、バラシを防ぐ特性を持つ。事実、他社のハイエンドモデルにも曲がるロッドはちらほらと存続している。
話を戻そう。
福田「口切れもそうですが、そもそもパワーが必要ない釣り。ロッドだけでなく、ラインやフックも20?30cmのニジマスを想定している。そこでタックルだけが強くなると、バラシだけでなくフックが伸びてしまったり」
あくまでレギュラーサイズのマスに限ってですが……と福田さん。だが、当の本人は今まさにレギュラーサイズの倍以上はあるビッグトラウトをいなしている! 冷静にもほどがある。
福田「楽し~っ! 」
ほどなくして、巨大な頂鱒はネットに滑り込んできた。
勝手に仕事をしてくれるロッドなら、アングラーは目の前の魚により集中できる。
福田「今の時流はありつつも、僕はしっかり曲げて、キャストしたりファイトできるロッドを目指したいんです。ルアーの重みを感じる、魚の突っ込みを受け止める。でも、マイクロスプーンを使いこなせるポテンシャルも隠し持たせる(笑)。勝手に仕事をしてくれるロッドなら、アングラーは目の前の魚に、より集中できますから」
業務終了~! そう叫んで通りが掛かりのスタッフさんに声を掛ける。ポンド自慢の、美味な個体らしい。こういう1匹も、エリアトラウトの楽しみのひとつだ。
『エリアトラウト ギア&マニュアル』発売情報
『エリアトラウト ギア&マニュアル』
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- 発売日:2022年11月16日
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