
群馬県内の渓流をホームグラウンドとする高橋雄一郎さんは、シーズン初期に必ず訪れるフィールドがある。それが今回紹介するイワナの溪。待ちきれず、他県の2月早期解禁河川に浮気もするが、やっぱりシーズンインの本命はこの場所で。長い禁漁期間を経て、愛くるしいイワナたちの顔を見るために、釣友と2人で林道を突き進む。自然の中に分け入り、誰にも邪魔されないで遊べる時間が楽しい。
●文:ルアーマガジン・リバー編集部
今回の渓流遡行を楽しんだお2人
新井仁(あらい・ひとし)
2015年にトラウトルアーを始めてから、年間釣行数は毎年200日を優に超える! 経験値も非常に高く、地元利根川水系に通い込み、1年中トラウトを追い求めるフィッシングバム(写真左)。
高橋雄一郎(たかはし・ゆういちろう)
「WILD-1」フィッシング・ストアアドバイザー。普段は高崎店勤務。渓流歴は32年で、エサ釣り・フライを経て現在はルアーが中心。トラウトフィッシングをこよなく愛し、春は渓流・本流、夏は源流、秋は本流・湖、冬は本流というルーティーンを毎年楽しんでいる。このほか、カヤックフィッシングなどソルト、そしてサーフィンを楽しむ(写真右)。
バックパックを背負い林道からアプローチ
愛くるしいイワナを探しに、いつもの溪へ
3月中旬に訪れたのはイワナが狙える地元の小渓流。この溪に通い始めてから10年ほどが経過するが、毎年3~4月に入るお気に入りの場所で、放流は一切されておらず釣れればネイティブなイワナに出会うことができる。
地元の解禁を待ちきれず訪れた2月の長野県釣行の際もそうだったが、2023年は残雪が極めて少なく、序盤から水温も魚の活性も高めで推移していた。この川もいつもなら残雪期を外して雪がなくなった頃に向かうところだが、奥まで行けると踏んで早々に入ってみることにした次第だ。
ネイティブなイワナに出会えるお気に入りの渓流。気分は上々、キャストも軽快に決まる。
今回は釣友と2人での釣行。バックパックを背負い駐車スペースから1時間ほど歩いてエントリーする。何年やっていても川へ向かう景色にはワクワクしてしまうものだが、地元渓流の解禁初釣行となればなおさら。雪がないため林道は歩きやすく、自然とペースアップしていたようで、のっけから汗ばんだ状態で釣りをスタートした。
水温は6度ほど。数日前の雨でやや増水気味だが水はクリアで雰囲気はある。そして、竿を振り始めるとすぐにイワナからの反応があった。まだ岩陰に隠れている個体が多いのだろう、魚体は真っ黒け。釣り上げられてもキョトンとしている顔がたまらなく愛おしい。そんなイワナが私は大好きなのだ。



反転せず「あむっ」と咥えたのが見えた
ボトムを這うようにして頭でっかちが出現
単独での釣りも楽しいけど、少人数であれば誰かと一緒に楽しめるのもまた、渓流釣りの魅力。
「このイワナ真っ黒!」
「うわー見切られた!」
「よっしゃデカイ!」
「今の見た!?」
個人的には魚のサイズを問わず1尾に対する喜びを共感し合えるのが1番いいなと思うけど、もちろん釣れたサイズを競いながら楽しむのも、ポイントを譲り合いながら遡行する渓流釣りならでは。
今回同行してくれた相棒・新井さんは勝手知ったる仲ということもあり、終始会話が途切れることはなく、ふたりでキャーキャー言いながら上流を目指した。
魚からの反応はすこぶるよく、ふたりの竿がコンスタントに曲がる。この川の今年一発目の釣行で、スムーズに魚との出会いを果たせたことで気分は上々。
引き続き僕たちは上流を目指しながら、何尾かのイワナを釣った。夢中で竿を振り続けていると、気づけば大場所へとたどり着いていた。いかにも大物が潜んでいそうな深さのあるポイントだ。
早期に入ってまったく雪がないなんて、こんな景色は珍しい。歩きやすく、気温も高く推移していたので、魚の活性もまずまず。
ここまでのヒットパターンは表層~中層ではなくボトム付近がほとんどだったが、水深のある場所、さらに早期となると、なおさら「ボトム」への意識は高めていくべきだろう。時期的に、これが釣果を分ける重要な要素のひとつになるはずだ。
「こういうポイントって簡単じゃないよね~」などと会話をしながら、次は自分が投げる順番だと、若干緊張。
着水してした後、しっかりボトムを取り、ルアーを上下に跳ね上げるように操作する。
重要なのは、同じレンジを長く維持すること。ルアーが浮き上がりすぎてしまうと、魚の食いが悪くなる。そんなことをイメージしながら誘っていくと、ルアーがシャローに差し掛かったタイミングで、大きいイワナがボトムを這うようにしてチェイスしてきた!
この日は反転食いする個体が少なく、ついばむようなバイトばかりでほとんどアタリを感じられないことが多かった。このイワナも当然のように、ミノーを「あむっ」っと咥えたのが見えたので、瞬間的に強めのアワセを決めた。ヒット。
ファイトではそれほど強い引きは感じられなかったのだが、これも早期ならでは。きっとこれからコンディションを上げていこうとしている個体なのだろう。
ラバー素材のランディングネット差し出すと、細長いイワナが横たわった。顔と胸ビレが損傷しており、厳しい生存競争を生き抜いてきたことが想像できる。
サイズは34cm。顔と尾ビレだけが大きい、いかにも『沢のイワナ』といった姿だった。
気温が高く魚の活性は高め、とはいえこの日ヒットしたレンジの多くがボトム。早春の定番パターンだが、大場所のボトムレンジを丁寧に探ると、体は細いながらも34cmのイワナをキャッチ! この川では珍しく、体側に斑点のない「無班」の個体だった。
また、この川にしては珍しく体側はほぼ『無斑』。よく見ればうっすらと斑点があるようにも見えるが、この沢でこのような魚体の魚は初めてだった。
リリースすると、ゆっくりと深みへと消えていった。
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