「原点」。国内オールドタックルショップとしてスタートした『フロッグプロダクツ』が、トップウォーターブランドとして初めて制作したルアーが、ヘドンの『ファーストフロッグ』のレプリカだった。フロッグプロダクツ代表の荒井謙太さんが1個ずつハンドメイドで仕上げた『ファーストフロッグ』。そして『ファーストフロッグ』のデザインテイストを踏襲しつつ、機能性も兼ね備えた第2弾のルアーが、ご存じ『スーズーン』。機能性とデザイン性を見事に融合した『スーズーン』の中にこそ、本当の意味でのフロッグプロダクツの原点が詰め込まれている。荒井謙太さんに歴史を紐解いていただいた。
●文:ルアーマガジン編集部
ファーストフロッグからスーズーンへ
かのジェームス・ヘドンが最初に制作した『ファーストフロッグ』は、仲間内で使用するために制作されたルアーだった。総制作数は10個弱だと言われている。そのうち現存するのはおそらく2~3個。まさに幻のルアーだ。そんな幻のルアーを荒井謙太さんが初めて見たのはフロッグプロダクツを立ち上げて数年後のアリメカ某所でのことだった。
X線調査によって本物と認定された鑑定書と一緒に飾られていた『ファーストフロッグ』は、デフォルメされた愛嬌と、洗練さが見事に同居したデザインだった。荒井さんは、そのデザインセンスに魅了された。
荒井「その場所にいらっしゃいましたジェームス・ヘドンさんのご子息にあたる、チャック・ベトンさんに自分が今までに作ったルアーを見ていただいた上で、ファーストフロッグのレプリカを制作したい情熱を伝えました」
荒井さんの制作したルアーをじっくりと観察したチャック・ヘドンは『応援するよ』と、笑顔で言ってくれた。こうして誕生したのがフロッグプロダクツ製の『ファーストフロッグ』。
当時、荒井さんが1体ずつハントメイドで仕上げた貴重なルアーだ。制作数は数百個。半年~1年待ちの完全なるオーダーメイドルアーだった。
荒井「可能な限り忠実にオリジナルを再現して制作しました」
ファーストフロッグはカエルの後ろ足に見立てたフックが、テールから2本突き出ているデザイン。そのフォルムは愛くるしいが、2本の突き出しスタイルのテールフックのフッキング率は、当然のように問題があった。
荒井「まぁ~当たり前ですが、フッキングしにくいですよね(笑)。ファーストフロッグのテールフックにフッキングした経験は、現在に至るまで自分は1度もありません(笑)。デザインは最高ですが、あの構造では実釣面での課題は多いです。そこで、ファーストフロッグ特有のデザインDNAを残しつつ、よく釣れるルアーを作ろうと思いました。それこそがスーズーンです。フロッグプロダクツの実質上のファーストルアーと言えます」
バグズファーブルシリーズ【2000年頃】
ガンディーニ GUN-DEENI
クワローラー KUWA-RAWLER
スーズーンからバグズファーブルシリーズへ
スーズーンの開発に着手した当時、トップウォーターブランドはもちろんのこと、国内の大手ブランドでも、インジェクションルアーをメイドインジャパンで仕上げているメーカーはほぼ皆無だった。今では当たり前のCADも、当時はまだ存在していなかった。
荒井「試行錯誤と模索の日々でした」
学ぶべきことがあまりにも多かった。プラグの金型作りに始まり、ABS素材の特性を理解するための化学領域まで……その項目はあまりにも膨大だった。勉強して知れば知るほどに、さらに知りたいことが加速して増えた。そんな当時の荒井さんが門を叩いたのが大学教授だった。いわゆる工学博士だ。
荒井さんの知りたいことは、もやは『一般人』の領域を超えて『学術』の世界へと入り込んでいた。
荒井「大学教授の先生にお力をお借りして、二人三脚で仕上げたのがスーズーンでした」
スーズーンを1mm単位で輪切りにした当時の分厚い図面を手にしながら、荒井さんは当時を思い出すように、ゆっくりと話してくれた。
荒井「お陰さまでスーズーンはユーザーの方々に大変ご好評をいただきました。ですがスーズーンって、ファーストロット分だけが、実は3mmボディが小さいんです」
大変な難産の末に誕生したスーズーンはよく釣れた。デザイン性も完璧だった。だが、ファーストロッド分のスーズーンを使用している間に、荒井さんの中で沸々と沸き起こる思いがあった。もっと……さらに……いいスーズーンが作れる気がする。その思いは風船のように膨らみ、抑えることができなくなっていた。遂に荒井さんは、注文が止むことのない、完成直後のスーズーンの金型を潰して、新しいスーズーンの金型を一から作り直す決心をした。
荒井「それが今のスーズーンIIです。ファーストロットのスーズーンよりもボディが3ミリほど大きいんです」
スーズーンを開発していた当時は、荒井さんのルアー開発能力が急激に成長を遂げていた時期でもある。スーズーンのファーストロットが完成してからわずかな期間で、さらなる成長を遂げていた荒井さんが、数ヶ月前の自分の未熟さと誠実に向き合った。その事実が3ミリ違いの2タイプのスーズーンが誕生した背景といえる。実に荒井さんらしい、熱量が高い正直な選択といえる。そしてその正直さこそが、現在へと続くフロッグプロダクツのクオリティを支えている。
フェラーリに代表される流線型のデザインを得意とするイタリア・トリノのデザイン会社『ピニンファリーナ』。荒井さんがスーズーンのデザインイメージを固めるときに意識したのが『ピニンファリーナ』だった。
荒井「スーズーンは曲線を活かしたデザインです。であれば次は真逆である、直線もしくは、多面体構造のルアーを作りたいと思いました。デザイン的にはスーズーンとは真逆です」
そのときに荒井さんが意識したのがマルチェロ・ガンディーニ(イタリア・工業デザイナー)だった。ガンディーニがデザインする直線的な世界、そこに荒井さんのもうひとつの好きな要素である、昆虫のモチーフを追加して完成させたのがご存じ羽根モノルアー『ガンディーニ』。
ガンディーニのデザインをよく観察すると、直線を繋ぎ合わせた多面体構造で作り上げられている。金属パーツ類も多く、ウイングにはジェラルミン素材が使用されている。立ち上がりの良さを追求した結果誕生した、世界初のフロント可変ウイング。ガンディーニが異形のルアーと評されるのも頷ける。そしてこの異形のガンディーニがよく釣れる。だからこそ現在に至るまで人気が衰えることなく、モンスタールアーの地位に君臨し続けている。
荒井「ガンディーニをきっかけに、自分が大好きな昆虫をモチーフにしたシリーズ『バグズファーブル』を立ち上げました。自分にとってガンディーニはとても感慨深いルアーのひとつです」
荒井謙太さんのプロフィール
荒井謙太(あらい・けんた)
洗練されたデザインと完璧な機能性を兼ね備えた、タックル&ルアーを開発する日本屈指のトップウォーターブランド『フロッグプロダクツ』の代表にして、全アイテムのデザイン&開発を担当。開発したルアー&タックルの実釣テストのために、ほぼ連日フィールドへ出かけている。そのためトップウォーターゲームの実釣データが膨大。
荒井謙太さん率いる「フロッグプロダクツ」。オールドタックルから現代アートにまで精通する荒井さんのセンスが炸裂するトップウォーター総合ブランドだ。そのフロッグプロダクツ2023の「今」を詰め込んだNEW[…]
ルアー付きムック『フロッグプロダクツ The KICK BACK』2023年4月24日発売!
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