《硬すぎ!まるでバスロッド》柔らか渓流トラウトロッドに硬めが取り入れられていった裏話

スミス平本仁さんが手掛けた「D-コンタクト」。ヘビーシンキングという渓流で最も使われているであろうミノータイプの基礎を作り上げたこのルアーは、今でこそ多くのトラウトアングラーに愛される渓流トラウト定番シリーズの礎となった。今回は「D-コンタクト」が登場する以前の1998年頃に、平本さんが開発していた『TRB』という、当時としては硬めに部類するトラウトロッドについて振り返ってもらった。

●文:ルアーマガジン・リバー編集部

2024 シーバス特集

平本仁さんのプロフィール

平本仁(ひらもと・ひとし)

2000年頃からヘビーシンキングの構想を頭の中に思い描き、形にした「D-コンタクト」の生みの親。東北を好み、渓流魚の中ではとくにヤマメ。近年、身近なフィールドにも目を向け、関東近郊河川の独自開拓にも力を入れている。

ガチガチの硬い竿でミノーを操りたい

「D-コンタクト」が登場する以前の1998年頃、平本さんは『TRB』という、当時としては硬めのトラウトロッドを開発していた。

平本「その頃の渓流ルアーの釣り方と言えば、スプーンもスピナーもミノーもただ巻きが基本。トラウトロッドの多くがパラボリックな柔らかい調子だった。トラウト用と謳われるミノーも2g程度のものばかりだったけど、僕はソルト用のウェイビーを好んで使っていた。重さは3.5g。このルアーを、ロッド操作で動かして魚を釣るのって面白いんじゃないかなって当時考えてね」

ロッドの硬さを表現するなら、トラウトロッドにしては「ガチガチ」といったところ。

平本「『硬すぎ。これじゃバスロッドじゃん』とか言われたりもした(笑)」

開発時の「TRB」グリップはなんと自作!

こちらは平本さんが「TRB」を開発していた当初のプロトモデル(ブランクはマジカルトラウト)。グリップ周りはいろいろなパーツを組み合わせて自作したそう。このアップロック・ダブルスクリュー式の留め具は、後のスミスロッドにも反映され続けている。「ちなみに、エンドパーツはドアノブで作った(笑)」。

こちらも平本さんの自作! レザーを採用するアイデア

製品として採用はしなかったものの、このグリップも平本さんの自作。「コルクとレザーを組み合わせたもので、自分で水道管を切って金属パーツを作ったり、あちこち削ったりして作ったもの」。レザーを重ねて付けるところが難しいようで、間にゴムを入れるなど機能性・デザイン性共に試行錯誤したそうだ。

ロッドに小口径ガイドをいち早く採用した

現在、小口径ガイドが採用されているロッドは多い。メリットとしては、高い感度やタイトな操作性が挙げられるが、20年ほど前は「径の大きなガイド」が主流だった。疑問を抱いた平本さんは、小口径ガイドをいち早く取り入れようと実験を開始。「径の大きなガイドが当たり前の時代、釣りをしていて気になったのが、飛距離のバラツキ。じゃあ実際に統計をとってみようと、小口径ガイドを取り入れたプロトで何千回とキャストをしてみた。想像通り、平均飛距離にバラツキが少なかったんだよね」。2001年の「TRB」からすでに小口径ガイドを採用している。

発売当初こそ人気が出なかったとのことだが、徐々に知名度を上げ、そこから『硬めのロッド』が主流になっていく。さらに、平本さんはその後も継続して、スミスのトラウトロッドの開発を手掛けている。「TRB」は確実にそれらのベースになっているし、何より、現在はロッドを激しく動かすトゥイッチングやジャークの釣りがミノーイングの基本となっている。

平本「実際にTRBでウェイビーを操っていたんだけど、Uターンする魚がいてね。そこで疑ったのがルアーのアクションだった。もっと潜ったら食ったかもしれないという考えも浮かんで、これが最終的にヘビーシンキングミノーを追求するきっかけになった」

カーディナル3/33

平本さんと言えば、長らくカーディナルを愛用していた時期もある。こちらは愛機の3と33。「とくにこれじゃなきゃダメなわけではなく、新しいリールも色々試してたりしているんだけど、カーディナルはハンドルリターンとかフェザーリングのしやすさとか、渓流のアップストリームにマッチしているよね」

普段考えている「ハテナ」を追求し、テストを重ねて落とし込む。平本さんの製品開発はごくシンプルだ。でも、製品開発とマーケティングには既成概念との戦いがあり、それを乗り越えるのは簡単ではない。

平本「だって、自分でいいと思ったものや、面白いことはとことん追求したいじゃない。でもおかげさまで、今の所ユーザーからの『ノーグッド』っていう意見は聞こえてこないんだよね。もしかしたら、スミスのスタッフが僕の耳に入らないようにしているのかもしれないけど(笑)。でもうれしいよね」

平本さんの性格は極めてポジティブだ。さらに挑戦することに対して努力と時間を惜しまない。このバランスが少しでも狂えば、もしかしたらD-コンタクトは生まれてなかったのかもしれない。

東北の清流。透明度の高い魅力的な流れ。開けた渓流ではアップクロス~クロスに流しながらゆっくり探っていく。対象的に、木々が覆い茂るような細流のアップストリームの釣りも、平本さんは好む。

D-コンタクトについて

8色展開から始まったD-コンタクトのカラバリ

こちらはDシリーズのカラーサンプルたち。「D-コンタクトは当初8色からスタート。今は35色。ヤマメカラーだけでもいくつかパターンがあったり、結構ラインナップは増えたよね」。

取材当日、重たいミノーをスライドさせる「慣性スライド」について解説してもらった際、ミノーにラインを通した自作道具を持参。ロッドグリップも然り、思い立ったら作ってみるのが平本流。今も昔も、そのバイタリティは変わらない。

Dシリーズとヤマメ

2019年9月、翌年の新製品の目玉でもあった「D-コークス」をテーマに実釣取材を行った際のワンシーン。場所は岩手県内の各河川。ベイトロッドを巧みに操り、イーハトーブの里川を釣り巡った。

こちらは2009年9月の岩手県・閉伊川支流遠征時の見事な35cmヤマメ。時期的にナーバスな秋の魚を「D-コンタクト秋」でキャッチした。シチュエーションも釣れたルアーもこの上ない、素晴らしい釣果だった。

D-コンタクト50(スミス)

ヘビーシンキングのスタンダード

2003年のデビューから今年で20年。よく飛び、よく釣れる、今や渓流ルアーフィッシングに欠かせない存在となったヘビーシンキングミノーのスタンダード。開発の段階では「もっと重たいルアーがほしい」と、名作・ウェイビーにオモリを貼り付けてテストを行っていたという。

項目スペック
全長50mm
ウエイト4.5g
タイプヘビーシンキング
価格1,650円(税別)

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