『ミルクの中のイワナ』深山幽谷に息づくイワナたちの生態を綴ったドキュメンタリー映画

日本には一級河川だけでも14,000以上の川が存在する『川と水の国』でもあります。そんな日本の深く険しく清冽な流れの中に息づく『イワナ』という魚にスポットを当てて、彼らをとりまく生態系がいま、どのような問題を抱えながらも細く息づいているのか。研究者、漁協、釣り人など『イワナ』に深く関わる人たちが語ります。

●文:ルアマガプラス編集部(フカポン)●タイトル写真:Photo by thirai yo

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『イワナ』に迫る『危機』。釣り人も正しくそこに着目したい。

ドキュメンタリー映画のタイトル『ミルクの中のイワナ』この印象的なタイトルはどうして採用されのか。こちら、このドキュメンタリー映画の企画書からそのまま抜粋してみます。

“A Trout in the milk” という印象的な言葉。

これは19世紀に活躍した作家であり、約2年間の自給自足生活をまとめた『ウォールデン森の生活』などで知られるヘンリー・デヴィッド・ソローの手記に、川の水で牛乳を薄める悪徳業者へ状況証拠を強く示す言葉として記述されている。

“Some circumstantial evidence is very strong, as when you find a trout in the milk,”

状況証拠というものは、牛乳の中に鱒を見つけたように、非常に強力なものだ

“Circumstantial evidence is occasionally very convincing, as when you find a trout in the milk, to quote Thoreau’ s example.”

「状況証拠というものは、ときにすこぶる的確なものだよ。詩人ソローじゃないが、ミルクの中からイワナをさがしだすようにね」

また、アーサー・コナン・ドイルの小説『シャーロック・ホームズの冒険』所収「花嫁失踪事件」(1892年)にも登場しており、当時このフレーズが印象的に使われていたことがわかります。

これらの用法から転じて、「ミルクの中のイワナ ( A Trout in the Milk)」=「状況証拠しかないが、問題が存在することは、明白である」という比喩表現としても使われてきました。

私たちは、さまざまな理由から減少しているイワナについて、すでに存在する状況証拠をひとつずつリサーチしていくことで、独自の解決手段を探りたいと考え、本作のタイトルにこのフレーズを使用することを選びました。

日本にはたくさんの美しい川があるにもかかわらず、その川の上流奥地に生活圏があるイワナたちの生活は年々、失われつつあります。単純に生活環境が劣化し狭められているという単純な問題だけではありません。遺伝子的な問題も深刻です。放流技術が発達することによって、無秩序に魚の放流などが行われて、その川の本当の天然魚という存在も希少になってきました。

Photo by thirai yo

さまざまな問題を抱えている日本の渓流魚の一端を『イワナ』という存在から垣間見ることができるはずです。

この作品は、山のイワナたちを12人の識者たちが語り、それについて考えることによって、まさに「ミルクの中のイワナ ( A Trout in the Milk)」=「状況証拠しかないが、問題が存在することは、明白である」ということを多くの人に理解してもらうことが主題になっているのではないでしょうか。

渓流での釣りを楽しむものにとって、考えさせるテーマとなっていますので、ぜひ機会があれば本作品をご覧いただければと紹介させていただきました。

出演者について

中村 智幸 

国立研究開発法人 水産研究・教育機構水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部副部長

1963 年生まれ。信州・伊那谷に生まれ、地元の渓流でイワナ・アマゴ を追う少年時代を経て、渓流魚の生態と増殖方法を研究する生活に入 る。渓流魚の人工産卵場を造成する技術を国内で初めて開発。都道府 県や漁協、釣り人からの相談や講演依頼で全国各地を飛び回っている。 東京水産大学大学院水産学研究科博士後期課程修了。水産学博士。

森田 健太郎

東京大学大気海洋研究所 教授

大阪生まれの奈良育ち。北海道大学水産科学研究科で博士号取得し、北海道区水産研究所・さけます資源研究部資源保全グループに所属。現在は、東京大学大気海洋研究所に所属。主な研究テーマは、「サケ科魚類の生活史進化と個体群過程」近年は、野生サケの利用と保全に関する研究にも精力的に取り組んでいる。

芳山 拓 神奈川県水産技術センター 技師

1991年神奈川県生まれ。県立小田原高校、北海道大学水産学部海洋生物科学科を経て、2013年より北海道大学大学院水産科学院に所属。現在、神奈川県水産課職員。大学院では北海道然別湖の他、朱鞠内湖、洞爺湖をフィールドとして、水産資源学、魚類生態学、環境経済学といった幅広い学問分野から「釣り」をテーマとした研究を一貫して行う。2018年3月に博士(水産科学)を取得。

佐藤 拓哉 京都大学生態学研究センター准教授

1979 年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。日本生態学会「宮地賞」をはじめ「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。

国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部

徳田 幸憲 岐阜県・高原川漁業協同組合 参事

高原川は、日本海へとそそぐ神通川の一大支流です。この川は、昭和の中期頃まで鉱山廃水の影響から魚達にとってあまり良い環境とはいえない状況でしたが、大勢の人の努力により全域にわたってイワナが生息できる環境を取り戻すなど、河川環境の保全と増殖事業を行っています。

菊地 勇 秋田県・役内 雄物川漁業協同組合 代表理事組合長

旧雄勝漁協と旧雄物川上流漁協と合併し、役内・雄物川漁業協同組合となる。共に70年間活動した漁協が、組合経営の安定化と漁業管理の一元化を目指し平成29年度より合併協議会を重ね実現。実写版映画『釣りキチ三平』の舞台になった役内川を管理し、映画にも全面的に協力。

西村 成弘 株式会社フィッシュパス 代表取締役

1975年福井県坂井市生まれ。2000年関西大学文学部卒業、日東電工株式会社入社。2004年に独立し、有限会社オンフードを設立。2016年に株式会社オクター(現・フィッシュパス)を設立し、代表取締役に就任。2021年3月、福井県立大学大学院経済・経営学研究科修了。

山中裕樹 龍谷大学先端理工学部 准教授

龍谷大学理工学部 環境ソリューション工学科講師。博士(理学)。滋賀生まれ。三重大学生物資源学部生物資源学科卒業。京都大学理学研究科生物科学専攻修士課程および博士課程修了。博士(理学)。2007年総合地球環境学研究所プロジェクト研究員、2010年龍谷大学 理工学部実験助手を経て2013年から現職。環境DNA学会の立ち上げに関わる。

戸門 秀雄 郷土料理 ともん

1952年、埼玉県生まれ。高校卒業後、考古学を志したが、渓流魚の魅力に取り憑かれ、1976年、渓流魚と山菜・キノコを扱う「郷土料理ともん」を開店。以来、趣味の釣りと食材集めで各地の渓流を訪ね歩き、 職漁師の暮らし・漁法・漁具を記録している。ダイワ精工(現 DAIWA / グローブライド社)のアドバイザーも務め、大物喰わせ釣り用の渓流竿「碧翠」「碧羅」を共同開発した。元埼玉考古学会会員。

戸門 剛 郷土料理 ともん

1984 年生まれ。幼少期より父の薫陶を受けて渓流釣りに慣れ親しむ。都内の日本料理店にて修行の後、実家に戻り両親が営む料理店、『山の幸、川の幸 ともん』を継ぐ。

佐藤 成史 ライター&フォトグラファー フリーランス

幼少の頃から魚釣りに没頭し、高校時代からは渓流釣り一筋に。北里大学水産学部在学中はイワナのサンプリング活動に勤しむ。社会人になってからは、一般社会からドロップアウトして、日本全国、世界各国を釣り歩く生活を送る。

宮沢 和史 音楽家

1966 年山梨県甲府市生まれ。THE BOOM のボーカリストとして1989年にデビュー。これまでにTHE BOOMとしてアルバムを14枚、ソロでは4枚、GANGA ZUMBAとしては2枚リリースしている。デビュー25年を迎えた2014年に、THE BOOM の歴史に幕を閉じ、しばらくの充電期間を経て、2018年11月より本格的な歌手活動を再開。現在沖縄芸術大学で非常勤講師も務める。

2名の音楽家による本作品書き下ろしのサウンドトラックが完成

YOSI HORIKAWA

環境音や日常音などを録音・編集し楽曲を構築するサ ウンド・クリエイター。2012年のEP『Wandering』2013年の初アルバム『Vapor』、2019 年の 2nd アルバム『Spaces』全て英 紙 The Guardian, The Japan Times 等、多数媒体の Best Album of the year に輝く。 リリースの度にワールドツアーを行い、Glastonbury Festival, Sónar Barcelona, Dimensions Festival, Gilles Peterson が主宰する Worldwide Festival を始め とする多数の世界的大型フェスティバルや、イギリス 発ライブストリーミングチャンネル BOILER ROOM London、ロサンゼルスの伝説的イベント LOW END THEORY 等に出演。

DAISUKE TANABE

千葉県在住の音楽家 / 作曲家。20代で渡英し、それまでに作りためていた楽曲を当時ロンドンで話題だったオーディエンス参加型イベントCDRにて披露。その緻密な楽曲構成力とメロディセンスで一躍注目 アーティストに。2006年、英国 Fluid Ounce レーベルからのソロ・リリースが、ジャイルス・ピーターソンの耳にとまり BBC Radio1 Gilles Peterson Worldwideにて、その年のベストトラックの1曲として選ばれ、翌年 2010 年、Red Bull Music Academy(RBMA) Londonに日本を代表して参加。帰国後も、Sonar Barcelona をはじめ、世界十数カ国でライブを行っている。

2014年にリリースした2ndソロアルバム『Floating Underwater』では、更に進化した独特の世界観とサウンド・プロダクションを披露。

上映に関する情報

一般上映の詳細は、上映予定が決まり次第、映画「ミルクの中のイワナ」公式ホームページにてお知らせいたします。

⚪️映画祭上映

『Interrobang Film Festival 23』

日時:6月23日 – 25日

会場:アメリカ・アイオワ州デモイン ウエスタンゲートパーク

『WILDLIFE CONSERVATION FILM FESTIVAL 23』

日時:2023年10月19日 – 10月29日

会場:アメリカ・ニューヨーク シネマヴィレッジシアター

『Cinemaking International Film Festival 23』

日時:2023年12月27日

会場:バングラディッシュ・ダッカ

⚪️受賞

ハンガリー・ブタペスト ブラックハット映画祭 2023 ベストドキュメンタリー受賞

ギリシャ・アテネ アートフェスティバル映画祭 2023 ベストドキュメンタリー受賞

カナダ・トロント インディペンデント映画祭 2023 ベストドキュメンタリー受賞

製作陣について

◾監督 / プロデューサー 坂本 麻人 一般社団法人 Whole Universe 理事

ドキュメンタリー映像作家として活動。岩手県遠野を舞台にした短編ドキュメンタリー作品「DIALOGUE WITH ANIMA」を監督し、研究プロジェクトJST/ERATOx HITE [脳AI融合プロジェクトxHITE]の短編ドキュメンタリーを制作。またアーティスト 長谷川 愛の映像作品「Shared Baby」(森美術館「未来と芸術」展出品)や市原えつこ「未来SUSHI 研究者は語る」などの監督・制作を担当。以前には、『釣りキチ三平』( 矢口高雄 )とルアービルダーによるコラボレーション企画のプロデューサーとしても活動していた。一般社団法人 Whole Universe の理事。

◾共同プロデューサー / インタビュアー 武田 俊

2011年、メディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。その後「TOweb」「ROOMIE」「lute」「M.E.A.R.L.」などアート・カルチャー領域の Web マガジンにて編集長を歴任。2019年より法政大学文学部にて「情報メディア演習」を担当。

デジタル、紙、物理空間など多様なメディアを横断し、ナラティブで繋ぎ合わせる手法を探究中。