水辺に立つ釣りは、水難事故のリスクと隣合わせ。万が一の事態に備え、しっかりとした安全装備を整えることは釣り人の義務。そこで、水難救助のプロフェッショナルである海上保安庁の保安官のみなさんに、装備面のアドバイスを頂いた。是非、参考にしてみてほしい。
●文:立川 宏 ●協力:海上保安庁(下田海上保安部) ●出典:釣りドコ
海難事故予防と『安全装備』のふか~い関係!
今回お話しをうかがったのは、下田海上保安部のみなさん。釣行中の事故防止のためにできることをインタビューさせていただいた。
インタビューの場所はなんと、下田海上保安部所属のPC型 巡視艇『いずなみ』の操舵室!
高柳&後藤「よろしくお願いします」。
大川次長「こちらこそ宜しくお願いします。午前中は青木と松村の海浜パトロールにご同行いいただきまして、誠にありがとうございました」
【午前中のパトロールの記事はコチラ】
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海の安全を守って40年の大川次長。言葉の重みと、一緒の空間に居るだけで感じられる『安心感』のオーラが凄い。
高柳&後藤「私たちの方こそ大変勉強になりました。本当にありがとうございました」
大川次長「海の安全を守る活動へのご協力、心より感謝申し上げます」
高柳:「今日パトロールに同行させていただきまして、我々釣り人ができる、海難事故予防の対策は、かなりあることを学ばせていただきました。 まずはその中から装備関係のお話をお伺いさせていただきたく思います」。
大川次長「装備はとても大切です。不幸な事故予防はもちろんのこと、万が一事故が起きてしまったときも、装備によって助かる確率は変わります。水辺で遊ばれる方に向けて、私どもは『ウォーターセーフティガイド』を案内しております」
後藤「私も拝見させていただきました。シンプルですごくわかりやすいですよね」
大川次長「ありがとうございます。お陰様で、釣りをされる方の救命胴衣の着用率は上がっています」
高柳「それでも不幸な事故が起きてしまう要因はどこにあると思われますか?」
大川次長「一概には言えませが、要因のひとつは着用方法と着用のタイミングにあると感じています。しっかりと規定の着用方法に従って着用していただくことは非常に大切です」
後藤「股ベルトがあるタイプは、股ベルトをしっかりと締める、などですか」
大川次長「そうですね。締め具関係を完璧に締めて、なおかつファスナーも締めることは大切です。正しく装着していないと落水時に脱げてしまうことがあります」
松村「救命胴衣の正しい装着方法も、ウォーターセーフティガイドで紹介させていただいておりますので、是非参考にしてみて下さい」
正しい装備を正しく装着!釣りの準備中でも気を抜かない
では、具体的な装備の内容と装着方法について、解説していただこう。
大川次長「着用のタイミングが重要です。事故例で多いのが釣りの準備中です。準備中は気が緩んでいるため、救命胴衣未着用の方もいらっしゃいます。準備中に落水してしまい、不幸な事故となってしまう事例は少なくありません」
高柳「膨張式のライフジャケットが開かない、といったトラブルの事故はございますか?」
大川次長「そうした事例もございます。膨張式には有効期限がございますので、日頃の確認はもちろんのこと、定期点検が大切です」
松村さん「救命胴衣は命を預けている大切な道具なので、定期点検はぜひお願いします」
青木さん「膨らみ方も、自動式なのか? 手動式なのか? 手動式の場合は、どの方向にどのくらいの力を加えれば開くのか? などは最低限把握しておいていただいた方が良いかと思います」
大川次長「膨張式救命胴衣はパラシュートみたいなものです。パラシュートの開き方を知らないで飛び降りる方はいないし、手入れや点検をしていないパラシュートで飛び降りる方もいないかと思います。救命胴衣も同じくらい重要です。もちろん落水しないことが第一ですが。不幸にも落水してしまった方も、自分が落水するとは誰も思っていません。事故とはそういうものです」
青木さん「落水してしまった方は軽いパニックになるので、パニック状態の中で手動式の膨張救命胴衣を広げるには、日頃から慣れていないと難しいかと思います」
松村さん「少しでも不安のある方は、膨張式ではなくて、固型式タイプを選ばれた方が安心かと思います」
高柳:「救命胴衣の他に重要だと思える装備はございますか?」
松村さん:「シューズは非常に重要です。とくに地盤が濡れている場所では、足元のスリップが原因で落水してしまう事例も多いです」
青木さん「直接落水しなくても、スリップ転倒で頭部を強打して、意識不明のまま落水してしまうキケンもあります」
松村さん「頭部強打予防の意味でも、磯場などのキケンが多い場所ではヘルメットの装着を推奨します」
青木さん「頭部を守ることは非常に重要です。ですが海釣り公園などの安全が確保されている場所でまで、ヘルメットを被るのは現実的ではないと思います。そうした場所では、釣り針から頭部と目を守るための帽子とサングラスの着用をオススメします」
大川次長「あと気を付けていただきたいのが、一見安全に思える堤防の方が、事故事例が多いという現実です。堤防で釣りをなさる方の人数が多いということも関係していますが、堤防は安全に思えてしまうため、安全装備が甘くなってしまうという事実も関係していると思います。磯場でも堤防でも落水はキケンです。特に堤防は落ちたら登りにくいです。堤防でも救命胴衣は必ず着用していただきたいです」
松村さん「グローブも重要です。特に磯場では万が一落水して、岸へ這い上がるときにグローブがないと磯場にいる貝などで手が血だらけになってしまいます」
大川次長「万が一のときに救助が呼べる防水対策がなされた携帯電話も大切ですが、海辺では電波が届かない場所も多いので、携帯電話だけでは安心できません。大切なのは、できるだけ単独釣行は避ける。ということです。どうしても単独で行かれる場合は、必ず身近な方に行き先の詳細情報と、帰りの予定時刻を伝達してから、釣りに行くようにお願い致します」
高柳「装備は事故のリスクを減らすことができる重要キーワードですね。ですが、どんなに装備を完璧にしても、気象条件の急変などによる、避けきれない事故もありますか?」
青木さん「そうですね、そうした事故も少なくはありません。そうした事故を予防する意味で、もうひとつ大切なのが知識と情報収集だと感じています。正しい知識と正しい情報によって回避できる事故も少なくないと思います」
大川次長「少し休憩を挟みまして、次は知識&情報収集と事故予防の関係を考えてみましょうか」
高柳&後藤「宜しくお願いします!」
(次回に続く…)
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