「世界は釣りの幅が広がっている、日本は細くなっている」釣具メーカー社長が語る。

昨年(令和4年)のルアーマガジン8月号で、トップウォーターシーンに一石を投じた記事「ペンシルベイトは死んだのか?」これが、図らずも大きな波紋となって多くの人々の心をざわつかせたと聞きます。しかし、わかりやすい形でのペンシルベイト復権の兆しはまだ見えず。今も日本では影の薄い存在。そこで、今回はルアーデザイン界の巨匠2人に、このテーマをぶつけてみました。

●文:ルアマガプラス編集部

2024 シーバス特集

Profile

伊東由樹
世界に名だたるタックルメーカー「メガバス」を一代で築いた人物。カリスマアングラー、デザイナーにしてCEOを務める稀有な才能の持ち主だ。数多の傑作ロングセラーペンシルを設計してきた。

日本の市場っていうのは、どんどん過去形にしていく流れなんですかね?

ペンシルベイトはむしろ盛り上がっている

伊東「ペンシルベイトが盛り上がってない? そう聞いて、正直びっくりしちゃいましたね。グローバルな視点で見ると、メガバスの場合はむしろ逆なんです。ペンシル、めちゃくちゃ盛り上がってますよ。アメリカでの事業ではブランドン・パラニュークやエドウィン・エバースなど、トッププロたちと仕事をしてきましたが、やっぱり基本的なサーチベイトとしてペンシルはマストですよね。欧州でも同様です。だから、日本だけがガラパゴス化しているという可能性はないですか?」

しばらく、アメリカでのビジネスに注力していた伊東さんが、再び日本に軸足を置いたのが約6年前。そのときから、何か違和感を感じていたようだ。

伊東「日本の釣りは、どんどんマニアック化していって、奥が深くなるのはいいんですけど、同時に細くなっている気がします。世界の釣りは幅が広がっています。だから、ペンシルベイトやジャークベイト、バズベイトなど、普遍的なアイテムの使い道がより一層広がっているんです」

伊東さんによると、もともとはシャローのサーチベイトだったペンシルベイトが、水深がある場所、あるいは流れのある場所でも使われるようになってきているという。普遍的なジャンルのルアーの使い道を広げていくのが世界の趨勢だというのだ。

伊東「日本だと、『もうペンシルは終わった、次はハネモノが来た』とか、『その次はビッグプラグが来た』とか言いますよね。流行りモンが好きなんですかね? ペンシルってもう二十年前ぐらいに流行ったジャンル…みたいな感覚なんでしょうか? 日本の市場っていうのは、どんどん過去形にしていく流れなんですかね?」

数々の傑作ペンシルベイトを世に出してきた伊東さんは、ちょっと不思議そうにそう語った。そんな伊東さんに、デザイナーとして影響を受けたペンシルを尋ねたら、意外なルアーの名前が出てきた。

「まあ、ペンシルではないですけど、チャグバグってありましたよね。あのストームのポッパー。僕がまだ若かった頃、チャグバグのお尻にドリルで穴を空けて、ウエイトを入れて、やや直立気味に自分でチューニングして使ってたんですよ。それがめちゃくちゃ高速ドッグウォークして、水面を滑走したんですね。釣れました。それを僕は自分のオリジナルとして再現したくて、作ったのが初代のドッグ-Xなんです」

ジャイアントドッグ-X(メガバス)

伊東さんが世に出した最高傑作のひとつ。発売以降、四半世紀を経た現在でも、その威力は衰えを知らない。ワンテン、ポップMAXなどと肩を並べる、世界的な定番ルアーだ。

チャグバグ(ストーム)

ストームの水平浮き細身ポッパー。伊東さんは、これのお尻にドリルで穴を開け、ウエイトを仕込んでパテ埋めしてペンシル化。それはのちにドッグ-Ⅹを生み出す原動力となった。

ドッグ-X(メガバス)

メガバス初のペンシルベイトがこのドッグ-Ⅹで、91年に登場。実は今も金型が存在し、要望があったときに限定生産することがあるという。その歴史は実に30年以上だ。

実は初代ドッグ-Ⅹは時々限定で生産したりもしているんです。

確立されているから新製品が出にくかった

伊東「一番最初のペンシルベイトっていうと、ザラスプークの前…ザラゴッサあたりなのかな? もうちょっと前に色々あったかと思うんですけど、多分もう百年ぐらい歴史があると思うんですね。その歴史の中で、ペンシルベイトは未だに魚に見切られていないカテゴリーの一つだと思うんです。ルアーとしての性能が確立されてるジャンルですよね。ひょっとして、逆に確立されちゃってるから、進化とか発展の幅が狭かったのかもしれませんね。ザラスプークと昨今のペンシルベイトってあまり変わって見えないですよね。そういえばペンシル系の新製品って、あんまりアメリカでも出ていないような? だから流行が好きな日本のアングラーにとっては、ちょっと飽きられた存在なのかもしれませんね」

ペンシルベイトは死んでいない。でも、流行とはかけ離れた存在なので、新製品が出にくく、結果的に認知度が落ちてきている。これが一つの結論かもしれない。そんな時代にあっても、メガバスのペンシルベイトは、ロングセラーとなっている。というより「古さ」を感じさせない普遍的な存在になっているのかもしれない。

伊東「初代のドッグ-Ⅹをリリースしたのが91年。リニューアルして、現在のドッグ-Ⅹになったのが、それでも2010年ですからね。ジャイアントドッグ-Ⅹを世に出したのが97年ですから、かれこれ四半世紀経つんですね。実は初代ドッグ-Ⅹは時々限定で生産したりもしているんです。それを含めると、30年以上売ってることになりますね、ドッグ-Ⅹ。うちの若い社員なんか、まだ生まれていない時代ですよね(笑)」

アメリカで人気を博する「ドッグ-Ⅹディアマンテ」も、新しいルアーというイメージがあるが、すでに発売後12年が経過している。そして海外の釣具店では、普通にザラスプークの隣に並んでいる立派な定番ペンシルだ。

伊東「ザラスプークは今も残っていますよね。でも昔はバスロッドがスローテーパーだったから、ザラの本当の凄さがあまり理解されていなかったんですよ。今の高弾性素材で作ったヘビーアクションのロッドで動かすと、ザラはめちゃくちゃ高速ドッグウォークできるんです。浮力がものすごく強い。そして180度オーバーのテーブルターンができる。実はその本質はドッグ-Ⅹと一緒なんです。サーチ能力も高いし、釣果も安定していますよね」

タックルの進化によって、ルアーの新たな能力が開花されることもある。どうやらペンシルベイトは健在らしい。大事なのは、ペンシルベイトの素晴らしさを次世代に伝えることなのだろう。流行ではなく、普遍的な存在として。

テラー(ズイール)

かつて一世を風靡したブランド「ズイール」の象徴でもあるペンシル。伊東さんは比重の高いウッドゆえの水押しに注目。高浮力のドッグ-Ⅹシリーズとは対極に位置する存在。

ビッグラッシュ(ザウルス)

バルサ50シリーズのペンシル。伊東「バルサに樹脂コートしてから塗装しているので、実は比重も大きめなんです。だから水押しも強かった」ゆっくり動かすのが主流だった。

ドッグ-Xディアマンテ(メガバス)

高い浮力と180度以上のテーブルターンで、水面から剥離するような高速ドッグウォークを得意とする、大型ペンシル。発売後12年が経つが、アメリカでの評価は非常に高い。

ドッグ-Xスピードスライド(メガバス)

2010年にリニューアルされた現行のドッグ-Ⅹ。スピードスライドとクイックウォーカーがある。ドッグ-Ⅹシリーズの中では新顔だが、実は13年選手のロングセラーだ。

メガドッグ(メガバス)

モンスターシーバスを攻略するために設計された巨大ペンシル。ドッグ-Ⅹから受け継いだ高浮力と180度オーバーのテーブルターンは、ペンシルベイトの可能性を更に広げた。


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