魚とアングラーをつなげる際に、最も魚側にある大切な道具。それが釣り針です。簡単に言ってしまえばよく刺さって釣れる針ならなんでもよかったりするのですが、どうせならこだわりたい!そんな勉強熱心な釣り人のために、釣り針に関する入り口的なお話です。「エントリーアングルθ」。これを覚えれば釣り針が見えてくる…!?
●文:ルアマガプラス編集部
ちょっと難しい…?ハリの刺さりを物理的に見てみる
「釣り針が刺さる」という現象を物理的に見てみます。
ストレート形状のフックが今まさに刺さろうとしている瞬間です。
このとき、重要になるのが『エントリーアングルθ(シータ)』と呼ばれる角度。
もう一度図を見てみましょう。
このエントリーアングルθなのですが、この角度をみることで、フックの性能(性格)をある程度予想することが可能なのです。
「刺さろうとする力」と「刺そうとする力」
ハリは常に針先の向きへと刺さろうとするのは感覚的にわかると思います。
次にハリを刺そうとする力の向き。例えば、縫い針を刺すならお尻から押し込むのが一番力が加わりますよね。一方、釣り針はその構造上、ハリ先を引っ張る方向に力が加わるのが普通です。
つまり、針が刺さるということは、押すか引くかの違いはありますが、刺さろうとする方向と同じ向きに力をかけることが普通なのです。
ところが釣り針は縫い針と違って、多くの場合、刺さろうとする力と刺そうとする力の向きが微妙にズレています。
そうです。
それが「エントリーアングルθ」なんです。
エントリーアングルθが大きいフック
刺さろうとする力と、刺そうとする力、これがズレていくほどエントリーアングルθが大きくなるわけですが、そうするとどうなるのでしょうか?
簡単な話、刺そうとする力がハリ先に十分に伝わりにくくなってしまうわけです。
ところがフックってとてもおもしろいもので、必ずしもエントリーアングルθの大きいフックが悪いわけではありません。
まず、フッキングの力が十分に伝わりにくいなら、より大きな力でフッキングすればその問題は解決できるはずです。
それからエントリーアングルθが大きいことによるメリット。
それはハリ先がとにかく引っかかりやすいことにあります。エントリーアングルθが大きいということは、つまりハリ先が外側に開いているということですから、例えば魚の口の中で、どこかしらに引っかかる可能性が高くなるわけなんです。
また、より深く刺さっていこうとする傾向も見られます。
エントリーアングルθが小さいフック
ではエントリーアングルθが小さい場合はどうでしょうか。
刺さろうとする力の向きに対して、刺そうとする力の向きが内側になっているのがわかると思います。この形状になると、極限まで無駄なく力が働いてハリが刺さるようになりますが、ハリ先が内向きということはつまり、魚の口の中で引っかかるきっかけが極端に少なくなってしまうんです。
また、ハリ先が引っかかりたい場所から離れていく方向に向いているため、仮に刺さったとしても、極端な話薄皮一枚をすくうような掛かり方になることもあります。
掛け調子と乗せ調子
針の形状から見えてくるエントリーアングルθ。その大小による特徴は掴めましたでしょうか?
その違いを端的に示したフックの性能として「掛け調子」と「乗せ調子」という言葉で表現されることがありますので、ここまで挙げたそれぞれの特性をまとめてみましょう。
掛け調子(エントリーアングルθ大) | 乗せ調子(エントリーアングルθ小) | |
フッキングパワー | 伝わりにくい(パワーロスしやすい) | 伝わりやすい(パワーロスが少ない) |
ハリ先の引っ掛かり | 引っかかりやすい | 引っかかりにくい |
ハリの刺さり方 | 深くなりやすい | 浅くなりやすい |
フックそれぞれの狙いやそれに即した形状による違いはありますが、物理的な特性としてはあらゆるフックがほぼこの表に当てはまるはずです。
なお、掛け調子フックと乗せ調子フックでは余談的な特徴があるのでそれも少し紹介します。
掛け調子フック
ハリ先が口の中のどこでも引っかかりやすいとはどういうことかというと、魚に吸い込まれた場合、口の奥でフッキングが決まることがあります。するとファイト時には魚の口からラインが出ている、つまりラインを噛まれたような状態でファイトすることになってしまいます。このとき、歯が鋭い魚の場合、ファイト中にラインブレイクしてしまう危険性があるのです。
また、エントリーアングルθが大きいとハリが開く方向に力が加わるため、掛かりどころが悪い(刺さり切っていない)と針が伸びてしまうことがあります。その対策として、掛け調子の針は強い太めの軸線径になっていることが少なくありません。逆に敢えて細めの軸線径を選び、フッキングパワーの伝わりにくさをリカバリーしているものも存在します。
乗せ調子フック
口の中では引っかかる機会が少ないので刺さりにくい乗せ調子フックですが、後述するネムリバリなどの場合はその点を逆手にとって口周りだけで掛けることを狙っている場合もあります。そうすると魚が針を噛むような状態でフッキングが決まるため、魚の歯によってラインブレイクする危険性が少なくなります。
また、フッキングパワーのロスが少ないことは、つまりフッキングしにくい状況でも役に立ちます。すなわち、遠距離や深場ですね。大遠投して食わせるキス針や深場狙いで使うムツ針なんかはまさしくその典型と言えるでしょう。
さらに、ハリ先が出ている際に根掛かりしにくいのも乗せ調子フックの大きな特徴です。
フックの形状について
乗せ調子掛け調子の話と若干前後しますが、フックの形状にもいくつか名前がついてます。色々ありますがここでは一部(ルアー釣り関連)を紹介します。
ネムリバリ
すでに何度か名前が出ていますが、ハリ先が内側に向いている(曲がっている)ことを「ネムっている」と表現し、そういった特徴をもつ乗せ調子のハリのことを指します。
極端な形になると、飲まれてもほとんど針掛かりしないような形状で、口先まで出てきたときに初めて針掛かりすることが多いです。エントリーアングルθ的には究極的に刺さりやすい形状なので、向こう合わせに近い形でフッキングします。また、ハリ先が内向きだどどこかにぶつかってつぶれる心配も少ないです。
オープンゲイプ
エントリーアングルθが極端に大きく、ハリ先が外向きになったフック。アジング用のジグヘッドに多く見られる形状です。
とにかく口の中で引っかかりやすいため、アタリの多いシチューションで活躍する掛け調子のハリです。太軸が多いため曲がりにくく、フッキングパワーのロスも抑えられます。
ナローゲイプ/ワイドゲイプ
ちょっと日本語が独り歩きしている感じのあるこれらの言葉ですが、一般的な使われ方で紹介します。これらのフックの違いは「懐」の広さ。ナローゲイプなら懐が狭く、ワイドゲイプなら懐が広いわけです。
ボリュームのあるワームならワイドゲイプを、細身のワームならナローゲイプを選んだりするわけです。エントリーアングルθはフックによって異なるので、それぞれで掛け調子と乗せ調子が存在すると思って大丈夫です。
ただし、トータルのハリ(のワイヤー)の長さが違ってきますので、ナローゲイプのほうがロスなくフッキングパワーは伝わりやすいです。一方でワイドゲイプの場合、線形が長い分たわみが生じやすかったりするのですがそのたわみが戻る「スプリングバック」によりジワジワと刺さりやすいとも言えます。
フックの道は長く険しい
釣り針に関して、基礎的なことを紹介しました。
ですがここに書かれていることはほんの入口だったりします。より詳しいことは専門書なんかを読んで勉強するといいかもしれません!
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