『クロマグロ問題』の『本当の病巣』/ 魚が『ニッポンの海だけ』居なくなる!

緊急で、皆様にぜひ知ってほしい問題があります。脅しではなく『日本の海』から『魚が消える』未来が近づいています。長年、日本だけではなく諸外国の漁業をリサーチし、その危惧が現実のものとなりつつあることをデータで実感し、その解決に向けて尽力する世界の漁業者、水産関係者と太いパイプを持つ専門家の話に耳を傾けてみませんか? まずは、釣りでも食でも注目される『クロマグロ』の問題から、その現実に向き合い、どのように『日本の海』から『魚が消える』という未来を変えることができるのか、知っていただきたく思います。知った人が多くなればなるほど、『日本の海から魚が消える未来』を回避できるからです。(編集:深谷真)

●文:片野歩

片野 歩 (かたの・あゆむ)Fisk Japan 代表取締役。東京生まれ。早稲田大学卒。東洋経済オンライン ニューウェーブ賞受賞(2022 年)。2015 年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990 年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第 2 位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20 年以上毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会) 『日本の漁業が崩壊する本当の理由』、『魚はどこに消えた?』(ともにウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)。連載 東洋経済オンライン 、 Wedge(ONLINE、 魚が消えて行く本当の理由(ブログ) 累計でシェアは累計で 8 万回を超える。世界浮魚協議会でアジアから唯一の評議会メンバー。国内外での講演多数。参議院で講演。日本大学、宮城大学他で特別授業。NHK ラジオ他出演多数。2023 年 12 月に Youtube 「おさかな研究所」を開始。これまでの著書 4 冊は、日本経済新聞、朝日新聞、産経新聞他、全書が書評で紹介されている。

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世間を騒つかせている『クロマグロの遊漁規制』。クロマグロがいるのに釣れない(釣ってはいけない)?のなぜ

遊漁の月別採捕可能数量 水産庁

釣れているのになぜ??行政からの指示で、突然クロマグロの釣りが禁止となることが続いています。最近では4~5月の採捕可能量が、わずか4月6日で5月31日まで上記表の5トンを超える恐れが出て禁漁となっています。しかも8.2トンという結果であり、あっという間の終了でした。せっかく道具もそろえたのに?アングラーなら何で??と思われたことはないでしょうか?

解禁してすぐに禁漁。なぜ、こういう事態になったのか。ミクロな事象を追うだけでは真実は得られない。

東カナダなどの大西洋側の海外では、300キロを超えるような巨大なクロマグロがよく釣れるのに、日本ではこのクラスの大きなマグロが漁獲されるとニュースになります。こういったことも不思議に思う方もおられるでしょう。

つまり、クロマグロは日本の近海では大きい個体が少ないということなのです。他国が羨むほど、豊かになり得る海域を持つ日本ですが、どうして海外に大きな魚を釣りにワザワザでかけなければならないのかという別の理由も知りたくはないでしょうか。

これらは、すべて国際的な視点から俯瞰(ふかん)してみると、なぜそうなるのかは極当たり前のことなのです。なおクロマグロに限らず、その背後には、世界で日本の海の周りだけが魚が減っているといった、資源管理に関するとても深刻な問題があります。しかしながら、そういった報道されることはほぼありません。そこで、魚に関心が高いアングラーの方々に、そのなぜについて重要な解説を科学的根拠に基づいて行っていきます。

『日本の海だけ魚が消える』この問題を俯瞰して見るために知ろう。クロマグロは何キロで成魚になるのか

クロマグロの成長過程をご存じでしょうか?上の図をご覧ください。釣りとなると10~20キロのクロマグロでも大物です。しかしながら、これらはメジマグロ、ヨコワなどと呼ばれるマグロの幼魚です。

クロマグロが完全に成熟するのは5歳魚、約80キロ以上です。3歳魚、30キロ程度でも成熟するクロマグロもいますが、その割合はわずか20%です。

クロマグロは大きく分けて太平洋クロマグロと大西洋クロマグロに分かれます。上のカバー写真は大西洋クロマグロですが、200~300キロのクロマグロが普通に漁獲されています。

太平洋と大西洋では海の中を泳いでいるマグロの大きさが異なります。これは、自然現象というより、漁業という人間による影響なのです。その最大の理由は、大きくなる前のマグロまで獲ってしまう「成長乱獲」です。

キーワード『成長乱獲』ごく当たり前のことから目を背ける日本

大西洋では30kg未満のクロマグロの漁獲は、資源管理の制度により原則禁止です。一方太平洋の場合、もっとも漁獲量が多いのが、その約8割を占める日本の漁獲量です。しかもその約4割もが30キロ未満の未成魚なのです。これを尾数比にすれば後述しますが、太平洋全体の年齢別比率からして漁獲の9割以上が未成魚となっていることでしょう。

小さな魚を獲ってしまえば、魚は成長する機会も、産卵する機会も奪われてしまいます。その結果魚は減り続け、かつ大きな魚はほとんどいなくなってしまいます。

この状態が、日本をめぐるクロマグロ漁の大きな問題なのです。

国際合意による規制の結果マグロ資源は回復傾向にWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)という国際会議が毎年開かれています。これはマグロなど回遊性の高い資源を保護するために設立された組織です。その中でクロマグロの漁獲枠が国ごとに決まりました。2021年に決定された漁獲枠の数量は、12,334トンでその内で、我が国の配分は9,621トンと実に78%を占めています。

この漁獲枠は、日本のサンマ、スルメイカ、サバなどで資源管理に効果が出ていない獲り切れない枠と異なり、実際に漁獲ができる数量より小さく設定されています。

<編集部注釈>TAC(水産資源の維持を目的として、特定の魚種ごとに捕獲できる総量を定めた制度)というものがあり、サンマをはじめ獲りきれない数量に設定されている魚種が大半で、無尽蔵に捕獲したところでその規制量には届かない『ザル』状態。端的に言えば、資源管理に全く役に立たない数字が設定されています。これも問題として指摘されています。

このため、それまで目いっぱい漁獲されていたクロマグロが、漁獲を逃れて、成長したり産卵したり機会を与えられ、ようやく資源が少しずつ回復傾向にあるのです。

この国際的な合意で、各国は国別の漁獲枠を遵守せねばなりません。その中で、釣りについてもキープしてよいトータルの数量が決められました。その数量を超えてしまうため、釣れている最中なのに、釣りが一時的に禁止になるということが起きているのです。

ここで、クロマグロ釣りに詳しい方の中には、釣りの配分が少ないという不満をお持ちの方もいることでしょう。その通りなのですが、さらに俯瞰してクロマグロ釣りのことを考えていただきたいと思います。

大西洋では30kg未満のクロマグロ漁獲禁止。徹底された『大きくなる迄、獲らない』

太平洋で漁獲されるクロマグロの実に94%が3歳未満で、30kg未満の未成魚です。日本でも釣りで30kg未満の採捕は禁止になりました。ただ、この規則が周知しているとは言い難いのが現状ではないでしょうか?

200~300kgのクロマグロが普通に釣れる大西洋では、30kg未満のクロマグロはごく一部の例外を除いて禁止です。このため、成長する機会が与えられてどんどん成長していきます。海の中に大きなクロマグロがたくさんいるので、大物が釣れる確率も当然高くなります。

幼魚でも容赦なく獲って市場に並んでしまう『日本』の現状

一方で、日本の場合は釣りでは30kg未満の採捕を禁止していますが、漁業では約4割(2021年)が30kg未満と、原則採捕を禁止している大西洋と大きく異なっています。また、畜養で生きたまま「いけす」に入れる幼魚がある一方で、メジマグロ・ヨコワなどという名前で、幼魚が売り場に並んでしまうことも大きな違いです。

産卵期に魚をとる。幼魚を根こそぎとる。その在り方が問われる。ただ、この問題の根本的な原因を知りればm実行者(漁師)に向けられるべきではないことがわかります。世界的に『圧倒的な業業資源管理後進国日本』この現実を知ってほしい(編集)

なぜ太平洋と大西洋ではクロマグロのルールが異なるのか?本来はどうやってクロマグロの漁獲量を漁業や釣りで分けた方がよいのか?をはじめ、クロマグロそして日本の水産資源管理の問題は、とても深く解決しなければならない課題が山積しています。

その情報を共有して、アングラーの皆様に国際的な視点で現実を知っていただき、どうすればよいかについて、日本の魚の未来のために、口コミなどを通じファクトベースで広げていただければ幸いです。こういった問題の根幹をひとつづつ知ることで、『日本の海から魚が居なくなる』未来を回避することができます。

記事のまとめ

  • 日本の海の周りだけ『魚』が減っている
  • 魚が減っている理由は単純『大きくなる前にとり過ぎ』。つまり管理の仕組みが甘い
  • 世界的な枠組みで見れば『クロマグロ』規制を俯瞰して見守る必要がある。
  • クロマグロの規制に関しては、漁獲枠の制限が現在は良い方向に作用しつつある

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