数々の名作ルアーを世に送り出してきたメガバス。そのなかのひとつ「カゲロウ」といえば、今や全メーカーを超えてシーバスジャンルにおける筆頭ルアーのひとつとして数えられる代表作とさえもいってしまえるだろう。優れた設計により、腕前に関わらず釣果をもたらしてくれる圧倒的な性能、そしてメガバスならではの特許技術の投入や優れたビジュアル。『カゲロウ』の持つ魅力のすべてを、その生みの親ともいえる久保田剛之さんに語っていただいた。
●文:ルアマガプラス編集部
経験の蓄積から生み出された釣れるルアー
久保田さんは幼少の頃からかなりの釣り好きだったという。
小学生の頃の誕生日に、PEライン(砂紋の200m巻)を買ってもらっていたというから相当だろう。
しかし多くの人がそうであるように、子供時代はルアーを買うのにも苦労したのだとか。
久保田「お小遣いも少なかったし、そもそもルアーの値段も高かったですからね。自分で作らざるをえなかったわけです。素麺の箱をとっておいてもらって、そこからラパラのカウントダウンモドキを量産していましたよ(笑)」
ハンドメイドルアーではお馴染みのバルサ材すら気軽に買えない時代。
だがそんな経験は後に、久保田さんの人生に大きな影響を与えることになる。
久保田「たくさんのルアーを作る中で、こんな形状ならこんな泳ぎになるんだな、とか。たくさんのことを学びました。だからカゲロウの開発に関わったときも、ここの形状をもう少しこう変えてくれ、とか、そういった要望を出していたんです。アクションをもっとこう変えて欲しいみたいな要望はよくあるらしいのですが、形状に直接指示を出してきたのは初めてだとメガバスの開発さんにも言われました(笑)」
そして驚くべきことにその指示の多くが適切であり、メガバスの開発力の高さも相まって「カゲロウ」は完成の日を迎えたのであった。
久保田「カゲロウの開発にあたっては、目指していたものが頭の中にあったんです。シャローランナーとして、絶対に釣れるルアーの泳ぎの構想ですね。それまで釣りをしていた中で思い描いていた、こうすれば釣れる、この動きがいい、このルアーのここをもっと変えられれば、みたいなものが少しずつ蓄積した結果でした」
極端に言うならば、「カゲロウ」は久保田剛之というアングラーの『釣人生の集大成』。
その釣果は生まれる前から約束されたも同然だったのだ。
カゲロウシリーズに共通する特性
全5種類となるカゲロウシリーズだが、その根底にはすべて、久保田さんの目指したものが内包されている。
久保田「まず自分自身のスタイルとして、シャローの釣りが好きというものがあります。ホームの相模川なんかはもちろんですが、アウェイ釣行でも基本的に浅い場所しかやりません。というのも、やはりシャローはデカい魚が入ってきやすいですからね。サイズを求める釣りをする自分にとっては、シャローを釣れるルアーであるというのは重要な要件なんです」
また、ランカー狙いという点においては、もう一点こだわりがあるという。
久保田「デカい魚が釣れる動きというのがいくつかあると考えています。そのひとつが、見た目の動きと実際の水の動きのギャップです。カゲロウのロールアクションは一見すると大きく動いているようにも見えますが、実際はさほど水を動かしていないんですよ」
この考えについては、S字アクションのビッグベイトを想像して欲しい。
ランカーキラーとしてお馴染みのこのタイプのルアーは、は大きく動きはするものの水をあまり撹拌せず、むしろ切るようなアクションでスライドする。
久保田「でもジョイントボディのビッグベイトは操作にコツが必要です。誰でも同じ用に使えるかというと、そういうわけでもないわけです」
一方、カゲロウは誰でも釣れるアクションを出せる設計となっているのだという。
久保田「ただ巻くだけで、それも幅広いスピード帯で理想的なアクションを出してくれる。繊細に巻くことのできない初心者のかたにも平等に魚をもたらしてくれるのがカゲロウなんです」
そしてビギナーに嬉しい点がもうひとつ。それは根掛かりに対する強さだ。
久保田「カゲロウのMAX潜航深度は本当にMAXです。細いラインを使ったりして、無理やり潜らせない限りはMAX潜航深度には届きません。例えば水深90cmの場所でカゲロウを使えば、まずボトムに当たることが無いんです。根掛かりを恐れずに投げ続ければそれはいずれ釣果につながるはずです」。
釣りの経験値に関わらず、ランカーが狙える。
その確かなる釣果が口コミを呼び、カゲロウが全国区の大人気ルアーへとなったのはご存知のとおりだ。
カゲロウシリーズを使いこなすために
使い分けの基本
5種類あるカゲロウだが、その使い分けは決して複雑ではない。
モデル | 全長(mm) | 重さ(g) | タイプ | 潜行レンジ |
カゲロウMD98F | 98 | 12 | フローティング | MAX0.8m |
カゲロウ100F | 100 | 12 | フローティング | 20~60cm |
カゲロウ124F | 124 | 22 | フローティング | 0~20cm |
カゲロウMD125F | 125 | 21 | フローティング | MAX0.8m |
カゲロウ155F | 155 | 39 | フローティング | 0~20cm |
久保田「基本となるのは124Fです。これをベースとして、155Fと100Fを使い分けます。155Fは引波を立てて泳ぐルアーなので、ルアーの存在がぼやけがちなのを考慮して大きくなっているモデルです。一方、サイズの小さい100Fは124Fよりも気持ちレンジが入るモデルで、より真横からルアーを見られることを想定してシルエットが小さくなっています」
つまり、シーバスに対して、ルアーをどのように見せるのか?それを考慮して選ぶのがポイントになる。
狙う場所の水深や、シーバスの目線に応じて使い分けることが鍵となるわけだ。
一方MDとの違いはどうだろうか?
久保田「その釣り場にまだ詳しくないときなんかは潜行レンジが浅いほうノーマルモデルが安心ですね。とにかくシンプルにグリグリ巻いて釣りたいときとか。逆に地形がわかってきたらMDです。少し深い場所を狙ったり、ブレイクエッジのような地形変化を狙ったり…。こちらはシンプルに巻くのはもちろんですがアングラー側の操作の受付幅が広いので、ベテランになるほど使い所が増えていくと思いますよ」
適したタックルとは?
久保田「カゲロウというか、シャローを狙う釣りに適したタックルということになりますが、パリパリじゃないロッドが大切ですね。魚との距離が近いわけですから、極端な話、感度がいらなくなってくるわけです。最低限、水圧の変化が感じられればOK」
また特に初心者ほどこういったロッドのほうが適しているという。
久保田「柔らかめの竿の方がルアーの良いアクションが出やすいんです。上級者なら竿の特性に合わせて色々と調整できると思いますが、初心者ともなるとそうはいきませんからね」
アングラーの技術的な部分をロッドの特性で補うというわけだ。
久保田さんのタックル
- ロッド:スワット972S-ML(テンリュウ)
- リール:セルテートLT4000(DAIWA)
- ライン:レンジシェラー8 1号(山豊テグス)+耐摩耗ショックリーダー16lb(山豊テグス)
カゲロウ開発裏話
カゲロウの前身
久保田さんが思い描いた『釣れる』ルアーが実はカゲロウ以前にも形になっていたのをご存知だろうか?
久保田「ズイールの柏木さんに『自分の考える最高のルアー』を話したところ、手削りで作ってもらったことがあるんです。それがダーター形状の、言わばカゲロウの前身的ルアーで、販売もしていました。その後、別のメーカーからも出したことがあったのですが、ウッドルアーならではの壁にぶつかりうまくいかず…。紆余曲折を経て、思い描いたルアーのABS版を作れる、ということでメガバスにサポートしてもらうことになったんです」
久保田さんの思い描く高い理想。
メガバスが誇る屈指の開発力。
そのふたつが見事に融合したからこそ、カゲロウシリーズが今存在しているのだ。
LBOIIはカゲロウ124Fのために生み出された!?
ソルトはもちろんバス用ルアーでも多くのメガバス製品に導入されている画期的な重心移動システム『LBOII』。
この機構が初めて搭載されたルアーこそ、『カゲロウ124F』だった。
久保田「LBOはマリンギャングが初めて搭載されたルアーでしたが、より磁着を外れやすくするといった改良のために、LBOIIの開発が始まっていたそうです。そしてそれはちょうどカゲロウの開発時期とタイミングが重なっていたんです。カゲロウは形状や大きさがほぼ決まっていた段階だったので、理想的な性能にするべく、LBOIIの設計を細かく変えたプロトモデルをいくつも作っていただけました。そしてカゲロウ124Fの理想的な設計に合う形で、LBOIIも完成したんです」
今でこそサイズバリエーションが存在しているものの、極端にいってしまえば最初のLBOIIはカゲロウに合わせた設計ともいえるわけだ。
久保田「でもLBOIIがなければカゲロウは完成していなかったと思います。LBOではショートキャストで使いにくくなっていたでしょうし、ボール状のウエイトでは理想としたアクションが出せなかったと思います」
今更シャローランナーは売れないと言われていた
久保田「開発が進む中、メガバスの営業さんがショップで話をすると、『今更シャローランナーは売れない』と言われていたそうです」
すでに人気かつ鉄板のシャローランナーがいくつか存在しており、多くのメーカーはその枠での競争を避け、異なるジャンルで製品を展開するのが普通だったのだ。
久保田「それでもいいものができる確信がありました。しっかりとした製品を作れば結果は後から付いてくる。そういう思いで開発を進めてもらいましたね」
誤解を恐れずにいうのであれば、カゲロウ124Fが発売された当初は今ほどの人気がなかった。
今にして考えると、多くのユーザーがすでにあった「人気かつ鉄板のシャローランナー」を好んで使っていたのだろう。
しかし久保田さんの確信通り、カゲロウ124Fはその紛れもない実力が認められ、あれよあれよという間にトップクラスの人気を誇るルアーへと昇格したのだ。
40gの壁
カゲロウシリーズ最大サイズを誇る155F。
その重さである「39g」にもちょっとしたエピソードがある。
久保田「ビッグベイトが市民権を得た今ならいざしらず、155Fの開発が進んでいた頃のシーバスアングラーは重いものを投げることが少なかったんです」
そこには「40g」の壁があったのだという。
久保田「ショアからのシーバス釣りにおいて40gを超えるルアーは専用タックルが必要であるとされていたんです。つまり155Fを40gにしてしまうと、使うのに専用タックルが必要なルアーになってしまう。色々なショップの方にも聞いてみたのですが、39gにしたほうがいいと、多くの人に言われました。たった1gの違いなんですけどね」
結果として39gでリリースされた「カゲロウ155F」は、他のカゲロウシリーズと同じタックルで使えるルアーとして、狙い通りの人気となったのだ。
久保田「実はカゲロウ155Fにはラトルルームになるスペースがあるんです。でも実際にラトルをいれると40gになってしまう。個人的にはラトルの必要性を感じなかったこともあり、すんなりと『39g』を選ぶことができたんです」
カゲロウシリーズの活躍は続く!
初心者から上級者まで、多くのアングラーに釣果をもたらしてくれる一方、モデルによってはベテランこそ使いこなせる楽しみも併せ持つカゲロウ。
使えば使うほどにその魅力に取り憑かれていくカゲロウの活躍は続く。
久保田さんが手掛けるさらなるルアーにも期待したい。
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