磯で、ヒラマサやカンパチなどの大型青物に挑むロックショアゲーム。技術、経験、体力、英知など釣り人の総合力が問われる釣りだ。「ただ、でかい青物を獲るのがすべてではないです」というのは、孤高のロックショアアングラー、上津原さんだ。「大事なのは自分が納得のいく釣りをすることと、無事に家まで帰ること」。昨秋の上五島実釣から上津原さんのロックショアゲームの愉しみ方に迫る!
●文:ルアーマガジンソルト編集部
アングラー&フィールド紹介
上津原 勉(うえつばら・つとむ)
熊本県在住。小学生で父に連れられ磯泊まりを経験して以来、磯釣りにどっぷり。現在は九州西部をホームに活躍するロックショアゲームのエキスパートだ。昨年秋に男女群島で26.3kgのカンパチを仕留めるなど大物捕獲の実績も多数。シマノのソルトモニター。
大型青物捕獲がロックショアのすべてではない!
実釣は2022年9月下旬。釣り場は長崎県五島列島上五島エリアの沖磯。上津原さんの2泊3日の瀬泊まり釣行は、2日目午後にクライマックスを迎えることとなる。
上津原「急にネリゴ(カンパチの若魚)がアタりはじめましたね」
釣り場は立ち位置右から潮が流れ、左側にある沈み瀬に当たる状況。潮が当たる沈み瀬の際を通すメタルジグにネリゴのアタリが連発し、2.5kgクラスのヒラゴ(ヒラマサの若魚)がヒット。
上津原「激流ではないけれど潮が活き活きと流れている。こういうときはアタリが続く中で後半に大型がドスンッとくることがあります」
上津原さんは長年の経験から大型青物が現れる予兆を感じとり、それが現実となる。
上津原「喰った。まあまあ良いサイズのヒラマサだと思います」
かけた獲物は当然のように釣り人が一番嫌がる立ち位置左側の沈み瀬へ猛然と突っ込む。
上津原「左の瀬の沖側に回り込まれたら絶対に獲れない」
上津原さんはドラグを出されながらもグリップエンドを股関節に当てながらロッドを立て、力強いバットで魚を止めにかかる。
上津原「よしっ、戻ってきた。第一関門はクリアですね」
だが、その直後に第二関門が待っていた。釣り人の前を横切りながら底へと突っ込む魚が目指す先にはテラス状に張り出した瀬が。相手のスピードとパワーに浮かせる間もない。
上津原「まずい。ラインが瀬に当たっている」
魚は立ち位置右側に沈むテラス状に張り出した瀬をまんまと回り込み、しかも右からの流れが沈み瀬にラインを押し当てる。
上津原「ラインが外れない。でも強引に浮かせようと勝負をかけると絶対にラインが切れる」
魚が走ればドラグで対応。岩でラインを削りながらの攻防が続き、魚が疲れをみせると良型のヒラマサが見えるところまで姿を現す。第二関門クリアかに思えたが、ヒラマサの首振りで振り回されたメタルジグが、岩礁にロック。ヒラマサはハリを外し、水中深く戻っていった。
【大型青物相手にライン切れを防ぐ納得のファイト】
流れは立ち位置の右から左へ。左側に流れが当たる沈み瀬があり、その際が魚が喰ってくるプロダクティブゾーン。1m超のヒラマサもそこでバイト。かけた後、沈み瀬の沖側に回り込むのを阻止した(①)が、足元右側の棚状の沈み瀬に回り込まれる。流れが瀬にラインを押し当て、ライン切れ必至のケースだが上津原さんはドラグを巧みに利用し、根ズレでラインを削りながらのやりとり(②)。最終的にはフックアウトしてしまったが、高難易度ファイトでライン切れを防ぎ、魚を浮かせるまでを思い通りにできたことに納得。
上津原「ロックショアは困難も多い。だからこそ思い通りの釣りできると最高の達成感に浸れます」
納得のいく釣りが、クライマックスを創出
上津原「流れが瀬にラインをガンガン押し当てて、すごく外れにくい状態だった。それもあってこのファイトの難易度は高かったですね」
バレたのは全長約1m、推定7〜8kgのヒラマサだ。だが、当の本人に悔いはない。
上津原「ラインブレイクする要因をすべて消して、魚が見えるところまで浮かせることができた。やれることはすべて思いどおりできました。ロックした後、ハリが外れるかどうかは運もある。自分のロックショアゲームは、でかい魚を獲るのがすべてではないですからね。自分の納得のいく釣りができるか。そこが重要です」
それができたとき、上津原さんのロックショアゲームは最高潮に達するということだ。
大型青物を獲るための近道はしない
実釣は良型のヒラマサを逃したものの、カンパチやヤズ(ワラサ)、スマガツオなどをメタルジグでキャッチ。
上津原「3日間通してダイビングペンシルなどのトップにはネリゴ以外、ほとんど反応がなかったです」
実釣時は9月下旬。その頃の例年の釣況は?
上津原「上五島など長崎県界隈の離島では、磯際で大型ヒラマサが泳いでいる姿を見ることも珍しくないです。ただ、10月に入ってカゴ釣りのシーズンがはじまるとルアーで釣るのが難しくなる、という現実も待っています」
そのへんは情報を調べれば、どこで釣れているかなどがわかりますね?
上津原「うーん、そうなんですが、確かに情報を仕入れられれば、手っ取り早く大型青物に出会えるかもしれません。ただ、情報に頼りすぎるとこの釣りの本当の魅力があまり感じとれないと思います」
ロックショアゲームの魅力?
上津原「このルアーでどうやって攻めよう? ということから始まる“新たな発見を繰り返す”過程を楽しむことです。このルアーはこう使ったほうが良い動きをするんだとか、こういう地形でこう流れが当たったときに釣れたとか、現場での気づきや発見。ときにはもがき、苦しむこともあるでしょうけど、経験を積み重ねて自分の釣りを開拓していく過程が面白いですからね」
情報に頼りすぎると?
上津原「ロックショアの一番楽しい部分をすっ飛ばすことになるし、経験を積んで狙いどおりに釣れれば、魚のサイズに関係なく1尾の価値が上がります。僕もでかい魚は釣りたいです。でも、そのための近道はしないです」
6月から梅雨明けまでは、夏マサ狙いの好シーズン
釣果ではなく、過程を楽しむ。思い通りの釣りを展開できれば、たとえ良型をバラしてもロックショアのクライマックスが味わえるということですね。そのために最低限の知識は必要だと思いますが、最も重要なことは?
上津原「一番はなんといっても安全面。ケガをせず、無事に家に帰るまでがロックショアゲームですから。あと時季的なことでいうと、6月後半から梅雨明け頃までは比較的良いシーズンです」
その理由は?
上津原「春はヒラマサの産卵期で、長崎の離島など九州西部の磯は5月後半から6月頭頃までヒラマサが釣りにくくなる。6月後半以降に釣れはじめて、その時季はキビナゴやイワシなどの小魚も多い。青物がルアーに反応しやすいです」
青物の反応が多いほど、多くの経験を蓄積できるはず。本格的にロックショアゲームに取り組むのに適したシーズンだ。
上津原「ただ、梅雨前線の影響で時化る日も多い。瀬渡しが出られる日はできるだけ足を運ぶようにします」
では梅雨明け後は?
上津原「まず暑い。基本、磯は日陰がないですから。釣り人が集まらず瀬渡しを休止する船宿もあります。あと8月は釣れるときと釣れないときの差が激しいのも特徴です。もちろん時季的なことは地域によっても変わると思いますが」
沖磯でも地磯でも、それを経験として蓄積するのもあり。安全第一でできる限り磯に立ち経験値を上げる。これがロックショアゲームの基本といえそうだ。
【ロックショアゲームの狙いどころは“当て潮”】
上津原「僕はどこに行っても、まず磯際と海中の地形がどうなっているかを把握。そこに流れがどうくるかで狙いどころを絞っています。基本は流れが地形変化に当たるところが良いです」
それが当て潮だ。
上津原「もちろん払い出す潮にも投げますが、当て潮のほうが喰ってくる確率が高いです」
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