Dr.小野寺のノースアングラーズ・ティップス ~釣りと医療と北海道~Vol.4「カラフトマスと船酔い」

雄大な自然を擁する北海道で、暇を見つけては釣りを嗜んでいる救急医・小野寺良太さん。そんなドクターに、実はあまり知られていない北海道の釣りを紹介していただくと共に、自然と対峙する釣りに関しての「備えあれば憂いなし」的なアドバイスを、医学の視点から語っていただく。4回目は、北海道ならではの魚として、誰しも一度は手にしてみたいカラフトマス。そして、船釣りにおける永遠のテーマ“船酔い”のお話だ。

●文:ルアマガプラス編集部

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小野寺良太(おのでら・りょうた)

1987生まれ、名古屋出身。現在、北海道札幌市在住。ER型の救急医として活躍する傍ら、休日をほぼ釣りに費やしているツワモノ。日本中でライトなエサ釣りから大物釣りまで何でもこなすマルチアングラー。好きな釣りは、鮎釣り・しゃくり棒を使ったサクラマス釣り・カンパチジギング。座右の銘は「行ってみる、やってみる」。

北海道といえばのカラフトマスについて

北海道には多くのトラウトが生息していて、トラウト天国であることは間違いない。その中でも、セッパリ(背が張る、の意味)が立派なカラフトマスを是非とも釣ってみたいと思うアングラーは多いのではないだろうか。実は私もその1人だった。

カラフトマスは、岸から釣る場合は大体7月くらいから9月半ばにかけて。最盛期は年によってかなりばらつきがあるが、8月半ばから終わりにかけてと感じている。

一度体験してからというもの、毎年その時期になると、必ずカラフトマス釣りに出かけている。

沖で釣れるカラフトマスは青マスとも呼ばれ、ジギングで狙っている船もある。

ショアから釣れる場所は北海道の北側。一番有名なのはやはりウトロだとか知床方面になるのだろう。一応、北側であれば利尻島でも釣れることは聞いているし、稚内から斜里にかけて広範囲で釣れる魚ではあるし、それ以外でも釣れる場所はあるのだろう。

雄大な自然の中で竿を振ることの気持ち良さといったらもう…2次元の写真では伝わらないのがもどかしい…。

ただ、本州から遠征で行くとしたら、やはりウトロ、知床をお勧めする。何より、たとえ魚が釣れなかったとしても(笑)、広大な…まるで日本ではないような景色の中で釣りを楽しむことができるだけも幸せな気持ちになる。加えて、釣り以外のアクティビティも多くあり、日常を忘れさせてくれる旅になることは間違いないだろう。

カラフトマスに必要なルアーと釣り方

仕掛けについては、エサ(赤紅で漬けたイカの短冊や、カツオの切り身など)、ルアー、フライなど、いろいろなモノでアプローチすることができる。

私はルアーで釣ることが好きなので、主にルアーでカラフトマスを狙うことが多い。10cm前後のミノーや5~20gクラスのスプーンを使うことが多いのだが…正直なところ、何を使っても良いような気がしている。

カラフトマスをルアーで狙う場合、10cm前後のミノーや5~20gクラスのスプーンを使うことが多い。

そして釣り方。これは個人的な見解もあると思うので何ともだが、岸に寄り付いているカラフトマスは、威嚇でのみ口を使うと言われている。

サイトで釣りをしていると、目の前にルアーを何度も通すことでイラッとしてパクッと咥える瞬間を、何度も見てきている。割とすぐにスレてしまうので、スプーンやミノーなどは様々なカラーバリエーションがあると良いかもしれない。

竿に関しては、割と人との距離が近い中で釣りをすることも多いため、強引なやり取りのできる強めな竿と、人がまわりにいないようなら引きを楽しめる弱めな竿の2本を持っていくといいと思う。

カラフトマスは根に突っ込んでいく魚でもないし、ファイトも落ち着いてゆっくりやりとりしていれば、弱い竿でも問題なく取れるはず。

ただ…セッパリのオスだけはとても引くので痛い目に遭うこともある。理想は、ティップが柔らかく、バットに力がある竿になると思うが、本州から遠征釣行するのであれば、7~8フィート前後のシーバス用の竿を持っていけば十分に楽しめる。

釣り竿がないからといってこの釣りをあきらめてほしくないし、多くの人に挑戦してもらえればと思っている。

エサの場合は、フロートの仕掛けを使って沖にキャストし、置き竿にしてゆっくり待つなど、仕掛けのスタイルによっても釣り方が変わってくる。このあたりはもちろん時期や時間帯にもよると思うのだが、一番大事なことは、カラフトマスがいるところで釣りをすることだと思っている(これは当たり前なのだが、群れを探すところから始めると好釣果に恵まれる確率が高い)。

カラフトマスってどんな味? 美味しいの?

そして、食味について。カラフトマスは美味しい。いや、美味しいのだが…非常に贅沢な意見を言わせてもらうと、いわゆるサケの劣化版といっては失礼になってしまうかもしれないが、私にとってはそういう立ち位置になっている。

こちらがカラフトマスのメス。イクラもサケよりは粒が小ぶりだが、味わいは豊か。

とはいえ、ムニエルやフライ、塩焼きなどの季節定番食材として、毎年美味しくいただいているので、皆さんも堪能してみてほしい。

ちなみにメスは卵を持っており、鮭の卵よりも小さいがイクラを作ることもできる。アングラーによっては、メスの方が嬉しいという方もいらっしゃると聞く。身はオスの方が断然美味しいですよ。

カラフトマスのイクラを好んで食す方もいらっしゃるとか…。

熊との遭遇には十分注意したい。事前の準備、対応が重要

1つ、この釣りで注意しなければいけないことがある。それは熊の存在だ。最近では、有名な釣り場で釣り人が襲われる事件も起きている。自分は大丈夫だと高を括って釣りをすることは危険だと感じる。しっかりとした熊対策(熊スプレーや鈴)を行ったうえで、かつ、単独釣行は避けた方がいいと思っている。

もし単独で…と思案されていらっしゃる方がいるならば、現地のガイドを雇うのも1つの手だ。北海道はガイド文化も定着しつつあるように感じていて、実際、プロフェッショナルなガイドさんも多数存在していると聞く。お金はかかってしまうが、何より安全には代えがたい。

また、ガイドさんと時間を共有しながら、彼らの持っている『魚を釣る知恵』を拝借し、ガイドさんと共に北海道の自然を楽しみながら釣りを満喫することも、いいものだなと思っている。

視覚と聴覚のバランスが崩れることで起こる「船酔い」

今回は『船酔い』について書いてみようと思う。

私は小学生の頃から、電車に乗っていても車に乗っていてもすぐに酔ってしまう体質だ。今でも船酔いと戦いながらオフショアの釣りに行っている。ただ、ここ数年は昔より大分強くなってきたようにも感じているので、今、私の実践していることを皆さんにお伝えできればと思っている。

まず、船酔いのテーマに決めた時にふと思ったことは、船酔いってよく知っているはずなのに、自分の中であまり理解していないなということ。そこで、記事を書く前にいろいろと調べてみた。

「なぜ船酔いは起こる?」

人間は目と耳と足の感覚からくる情報を頭でまとめてバランスを取っている。釣りをしていてなぜ酔うかというと、視覚からの情報と耳からの情報に差異があり、頭が混乱してしまうから酔ってしまうらしい。鼻からの匂いとも関連しているかもとのことだ。

「誰が発見した?」

ギリシア人の偉人、医学の父と言われるヒポクラテスさん…らしい。船旅の時に、みんな吐くなぁと思ってこの病気に気づいたそう。ちなみに、英語のnausea(吐き気)はギリシャ語のnaus(船)が由来だそうで、なかなかに面白い。

「どういう人がなりやすい?」

妊婦を含めた女性の方がかかりやすい。2歳以下は大丈夫で、9歳が最も乗り物酔いになりやすく、その後は改善していくとのこと。遺伝的要因もあるらしいが解明はされていない。あと、偏頭痛持ちの方も要注意。船酔いに対して予期不安がある人も船酔いにかかりやすくなるようだ。

「症状は?」

吐き気、倦怠感、熱感、ゲップ、唾液が増える、発汗、頭痛など。過呼吸、呼吸困難、感覚異常、からの、いまにも死んでしまいそうな気持ち。と、いろいろとあるが、私はだいたいどれも経験済み…。

唾液というのはおそらくあの生唾のことを言っているのだと思う。死んでしまいそうな気持ちになるという項目に対しては、私以外もそういう様に感じるのだと思って安心してしまった。

ちなみに過呼吸が続くと、血中のカルシウムイオンの問題で手が痺れてきて、ピンっと硬直したりする。これは脳卒中が起きているわけではなく、過呼吸が原因なので慌てずに深呼吸を繰り返すことが大事。ただ、そのような状況になってしまった時はパニック状態に陥っている可能性もあるので、まずは落ち着いて、意識して無理やりにでも深呼吸をすることが大事だと思っている。

「船酔いどうすればいい?」

医学書には『地平線を見て』『遠くにある止まってるものを見て』『本は読まないで』『揺れない場所にいて』など、みなさんご存知のことしか書いておらず、正直あまり役に立ちそうにない。

釣具屋などでたまに見かける、手首にはめるバンド(ツボを押すタイプのもの)や生姜飴は効く可能性があるとされており、試してみるといいかもしれない。

水平線の景色を見て平衡感覚のバランスを取り戻す…昔から言われていることだが、余裕があれば、深呼吸しながら遠くを見つめることで治まってくることもある。

「船酔いの薬は何がいい?」

私が長年愛用しているのはアネロン。子供の頃から使用している。アネロンをみると、これから船に乗ることを身体が理解しているようで、気分がいつも悪くなる(笑)。ただ、飲んだ後はよく効くし、船酔いしてから飲んでも確かに効く印象はある。

アネロンについては当該ホームページを見てもらいたいのだが、抗ヒスタミン剤や抗コリン剤、アミノ安息香酸エチルなど、他の酔い止め薬よりも色々な薬剤が使われていることが分かる。

ちなみに、アネロンを飲んでいらっしゃる方は感じることもあると思うのだが、とにかくこの薬は眠気が強く出る。私の場合は口渇も出てくる。知り合いの中には、眠すぎて竿を落としそうになった人もいた。眠気と口渇についてはアネロンの抗ヒスタミン剤と抗コリン剤の副作用で間違いない。

眠くなることで酔いを抑えている部分もあるので非常に効果はあるのだが、効きすぎてしまっても困りもの。私は口渇も出てきてそれが逆に不快となり船酔いにつながるため、ガムを噛むようにしている。ガムを噛んでいれば唾液も出て、眠気覚ましにもなり一石二鳥というわけだ。また、便秘気味になるのもアネロンの成分である。

事前の準備で船酔いのリスクを低減

ここからは完全に私見、体験であり、医学的な知見というよりも小さい頃から船酔いと戦い続けてきたなかで得たことを書いて行きたい。

正直なところ、今まで100人以上の人を船に連れていったが、私より船酔いに弱い人が数人いた。そういう方は、かなりの好条件が揃わないと船釣りは難しい…と思っている部分はある。

まずお伝えしたいのが、私自身が、ものすごく乗り物酔いしやすい体質だということ。

車は助手席に乗っていても酔うこともあるし、電車でも後ろ向きに座っているわけでもないのに酔ってしまうこともある。そんな私でも、船釣り前にしっかり準備していけば、当日は多少気持ちが悪くなるかもしれないが、戦闘不能にまではならないことが多くなってきた。

何が言いたいかというと、乗り物酔いしやすいなと思っている人でも、私同様事前準備を怠らなければ、なんとか船釣りに出かけることができると思っている。

乗船前日にできる準備

実はアネロンを一錠飲んでしまっている。なぜなら、当日に飲むのを忘れて、または準備でまごついていて乗るギリギリになってから飲むと、効果が間に合わず酔ってしまうことがあるからだ。

そしてできる限りしっかり睡眠をとること。睡眠を取って船に乗るのと乗らないのとでは、酔いやすさは全く違う。

また当日は、朝ご飯をしっかり食べること。どんな種類のものを食べた方がいいか、などは本に色々書いてはあるが、私的には、とにかく食べないことよりも何か食べることが大事だと感じる。

乗船当日(乗船直前)にできる準備

船に乗ってからすることとしては、まず、船のエンジンの煙…ガソリン臭で酔ってしまうことが少なからずあり、その影響を受けない場所を見つけること。

そして一番大事なのは、船に乗った後、ポイントに着くまでが一番酔いやすいということ。これは前述した通り、まだ明け方で周りが暗いため、視覚の調整がしづらく非常に酔いやすい。そこに加えて酔ってしまうのでは…という予期不安や、釣りの仕掛けを完成させられず航行中に作業をしてしまう、そもそも酔い止めの効果がまだ十分ではないなど、とにかく悪い条件が重なりやすいのが出発時なのだ。

日の出時刻が遅い冬場などは特に、日が昇らないうちに出発することが多い。酔いやすい方は、薬を飲んだからといって、不用意に下を向いて作業などしないようにしよう。

だから、私はポイントに着くまでにいかに酔わないかを一番に考えている。移動中はたとえ仕掛けが完成していなくても、よほどのことがない限り、手をつけない。船内にいなければいけない時はすぐに寝る。外にいる場合はできる限り遠くを見るか、もしくは、寝る。朝イチから酔ってしまった時の絶望感に比べれば、釣りはじめのスタートが多少遅れることは許容されると考えている。

そして、釣りが始まってからだが、酔いそうだと感じたときは、多少恥ずかしい気持ちもあるかもしれないが、船長さんに伝えている。そうすれば、酔っていて動きの鈍いときでも魚を外してもらえたり、道具の交換を手伝ってくれたりするからだ。

これも個人的に感じていることなのだが、空腹になると船酔いしやすくなるようだ。なので、釣りの最中に少し酔ってきたなと思った時は、あえて何か口に入れるようにしている。意外にそれが予防策として効くことが多く、最近では口に入れやすい、ゼリー状の食べ物を持っていくことが多くなった。

一度酔ってしまうと立っていられなくなる。出すものを出して、まずは身体を休めよう(ルアマガのフカポンさんのように、寝てしまうのがイチバンなのだが…)。

もうどうにもならなくなってしまったら、吐いて、寝てしまうのが一番いい。横になって寝ると回復できるからだ。注意点は、吐きすぎると、過呼吸になる人がいるということ。先の「症状」のところでも書いたが、過呼吸がひどくなるとその後手が痺れてきて、ピンっと硬直してしまうことがある。それ自体は脳に問題があるのではないので、落ち着いて、頑張って深呼吸をしてほしい。言葉で言うのは簡単だが、この状態だとなかなか深呼吸をすることも難しいので「意識して深呼吸をする」という伝え方がいいと思う。

私は吐いても大体釣りは続けるのだが、過呼吸に知らず知らずのうちになっていて、手が痺れることがある。そうなると竿を持てなくなるので、そこでたいてい釣りをやめて休憩することが多い。

酔うかもしれないけれど、もしくは酔ってでも、あの魚を釣りたいと願うのが釣り人の性。今回の情報が少しでも皆様の釣り人生のお役に立てればと思っている。


※本記事は”ルアマガプラス”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。