ミス釣りKeyword5「パロディ」
読めば読むほどに、味わい深いストーリー
猪熊「1話目は迷いましたよね」
とだ「そうでしたねぇ」
猪熊「どうしても上手くいかないからコーイチくんが転校生というパターンに落ち着きましたね」
とだ「で、高校生という設定だけど学校生活のみに終始したくないから、始めから芸能人が登場して。そうです『サメタク』です(笑)。いやいやいや、マンガは毎回注意書きを載せてましたけど、架空の世界ですから(※注19)」
「注19 架空の世界」
登場人物やフィールドはパロった釣り用語で登場。
初回から最終話まで、物語の始まりには必ず記載された注意事項。改めて読み返すと、ギリギリの線で進んでいる話も少なくないが、クレームは一度もなかったのだという。現代とは異なり、時代が実に大らかだったようだ。
MAPSのサメタク、同じくメンバーのベタナギ剛、ヒロスレ涼美(読み:リョービ)、CM作家の糸魚川重里(読み:いといがわ・おもり)、和室七海恵(読み:わむろ・なみえ)などなど、誰かに似た魚や釣り場をイメージさせる奇抜なキャラクターが数多く登場したことも印象的だった。
とだ「主人公のコーイチくんのフルネームは『日和湖一』(読み:ひわ・こういち)。で、日本一の湖の名前は『日和湖』。琵琶湖が存在しない世界のお話ですから(笑)ちなみに日本で2番目の大きな湖は霞比ヶ浦(読み:かすぴがうら)と似浦(読み:にたうら)ですからね(笑)」
日和湖に霞比ヶ浦の2大バスフィールドを始め、北浦を似浦(読み:にたうら)、お台場を台場場(だいばば)など。マニアックな地名では香川・満濃池(※現在は釣り禁止)が万能池として登場。
読めば読むほどに、掘り起こせるマンガ。噛めば噛むほどに味が出るスルメのようなマンガ。それが釣りどれんだ。
今読んでも古くない。むしろ新鮮な感情が呼び起こされる。
猪熊「時事問題は常に取り入れていましたね。W杯の陸田ジャパン(※注20)やノストラダム(※注21)、他には……」
「注20 陸田ジャパン」
外れるのはカズ……で話題となったアノ監督も。
98フランスW杯で指揮を振るったアノ監督(らしき人)も登場。一般的には『りくだ』と読むであろう漢字だが、釣り人なら『陸(おか)っぱり』と読める。釣りどれんならではの表現だった。
「注21 ノストラダム(ス)」
1999年7月に世界が終わる……終わってないが。
世間を震わせた当時の終末論。本気で信じた人もいた時代だったが、とだ先生は敢えてパロディ要素で釣り人を元気付けてくれた。あれから20年を経過したが未だ地球は健在だ。
とだ「たまに電話で村田さんからお褒めの言葉をいただくのは、そういっただいたいブッ飛んだお話の時でしたね(笑)」
村田「アハハハハハ(笑)」
猪熊「月刊少年マガジンのメインの想定読者層って、高校生なんですけど、実はオトナも多い。そんな中で、とだ先生のマンガは広い層から支持がありましたね」
とだ「ある時、集計の結果で小学生から人気があると言われたのはうれしかったですね。まだ自由にお小遣いが使える層ではないものの年齢別で見るとダントツだと。昔って、散髪屋さんや定食屋さんに行くとマンガ誌が置いてありましたよね。そこで初めて読んでくれた方が後々というパターンも多かったようですね」
村田「じっくり読み過ぎちゃって、気が付いたら髪が思ったより短くなってたとかね(笑)。当時の年齢的に10代前半、そこに中盤の高校生が加わって、今の30代から45歳くらいの人たちが広く見てくれていたのかな」
猪熊「子供の頃って、なかなか釣りに触れる機会もないと思うんですよ。釣りの世界が広がっていくきっかけにもなったかなと」
とだ「そもそも釣りバトルだけにはしたくなかったんです。もちろんお話のなかにはちょっとしたバトルもありましたけど、大きいのを釣ったら勝ちとかというだけにはしたくなかったんですよね。それよりズッコケたり、オチが付いたりという楽しい方向で進めたかったんです」
とりわけ毎回最後に掲載されていた『おまけマンガ』(※注22)はオトナの読者も楽しませてくれた。とだ先生と愉快な仲間たちの釣行は微笑ましく、現代で言えば在野のYouTuberのようなコミカルさがそこにあった。
「注22 オマケマンガ」
村田さんは第1巻で背中、以降は顔にモザイク処理。
猪熊さんを会長とするBASS No Get Club(略称NGC)をタイトルに始まった巻末のオマケマンガ。メンバーのリアルな姿を面白おかしく綴る釣り日記的な物語で、当時の少年たちのみならずオトナも楽しめる内容だった。なお、村田さんは「某釣具店の店長」として顔にモザイク処理が施されていた(笑)。
村田「よく釣りに行ったよね。俺は毎回毎回、ホント面白かったよ」
とだ「村田さんに『今度はあそこがいいよ』と言われたら企画して、頻繁に釣りに行ってましたよね」
村田「あ! 野尻湖(※注23)で魚は釣れないのにタックルが釣れた時もあったよね(笑)」
とだ「はいはい! あの日はターンオーバーだったのか、ホント釣れない日でしたね。村田さんは早々に諦めてボートで寝てて(笑)、そんな中で『何か釣れました!』と上げてみたらタックルだったという(笑)」
村田「不思議だったのが、そこに付いてたスピニングリールが2日前に発売されたばかりの新製品だったこと。当時の新製品って、秋発売(※注24)だったんだよ。で、それもウチのお店くらいでしか売ってないはずなのに。前日に買って、すぐに落とした? そんなことってある(笑)?」
「注24 当時の新製品は秋発売」
現代は年明けショーに合わせた新製品展開だが。
当時のフィッシングショーは見本市といった雰囲気で、春前の開催。現代のように冬開催の新製品発表の場としてはあまり機能していなかったのも事実。98年の本誌創刊2号でアンタレス発売日が7月下旬と確認。90年代後半は秋発売から徐々に夏へと移行し始めた。
とだ「猪熊さんも霞ヶ浦でタックル落として、僕がウォーターソニックをズル引きして回収したこもありましたね」
猪熊「あったあった! (笑)」
とだ「そんな日々の突発的な出来事もネタに、いつも釣れないとか失敗したことをエピソードにしたわけですけど……とは言っても『本当は上手なんでしょ?』と勘ぐる読者さんもいて。オフ会で一緒に釣りすると『ホントに下手なんですね』と。だから、いつもマンガに描いているでしょーと(笑)!」