「メーカーが作らないとジャンルが冷え込む」釣具メーカー社長が語る真意とは。

昨年(令和4年)のルアーマガジン8月号で、トップウォーターシーンに一石を投じた記事「ペンシルベイトは死んだのか?」これが、図らずも大きな波紋となって多くの人々の心をざわつかせたと聞きます。しかし、わかりやすい形でのペンシルベイト復権の兆しはまだ見えず。今も日本では影の薄い存在。そこで、今回はルアーデザイン界の巨匠2人に、このテーマをぶつけてみました。

●文:ルアーマガジン編集部 写真:望月俊典

2024 新製品情報

Profile

加藤誠司
DAIWA、ラッキークラフト、ジャッカルで、数々の名作ルアーを手掛けてきたルアーデザイナー。昨年、新会社「レヴォニック」を立ち上げた。アメリカB.A.S.S.のオープンにも精力的に参戦中。 [写真タップで拡大]

これだけ揃ってると、新しく出てくるルアーの隙間がないのかもね

悪循環によって忘れ去られた存在に?

加藤「ペンシルベイトは、俺の中で相変わらず釣れるルアーであることは何も変わってないなあ。ただ、ペンシルベイトという言葉を聞かなくなった気はするね。もしかしたらi字系をやりすぎたってことですかね? ペンシルとi字って、完全に逆じゃん。片方は首を振るルアー、片方は首を振らしちゃだめなルアーでしょ。まっすぐ引いてオッケーなルアーで釣れちゃったから、首を振るルアーが衰退しちゃったとか?」

そう聞くと、i字系が台頭してきた時代と、ペンシルがフェードアウトしていった時代は、符合しているかもしれない。だとしたら、ペンシルが釣れなくなったわけではないようだ。

加藤「普通に釣れるよ。思い出したんだけど、この時期に俺がペンシルベイトのテストに行ったらね、一緒に行った人が『ペンシルベイトって釣れるんですね』と言ってたよ。ペンシルでは釣れないと思い込んでしまってるみたい」

加藤誠司さんはダイワ時代にT.D.ペンシル、ラッキークラフト時代にはサミー、ジャッカル時代にはボニーといった、数々の名作ペンシルベイトを手掛けてきた。でも、最近はペンシルを作っていないような気もする。

加藤「最後に作ったのがボニーかもね。サミーとボニーがあればそれで十分だと思っちゃったところはあるな。重い水押しのタイプはザラが良くできてるじゃん。フワフワッと首振るタイプのものって、サミーとか山岡さんのマッドペンシルとかがある。ジャイアントドッグ?Ⅹもそれ系だよね。頭の振りが軽いものだとボニーとかレッドペッパーがあるよね。これだけ揃ってると、新しく出てくるルアーの隙間がないのかもね。逆に言うとルアーメーカーも作らないから、新製品が出てこない。すると、プロモーションも誰もやらない。そうなると、ペンシルベイトって釣れるのかな? みたいな感じになっちゃって。ペンシルベイトのジャンルに対する気持ちがどんどん冷めちゃっていく。それが真相なのかもしれないね」

サミー100(ラッキークラフト)

加藤さんがラッキークラフト時代に、ハンドメイドルアー「ファットペンシル」(サム山岡)にインスパイアされて、作ったペンシル。大人気で購入困難な時代もあった。 [写真タップで拡大]

セイラミノー(ジャッカル)

i字系ミノーの量産タイプとしては元祖となるルアー。動かさずに引くというコンセプトが斬新で、ペンシルとは対極といっていいジャンルを作った。 [写真タップで拡大]

ボニー(ジャッカル)

ジャッカル時代の加藤さんがデザイン。アクション的には、サミーとレッドペッパーの中間くらいの存在。これ以来、ペンシルは作っていないらしい。 [写真タップで拡大]

開発中の新作ルアーはペンシルベイトだった

加藤さんにリスペクトするペンシルベイトを聞いてみたら、予想通りの答えが返ってきた。

加藤「オリジナルザラスプークでしょう。あのシンプルな形状なのに、最も効率よく動くんだという部分にすべてがあるよね。日本ではあまり使わないけど、アメリカでは今もよく使ってるよ。試合に出ると、コアングラーの人もザラを投げてるね」

アメリカでは、ペンシルベイトの存在に陰りなどはないようだ。加藤さんによると、ペンシルベイトは釣れるだけではなく、特別な力を持っているという。

加藤「バスが水面や表層を意識してるときは、ペンシルベイトは『止められる』ルアーとして優秀だからね。誘って止めることができる。また、ずっと長い距離泳がせると、ベイトフィッシュがふらふらと逃げるときに出るあの波。あの波に近い航跡を出せるんだよね。バスが遠くから魚を見つけて、食いに行こうという動機付けになる。そのきっかけ作りが、ほかのルアーとは微妙に違うから、ペンシルは圧倒的に釣れることがある。ペンシルベイトだけが引ける、そんなバイトの引き金があると思う」

うんうんと頷いている人もいるだろう。でも、体験したことのない人には、まだまだピンと来ないかもしれない。そんな人たちにどんな声をかけるかと尋ねたら、加藤さんはこう答えた。

加藤「ドッグウォークをちゃんとできない人が、ペンシルの食わず嫌いになってると思うんだよね。動画で綺麗に首を振るペンシルを見たことはあると思う。でも、それができないと釣れない…、と思ってる人が多いんじゃないかな。一番大切なのは、ティップをちょんちょん動かした時にちゃんと糸を緩ませるってこと。それさえできれば、ドッグウォークなんて簡単にできるのに」

そういえば、かつて多くのアングラーに、ドッグウォークをマスターさせたペンシルベイトがあった。それは今回も何度か名前が出てきた「サミー」ラッキークラフト時代の加藤さんが作って、大ヒットした傑作ペンシルだ。

加藤「サミーは、山岡さんの『ファットペンシル』からインスパイアされて作ったペンシルだよね。あれはお腹の反りのおかげで、割と誰でも簡単に首を振らせることができた。世界中で売れたから、結果的に世界中の人にドッグウォークを教えたペンシルなんじゃないかな? ただ最近になってね、実はレッドペッパーみたいなペンシルが欲しいなと思ってさ、テストに行ったりしてたんだよ」

なんと! 加藤さんは現在進行形でペンシルベイトを開発中だったようだ。ちょっと、ホッとした気分になった。ボニー以来の新作かもしれないペンシルベイト。完成するのが楽しみだ。

オリジナルザラスプーク(へドン)

ペンシルベイト草創期から現在まで多くのアングラーから愛され続けている、不滅の名作ペンシルベイト。スロー&ステディーから高速ドッグウォークまでこなす、万能選手だ。 [写真タップで拡大]

レッドペッパー(ノトス/ティムコ)

加藤さんが、リスペクトする国産ペンシルベイトのひとつ。発売当時、画期的な「小魚逃走アクション」で、バスを根こそぎにした。 [写真タップで拡大]

T.D.ペンシル(チームダイワ)

DAIWAの社員時代に手掛けたペンシル。魚のアタックによって頭部に水を入れ、沈み加減になった水面直下で、食わせるコンセプト。 [写真タップで拡大]

レヴォニックはすでに始動!
ジャッカルを退社した加藤さんは、新会社レヴォニックを立ち上げた。少量生産でも自由にルアーが作れる理想的な環境だ。新築の社屋には流水での動きを見る回流水槽もある。 [写真タップで拡大]

開発中のプロトタイプペンシルで釣ったバス。テスト結果は上々なのでは? [写真タップで拡大]

今のところ、レヴォニックでは、海用のジグ、フローティングバイブレーション、クランクベイトを開発中。ペンシルも並行してテスト中だ。
ペンシルベイトだけが引ける、そんな引き金があると思う。 [写真タップで拡大]

これもプロトのペンシルで釣ったバス。加藤さんによると、11~12月は流入河川で産卵する小魚も多くペンシルベイトに適した季節だという。 [写真タップで拡大]


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